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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
5章:王都襲撃と輝きの空
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62:イベントへ向けて










 遠く、遠く、風が吹き抜ける。

地上が見えぬほどに高い山々。その頂上に、一つの建物が建っていた。

未だ何者にも触れえぬ領域。長き間、誰も辿り着けぬであろう危険な領域。

その中心に立つ天文台の中に、しかし望遠鏡の姿は存在していなかった。



『思うに――』



 そこに、女の影が一つ。

舞い踊るように両手を広げて、彼女は天文台の中をゆっくりと歩む。

本来望遠鏡があるはずの場所――そこに突き立つ、長大な刀へと向かって。



『――強さを求めるようで弱さを肯定する。その矛盾こそが人であり我々なんだ』



 その刀に背を預けるように、その踊る女の影の声を受け止めながら、一人の男が地に座する。

黒き髪と黒い瞳。白い甲冑の中心には、万色の光が渦を巻き集束する宝玉が一つ。

剣の主は、黙して語らず。けれど、その口元を僅かに歪める。



『ならば、ワタシは人と変わらないか?』



 女の影は、自嘲するように舞い踊る。

黒衣を纏って。ひらり、ひらりと。

嘲るように。祈るように。



『だがな、ワタシは思う。我が半身よ。我らが主こそが、何よりも不変たる象徴であると』



 そう、口にして――女の影は、ぴたりと足を止める。

己の半身と、黒白の男と背を合わせるようにしながら。


 くすくすと、くすくすと――


 笑い声を響かせて――


 ――影は、芝居がかった様子で告げる。



『ああ、未だに四柱は健在。《賢者》にも《霊王》にも《刻守》にも《水魔》にも、辿り着ける者など在りはしない。《霊王》の影に触れ得ども、打ち砕ける者などありはしない』



 告げる。告げる。

呪縛のように。祝福のように。

世界を歩む者たちへ。たった一人の少女へ向けて。


 彼女は全てを識る者。

大図書館の主たる知識の王とは違った形で、総ての物事を知覚する。

万物を見通すその瞳は、今は未知に輝いて――



『しかし。しかし。我らが主の愛を受けし者たちよ。お前たちの行く末を、ワタシは知らない。知らないのだ!』



 ――喝采を、告げる。

純粋に。純粋に。女の影は、全てを識る者は、愛すべき者たちへの賞賛を口にする。



『我が半身よ、お前の愛を受けし《観測者》は、果たして何を見つめる?』

「――待てばいい。門は、いずれ開く」

『ならば現在いまを見つめよう。されど。されど。願う事は唯一つ』



 笑う女は、笑いながら。

 座す男は、瞳を開いて。


 ――告げる願いは、唯一つ。



『我らの楽園よ、永遠なれ』











 * * * * *











 ――運営より発表された、ゲーム全体で発生する大型イベント。

元々MMORPGではありがちな、街に大量のエネミーが襲撃を仕掛けてくるという類のイベントだ。

多くのエネミーを狩るチャンスとなり、経験値稼ぎやドロップアイテムを狙う事も大きく効率アップが見込めるのだ。

尤も、全員がアイテムを取得できる訳ではないこのゲームにおいては、『回収役』も大きな役割を果たす訳だが。


 とはいえ、メリットばかりがあるという訳でもない。

都市を防衛するというイベントの大筋がある以上、完全に好き勝手行動する事は難しい。

また、街を覆う外壁や門を突破されてしまった場合、街に被害が発生し、一部施設や商店の機能に障害が発生してしまう事もある。

《タカアマハラ》からの発表によれば、そういった事態が起こっても復興イベントというものが発生し、早い段階で機能を回復させる事も出来る上、特殊なアイテムも手に入る。

しかし、当然ながら襲撃イベントで活躍した方が良い賞品を手に入れる事が可能であり、大規模な施設ばかりが存在する王都においては、防衛失敗におけるデメリットがあまりにも多すぎる。

