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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
4章:変化の種と《霊王》の影
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50:機甲の軍勢










 迷宮要塞都市ゲート、そこから少しばかり離れた場所にあるダンジョン。

『古代文明遺跡』と名のついたそのダンジョンでは、未だに生きている古代文明のプラントから無数に機甲ゴーレムが生産され続けている――という設定のついた場所である。

ゲートに着いた一行は、中央の噴水に登録するのもそこそこに、早速そのダンジョンへと足を踏み入れていた。

黄土色の壁や床に囲まれた、広いとは言えない通路を進む。不思議な硬質さと滑らかさのある床を踏みしめながら、ライトは仲間たちの姿を視界に納めて静かに思考していた。

ヒカリの判断した『先に手に入れるアイテム』は、ダンクルトの目標である【機甲核】だったのだ。

曰く――



『白餡が幽霊怖いなら、無理に連れて行くつもりはない。ならその代わり、ゆきねに入ってもらう訳だが……ゴーレムを作っておけば、ゆきねも戦えるだろう?』



 ――との事であった。

尤も、ヒカリの判断は白餡に対する気遣いばかりが元となっている訳ではない。

幽霊に対する恐怖で白餡がパニックを起こせば、パーティ全体に危険が及ぶのだ。

更に、ライトとヒカリは空中にいる事になるため、白餡に対するフォローはどうしても遅れてしまう事になる。

幸い、白餡は街にいたとしても召喚を続けていれば熟練度を上げる事は出来るし、二人態勢で作り置きしたポーションはまだまだ数がある。

それらの総合的な要素から判断して、ヒカリはそのような決断を下していたのだ。

その為、現在のところゆきねは一度ゲートで待機し、残りの六人でダンジョンに出る形となっていた。



「良かったのか、ヒカリ?」

「ん、何がだ?」



 天井の低いダンジョン内。

流石に空を飛ぶ事は出来ず、若干不満げな表情を浮かべつつも歩を進めるライトは、隣を歩むヒカリへと問いかけていた。



「やろうと思えば、三人と四人でパーティを二つ組んで来る事も出来ただろ? まあ、流石に大人数すぎれば邪魔になるだけだろうが、七人程度なら大丈夫だっただろうに」

「ま、それは確かにそうなんだけどな。経験値はパーティ内でしか配分されないのが大きな欠点ではあるけど。でもまあ、後の事を考えてゴーレム作ってた方が有用だろうしな」



 エネミーを倒した経験値は、レイドボス以外では倒したメンバーのいるパーティにしか配分されない。

パーティを二つに分ければ、それだけ入ってくる経験値は少なくなってしまうのだ。

ちなみに、通常の敵の場合は倒したプレイヤーのいるパーティに経験値が入る事になるが、ボスの場合は最も多くダメージを与えたプレイヤーのいるパーティに経験値とドロップアイテムが配布される。

