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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
1章:始まる世界とチュートリアル
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04:物流都市ニアクロウ

次回からはもう一作と交互に隔日更新になります。









 視界に入り込んでくるのは白亜の町並み。

石畳の大通りと、背後にある噴水――そして、そんな場所を行き来する人々は、皆似たような格好をしていた。

リオグラス王国、プレイヤー初期拠点である物流都市ニアクロウ。

その中央広場に立ち、ライトは目に入ってきた光景に呆然と立ち尽くしていた。



「おおお、すげぇ……」

「アイテムってどこで買える?」

「そこの人、パーティ組みませんか!?」

「前衛探してまーす!」



 ローブ姿や鎧姿、即ち基本四職の初期装備を纏った人間が、声を上げながら慌しく駆け回る。

中には、何人かのグループを作ってそのまま通りの向こうへと走ってゆく人々も見られた。

早速、このゲームを楽しんでいると言う事なのだろう。

と、そんな光景に圧倒されていたライトの背中に、一人の声が届く。



「どうだ、ライト?」

「っと……ケージ、お前たちも同じ国の所属だったのか」

「ああ、そうだったみたいだな。ところでライト、プレイの方法は色々と分かってるか?」

「まあ、概要ぐらいなら。さっきから視界の端でヘルプボタンが点灯してるし、それ程困りはしないと思う」



 視界の左端にあるそのマークをフォーカスすれば、ヘルプウィンドウがすぐに表示された。

基本的なプレイ方法に関しては、ここに書いてある通りにすれば問題はないだろう。

と、その次の瞬間、そんなヘルプウィンドウを上書きするかのように、一つのウィンドウが表示される。



『ケージよりパーティに招待されています。参加しますか?』



 はい・いいえの二択であるそのウィンドウに面食らい、ライトは視線を上げる。

そんな視線の先で、後ろに三人の少年少女を引き連れたケージは、小さく苦笑交じりに声を上げた。



「リアルのよしみだ、一緒にプレイしないか?」

「……いいのか? 俺、正直言って妙なプレイスタイルだと思うぞ?」

「まあ、そりゃあ分かってるがな。けど、アルケミストを取得するまではパッシブ取得の流れも他のプレイヤーと大して変わらないだろうし、普通に戦えるだろ?」



 実際ライトの成長方針は、《飛行魔法強化》を取っている事と他の属性を取っていない事がおかしい程度だ。

風属性の一点に関しては、普通にプレイするのとあまり変わりない威力を発揮する事が出来る。

ただしその後の成長方針では、パーティプレイがしづらい、火力もそこまでは伸びないと微妙極まりない事になるのだが。

しかしながら、そんなライトの思いとは裏腹に、ケージは笑顔のままに声を上げる。



「それに、微妙な方向性というなら、俺の方がよっぽど微妙になるぞ。隠しクラス狙いだから、しばらくはみんなの戦闘能力便りになってしまう……情けない事だが」

「違うよケージ君! ケージ君は皆に指示を出す役だよ、役立たずなんかじゃないよ!」

「後で役に立ってもらえればいいんだし、あんまり気にしなくてもいいわよ……まあそういう訳で、正直こっちは後衛火力が足りないんです。私は補助、バリスはタンクなんで」

「だから俺達としても、お前がいるのは助かるんだ……協力しちゃあくれないか?」



 そんな彼らの言葉に、ライトは口元に手を当てて思考する。

ケージは常世から情報を受け取っていたのだろうか、という事も気になりはしたが、決して悪い条件ではない。

メイジが一人で戦うのはそれなりのプレイヤースキルを必要とするし、いきなり見ず知らずの他人に声を掛けるのも中々勇気がいる。

そういう意味では、彼らの勧誘は渡りに船であるとも言えた。

が――ライトとしては、少しだけ気になる部分がある。



「やっぱり、飛行魔法を使いこなすのを目指すプレイじゃ、皆と協力して戦うのは難しいだろう」

「……そうか」

「けど、そこまでなら……サブクラスを選択できるようになるまでなら、一緒にプレイさせて貰えないか? それぐらいになったら、ケージも多少出来る事が出てくるんだろう?」



