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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
5章:王都襲撃と輝きの空
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66:オアシスを目指して












 林を抜けた砂漠地帯、広がる砂の大地を踏みしめながら、パーティの一行は目的の素材が存在するエリアを目指して進んでいた。

肌を焼くような照り付ける日差しが降り注いではいるが、アマミツキの取り出したクールポーションのおかげで、比較的快適に進む事が出来ている。

とはいえ、エネミーが出現する以上、あまりのんびり出来るエリアという訳ではなかったが。



「よいしょっと」



 しかし、レベルの高いエリアであるにもかかわらず、戦闘は非常に安定していた。

それは偏に、上級職へとクラスアップを果たしたプリスの存在が大きかった。

現れた砂色の蜥蜴――サンドリザードに対し、プリスは瞬時に踏み込んで接近すると、瞬く間に抜き放った刃でその背を斬り裂き、刃を突きたててしまうのだ。

あまり多くのエネミーが同時に出現せず、強めのエネミーが少ない数で現れるこのエリアは、彼女にとって絶好の狩場であるとも言える。



「相手が強いから自分のステータスは高まって、しかも敵が少ないから一人であっさりと……やる事ないな、俺達」

「だなー」



 一応飛行は続けているものの、上空からの索敵でも保護色の敵は見えづらく、捕捉出来る範囲に入ってしまえばプリスがあっという間に斬り捨ててしまう。

未だかつてないほどに楽な戦闘をこなしながら、ライトはぼんやりとプリスの戦闘を見下ろしていた。



「天秤剣士、ね……」

「気になるのか?」

「ああ、気にならないといえば嘘になるだろう。初めて見る上級職どころか、ユニーククラスだしな」



 恐らく、BBO初の上級職転職プレイヤー。

それも、ゲーム中たった一人にしか与えられないユニーククラスの持ち主だ。

興味を惹かれるな、というほうが無理な話であろう。

プリスは、日々何度も挑まれる決闘によって経験値を溜め、いち早く上級職のレベルにまで到達していたのだ。

無論、勝ち続ける事が出来た彼女だからこそ、これ以上ないほど効率的に経験値を稼ぐことが出来たのだが。



(しかし、どんな条件で現れるのかはさっぱりだな……)



 ぼんやりとプリスの事を見つめつつ、ライトは胸中でそう呟く。

ユニーククラスであるため、その出現条件を調べた所で意味は無いのだが、気になる事に変わりはない。

プリス専用のクラスである『天秤剣士』。それは、果たして彼女の特殊なプレイスタイルのみを原因として出現したものなのか。

或いは、他にも何か特殊な条件があるのか――



(ステータス特化のキャラクター構成ってのも十分変わってるし、それが原因で現れたと言うんならそれまでなんだが――)



 何かが引っかかる、とライトは僅かに視線を細める。

天秤剣士と言うクラスは、あまりにもプリスの性質に合いすぎているのだ。

《霊王》に挑むという目的を持ち、難易度の高いエリアや強い敵に挑む事が多い『コンチェルト』のメンバー。

その中でも特に突出して戦闘を繰り返し、一対一での対人戦ではプレイヤー内で最強と噂されるサムライ。

強い敵を目標とするプリスにとって、格上相手に能力が上昇する天秤剣士は、あまりにも都合がいいクラスだ。



(そう、都合がいい。まるで――)



 ――彼女の事を知っていて、その上でクラスを作り上げたかのように。


 馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、ライトはその考えを捨てきれずにいた。

『コンチェルト』は、BBOを作り上げ、管理している《タカアマハラ》のメンバーと知り合いなのだ。

ならば、あらかじめプリスの性質を知っていて、その上でクラスを作り上げる事も不可能ではない。

MMORPGのゲームを管理している側である事を考えるとありえない不公平さではあるが、先日相対した《タカアマハラ》のメンバー、《霊王》菊理の性格を考えると、強くは否定し切れない部分があったのだ。

アンズは、《タカアマハラ》の面々は自分勝手な人間ばかりであると口にする。

そんな者達ならば、自分たちの都合だけで新たなクラスを作り、与える事もありえるのではないだろうか。



(……まあ、他のメンバーにユニークが現れるかどうかで、その辺は判断できるか)