その為、現在のリオグラスの最前線たる王都フェルゲイトでは、多くのギルドがプレイヤーの勧誘に走り回っていた。

そんな街の一角、喫茶『コンチェルト』のテラス席の一つ――そこに、ライトとヒカリ、そしてアマミツキは腰を下ろしていた。



「中々、盛り上がってるみたいだな」

「そりゃ、初の大規模イベントだしなぁ。皆やる気を出すってもんだ」

「まあ、イベントの詳しい部分までは明らかになってはいませんが……より効率よく立ち回れれば、一躍トップに躍り出る事も不可能ではないでしょうからね」



 二人の言葉に同意するようにアマミツキはそう言葉を口にして、ちらりと店の中の方へと視線を向ける。

多くのギルドが新人獲得に走り回っている中、この場にいる『碧落の光』と『コンチェルト』は例外に属するギルドとなっていた。

元より、あまり多くの人間で纏まったギルドと言うわけではないのだ。

所属しているプレイヤー達のレベルが高かろうと、ごく少人数で固まった小規模ギルドである事に変わりはない。

そしてこの二つのギルドのリーダーは、特にレベルの高さなどには固執しておらず、むしろギルドが大規模化することによる弊害のほうを気にしていた。



「新人集めるのも急場凌ぎにはいいけど、後々面倒な事になると思うんだよなぁ、あたし」

「まあ、その通りですね。場の空気と勢いに任せてギルドに所属してしまった場合、後々合わずに止めていく人は多いでしょう。そういったときに話がこじれないとも限りませんし」

「そもそも、信頼できるギルドなのかどうかって話でもあるしな。回収役だけのために人員を集めて、後々放り出すって可能性もある訳だ」



 ライトの言葉は少々穿ったものではあったが、決して否定できる話ではない。

掲示板で晒されて叩かれない程度にグレーゾーンを進む分には、普通のプレイ方法よりも効率がいいのは確かなのだ。

無論、あまり悪質な行動をして晒されてしまえば、多くのプレイヤーから干される事になるし、最悪アカウント停止の処置が下る可能性もある。

匙加減は難しいが――そういった行動を取るギルドはゼロではないだろう。



「あたしとしては、同盟が一番いいと思うんだけどなぁ」

「すべて否定は出来ませんが、やはりギルド間の関係というものは重要になってきますからね。下手にこじれれば、余計な損失を出す事にもなりかねません……ま、大事なのは匙加減という事でしょう」

「だなぁ」



 ケーキにフォークを突き刺しながら、ライトはぼんやりと同意する。

MMOである以上、人と協力しながらゲームをプレイするのは当然の事だ。

しかし、相手との関係をしっかりと定める事は、現実でもゲームでも変わらないのである。

世知辛い事だ――などと胸中で口にしながらも、ライトは現状分析のために軽く目を細める。



「で、俺達は結局、ああいった行動はしないということでいいのか?」

「ええ、そうですね。私たちのギルドは、急場しのぎに人を入れてもまともに動かなくなるだけですから」



 とことんまで趣味に偏った面々ばかりが集まっているギルド、『碧落の光』。

ごく一部にて話題になっているこのギルドの加入条件は、ほぼリーダーであるヒカリに一任されていた。

要するに、彼女に気に入られない限り、『碧落の光』に所属する事は叶わないのだ。

それは偏に、入ってきた人物がギルドの全員を受け入れてくれるかどうかと言う点にかかっている。

『碧落の光』のメンバーは特殊なビルドのプレイヤーが多いが故に、テンプレ構成こそが強いと信じきっているプレイヤーには受け入れがたい存在なのだ。

時折掲示板上でも言い争いになる事柄を思い浮かべ、ライトは軽く嘆息する。



「となると、ギルドとの同盟を結んでいく形になるのか?」

「まあ、全力でイベントに取り組むのであれば、それが望ましいですが……」



 そう言葉を口にして、アマミツキはちらりとヒカリのほうへ視線を向ける。

決定権はヒカリにある。アマミツキとしては、別にどちらでも良い話ではあったが――視線を受け止めたヒカリは、強い意思を込めた瞳と共に、輝く笑顔を浮かべていた。



「勿論! やるからには、全力でやるに決まってるぞ」

「ですよね……となると、他のギルドとの交渉が必要になる訳ですが……」



 軽く口元に拳を当てて、アマミツキは視線を細める。

五つに分割されている思考は、それぞれが素早く今後の動きについて協議を始めていた。

他のギルドとの協力に関して、アマミツキには特に否などはない。

しかしながら、プレイヤーとの関係を持つと言う事は、それだけ面倒な物事が発生するという事なのだ。



「まず問題として、こういった物事は規模が大きくなればなるほど纏まりづらくなるという点が挙げられます。私達は軍などではなく、自由気ままにゲームをプレイするプレイヤーです。言葉での拘束力は無いとは言いませんが、実質無意味なものです」

