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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
4章:変化の種と《霊王》の影
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54:マギスフィア












 崩れ落ちた三体のゴーレム。

それらを手に持つダガーの先で突きながら、アマミツキは仲間たちへと向けて声をかけていた。



「討伐完了ですね。お疲れ様でした」

「お……おおおおおおおおおお! スゲェ、俺達こんな奴らを倒したのか!」

「何を今更。トドメさしたのは貴方たちでしょう」



 アマミツキの言葉で改めて実感したのか、ダンクルトはその手を振り上げて快哉を発する。

そして彼の隣に立つ旬菜もまた、若干ながら興奮した様子でミスリルゴーレムの姿を眺めている。

あまり普段とは表情が変わらないながらも、ここまでの観察で旬菜の感情をある程度読めるようになっているアマミツキであった。

彼女はそんな二人の様子に半眼を浮かべると、軽く嘆息を零してから声を上げる。



「何をそこまで興奮しているんですか」

「いや、だって結構格上のボスに勝ったんだぞ!? そっちはもうちょっとレベル差少なかったけど、俺たちは中々大変だったんだ!」

「……まあ、中々攻めあぐねるような部分があったのは事実ですが、うちのパーティは今の所格上じゃないボスとは戦っていませんからね」



 正確に言えばライトは、だが。

何かの拍子に難易度の高いダンジョンに足を踏み入れ、戻りづらくなってボスに挑み、何だかんだで倒してしまう――そんな行為を繰り返しているのだ。

今更ながら、どうして失敗していないのかが分からないような面々である。

ただし、ライトがアマミツキたちと合流する前は、一度ボスに敗れているのだが。

『コンチェルト』の前身であったあのパーティと、現状のライトたち。

あの西の森で何故敗れたのかは、現状と比較すれば容易に答えが出る事であった。



「お前の情報量には頭が下がる。的確な情報をありがとうな、アマミツキ」

「むぉ……兄さんから自発的になでなでとは、珍しい上に素晴らしい。もっとやって下さい」

「はいはい」



 アマミツキのもたらす、大量で正確な情報。

エネミーの名称や弱点、スキルの詳細な効果や範囲、果てはエネミーの行動パターンまで。

あらゆる情報を分析、考察し、必要な情報を叩き出す能力――それこそが、格上相手に勝利を収めている秘訣であった。

そして、もたらされた情報を用いて指示を飛ばすヒカリもまた、これまでにミスを犯してはいない。

この二人こそがパーティの要であり、二人の情報と指示がなければ、このイロモノパーティなどあっという間に押し切られてしまうだろう。

それを改めて認識しつつアマミツキの頭を撫でてから、ライトはダンクルトたちの方へと向き直った。



「二人共、ありがとう。前衛がいるのといないのではこんなにも違うんだな」

「正直、今まで前衛がいなかった事の方がびっくりだが……礼を言うのはこっちの方だろ。もともと、俺たちに付き合って貰っている形なんだしな」

「と言っても、そっちの目的はもう果たした後だったしな。こいつらと戦ったのは俺たちの我がままだ。だから、感謝は受け取って欲しい」



 ダンクルトたちの目的はあくまでも【機甲核】であり、ミスリルゴーレムと相対するような理由は無かったのだ。

このボスと戦った理由は、あくまでも『碧落の光』の――より正確に言うならばゆきねの我がままだったのだ。

故にこそ、現状ギルドに加わっている訳ではないダンクルトたちを巻き込んだのは、若干気が引ける事態だったのだ。

とはいえ、彼らの助力が無ければ、天井の低いこの部屋でボスに勝つのは不可能だっただろうが。



「まあともあれ、折角倒したんだ。ドロップ品を回収しちまおう」

「どうやら三体別々に回収できるようですね。しかも全部ボス判定だから全員回収できます」

「ほほー、そりゃまた美味しいな。で、ゆきね。お前、何を狙ってあたしたちをコイツに向かわせたんだ?」

『……っと、いきなり話しかけてくるからびっくりしたよ』



 途中からギルドチャットを起動させて、ヒカリはここにはいない人物へと笑いながら声を上げる。

その相手たるゆきねはといえば、細かな作業の間に飛んできたチャットに驚き、クリティカルを逃してしまっていたのだが。

とはいえ、あまり重要なアイテムの生産という訳ではなく、比較的どうでもいいポーションの類を作っていただけなので、あまり深刻そうな声音を発する事はなかった。



『はいはい、話の感じじゃ、ミスリルゴーレムは倒せたのかな?』