 実際の所、現状ではそれを確かめる術はない。

気になると言った所で、実際に製作者に確かめる事が出来る訳でもないのだ。

一応GMコールで問いかける事は出来るかもしれないが、そのような質問に常世が答えるとも考えづらい。

結局の所、現状では確かめる方法はないと判断し、ライトは小さく嘆息を零していた。

と――そんな時、地上を進むケージが大きく声を上げる。



「おーい、ライト! そろそろ目的地が近付いてきたと思うんだが、そっちから確認できないか?」

「ん、ああ。ちょっと待ってくれ」



 その言葉にはっと我に返り、ライトは若干慌てつつ視線を前へと向ける。

声に焦りは出さなかったものの、内心はお見通しであったのか、背中でヒカリがくすくすと笑みを零していたが。

若干複雑な思いに駆られつつも、ライトは遠景へと眼を凝らしていた。

目の前には砂が丘のように堆積しており、ケージたちの位置からは先が見えづらくなっている。

その為、ライトは更に高度を上げ、丘の向こう側が見える場所へと移動していた。



「おー……あれかな。砂の中に緑ってのは結構目立つもんだ」

「ああ、分かりやすいな」



 陽炎に揺らめく景色の向こう、その先に、緑に包まれた領域が存在していた。

あまりにも唐突に存在するため、若干違和感を覚えざるを得ないような景色ではあったが、景色としては実に壮観である。

あまり詳しくは無い知識の中で、ライトは蜃気楼の可能性なども考えてはいたが、既に一度訪れた事のあるケージならば方向を間違える事もないだろうと判断し、地上へと向けて声を上げていた。



