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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
1章:始まる世界とチュートリアル
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05:西の森












 所属国家とは要するに、サーバーの違いのようなものだ、と言うのがライト認識であった。

実際のところ、全てのプレイヤーが同じサーバー内に存在しているのだが、国を移動しなければ交流できないと言う点では若干近い。

まあそもそも、一つのサーバー内に全国のプレイヤーを押し込むという神業自体にまず疑問を持つべきなのであろうが、ライトは技術方面に対する興味は薄かった。


 所属国家のひとつ、リオグラス王国。その開始地点であるニアクロウは、南北に道の続いている流通都市であった。

北側へ行けば他国へ続く道――しかしその前に、このゲーム最大のダンジョンである『邪龍の迷宮』と、それを監視すると言う名目で置かれている『ゲート』という街がある。

そして南に向かえば、リオグラス王国の王都である『フェルゲイト』があり、初期地点から離れれば離れるほど敵は強くなるという傾向にあった。

ちなみに大きな街同士へは中央にある噴水からワープする事ができるが、それは一度行った街にしか行う事ができず、最初は徒歩で移動する必要があった。


 そして、今ライトたちが訪れているのは、ニアクロウの西側にある森――南北の街道よりも一段階強い敵の現れるエリアであった。

現れるエネミーはリザードマン系列で、初期ステータスのプレイヤーならば、これの攻撃を二発受ければ倒れてしまう。

攻略情報を知らずに踏み込んで死に戻りする初心者プレイヤーが多発する場所、のはずなのだが――



「敵が出たぞ。剣が二体、楯が一体、後方に弓が一体いる。プリス、バリス前衛を押さえろ! そしてライトは後ろ頼む!」

『了解!』

「ダメージ受けたらすぐ回復するわよー」



 ケージの指示の下、パーティが一斉に動き出す。

まず飛び出したのは前衛火力であるプリス。彼女は地面に倒れたのではないかと錯覚するような前傾姿勢で飛び出し、抜き放った刀を振るう。

その振り抜かれた一閃は、寸分の狂い無くリザードマンの首を斬り裂いていた。

既に何度か見た光景だが、それでもライトは驚きに目を見開く。

踏み込んでから刀を振り切るまでのその動きに、切れ目というものが一切存在していなかったのだ。



(って言うか、踏み込んだと思ったら相手を斬ってるし……あれって、人間でも認識できないんじゃないのか)



 プリスの技量に驚嘆しつつ、ライトは胸中で呻く。

彼女は《ブレイドアーツ:刀》の熟練度によって発現したであろう技も一切使わず、素の武器攻撃のみで終始リザードマンを圧倒していた。

その姿勢を見るに、彼女がそのスキルを取得したのは、純粋に熟練度上昇による攻撃力UPのみを狙ってのものだという事が分かるだろう。

実際のところ、技後硬直がないこの状態の方が、彼女は上手く戦えるであろうとライトも認識していた。


 急所である首を斬り裂かれ、赤いダメージエフェクトを発しながら仰け反るリザードマンへ、プリスは更に一歩踏み込んで上段から袈裟斬りにする。

そのダメージに耐え切れず、一体目のリザードマンが赤いエフェクトと共に倒れた所で、ライトとバリスの行動が追いついた。



「『集え、風の刃よ――《ウィンドカッター》』!」



 ライトの詠唱と共に放たれる風属性の初期魔法。

放たれた風の刃は、後ろから弓で攻撃しようとしてきていたリザードマンへと殺到し、その身を斬り裂いてゆく。

風属性の魔法はそれ程威力が高くない替わりに、発生速度が早く躱されづらいという性質を持っている。

リザードマンは元々魔法防御は低く、更に後衛のアーチャーであったためにそれなりのダメージを叩きだす事ができたが、ライトの攻撃ではそのライフを全損させるには至らなかった。

