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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
4章:変化の種と《霊王》の影
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53:銀の輝き











「――《ブレイズバースト》」



 ヒカリの魔法が、発動する。

火属性のみに一点特化し、ステータスすらも強化した果てに放たれる魔法。

その威力は非常に高く、若干ダメージ量の下がる範囲攻撃でも、体力の低いエネミーならば一撃で蹴散らしてしまうだけの破壊力がある。

例え魔法防御も有するミスリルゴーレムといえども、その一撃を受ければ体力を削られる事だろう。

しかし、ミスリルゴーレムにはそれに対する一つの対処法が存在していた。



『――――!』



 ヒカリの魔法が放たれ、ゴーレムたちの元へと集束すると同時、槍のゴーレムがその巨大な盾をかざしていた。

同時、盾の表面に薄緑色の光で輝く紋章が現れる。

光を放つ紋章は、同時に同じ色の障壁を発生させ、一瞬の内に三体のゴーレムを包み込んでいた。

サブクラス・シールドマンのスキル、《フォートレス》。

ごく短時間、一定範囲の味方に対し、強固な障壁を張る事ができるスキルだ。

無論、完全にダメージをゼロに出来る訳ではなく、防御力を向上させた上でそれを効果範囲全体に広げているだけだ。

貫通するダメージはしっかりと入っているし、事実ゴーレムたちのHPは若干ながら減っている。



(それにしたとしても、姉さんの魔法をあそこまで軽減できるとすれば……何か他のスキルも併用しているのかもしれませんね)



 いくつかの候補を脳裏に浮かべ、アマミツキは視線を細める。

障壁によって防がれる爆発の衝撃の向こう側、当たり前のように立っている三体のゴーレムを睨むようにして。



(最悪なのはパッシブの魔法耐性スキルであそこまで防いでいるパターン。《フォートレス》のダメージ軽減だけであれでは、普通に魔法を当ててもてこずりそうですし)



 シールドマンには非常に多くの耐性スキル、防御スキルが存在している。

唯一例外として、HPが減っているほどにダメージが上昇する攻撃スキルも存在しているが、SPが少ない内は防御スキルを取得しているプレイヤーが多い。

その中に存在する、《魔法耐性強化》というパッシブスキルは、取得した分だけ魔法のダメージを軽減する便利なスキルであった。

しかし、軽減率はそこまで高くはなく、全くダメージを受けなくなるという訳ではない。

炎を防ぎきり、障壁が消え去る様子を見つめ、アマミツキは時間のカウントを開始する。

どの程度で《フォートレス》のリキャストが完了するか、その確認をするためだ。



(まあ、レベルを考えればそこまでは行かないでしょう。恐らく、《マジックレデュース》の併用……こちらも、リキャストは同じ程度と考えるべきでしょう)



 それならば、大きくダメージを減衰できるのは一分間に一度までだ。

そして、そうであるならば、この後に続く攻撃を防げる筈もない。



「――《スラストトルネード》!」



 《ブレイズバースト》の発動からちょうど十秒後、ヒカリとテンポを合わせて詠唱されていたライトの魔法が発動した。

発生するのは、風の刃を纏う竜巻。ゴーレム三体を包み込むだけの広さがあるその魔法は、確実にその三体を巻き込んでいた。

風の中に閃く魔力の刃はゴーレム三体へと命中し、そのHPバーを確実に減少させていく。



「一割五分、って所か……」



 風属性に一点特化し、高い熟練度を誇るライトの攻撃で、槍のゴーレムに対してはその程度のダメージ。

いかに風属性の威力設定が低めであるといっても、ライトですらこの程度のダメージしか与えられないのであれば、現状のプレイヤーたちは一割程度のダメージが精々と言った所だろう。