「見えたぞ、ケージ! この方向で大丈夫だ」

「了解だ、それじゃあ――」

「……! いや、ちょっと待て!」



 と――唐突に、ヒカリが鋭く声を上げた。

彼女は視線を前方、しかしオアシスよりも若干手前の場所へと向け、周囲へと向けて警告の声を発する。



「何か、土煙みたいなのがこっちに向かってきてる! 風じゃない、地面の下に何かがいる感じだ! 結構大きいぞ!」

「何だと? そんなエネミー、この辺りにいたか……?」

「あー……これはあれですね」



 ぽつりと声を上げたのは、どこか遠い目をしたアマミツキだ。

彼女はヒカリの示した方向へと視線を向け、未だ丘の向こうで見えないその姿を待ち構えるようにしながら、どこか嫌そうな表情で声を上げる。



「恐らく、『サンドワーム』だと思われます」

「サンドワーム? まだこの辺りでは会ってないエネミーだが……そんな物がいるのか?」

「はい。まあ、会わないのは普通ですよ。ある意味レアエネミーというか……エリア内に最大五匹程度しか同時にポップしないフィールドボス、というか中ボスです」



 そんなアマミツキの言葉に、パーティの全員が思わず硬直していた。

砂漠エリアは、それなりに広大なフィールド範囲を有している。

その中で五匹のみなど、狙っても中々出会えるような相手ではないだろう。

ダンジョンのボスほど他のエネミーと隔絶した強さを持っている訳ではないが、扱いはボスエネミーとなっている。

つまり、相手にするにはそれなりの苦労を要し、生半可な事で勝てる相手ではないという事を示していた。



「ライト、相手の速度は?」

「結構速いぞ。比較対象がないから分かりづらいが、少なくとも軽自動車ぐらいはあるだろう」

「やり過ごすのは難しいか……分かった、ここで迎え撃とう。構わないか、ヒカリ?」

「ああ、こっちもそう言おうと思ってた所だ!」

「そいつは重畳。アンズ、全体に補助だ!」

「はいはい」



 どこかやる気なさげに、けれど小さく笑みを浮かべながら、アンズは己が装備である大幣おおぬさを取り出す。

使用するのは魔法効果の強化を行う《サンクチュアリ》と《禊》、魔法効果の強化と全体化の効果がある《神楽舞》。

そしてそれらを併用して放たれるものは、《メモリーアーツ:補助》によって現れた強化魔法だ。



「『我が紡ぐは光の守護。その祝福の下、あらゆる災禍を防ぎたまえ――《セイントアーマー》』!」



 《禊》の祝詞と《神楽舞》の後にまず唱えられたのは、全体に広がる防御強化の魔法だった。

初期から使用可能であった《ホーリーアーマー》の上位版とも呼べるそれは、物理攻撃だけでなく魔法攻撃にも耐性を有している。

そして、アンズは続けざまに次の強化魔法を発動させる。



「『出でよ鋭き光の刃。汝は我らが敵を斬り裂く守護の剣。災いを斬り崩す一刀となれ――《シャープエッジ》』!」



 次なる魔法は、プリスに向けて放たれた攻撃力増加の魔法だ。

常時火力という点では既にトップクラスのプリスではあるが、この効果を追加すればスキルを使わずともかなりのダメージが期待できる。

そして、アンズの視線が最後に向けられるのは上空にいるライトとヒカリ。



「『集え光よ、逆巻く力の奔流に、更なる力を宿したまえ――《マジックブースト》』! 魔法強化は一番最初のしか出て来てないの、ごめんなさい」

「いや、十分だ。うちの相方が、今にも魔法を撃ちたそうにうずうずしてる」

「いいけど、ちゃんと敵に向かって撃って下さいよ」



 軽く肩を竦めるアンズは、どこまでも自然体で構えている。

強大な敵を前に全く動じていないその姿に感心しつつ、ライトは再び前方へと視線を向けていた。

砂の中を高速で進んでいると思われる砂煙は、既に砂の丘に達する所まで近づいてきていた。

背中の上でヒカリが呪物を取り出す気配を感じながら、ライトはただ静かに待ち構える。

そして――



『SYAAAAAAAAAA――――ッ!』



 ――それは、唐突に現れた。

サンドリザードと同じように、砂に紛れるような茶色の体表。

乾きながらも奇妙な滑らかさを持つ身体をくねらせながら、砂の中より現れる巨大な魔物。

サンドワーム――それは、未だ全体が現れないにもかかわらず、既に五メートル以上の高さまで達している巨大なエネミーであった。

おぞましく蠢く口と歯に頬を引き攣らせながらも、ライトは即座に動揺を打ち消す。

確かに巨大なエネミーではあったが、氷古龍と比べればまだまだ小さい。

更に眼前にした圧迫感で言えば、《霊王》と比べるべくもない。戦えると確信し、ライトは飛び出していた。

そして、それと同時――



「――《闘氣解放》ッ!」



 砂の地面を蹴りながら、プリスがブーストスキルを発動する。

ライトが以前見た時よりも更に洗練されている黄金の光は、照り返す太陽の輝きの中で尚鮮烈に軌跡を刻む。

そしてそれに追従するように、後ろに立つケージがサンドワームの足元へと杖を向けた。



「《トラップ設置》――『マジックロープ』!」



 複数のスキルをショートカットコマンドで発動し、ケージはトラップを設置する。

踏まなければ発動しないトラップではあるが、サンドワームののたうつ身体は常に若干揺れ動いている。

その為、すぐにでも触れられる場所にトラップを設置する事も難しくは無かった。

発動すると同時、蛇がとぐろを巻くように姿を現した頑強なワイヤーが、唐突に伸び上がってサンドワームの身体を絡め取る。

が――大型の魔物も捕らえられる強固なワイヤーは、砂の地面からあっさり引っこ抜かれてしまっていた。



「っ……砂の地面じゃ固定する力が足りないか!」



 妙な所でリアルさを追求しているゲームシステムは、地形に関する項目についても反映される。

地面から生えるように現れるワイヤーも、固定する地面が砂では拘束力が弱いのだ。

サンドリザード程度なら何の問題もなく拘束できただろうが、ここまで巨大なエネミーとなると勝手が違う。



「ちっ……エネミーの動きを観察する! ライト、そっちは独自に動いてくれ!」

「ああ、分かった!」



 エネミーの情報源となるアマミツキも詳しい事までは知らず、珍しいエネミーであるために目撃情報もかなり少ない。

ただ闇雲に攻めるだけでは危険だと判断し、ケージはひたすらに相手の動きを注視していた。

その姿に、ライトは小さく笑みを浮かべる。

以前、西の森の奥でレッサードラゴンと戦ったときと同じプレイスタイルに、僅かな懐かしさを感じていたのだ。



「さて……ヒカリ、どう行く?」

「ま、とりあえずやってみないと分からんけどな。まずは一当て、行ってみるか!」

「ああ、了解だ!」



 頷き、ライトは空を翔る。地上では既にプリスが攻撃を開始しており、レベル差と補助魔法・スキルによって向上された彼女の攻撃力は、確かにサンドワームの体力を削っていた。

そんな地上の様子を視界の端で捉えつつ、ライトとヒカリは、一直線にサンドワームへと向かって行った。





















今日の駄妹


「砂漠と言えばこれですよね。丸呑み系にはそれなりにエロスを感じます」

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