それでも攻撃をキャンセルさせる事には成功し、ライトはもう一撃を与えて相手を沈めるために再度詠唱を開始する。

初期魔法は詠唱も短く、次のアーチャーの攻撃に間に合わせる事は簡単だろう。



「お前ら、『こっちへ来い』!」



 ちなみに、スキルはあらかじめ登録されているワードで発動させる事も可能だ。

魔法の場合は詠唱がなければ威力が減少するが、それ以外のスキルの場合はその限りではない。

今バリスが使用したのは《プロヴォック》――敵を挑発し、己に対するヘイト値を高めるスキルだ。

タンクのスキルとしては基本とも呼べるものであり、これによってプリスへと向かおうとしていた敵が彼の方へと向き直る。



「はっはー、そうだ来い来い……っと!」



 残る剣を持っている方のリザードマンは、注意が逸れた瞬間にプリスが再び斬りかかっている。

しかし注意を引かれた楯のリザードマンの方は、シールドバッシュをしようとでも言うのか、楯を構えたままバリスへと突撃してゆく。

いくらタンク志望といっても、現状では大した防具も装備しておらず、スキルも充実していない。

その攻撃を食らえば大きくダメージを受けてしまうだろう。しかしながら、それを前にしてバリスは変わらず笑みを浮かべていた。



「《パリィ》!」



 彼が次に使用したのは受け流しのスキルだった。

本来は武器や楯を使用して行う、格闘ゲームで言うところの当て身に該当するスキル。

受付時間の間に攻撃を受けると、それを受け流す事ができるのだ。

ただし熟練度が低い内は受付時間も短く、そして綺麗に受け流す事ができたとしても多少はダメージを受ける事となる。

が、これを素手で発動させた場合、少々特殊な状態になる事が判明したのだ。


 バリスが攻撃を受けた瞬間、彼はの身体はスキルの指定した動きをなぞり始める。

相手の攻撃に手を添え、身体は流れるように横に動き、その攻撃を受け流すと同時に相手の体を強く押す。

その一押しによって、自らの攻撃の勢いを制御しきれず、楯のリザードマンはその場に転倒してしまった。

これが特殊な状態――素手で《パリィ》を行った場合、相手の攻撃を受け流して体勢を崩すだけではなく、転倒というバッドステータスを与える事になるのだ。



「モンクでタンクやるプレイヤーが出る事を想定した措置なのか……? まあいい、プリス、ライト!」

「うん!」

「もう一丁、『集え、風の刃よ――《ウィンドカッター》』!」



 それぞれの担当する敵を倒し終わったライトとプリスに、再びケージの指示が飛ぶ。

それを受け、二人は即座に攻撃へと転じていた。

互いの攻撃がおよそ半分ずつリザードマンの体力を削り取り、最後の一体を倒しきる。

戦闘は終了し、それでも気を抜かないままに、ライトたちは息を吐いた。



「お疲れ、っと。『聖なる光よ、彼の者に癒しを――《ヒールライト》』」

「おう、サンキュー」



 アンズの回復魔法によってバリスが受けた僅かなダメージも癒され、万全な状態に戻る。

ちなみに、スキル使用時に消費されるMPメモリーポイントは、レベルアップをすることでHPと共に回復するため、狩を始めてから三時間、彼らは一度も街には戻っていなかった。