他のゴーレムに対しては二割弱のダメージを与えている事を確認して、ライトは再び詠唱を開始していた。

――そして、続くように発動するのは、白餡の魔法だ。



「行きます、《アイシクルレイン》!」



 パキパキと音が響き、空中に無数の氷の槍が現れる。

それは氷の雨というよりも、氷槍の嵐と呼ぶべきであっただろう。

現れた十数本の氷の槍、それらは白餡が杖を振り下ろすと同時、一斉にゴーレムたちへと向けて降りかかっていた。

白餡の魔法攻撃力は、ライトやヒカリに比べれば低くなってしまう。

それでも、熟練度は比較的高めな白餡の氷魔法は、一割から一割五分程度のダメージを与えて終了した。



(二人で四分の一は削れた……だが)



 立ち並ぶ氷の槍が砕け散り、中から三体のゴーレムが姿を現す。

装備する盾や武器で防御するように構えていたゴーレムたちは、その視線をライトの方へと向けていた。

目に該当する部分があるのかどうかは分からないが、敵の武器を向けられて、ライトは思わず舌打ちする。



(やはり、こっちにヘイトが向いたか……!)



 現状、前衛ではそれほどダメージを与えられていない。

その為、ダンクルトたちはヘイトを稼ぐ手段が《プロヴォック》以外に存在していなかったのだ。

今の魔法で大きくヘイトを稼いでしまった以上、ライトのほうに攻撃が向かうのは当然なのだ。

だが無論の事――それを黙って見ているダンクルトではない。



「旬菜、フォロー任せる――《ペネトレイト》!」



 視線がライトの方へと向いている事に気付いたダンクルトは、声を上げると共に飛び込んで、槍のゴーレムへと向けてスキルを発動させていた。

視線が己から外れている隙に肉薄したダンクルトは、スキルの動きに従い己の掌を槍のゴーレムへと押し付ける。

そして発動したスキルによって、無形の衝撃がゴーレムへと叩きつけられていた。

ある意味ゴーレムの弱点とも呼べる、防御無視の攻撃。

それをまともに受けたミスリルゴーレムは、僅かにその状態を揺らがせていた。

確かにダメージは通ったものの、ボスエネミーであるミスリルゴーレムをダウンさせる事はできない。

そして、いかにヘイトが遠くに向かっていたとしても、近くにいる攻撃してきた相手にはきっちりと対応するAIがこのエネミーには存在していた。

一瞬だけ動きを止めている槍のゴーレムではなく、剣のゴーレムが動いて刃を振り上げ――



「忙しいデス」



 ――そこに、旬菜が割り込んでいた。

振り下ろされる刃に対し、《エンチャント》を切り替え炎を纏っている拳を振るい、迎撃する。

しっかりと手甲を装備している旬菜の拳は、ゴーレムの剣を正面から迎撃し――吹き上がる爆発によって、それを確かに弾き返していた。

位置的に二体のゴーレムを挟んでいるため、ハルバードのゴーレムは行動が行動が遅れる。

それを見越しての位置取りは見事に功を奏し、ダンクルトは攻撃を受ける前に硬直から脱していた。



「よし、リキャスト完了! 《プロヴォック》!」



 そして、ダメージに追加してのヘイト蓄積。

これによって、ゴーレムたちの意識は完全にダンクルトへと向けられていた。

それを確認し、笑みを浮かべたダンクルトは、後方へと向けて跳躍する。

敵からは注意を逸らさずに距離を取り、ある程度の距離を保って構えたのだ。



「もっと行かないの?」

「ああ、確かに《ペネトレイト》ならそれなりにダメージを与えられるが、リスクも大きいしな。前衛で戦うなら同じ数ずついないと厳しいだろ、コイツは」



 ただでさえ、防御力と攻撃力で劣っているのだ。

その上、手数まで少なくなって押さえ込まれていれば、前衛で戦うのはただ危険を増やしているだけに過ぎないだろう。

ならば、無理に前に出る必要などない。それが、パーティとしての戦い方だ。



「これまではずっと二人だったからあまり考えた事は無かったが、俺達以外にも火力を持った仲間がいる。それに、あまり前に出すぎても魔法を撃つ時に邪魔だろうからな」

「ん……りょーかい」



 軽い調子で頷き、旬菜もまた拳を構える。

これまでは常に二人だけで戦ってきたからこそ、周囲へと注意を向ける必要など考えた事もなかった。

しかし、今はそうも言っていられない。周囲の状況を確認し、自身の状態も把握して、その上で戦わなくてはならないのだ。

その事実を改めて把握して、旬菜は軽く嘆息する。



(めんどー)