これは、脇から入ってトドメだけを持っていくようなプレイヤーが現れた際への配慮だった。



「それに、今回出てくるアイテムはゴーレムのパーツとしても使えるものが多いですからね。順番としては妥当なところでしょう」

「……逆だったらどうなんだ?」

「まあ、アンデッド軍団を倒してレベル上げた後なので、飛べないこっちでの戦闘が楽になるという感じでしょう」



 そう告げて、アマミツキは軽く肩を竦めていた。

ライトとヒカリが十全な戦いを出来ないのは、パーティとしても若干の不安がある。

雪山でも遺跡のボスでも、飛行能力と火力があったからこそ有利に戦えたのだ。

火力は現状でも十分にあるが、飛行による回避がなくなったのは危険だろう。

何せ、ヒカリは未だに防御系のスキルを取得していないのだから。



「……まあ、ゴーレムは基本的に魔法攻撃には弱いですからね。適正レベル帯から見ても、兄さんと姉さんの魔法を同時にぶつければ瞬殺出来るでしょう」

「まあ、熟練度にレベルとMPが追いついてない感じだしな……」



 現在のライトが使用できる魔法は、風属性第五の魔法エアロブレイド以降にもう一つ。

つまり、熟練度は400以上。熟練度の最大値が1000である事を考えると、異常な数値であると言えた。

《フライト》のように長時間使用し続けられるスキルで熟練度を伸ばす方法は一般的であるが、ライトの場合はその時間が異様に長いのだ。

ある意味では、当然といえる結果であった。

ともあれ、地上にいるからといって絶対に戦えないというわけではない。とりわけ、魔法攻撃に弱い相手ならば有利に戦えるはずだ。

それに、今回はこれまでにいなかった仲間も存在しているのである。



「ん? おい、ライト! 敵が来たぞ!」

「お、了解だ……名前は『アイアンゴーレム』。レベルは20だな」

「相手の体の向きを見て、直線上に立たないように注意して下さい。ビームが来た時に危険なので」

「未だにゴーレムがビームって納得できないが……」



 微妙な表情を浮かべ、ダンクルトはゆっくりと近付いてくるゴーレムを見つめる。

このダンジョンのエネミー最低限レベルは18、それを考えると若干強い敵である事が分かる。

数は一体であるため、それほどきつい戦闘というわけではないだろうが。



「よし……そんじゃ、アンタらにはオレたちの戦いを見て貰おうか」

「ん? 手伝わなくていいのか?」

「今回だけだよ。口で説明するより見て貰った方が分かりやすいだろうし、後々の連携もやりやすいだろ?」



 トントンと、ステップを踏むかのようにリズムを作りながら、ダンクルトはそう口にする。

視線の先にいるのは、出来の悪い薬缶かというような膨れ上がった形状をした一体のゴーレム。

それを前に、ダンクルトと旬菜は二人並び立ちながら、じっとその姿を観察していた。

性別も性格も体格もちぐはぐな、奇妙な二人組み。けれど、敵を前にした今、二人の纏う雰囲気は非常に似通ったものへと変化していた。



「へぇ……」



 二人の姿を見つめ、ヒカリは小さくそう呟く。

その声音の中には、確かな驚きと感心が含まれていた。

敵の前に立つ二人の姿は、確かに堂に入ったものだったのだ。



(これまでコンビで活動してきたプレイヤーとはいえ、ここまで一体化した空気はそうそう出ない……この二人、リアルでも近親かな)