 言いつつ、ライトはウィンドウに表示されている【はい】のボタンをクリックする。

瞬間、視界の左上に表示されていた自分の体力ゲージの下に、四人分の小さいゲージが表示された。

BBOにおいて、パーティメンバーは最大六人までとなっている。

あと一人は入れるが、普通にプレイする分には四職が揃っていれば十分であるとも言えた。


 ライトの決定に、ケージは一度驚いた表情を見せ、それから嬉しそうに笑みを浮かべた。

そして彼は、その右手を差し出しながら声を上げる。



「よろしく頼む、ライト」

「ああ、こっちもな」



 それにライトも応え、二人は小さく頷き合った。

一時的とは言え、仲間として戦うのだ。やはりライトとしても、それなりに気心が知れた相手の方がやりやすい。

ライトは僅かな安堵を覚え、周りを見渡しつつ声を上げた。



「それで、どうするんだ? 装備品でも整えるのか?」

「いや、正直初期の所持金じゃ、大したものは変えないしな。初期装備でもある程度戦えるもんだ……と言いたい所だが、一人だけ買い物をしておくべきだな」

「一人だけ?」



 ケージの言葉に、ライトだけではなく他の三人も首を傾げる。

そんなメンバーの様子に苦笑を零しつつも、ケージは視線を背後――プリスへと向けて続けた。



「お前だよ。お前の武器だけは買っておくべきだろう。それも、皆で金を出し合って、現状買える限界のものをな」

「え、ええ!? そ、そんなの皆に悪いよ!」

「あー、確かにその方がいいかもね。あんたのスキル構成、無茶苦茶だし」

「無茶苦茶って……一体何したんだ。って言うか、武器には能力値の装備制限があるだろ?」



 BBOにおけるステータスは七種類あり、それらの値から与ダメージ、被ダメージなどが算出される。

筋力を表すSTR、生命力を表すVIT、器用度を表すDEX、敏捷度を表すAGI、知力を表すINT、精神力を表すMID、幸運を表すLUK。

これらの初期値は種族によって異なっており、また成長するごとに二点のフリーポイントを得てそれを割り振る事ができる。

初期装備以外の全ての武器はこれらの数値で制限がかかっており、ある程度のステータスがなければ装備する事は出来ない。

ちなみに、防具はレベルによって制限されている。



「まあ、コイツはちょっと特殊でな。ほらプリス、ちょっと見せてみろ」

「うう、そんなに変じゃないと思うんだけどなぁ……はい、これ」



 指先でウィンドウを動かし、プリスが示してきた画面――そこに書かれていた文字を目の当たりにし、ライトは思わず目を点にしていた。

そこに書かれていたスキルは三種類。《ブレイドアーツ:刀》、《ステータス強化:STR》、《ステータス強化:AGI》だったのだ。

ちなみに、後ろの二つに関してはどちらもレベル2であった。



「いや……何で大半が一般スキルなんだ。他のファイタースキル取らなかったのか?」



 魔法のアクティブスキルに《メモリーアーツ》があるように、武器攻撃のアクティブスキルとして《ブレイドアーツ》や《ウェポンアーツ》と言うものが存在している。

これは該当している武器を使用し続けていく事で熟練度が増加し、様々な攻撃技を発現させる事が出来る。

それに関してはライトも納得できるのだが、他の二つはよく分からなかったのだ。

ファイタースキルには他にも移動技やヘイト管理など、様々なスキルが存在している。

確かにこの一般スキルも有用ではあるが、これを取るのはもっと余裕ができてからではないか、とライトは考えていたのだ。



「まあ、《パリィ》とか《ウェポンガード》とか《ソードムーブ》とかを普通は取るべきなんだろうけどな。知ってるだろう、こいつがリアルで剣術習ってるの」

「えっと……スキルで勝手に体が動くのとか、技の後の硬直があるのとか……ああいうの、私はちょっと苦手なんです」



 疑問に対するプリスの答えに、ライトは唖然としつつも納得していた。

確かに彼女は、実戦的な古流剣術を学んでいる。その通りに戦う事ができるのならば、スキルによる技にも引けを取らない力を発揮できるだろう。

ライトの正直な感想としても、それは真っ当なプレイスタイルには思えなかったが。



「まあとにかく、プリスはそういうプレイスタイルだから、現時点でも多少いい武器が装備できる。メインアタッカーになる訳だし、コイツの火力をあらかじめ伸ばしておくのは有用だと思うんだ」