 ミスリルゴーレムの動きをひたすらに見張りながら、旬菜は胸中でやる気の欠片も無い声を吐き出す。

やりたい事は確かに決まっている。しかし、旬菜は考えて行動するという行為はあまり得意としてはいなかったのだ。

どのような事であれ、ほぼ直感で動く。それが旬菜という少女の性質だ。

ダンクルトだけを気にしていれば、直感で動くだけでも何とかなる。

ただ、彼の隙を埋めるように動けばいいだけなのだから。

しかし、他の仲間がいれば、そちらの動きも気にしなくてはならないのだ。

これまで以上の労力を割かれる事は、紛れもない事実であった。



(でも――)

「よし、二回目行くぞ! 《ブレイズバースト》!」



 《フォートレス》のリキャストに間に合わせるため早口で魔法を詠唱して見せたヒカリは、強力な火炎の魔法を躊躇なく発動させる。

集束する炎の輪と、発生する爆炎。もしも敵の近くにいれば、あの攻撃に巻き込まれてしまうだろう。

とにかく一点特化されたヒカリの火力はあまりにも強大であり、同レベル帯のプレイヤーとはいえ喰らえばただでは済まない。

故に、戦う時の位置取りも重要となってしまう。旬菜にとって、考える事はどうにも面倒な事だった。

けれど――



(……やっぱり、いつもより楽だよネ)



