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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
4章:変化の種と《霊王》の影
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49:二人の必要とするもの












 話の場にしていた生産施設を出て、ライトたちは大通りへと向かう。

その間でも、話に上るのは件の変身アイテムの事だ。

先ほど【変化の種】を手にし、そのレシピを閲覧したゆきねは、その写しを手にひらひらと振りながら声を上げる。



「まあ、実際の所……単品単品は、そう難しい訳じゃないんだよ」



 その写しに載っているのは、変身の要となるベルトやステッキなどのレシピ。

それ以外のアイテムに関しては、そこには記載されていなかった。

つまるところ、それ以外のアイテムは別に珍しくも何ともないのだ。



「武器、防具、アクセサリ。結局の所、それだけなんだよね。それぞれのアイテムをそれっぽく作ってあげれば、後は変身アイテムに登録するだけだ」

「つまり、その辺りは後回しでもいいって事か?」

「一応、それっぽいアイテムを選ぶ必要はあるけどね。特にライダーの方はレシピから洗い直さないといけないけど、魔法少女は既にそれっぽいのもあるよ」



 結局の所、この変身アイテムの特異な点は、瞬時に装備を変更できるという点にある。

つまり、それは変身アイテムのみの話であり、その他の装備は特に特殊ではないという事だ。

極論で言ってしまえば、別にライダーや魔法少女のような外見である必要はない。

ゆきねはそこにもこだわるつもりであったが、そちらは特殊な素材を必要とする訳ではないのだ。



「それなら、先に変身アイテムを作るべきか」

「うん、そうだね。という訳で、はい、アマミツキ」

「はいはい」



 差し出された写しを受け取り、アマミツキはざっとその内容に目を通す。

そしてそれと並行して脳内のエネミー図鑑から、必要アイテムを落とすエネミーとその生息地を検索し始める。

傍から見ると紙を睨んだまま硬直しているようにしか見えないその姿に、ライトは軽く嘆息し、アマミツキの背を押して歩かせながら後ろへと声をかける。

そこにいるのは、メンバー全員の説明をヒカリから聞いているダンクルトと旬菜だ。



「それで、二人のレベルはどんなもんなんだ? 下手したら、結構レベルの高いエリアに連れて行く事になるぞ?」

「あ、ああ。一応、オレも旬菜も20になった所って感じだ」

「ゲートくんだりまで自力で行ったから、割と上がってマス」

「まあ、【変化の種】が取れるのはあの辺だけだからなぁ」



 ゲートとは、リオグラスにある都市の一つである。

巨大な迷宮を近郊に抱える街であり、ニアクロウよりも更に北の位置に存在している。

スタート地点であるニアクロウからの距離とすれば王都フェルゲイトとあまり差は無いため、フィールドエネミーの強さは大差ない。

だが、ゲートの周辺には多くのダンジョンが存在しており、その中でも最も巨大な規模を誇っているのが『邪神龍の迷宮』であった。

これはゲーム内でも最大の規模を持つと公式で明言されており、トップクラスのプレイヤーの一部は、ずっとここに挑戦し続けているといわれている。

邪神龍の迷宮は、浅い階層は弱いエネミーしか出現せず、深くなればなるほど強大なエネミーが出現するため、レベリングには非常に適した場所となっているのだ。



「オレとしては、皆が25以上だって事にびっくりなんだけれども」

「まあ、かなり無茶な事してたからな……」

「あたしたちは参考にはならないと思うぞ!」



 少なくとも、力いっぱい宣言する事ではない。

若干目を泳がせて口元を引き攣らせ、ライトはヒカリの言葉を聞かなかった事として処理していた。

25レベルは、現状ではトップクラスであるといっても過言ではない。

常に自分のレベル帯よりも幾分か上の所で挑戦を続けてきたのだ。それだけのレベルがある事も当然といえば当然だろう。

軽く嘆息を零してから、改めてライトはダンクルトたちへと視線を向ける。



「ともあれ、それだけのレベルがあるなら普通にレベル高い地域まで行っても大丈夫か」

「前衛だから危ないといえば危ないけど、まあ体力もそれなりにあるし、大丈夫だと思うぞ」

「っと……そうだったな。前衛がいないからすっかり忘れてた」

「……改めて、お前ら本当にどうなってんだ」



 前衛だけならば戦えない事もないが、後衛のみのパーティなど普通は考えられない。

当然といえば当然の指摘に苦笑し、ライトは僅かに視線を細める。

比較的軽装であり、タンクというよりはアタッカーである事が窺えるその姿から、戦い方を想像しながら。



(……最近のライダー系は武器装備してる奴も結構いるらしいが、恐らく徒手空拳なんだろうな。それも、蹴り主体か?)