「おうともさ。あたしたち六人の勝利だ」

『うん、それはよかった。アイテムドロップ数も気になるけど……その中に、【マギスフィア】って言うアイテムは無いかな?』

「【マギスフィア】?」

『簡単に言えば、【機甲核】のレベルアップ版だよ。あれがあると、作れるものの幅が大幅に広がるんだ』



 変身アイテム、およびゴーレムの材料となる【機甲核】。【マギスフィア】は、それと同等の性質を持つアイテムであった。

尤も、現状では目撃例も非常に少なく、特殊レシピの材料としてのみ名前が挙がっているようなアイテムだったが。

一応ながら、ある程度ランクの高いゴーレムから出現するという情報が本などから得られており、ゆきねが今回討伐を依頼した大きな理由がこれであった。

無論、ミスリルの素材も彼が欲しがったアイテムのうちの一つではあったのだが。

ともあれ、ヒカリは小さく頷いてからダンクルトたちにも聞こえるように声を上げた。



「何か、【マギスフィア】っていうアイテムが欲しいらしいぞ。あったら教えてくれ」

「レアドロップを要求してくるとはな……あいつめ」

「まあまあ……ゴーレムも三体いるんですし、それなりに確率もあるんじゃないですか?」

「【マギスフィア】、ですか」



 半眼を浮かべるライトを、近付いてきた白餡が眺める。

そんな二人の姿をぼんやりと眺め、アマミツキは小さく呟き声を発していた。



(【マギスフィア】――ゴーレムや特殊マジックアイテムの核となるアイテム。本来ならば中盤以降、即ちミスリルゴーレムが雑魚として登場するようになってからのドロップが期待できるアイテム)



 確率は【機甲核】よりも低い。珍しいアイテムであればあるほど、ドロップ率は低くなっていくのだ。

更に、エネミーのレベルも低ければその分だけドロップ率も下がってしまう。

例え三体のミスリルゴーレムがボスとして登場したとしても、相当数狩らなければ手に入るはずも無いアイテムだ。



「――でも、それは、ゼロじゃない」



 ぽつり、と――小さな呟きが、零れる。

本人すらも自覚せず、周囲の誰もが聞き取れないような、小さな声。

そんな言葉を零しながら、アマミツキはじっとミスリルゴーレムを睨む。

――観測・・する。



「なら、それは――」



 ――ありえない事では、ないのだ。

意識せずに、口をついて出た言葉。それと共にアマミツキは、その視線をライトとダンクルトへと交互に向けていた。

そして、次の瞬間。視界には、僅かなノイズが走って――



「ん……おっ? おお、出たぞ、ヒカリ!」

「おお、すっげ……って、うおい!? こっちも出たぞ!?」

「お、おおう……凄いな、流石のあたしもびっくりだぞ。お前たち、本当に運がいいんだな。ライ、将来の分の運は残しといた方がいいと思うぞ?」

「お前もアマミツキと同じような事を言うなよ、ヒカリ」



 ――その言葉を耳にして、アマミツキははっと目を見開いていた。

いつの間にか呆けて、ボーっとしたまま仲間たちの様子を眺めてしまっていたのだ。

若干慌てて気を取り直してから、アマミツキはミスリルゴーレムへと手を伸ばす。

倒したボスの体はPT全員がアイテムを回収しない限り長い間残り続けるが、それでも永遠に残っているという訳ではないのだ。

地に伏しているミスリルゴーレムから、ドロップアイテムを回収する。

アマミツキはアイテム採取数の増加スキルを取得しているが、エネミードロップに関してはその限りではない。

もしかしたら上級職にそんなスキルもあるのかもしれないが――そんな事を考えながら、アマミツキは三体分のドロップアイテムを回収していた。

――その中に、【マギスフィア】の名前は無い。



「……こちらは出ませんでしたね。まあ、本来ならそれが普通なのですが」

「ホント、運がよかったですよね。でも、これを何に使うんでしょうか?」

「まあ、そりゃ作る奴に聞けば分かるだろ。おーい、ゆきね!」

『はいはい。確率的にはあんまり期待してないけど、どうだった?』

「おー、二つ出たぞ」

『……ぱーどぅん?』

「二つ出たぞー」

『……きみたち、一体何がどうしたらそんなに運が良くなるのさ』



 既に冷静さを取り戻し、いつも通りの調子で言葉を返したヒカリに対し、ゆきねは半ば呆然とした様子で声を発していた。

当然といえば当然だろう。現状、【マギスフィア】はミスリルゴーレムを数百体倒してようやく一つ出るかどうかというレベルのアイテムなのだ。

それが、たった三体を倒しただけで二つ。六人分であるためミスリルゴーレム十八体分のアイテムを回収したとはいえ、それでも十分すぎるほどに運がいいと言えるだろう。

――むしろ、異常とすら言えるほどに。



(……?)