「成程な、納得した。お前の嫁贔屓かと思ったが、そういう理由ならまあいいだろう」

「っておい、嫁ってお前な……」



 ライトの言葉にケージは頬を引き攣らせ、次いで視線を若干背ける。

その言葉を反論しきれない程度には、普段から周囲に見せ付けているのだ。

元々プリス――姫乃は外見も性格も良いだけあって、声をかけてくる人間は絶えない。

その為、彼は普段から周囲に『手を出すな』と言う意味も込めてアピールしているのだ。

その結果としてのやっかみなのだから、甘んじて受け入れる他ない。



「よ、嫁ってそんな……う、でも二人で幸せになるって約束したんだから、いずれはきっと……!」

「くおおおっ! おのれ賢司、貴様ヒメを幸せにしないと承知せんぞ!?」

「やかましい、リアルネーム出すな馬鹿が! 後、言われるまでもない!」

『はいはい、爆発しろ爆発しろ』



 照れて余計な事を口走るプリスと、その反応に暴走を始めるバリス。そしてナチュラルにのろけるケージに対して、ライトとアンズは声を揃えてそう口にしていた。

互いに半眼のまま目を見合わせ、肩を竦めつつ嘆息して、ライトは改めて声を上げる。



「ああもう、お前らがラブラブなのは分かったから。ほら、武器を買いに行くんだろうが」

「付き合い始めてそろそろ一年なんだし、いい加減慣れなさいよ、あんたも……」

「だ、だってぇ……」



 半ば涙目で抗議するプリスの頭をぺちんと叩き、アンズは再び嘆息する。

相変わらず初心で可愛らしいと言えば聞こえはいいが、この反応は彼女としても、大分慣れてきてしまったのだろう。

初々しい反応といえども、毎日のように見せられては食傷気味にもなると言うものだ。

ライトとしてはまだ若干楽しんでいる節もあるが、毎日一緒にいる彼女はそうも行かないらしい。



「それで、武器屋ってどこにあるんだ?」

「ああ、ここの通りで基本的なものは大体買えるらしい。細かなイベントまでは流石に知らないけどな」

「そこまで知ってたら反則にもほどがあるだろうよ。いくら製作者が知り合いだからって、あんまり聞きすぎてもつまらなくなるんじゃないのか?」

「分かってるさ。それにあの人たちも、これ以上の情報提供はしてくれないみたいだしな」



 苦笑するケージに、ライトも頷く。

あまり優遇されすぎると言うのは、ライトとしては好ましくない事だったのだ。

そもそも、ネットゲームのプレイヤーは往々にして嫉妬深いものだという。

特殊な情報を多く握っていては、後々何かしらの確執が起こりかねないだろう。

そういった意味の警告を含んだ言葉を、ケージはしっかりと理解していた。


 とりあえず、いつまでも出発地点で立ち話をしていても仕方ない。

キャラクター作成に時間をかけていたプレイヤーたちも続々とログインしてきているため、ライトたちはとりあえずその場から離れるために歩き出した。



「武器か……しかしワクワクしてくるな!」

「お前、モンクでタンクやるっつってただろうが。まあ、鋼拳は一応武器種ではあるけど」

「……お前ら、もしかして全員変なプレイスタイル目指してるんじゃないだろうな?」

「失礼な。私をこの非常識軍団と一緒にしないでよ」

「アンズちゃん酷い!?」



 自分の事を棚に上げたライトの言葉に、アンズは半眼でそう返す。ちなみに、プリスの悲鳴は華麗にスルーしていた。

順当に行くならば、壁役タンクは鎧や楯をガチガチに装備する方向性だろう。

対し、モンクは軽装で素早さを高め、その軽いフットワークで高い攻撃力を真っ先に相手に叩き込むダメージソース。

間違ってもタンク向けのクラスではなかった。一応回避盾という選択肢もあるが、それならばスカウトの方が適任である。


 ケージは隠しクラス狙いの特殊構成、プリスはスキルではなく自分の剣術頼り、そしてバリスはモンクタンク。

このままもしも有名になる機会があるとすれば、ネタパーティとして名を馳せる事になるだろう。



(人の事は言えないけどな……)



 小さく苦笑し、ライトは周囲を見回す。

人通りは多いが、格好でプレイヤーかNPCかは判断できる。

ライトはそんな中、視界の中にある通りの先、プレイヤーの集まっている店舗がある事に気付いた。



「あ、もしかしてアレじゃないか?」

「ん? おお、それっぽいな」

「へ~、露天みたいな形式なんだね」

「ここだと人が多すぎて中に入り切らないからじゃないの?」



 近付いてみれば、確かにそこはNPC経営の武器屋であった。

プレイ開始直後であるため、生産職のプレイヤーが開く露天などは存在しない。

その為、そう高い性能の装備が撃っていると言うわけではないのだが、初めての世界に興奮するプレイヤーは多い。

それに、ファイターのスキル構成を考えるため、まず武器から決定すると言うプレイヤーは多いだろう。



「初期装備の武器は別の種別と交換できるみたいだな。まあ折角だし、できる限りいいのを装備させないとな。と言うわけで――」

「うう、申し訳ないんだけどなぁ……」



 それぞれがトレードウィンドウを開き、プリスに対して金を渡してゆく。

初期のプレイヤーの持ち金は500、ちなみに単位はリールである。

メンバーはそれぞれ300リールずつプリスに手渡し、結果としてプリスの所持金は1700リールとなった。

これで買える装備は――



「初期装備の【ナマクラ】って何か悪意漂ってるような……とりあえず、今のステータスでも【打刀】は装備できるみたいだよ」



 ちなみに金額は1500リール。

初期装備以外のアイテムには耐久値が存在しており、%換算で表示されていた。

使ってみなければ減り具合は分からないが、とりあえずはこれで戦う事ができるだろう。

一応、初期装備の片手剣【ショートソード】を【ナマクラ】と交換し、【打刀】が破損した時にも戦闘を継続できるようにし、プリスは店の前の人だかりから抜け出した。



「うん、これでオッケーだよ。皆、ありがとう。貰った分、頑張るからね」

「ああ、変に気にしすぎなきゃいいさ。さて、それじゃあ早速――」



 言って、ケージは顔を上げる。

その視線は、ニアクロウの西側へと向けられていた。



「ちょっと、高めのエリアに行くとしようか」






















今日の駄妹


「むむむ、兄さんが見つかりません……おや、こんな所に図書館が。これは蔵書を全て制覇しなければ」

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