 BBOでは敵の攻撃威力はそれなりに高い。

その為、敵の攻撃は回避かガードが前提となる。

しかし、武器を装備していない場合はガードが難しく、回避を主体にせざるを得ないのだ。

そう考えれば、自然とダンクルトの戦闘スタイルは見えてくるだろう。

黒いレザーのズボンと、グレーのシャツの上に纏った革鎧、そしてその上から羽織っている上着――どう見ても、軽戦士の出で立ちである。



(まあ、こっちは分かりやすいとして……問題は旬菜の方だな)



 ちらりと視線を横に向ければ、小柄で表情の読めない少女とばちりと目が合う。

反射的に目を逸らして前へと視線を戻しながら、ライトは軽い不気味さを感じつつも思考を続けた。



(格闘系魔法少女って……何するんだ一体)



 そちらに関しては、ライトもあまり造詣は深くなかった。

アマミツキに問えば答えは帰ってくるかもしれないが、恐らく無駄知識と共に洗脳しようとしてくるため、質問する事は危ぶまれる。

何故妹分に関してそんな下らない事を危惧しなければならないのかと若干憂鬱になりつつも、ライトは思考を旬菜に関する事に戻していた。

薄紫色の長いツインテール、纏っているのはひらひらとしたローブだが、魔法少女と呼ぶには若干地味だ。

そもそも動きやすさを意識しているのか、ローブのスカート部分は前面がなく、後面も大きくスリットが入っている。

その下にはホットパンツが見えており、細い足は惜しげもなく曝け出されていた。



(格闘で、魔法? 手からビームとか出すのか?)



 ライトのイメージに上っているのはどちらかといえば格闘ゲームであり、日曜日の朝に放映されているものとは勝手が違っている。

しばし頭を捻って考えるものの、結局明確な答えを見出すことが出来ず、ライトは思考を放り投げていた。

どうにしろ、現状では魔法と格闘を複合させる形は限られているのだ。

メインクラスを変更すればレベルがリセットされてしまう以上、サブでブラックメイジなどからモンクへと転職しない限りは難しい。

それ以外に何らかの方法があったとしても、魔法を使うとなれば転職が必要不可欠だろう。



(まあ、その辺りは実際に目で見て判断するか。前衛が来るとなれば、戦い方も気をつけないとならんしな)