 ふと違和感を覚えて、アマミツキは眉根を寄せる。

言語で表現しづらい、奇妙な感覚。自分は先ほど、一体何を感じていたのか。

ミスリルゴーレムたちを、そしてライトとダンクルトを見つめて、いったい何を考えていたのか。

記憶力に優れたアマミツキが、それを思い出す事が出来なかったのだ。

その直後に発生した、僅かなノイズすらも。



(思い出そうとしても思い出せない……新鮮な感覚ですね。流石に意識すらしていなかった事は記憶できませんか)



 流石のアマミツキも、記憶しようとして記憶しなければ、事象を脳裏に書き込む事は出来ない。

無論、普通の記憶力にも優れているのだが、今回ばかりはすぐさま忘却してしまっていた。

僅かな苛立ちと、それに対して感じる新鮮さ。その感覚の中で、アマミツキは感じていた違和感をいつの間にか忘れ去っていた。



「で……その【マギスフィア】とやらで、一体何を作るんだ?」

「ああ、それは俺も気になっていた。一応ゴーレムも作れるんだろうが……他にも何かあったりするのか?」

『うん、まあそれも作りたいんだけどね。でも二つとは、また随分と都合がいい』

「都合? 二つ作りたい物でもあるのか?」

『そうそう。誰がドロップしたの? 片方は彼のために使いたいんだけど』

「彼って言うと……ダンクルトか。ああ、出したのはその本人だぞ」



 兄とゆきねの会話を聞き、アマミツキはそちらへと意識を戻す。

問答しているのは【マギスフィア】の使用法。性質的には、【機甲核】と大して変わらないアイテムだ。

ゴーレムの素体となるフレームの作成、および特殊な機械系アイテムの作成。

そこまで考えて、アマミツキは一つの特殊レシピの存在を記憶から掘り起こしていた。

ゆきねと出会った大図書館、そこでゆきねに対して提示した調合書レシピブックの一つに記されていた内容。



『なるほど……それは都合がいいね。何せ、作ろうとしてた物は彼も欲しがりそうな物だし』

「ダンクルトが欲しがりそうな物?」

「お、何だ、俺の話なのか?」

「ああ。ギルドチャットをだから直接話せないのが面倒だが……ゆきね、もったいぶらずに言ってくれ。何を作る気なんだ?」



 元々ニチアサなどには大して興味を持てないアマミツキであるが、知識としては多少知っている。

尤も、最近のものに関してはあまりよく知らないため、実際に使っているのかは知らないのだが――



『じゃあヒント。それは、乗り物です』

「乗り物? そんな物が作れるのか?」

「乗り物って……お、おい、まさか!?」



 疑問符を交えたライトの呟きに、ダンクルトは大きく反応して身を乗り出す。

突然の動きにライトが驚いて身を仰け反らせていたが、ダンクルトは構わず大きく声を上げていた。

そんな事をしても、ゆきねには聞こえるはずも無いというのに。



「まさか、バイクを作れるのか!?」

「ば、バイク?」

『そう、正解! 実は特殊レシピに存在してるんだよ、バイク。性質としてはゴーレムと同じ。【マギスフィア】を核としてフレームを作成し、そこにパーツを組み合わせていくんだ』



 正確に言えば、特殊なゴーレムであると言えるだろう。

ただし自律行動する訳でもなく、純粋な道具として使用するのみだ。

移動手段としては優れているかもしれないが、必ずしも使い勝手がいいというものではない。

――しかし、そこにはロマンがあった。



『さて、彼が【マギスフィア】を提供してくれるなら、僕はそれを作り上げるつもりだよ。今の所レシピの素材は足りないから、完成するのはもうしばらく後になりそうだけど……さて、どうするのかな』



 ゆきねには、ダンクルトの表情も見えないし言葉も聞こえない。

けれど、彼の言葉は――どこまでも、確信に満ちた色を宿していた。





















今日の駄妹


「何故でしょう。兄さんのなでなでで幸せな気分のはずなのに……何か、違和感が……?」

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