 吹き上がる炎の中で目に見えてライフを減らせるミスリルゴーレムに対し、旬菜は小さく笑みを浮かべていた。

二人だけでは決して勝てないであろう相手。それどころか、並みのパーティに混じったところで手も足も出なかっただろう。

強力な後衛火力を誇る面々。今も《ハイディング》で戦場を見極め、所々でポーションを投げつけてくるスカウト。

どうしてこうなったのかと言いたいほどにバランスの存在しないパーティであったが、不思議と上手く戦う事が出来ている。

こんな奇妙なパーティに対し、旬菜は僅かながらに楽しさを感じていたのだ。



「《スラストトルネード》――っ、こっちは防がれたか」



 予想していた通り、ライトの放った風の魔法が《フォートレス》によって防がれる。

しかし、それも予想通りだ。ダメージを与えられなかったとしても、それを使わせただけで意味がある。

ライトの魔法を防ぎきれば、後一分は同じ技を使えない。

薄緑色の障壁が消え去れば、次なる攻撃を叩き込むだけだ。



「《アイシクルレイン》!」



 降り注ぐのは氷の槍。それぞれの火力こそそう高くはないが、蓄積したダメージはこれで半分を超えていた。

後はこれを繰り返すだけでいい。若干の危険こそあるが、必ず勝てる。

そう思いながら、前衛の二人は再び注意を引く為に飛び出そうとし――ゴーレムたちの胸部が、大きく開いている事に気がついた。



「ッ!」

「あれは――」

「ビーム、来ます!」



 隠れていたアマミツキが、唐突に姿を現して声を上げる。

その手に持っていた爆弾を次々とゴーレム内部に投げ入れながら――しかしそれでも、銀色の輝きはゴーレムの胸部、その内部にある宝玉へと集束していく。

そして――輝きが、三条の光線となって魔法使い三人へと放たれていた。



「ヒカリッ!」



 光線は、放たれてから回避することは不可能だ。

あらかじめ動いていなければ、まず命中してしまうと見て間違いない。

そして、状況を瞬時に理解して動く事が出来たのは、ライトただ一人であった。

彼は詠唱を即座に切り捨て、瞬時に《フライト》を発動させると、ヒカリの方へと向かって思い切り地を蹴る。

その躊躇のない行動により、ライトは自身へと向けて放たれていた光線を見事に躱していた。

彼はそのままヒカリを抱き込むようにして飛び込み、己が背を盾としながら地へと体を投げ出す。

――そんな彼の耳に、ヒカリの小さな声が届く。



「『――の弾丸。我が敵を――』」



 しかし、完全に回避する事は叶わず、ライトの背を掠るように貫いていったレーザーは、彼の《オートガード》を砕け散らせていた。

貫通属性のあるレーザー系では、直撃していればそのままダメージを受けてしまっていただろう。

横を見れば、同じく《オートガード》を破壊されながらも地に体を投げ出した白餡の姿がある。

三人とも、何とか無事に攻撃をやり過ごしていた。

そして――



「――《ファイアーボール》ッ!」



 ――ライトに抱えられていたヒカリは、そのまま核を露出した槍のゴーレムへと向けて炎の弾丸を放っていた。

彼女は、レーザーを前に詠唱を切り替え、回避行動を放棄していたのだ。

ライトが、必ず自分ごと回避してくれる事を信じて。

そしてその行動は、更なる好機へと繋がった。

内部の核はゴーレムにとっての弱点。そこにひたすら爆弾を投げ入れられていた槍のゴーレムは、元の防御力にもかかわらず大きく体力を減らしていたのだ。

そして、そこへと向けて放たれたのは高い威力を持つヒカリの火球。

それは一直線に飛翔し――ゴーレムの内部で、大きな爆炎を上げていた。



「――ダンクルト、旬菜!」

『――――!』



 そしてその先を確認する事無く、ヒカリは大きく声を上げる。

アマミツキが必要なダメージ量を見誤るはずが無い――心の底からそう信じて。

そして事実、防御に優れた槍のゴーレムは、HPを全損させて仰向けに倒れこんでいた。

そんなゴーレムを踏みつけるようにして、二人の拳士は二体のゴーレムの間へと割り込んでいく。



「そらよッ!」

「んっ!」



 翻る足は剣のゴーレムの横っ腹を、雷纏う拳はハルバードのゴーレムの顔面を。

装甲を戻した直後で武器を構えてすらいなかったゴーレムたちは、その一撃にたたらを踏む。

残心、体勢を整え――二人は連続して攻撃を叩き込んでいた。

火力は足りず、大きなダメージは出ない。それでも、足止めには十分だ。

しかし、そんな二人に辟易したかのように、ゴーレムは大きくその武器を振るう。



「甘い!」

「んふふ」



 だが、二人はそれすらも読んでいた。

彼らが同時に体を沈めれば、振るった武器が向かう先はもう一体の仲間の武器であったのだ。

剣とハルバード、互いの武器が打ち合わされた瞬間、剣は重みに負けて大きく弾かれる。

当然といえば当然だ、攻撃力も重量も大きく違うのだから。



「喰らえ、《ペネトレイト》ッ!」

「こっちも、《ペネトレイト》」



 そして、その隙を逃す二人ではない。

剣のゴーレムが行動不能に陥っているのと同時、彼らはハルバードのゴーレムへと掌を押し当てていたのだ。

放たれる二人の防御無視攻撃。しかし、その隙に攻撃を打ち込めるはずの剣のゴーレムは、今は仰け反っている最中だ。

二人の攻撃は同時に放たれ――そして、ハルバードのゴーレムの体力を削り切っていた。

そして――



「――《エアロブレイド》!」

「――《フロストニードル》!」



 体勢を立て直した剣のゴーレムへと、ライトと白餡の魔法が放たれる。

高速で飛来する風の刃と、足元より発生する氷の棘。

鋭い二つの攻撃は狙い違わず命中し、単体に絞られた高い威力でHPを大きく削り――



「美味しいところ、いただき」

「トドメだッ!」



 硬直を脱した二人の拳によって、打ち倒されていた。





















今日の駄妹


「トドメは持っていかれましたか……まあ、兄さんと姉さんの絆コンビネーションを見られたのでよしとしましょう」

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