 マナー故に追求はしなかったが、半ば確信を得ながらヒカリは笑みを浮かべる。

凸凹コンビであるが、息は合っている。少なくとも、あの鉄のゴーレムに遅れを取る事はないだろう。

だからこそ、魔法の準備をするようなことはせず、ヒカリはじっと二人の様子を観察していた。



「お前主体だ、行くぞ?」

「はいはーい」



 タンタンタン、と二人の靴が同時に音を鳴らす。

声に出した訳でもなくぴったりと合わさった二人の靴音。ダンクルトたちはその場で三度軽く跳び――次の瞬間、アイアンゴーレムへと向けて飛び出していた。

まず最初に飛び出したのはダンクルト。体格や足の長さから言っても、彼の方が足が速いのは当然である。

そうして一直線に飛び出したダンクルトは、ゴーレム手前3メートルほどの地点で跳躍、ダッシュの勢いを全て載せてゴーレムへと跳び蹴りを放っていた。

足甲を履いたダンクルトの足は、鈍重なゴーレムに反応すら許さず胴部へと命中する。

瞬間、ドラム缶を鉄パイプで思い切り殴りつけたかのような音が鳴り響き、ゴーレムの体は確かに一瞬揺れていた。

だが――



「気をつけろ、あまり効いていないぞ!」



 《観察眼》によって看破されたアイアンゴーレムのHPは、1割に届かぬ程度しかバーを減らしていなかった。

大部分のゴーレムは、物理攻撃に対する耐性を有しているのだ。

高い物理防御と低い魔法防御。一部例外はあるものの、序盤のゴーレムにはほぼ共通した特徴であると言っても過言ではない。

故にこそ、適正レベル帯のダンクルトの攻撃すら、大したダメージを与える事が出来なかったのだ。

――しかし、今この場にはもう一人が存在している。



「様子見十分……《エンチャント:ライトニング》」



 ダンクルトの背中を追うように駆け抜けた旬菜が、あまり大きくはない声でそう宣言する。

それは、ブラックメイジの有する魔法スキル。

味方の物理攻撃の属性を変化させるためのものだ。

ダメージの上昇幅はそれほど大きくないものの、この魔法を受けた者の攻撃は指定の属性魔法攻撃へと変化する。

つまり――



「どっせい」



 さして気合も入っていなさそうな掛け声と共に、旬菜はゴーレムへと向けて拳を突き出す。

その拳は、ゴーレムの体を蹴って宙返りしながら後退したダンクルトと入れ替わるように、相手の胴へと突き刺さっていた。

瞬間、電光が走り、アイアンゴーレムの全身を包むように光が這う。

放たれる音は先ほどの比ではなく、まるで近場で雷が落ちたかのような快音が鳴り響いた。



「機械系のゴーレムにとって雷属性は弱点です。よく効いてますね」

「成程、《エンチャント》での戦闘で魔法少女か」

「……最近はああいうのも魔法少女なのか」



 そちらにはあまり詳しくないライトが呟く間にも、戦闘は更に展開してゆく。

拳を打ち込み確かなダメージを与えた旬菜だったが、ゴーレムがノックバックしなかった事に驚愕し、舌打ちを零していた。

ゴーレムという種族の特性なのか、ダメージを受けても仰け反る事がない。

その厄介な点は、ダメージを受けながらでも無理矢理に攻撃をしてくる事だ。

アイアンゴーレムは胴部に拳を受けながらも、その鉄塊と呼べる腕を振り上げ、旬菜へと向けて振り下ろす。



「させるかッ!」



 だが、それよりも早くダンクルトが動いていた。

地を蹴って跳躍し、壁を蹴って横合いからゴーレムへと向かう。

跳躍の際に捻りを加えられた彼の体は勢いよく回転し、振り下ろされるゴーレムの腕へと正確に回し蹴りを叩き込んでいた。

本体は仰け反らないものの、その強烈な威力によって、ゴーレムの攻撃は軌道を逸らされて地面に落ちる。

その隙に旬菜は後退し、ダンクルトもまた回転の勢いを殺しつつ着地していた。



「続けてゴー」



 呟き、今度は旬菜が先に行動を開始する。

アマミツキの助言通り、正面を避けて側面に回りこむように。

そしてそれに次いで、ダンクルトもまた逆側から回り込むように走り出していた。

現状判明しているゴーレムの攻撃は、腕を使って殴るものと、アマミツキの言っていた件のビームのみである。

そのどちらもが、正面に対しての攻撃。ならば、側面は比較的安全である筈だと、二人は両側から挟み撃ちをするように散開していたのだ。

――しかし次の瞬間、二人に対してアマミツキが警告の声を発していた。



「伏せて下さい!」

「――ッ!」

「むっ!?」



 その声とほぼ同時、アイアンゴーレムがその手を大きく広げる。

通路ギリギリ程度まで伸ばされた両腕。見当違いな方向へ伸ばされたそれに、二人は若干困惑し――嫌な予感を感じて、即座に体を深く沈めていた。


 ――ギャリ、と金属が擦れる音が、響き渡る。



「……まあ、機械らしいと言えばその通りなのか?」

「何かのゲームで見たことあるな、あの動き」



 ライトとヒカリは、ゴーレムの動きに呆れと感心を交えてそう呟いていた。

アイアンゴーレムは、両腕を広げたその体勢で、上半身を思い切り回転させていたのだ。

下半身はそのままに上半身だけ回転する姿は、離れた場所で観察する分には非常にシュールである。

全方位に対する範囲攻撃。しかし、ダンクルトと旬菜は、完全にそれに対応して見せていた。



「ダン、トドメ」

「よし、行くぞ!」



 いかなる攻撃にも、直後には必ず隙が存在する。

立ち上がった二人はそれを逃さず、両側で同時に構えていた。

そして二人は、同時に同じスキルを宣言する。



『――《ペネトレイト》ッ!!』



 防御力貫通スキル《ペネトレイト》。

いわゆる寸勁をモチーフとした技であり、攻撃対象の防御力を無視して攻撃力に準じたダメージを与えるスキルだ。

《ウェポンアーツ:鋼拳》の熟練度上昇によって現れる技であり、低熟練度で出現しつつも後々まで役立つ便利な技であった。

二人の体は技の宣言と共に規定の動きを取り始める。放たれるのは捻りを加えたような掌打だ。

二人の攻撃は同時に命中し――その一瞬後、足元から伝わるように放たれた衝撃は、同時にアイアンゴーレムへと叩きつけられていた。

例え高い防御力を誇っていたとしても、それを無視したダメージを与えられてしまえば意味が無い。

二人の攻撃によってHPを全損させ、アイアンゴーレムはその場に崩れ落ちていた。



「よっし、どんなもんだ?」

「驚いたな……予想以上だ」

「だなー。あたしも、是非ともお前らを仲間にしたくなったぞ」



 いつも通りに笑いながら、ヒカリは僅かに視線を細める。

ダンクルトと旬菜――この二人は、決して個人の技量が高いという訳ではない。

若干格闘技を習っているような動きではあるものの、ヒカリの素人目から見ても隙が分かる程度の技量でしかない。

しかし、この二人は互いのフォローをするのが非常に上手いのだ。

互いが互いの隙を潰し、長所を生かす事によって上手く戦いを運んでいる。

ある意味では、このゲームをプレイしたからこそ開花した才能であるとも言えた。



(いい意味で誤算だったな……逃すのは、ちょっと惜しいぞ)



 改めて決意を固めながら、ヒカリは胸中でそう呟いていた。





















今日の駄妹


「まあ、例の『剣士さん』と比べると見劣りしてしまうのは事実ですけどね。ネタ的には面白いですが」

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