「イベントに参加するプレイヤーの全てが協力してくれる訳ではなく、さらに協力したプレイヤー同士でも意見を一致させるのは難しい、と。ま、それはあたしも分かってるさ」



 プレイヤー達は一枚岩ではなく、それぞれの主義主張も異なっている。

それらが一堂に会して協力し合うなど、非常に難しい行為であることは火を見るよりも明らかである。

しかしながら、それを乗り越えられない限り、ギルド間での協力などなし得ないのだ。



「姉さんであればある程度まとめる事も可能でしょうけれども……やはり、ここは確実に行きたいですからね」

「という事は、また何かしら作戦を考えてあるって事だな?」

「勿論です」



 よからぬ事を考えているのだろう、と言う意志の篭ったライトの視線に対し、アマミツキは胸を張って頷く。

よからぬ事であることは事実かもしれないが、アマミツキとしてはそれがライトとヒカリの役に立つならば何の問題もないと考えていた。

リーダーであるヒカリが全力で取り組むと言った以上、アマミツキにはそれを支える以外の選択肢などありはしない。

故にこそ、彼女が提案したのは、ある意味では正攻法とも呼べるものであった。



「まず、必要となるのは旗印となるような存在ですね。そして、それには二種類の選択肢……姉さん自身が旗印となるか、或いは最大手クラスのギルドに協力を依頼するかのどちらかを選ぶ事になるでしょう」

「最大手、か。だが、あの辺は自分たちのギルドの利益に敏感なんじゃないか?」

「そうですね。元々、トッププレイヤーは他の人間よりも優れている事に強い快感を覚えているような者達です。連合での活動は、むしろ利益の等分化が起こりやすいですから……纏め上げるのは、それなりに難しいでしょう」



 イベントの難易度が高いということが分かっていれば、交渉の余地は十分にあるだろう。

しかし、現状告知されている内容だけでは、イベントがどの程度の難易度なのかは分からない。

現状では、強化に余念が無いギルドとの交渉は難しいとしか言えない。



「逆に、中小のギルドならば、協力は十二分に可能でしょう。彼らは自己防衛のための戦力すら整備する事が難しい。となれば、多くの協力を得る事は彼らとしても有意義なはずです」

「そもそも、俺達もその中小ギルドの分類だからな。俺達の声かけで集まるのは、同じ程度の規模の所だけだろう」

「まあ、我々や『コンチェルト』の面々は色々な意味で有名な所もありますから、下手をすれば大規模な所も来る可能性はありますがね」



 ライトの言葉に対し、アマミツキは肩を竦めてそう声を上げる。

勢力と我の強い大規模なギルドに対し、中小規模のギルドならば協力関係を築く事は難しくは無いだろう。

彼らの場合、隙間産業的に行動するよりも、連合を組んで協力した方が大きく利益を得られる可能性が高い。

現状そういった声が上がっていないのは、単純にそれだけの数の人間を率いるだけの度胸のあるプレイヤーがいないだけだ。

そして――ここには、それにかなり適したプレイヤーが存在する。



「どうでしょうか、姉さん。私としては、姉さんの本領を生かす場合には姉さんが陣頭指揮をする方がお勧めだと思いますが」

「ふむ……そうだな、あたしもそう思う。第一、大規模な所はあたし達とは折り合いが悪そうだ」



 大規模なギルドには効率優先――所謂、効率厨と呼ばれるようなプレイヤーが多く存在する。

そういったプレイヤーの場合、趣味全開のビルドに走っているライト達を馬鹿にするような場合が存在するのだ。

全員がそうという訳ではないが、少なからず存在する事は事実である。

ヒカリの選択を聞き、アマミツキは鷹揚に頷く。

ともあれ――そうと決まったならば、やる事は単純だ。



「では、姉さん。呼びかけの為に、掲示板に書き込みをする事としましょう……ちゃんと餌を用意する事を忘れずに、ですがね」



 そう呟いて薄っすらと笑みを浮かべるアマミツキの視線は――店の中、カウンターに立つ料理人へと向けられていた。





















今日の駄妹


「うふふふふ……久々に姉さんの本領発揮が見れそうですね」

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