 今までのように、自由気ままに爆撃する訳には行かない。

そうライトが戦闘方法の見直しを考えていた所で、脳内検索を終えたアマミツキが顔を上げた。



「はい、終わりました……とりあえず大半は問題ないんですが、ところどころ面倒ですね」

「ん、そーなのか。それなら、その面倒なところに関して説明してくれ」

「分かりました」



 ヒカリの言葉に、アマミツキはこくりと頷く。

しかし、ライトに押されている現状を楽しんでいるのか、そのまま体重を預けたまま続けていた。

自分の力で歩けと放り出す事も出来るが、仕事をして貰った直後なので雑にも扱えず、ライトは嘆息交じりにアマミツキの運搬を続行する。

そして周囲も慣れたもので、ダンクルトたち以外は特に気にもせず彼女の話を聞いていた。



「変身アイテムのベルト。これに使用するアイテムで特に面倒なのは、【機甲核】と呼ばれるアイテムです。これは、ゴーレム生産の際にも必要となるアイテムですね」

「ゴーレムって機械なのか? まあそれはともかくとして……面倒ってのはどういう事なんだ?」

「何がって大体全部です。ゴーレム系エネミーのレアドロップですし、更にこれが出てくるダンジョンも私達としては好ましくありません」

「あー……つまり狭いんですね」



 納得したように白餡が頷き、同時にライトは眉根を寄せていた。

狭いダンジョンという事は、即ち自分達の特性である空爆による戦闘が行いづらいという事を示している。

以前氷古龍がいた遺跡を探索した際は、落下トラップを使ってあらかじめ魔物たちを間引いた上で、更に隠密行動をしながら踏破した。

しかし、今回はそういう訳にも行かないだろう。



「正直、私達だけで行ったらむしろきつい所でしたね。敵が多かった場合は対処しきれるかどうか」

「まあ、ある意味では幸いだったって事か……」



 ちらりとダンクルトたちの姿を視界に納め、ライトは軽く嘆息する。

前衛職である二人が現れなければ、狭いダンジョンの攻略は至難の道であっただろう。

とはいえ、二人の依頼がなければそんなダンジョンには寄り付きもしなかっただろうが。



「で、【機甲核】はそこに出現するゴーレム系エネミーのレアドロップです。ゴーレムといっても、土の塊クレイゴーレムじゃなくて機械っぽい外見してますよ」

「ロボか。それはそれでロマンっぽい要素ではあるな」

「うんうん、そうだよね。ボクも作ってみたいし、個人用にも【機甲核】は欲しいかな。今はまだパーツしか作れないしね……ドリルとか」

「へぇ、女なのにロマンが分かってるじゃねぇか。やるなお前!」



 楽しそうに頷いたゆきねに対し、ダンクルトはそう口にする。

そんな彼の言葉が響いた瞬間、周囲のメンバーは一斉に沈黙していた。

その数秒空いた間にダンクルトが困惑する中、ライトは生暖かい笑みを浮かべて声を上げた。



「ああ、うん……そうだな。で、アマミツキ、何か注意点はあるか」

「え? いや、何なんだ今の? ちょっと、おい?」

「あ、はい。ゴーレムですから、当然ビームを撃ってきます。かなり威力があるので気をつけてください」

「なにそれこわい」



 そんなダンクルトの困惑も、アマミツキの淡々とした一言によって新たな内容へと書き換えられる。

しかしその困惑は彼だけのものではなく、ライトにとっても奇妙に感じられる内容であった。



「……何故ゴーレムがビームを?」

「え? ゴーレムが一戦闘に一度限りのビームを撃つのは常識ですよね?」

「いや知らんどこの常識だそれは」



 きょとんとした目でライトを見上げるアマミツキの瞳には、特に嘘や冗談の存在を見受ける事は出来ない。

どうやら本当の事らしい、とライトは思わず頬を引き攣らせていた。

常識であるかどうかはともかくとして、ゴーレムがビームを撃ってくる事実はあるのだと――そう認識する必要がある。

ライトが思わず嘆息を零したところで、ヒカリが重々しく口を開いた。



「それで、アマミツキ……」

「はい、何でしょう姉さん?」

「そのビーム……属性は《蟹》じゃないよな?」

「ええ、それは大丈夫です」

「何で普通に会話通じてるんですかそれ!? って言うか《蟹》属性って何ですか!?」



 打てば響くようなツッコミに、ヒカリとアマミツキは満足したように頷く。

その表情を向けられた白餡はといえば、苛立ちに地団太を踏んでいたが。



「ああもう……ライトさんも何か言ってやってくださいよ!」

「え? いや、ヒカリが言った事だし、そういうのもあるんだろうなと」

「この人も駄目だ!」



 まあ、冗談なんだが――と胸中で呟き、ライトは肩を竦めてから改めてアマミツキへと視線を向ける。

あまりふざけていても話が進まないのだ。



「そちらは分かった。それで、魔法少女の方はどうなんだ?」

「はい。一応デザインは二通りほどあるんですが……昔懐かしのバトンタイプと最近は大体こんな感じのアクセサリータイプ、どっちがいいですかね?」

「鈍器で殴るのは趣味じゃないし、アクセサリ希望」

「なるほど。なら、こちらの方が話は楽ですね」



 バトンを鈍器と言い切った旬菜に対し、特にツッコミを入れる事もないまま、アマミツキは手にした紙をひらひらと振る。

そこに書かれている二通りの魔法少女用変身アイテム――そのうちの一つを、示すように。



「アクセサリタイプ……まあ、主流はペンダントですね。形状に関しては要相談でしょうが、とりあえず必要となるのは【魔導核】と呼ばれるアイテムです」

「似てる名前だが、例によってそれもレアドロップか?」

「はい。で、これなんですが……一部のアンデッドが落とすアイテムとなっています」



 その言葉に、ぴくりと白餡の肩が跳ねた。

その変化には気付きつつも見ていない振りをし、アマミツキは淡々と続ける。



「スピリット系や雑魚のゾンビやスケルトンなどではなく、もう少し高位のアンデッドですね。流石にヴァンパイアやリッチとまでは言いませんが、なかなか倒すのには苦労しそうなエネミーが多いです」

「けど、そっちならあたしたちも存分に戦えるって事か?」

「はい。アンデッド系が多発する地域は屋外になっています。あそこでなら、兄さんと姉さんが全力を出す事も可能でしょう」

「俺たちが戦いづらいが敵は普通な所と、俺たちが全力で戦えるが敵が強い所か……」

「まあ、アンデッドならあたしも弱点突けるけどな」



 火属性は、大半のアンデッドにとって共通した弱点。

ならば、ある程度有利に戦う事も出来るはずだろう。

が――ただ一人、問題がある者もいた。



「えっと……わ、私も行かなきゃ駄目ですか……?」

「白餡、ソルベの件で迷惑をかけたから協力すると言った言葉はどこに行きましたか」

「う、うう……っ! わ、分かってます、分かってるんです! でも苦手なものは苦手で……」

「所詮ゲームなんですから、怖がる必要なんてどこにもないでしょう。私がついていますから、安心して下さい」

「ア、アマミツキ……」



 ――幽霊の類を苦手とする、白餡であった。

そんな彼女に対し、晴れ晴れとした笑顔を向けるアマミツキ。

その言葉に白餡は顔を上げ――半眼を作った。



「――本音は何ですか?」

「怖がってる白餡が面白そうなので観察したいです」

「アーマーミーツーキー!」



 襲い掛かる白餡をひらりと躱しながら、アマミツキはちらりとヒカリの方へ視線を向ける。

手に入れるべきアイテムは二箇所、そのアイテムが存在しているダンジョンがそれぞれ存在している。

ならば、まず考えなければならない事は――



「……さて姉さん、どちらを先にやりますか?」

「にはは、そんなの決まってるさ。先に行くのは――」



 ――優先すべき場所を決める事。

そんなアマミツキの問いに対し、ヒカリはただ笑顔で言葉を返していた。





















今日の駄妹


「ふむ、完成したらまず試してみなきゃいけませんが、兄さんに魔法少女を着せるのは……ううむ、性別制限装備では無理ですか」

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