とりあえず倒れている敵からドロップしたアイテムを回収し、インベントリの状況を確かめながら、ケージは声を上げた。



「皆のインベントリの空きは大丈夫か?」

「結構あるし、大丈夫だよ」

「まあこれ、武器を複数持ち歩いて、状況に応じて替えるための空きだしね。序盤は結構余裕あるでしょうよ」

「となると、気にするのはプリスの武器の耐久値ぐらいか。大丈夫か?」

「んっと……まだ半分ぐらいはあるみたい」



 武器の状況を確認したプリスの言葉に、横で聞いていたライトは思わず頬を引き攣らせていた。

どう考えても減りが遅い。既に三時間、結構なエンカウント率の中で武器を振り続けているのだ。

時には、リザードマン六体に囲まれながら、全ての攻撃を回避しつつ敵を倒し切った事もある。

それだけ武器を酷使しながらも消費が激しくないのは、彼女が敵の急所を的確に攻撃して、武器を使う回数を最低限に抑えている為であろう。

驚くべき事に、彼女は一度として、攻撃を弱点以外に当てた事がない。

相手の武器にも防具にも、絶対に攻撃を当てずに敵を倒してしまうのだ。

間近で見ると凄まじいその剣術に、ライトは思わず溜め息を零す。



「リアルではあんまり実感した事なかったが、本当に強いんだな」

「え? あー……そ、そんなでもないですよ。私なんて、剣の師匠に比べたら全然大した事ないですし」

「それで大した事ないとは末恐ろしいな……流石にその師匠はゲームやってないのか」

「あ、あはははは……さ、流石にそれは無いですよー」



 若干誤魔化したような笑いは気になったものの、リアルの話をあまり深く聞く訳には行かないと、ライトは頷きそれ以上の追求を止める。

この世界において彼女の技術は凄まじく有用である――ただそれだけで、今のライトには十分なのだ。



「実戦的に剣が振れて満足って感じか?」

「いえ、まだイメージに身体が追いついてなくて……もっとステータス上げないと」



 その言葉に硬直し、ライトは思わずケージの方へと視線を向ける。

それを受けた彼は、苦笑交じりに肩を竦めていた。

どうやら、現実世界での彼女はこれ以上に鋭い動きを可能としているらしい。

本当に人間なのかどうかを若干怪しみつつ、ライトは小さく嘆息した。



「さて、どうする? まだできそうだが、もうちょっと奥に進んでみるか? それとも、ここでレベル上げを続けるか?」

「ここってダンジョン扱いだよな? 奥にはボスがいるんじゃないのか?」

「現状で戦うのは無理じゃないの? せめて、今手に入ってるアイテムを整理してからにしましょうよ」



 アンズの発した提案に、ライトも同調するように頷く。

BBOにはデスペナルティが存在しており、死亡時には装備品以外のアイテムが2スタックランダムに消滅し、更に総取得経験値が5%減少する。

一応レア度が低いアイテムが狙われるのだが、あまり慰めにはなっていないだろう。

経験値減少は高レベルにならなければあまり痛いとは言えないが、喰らって楽しいものではない。

ちなみに、パーティを組んでいる場合は全滅しなければ死に戻りはせず、ペナルティも発動しない。



「ま、そうだな。折角頑張ったのに減らすのも勿体無い。一旦戻ってアイテムを整理してから、再度アタックしてみる事にしようか。あ、そういえばライトは時間大丈夫なのか?」

「ああ、休みの日だし、飯は食ったし、今日は食事当番でもないしな。しっかし、こっちの時間は現実世界の時間の二分の一って、一体どうやってるんだか」

「あ、それはたぶんフリむぐ」

「こら、あんまりあの人たちの情報を口にしない。口止めされてるんだから」



 プリスの口を、アンズは嘆息しながら塞ぐ。

ライトも既に彼女たちが《タカアマハラ》の面々と面識がある事を知っているので、特に追求するような事はなかったが。

彼女たちの技術は専門家ですら理解不能なものが多いのだ、話を聞いた所で理解できるとも思っていなかった。



「戻って整理してからまた来るぐらいの時間はあるだろうしな。折角だし、アイテムを売って防具とかも揃えてこようぜ」

「現状じゃ生産職も活動開始してないだろうしな、普通にNPCショップに売るしかないか」

「下手したら俺たちが一番レベル高いかもしれないしな……」



 現在、ライトたちのレベルは揃って6である。

三時間かけてこの程度なので、BBOは中々レベルが上がりづらいゲームである事が分かるだろう。

こうなってくると、デスペナルティの経験値減少も、あまり笑ってはいられない――まあ、レベルの減少は起きないようにストップがかかるのだが。


 現状、ライトのスキル構成は、ポイントを《風属性魔法強化》と《飛行魔法強化》に均等に割り振っているため、まずまず順当な成長であると言える。

ちなみに、ステータスポイントはINTとDEXに振り分けていた。後にグレネードを製作する時の為の器用度上昇である。

またこうして移動している間、ライトは周囲の草などに視線を向け、《観察眼》によって名称が現れたアイテムを摘み取っており、こちらの熟練度も少しずつ上昇していた。

ちなみにこの森において主に手に入っているものは【薬草】と【バルーンマッシュ】である。

後者は先端が膨らんだキノコであり、採取するときに傘に触ると破裂してしまう。



「グレネードのレシピも後で探しておかないとな……」

「どっかにそういう情報が集まってる場所とかあるんじゃないのか?」

「そうだな、後で探してみる」



 頷き、ライトはパーティメンバーへ視線を向ける。

現状、非常に役に立っているのはプリス。彼女は相変わらずステータス強化に余念がない。

実際、今から戻れば、更に一段階上の武器を装備できるだろう。


 アンズは、アコライトとしては順当なスキル構成をしている。

所持スキルは《メモリーアーツ:回復》、《メモリーアーツ:補助》、《オートガード》、《サンクチュアリ》、《魔法射程延長》と揃っており、中々にバランスが良かった。

《サンクチュアリ》は自己強化のスキルだ。使用すると自分の足元の魔法陣が現れ、これの中で使用した魔法の効果が増幅する。

そして《魔法射程延長》はその名の通り、魔法の射程を延ばすパッシブの一般スキルであった。

ポイントは射程の延長に振っているが、そろそろサブクラスのために保存しておくらしい。


 バリスは少々変わったタンクであるが、組み方も地味に変わっている。

所持スキルは《パリィ》、《プロヴォック》、《グラップル》、《バランス感覚》、《ステータス強化:VIT》となっている。

最初の二つと最後の一つはまだライトとしても理解できる。しかし、その中間の二つが意味不明であった。

《グラップル》は格闘……ではなく、組み付きのスキルである。

具体的に言うと、相手に寝技をかける事でダメージを与えられるという、何故用意したのかがよく分からないスキルであった。

そして《バランス感覚》は、衝撃を受けた時などに体勢が崩れにくくなるパッシブスキルである。



(……まあ、ギリギリ納得できなくはないけどさ)



 今の状況を見てみれば、非常にマッチしているため納得できないという事はない。

が、実際に戦う前からこれを取得していたのは、ライトも疑問に思っていたのだ。

まあ、バリス――現実世界の友紀の性格を知っているため、『よく考えずに決めた』ということは理解しているのだが。

ともあれ、戦えているのだからそれ程問題はないだろう。あえて言うのならば――



「……なあケージ、お前、まだスキルは取得しないのか」

「ああ、サブクラスのために取っておく」



 ケージが、取得したポイントを何一つ使用していない事だ。

初期のポイントこそ使用してあるものの、これまでに得たポイントは一切使用せずに保存している。

そして、初期のスキル構成も非常に奇妙だ。

その構成は《マジックサークル》、《観察眼》、《視力強化》となっている。ちなみに、《視力強化》がレベル3である。

《マジックサークル》はフィールドに魔法陣を発生させる魔法であり、そこに魔法を込めておくと誰かが踏んだ瞬間に発動するという、地雷のような魔法だ。

しかし、込めるべき魔法を持っていないため、現在の所は無用の長物と化している。



「大変だな、隠しクラス狙いって」

「まあ、本当に申し訳ないとは思ってるんだが……指示するぐらいしか出来ないんだ」

「いや、それで助かってるのは事実だし、別にいいんだけどな」



 実際ケージの指示は的確で、まだ戦いなれていなかった当初は彼のおかげで切り抜けられた場面も少なくはない。

が、彼自身が戦闘に参加する事ができていないのも事実であった。

こんな構成でなければ辿り着けない隠しクラスなど、普通は誰も気付かないだろう。

だから隠しなのだと言ってしまえばそれまでではあるのだが。



「ま、隠しクラスが出たら見せてくれよ。結構興味あるしさ」

「ああ。たぶんプリスの方に驚くことになると思うが、了解だよ」

「ん? あ、ああ」



 くつくつと笑うケージに、また嫁自慢かと揶揄しそうになるが、この場でプリスの冷静さを損なわせるのは拙いと思いライトは口を噤む。

そして少し虚空を見上げ、苦笑を零した。



(楽しみ、か)



 始める前は何だかんだ考えていたが、いざ始まってしまえば、何だかんだでこの世界にのめりこんでいる自分がいる事に気づいたのだ。

飛行魔法が使えるようになるまで、熟練度上昇はあと少し。

少しだけ近付いた空に、ライトは笑みを浮かべていた。






















今日の駄妹


「おや、隠し魔法とは。ポイント無いので取得できませんけど。それより兄さんの役に立つ知識を……どうせ飛行魔法がうんたらとか言ってるんでしょうし、爆弾の素材を探しますか」

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