表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
3章:情報探索と新たな仲間
47/167

44:雪の結晶












 白く輝く粒子が瞬く、氷で出来た十面体。

美しき彫刻のごときそれは、不思議と力に満ち溢れているようにも感じられるものだった。

しかし、同時にそれは、どこか儚さにも似たものを感じる事が出来る。



(上位種の存在を目にしたから、だろうな。あれに比べたら、随分と弱弱しい)



 かつて遺跡の奥で戦ったアイス・エレメンタルの姿を思い浮かべながら、ライトは胸中でそう呟いていた。

現在彼らが戦っている敵の名前は、スノウ・エレメンタル。氷を固めて出来たような魔法生物であり、これこそが今回ライトたちが狙ってきた標的であった。

氷古龍の餌となる、氷の魔力が篭った物質。それに最も適している氷の魔法生物の出現地域を、アマミツキが記憶していたのだ。



「ほら、吹っ飛べ!」



 ライトの背中に乗るヒカリが、いつも通りに炎の魔法を放つ。

スノウ・エレメンタルが同時に出現する数はそれほど多くはなく、精々が2,3体と言った所だ。それ故にあまり範囲魔法を放つ必要も無く、大きな爆発音を響かせる事もない。

故に雪崩の心配もそれほどなく、ヒカリは上機嫌に魔法を放ち続けていた。


 現在位置は、山のおよそ九合目ほど。ここまで登ってきたことになるが、出現する敵のパターンは大きくは変わらなかった。

元々雪山に出現していたエネミーに加え、このスノウ・エレメンタルともう一体、マルマスという名の象のような姿をしたものが出現するようになった程度だ。

このマルマスは出現数は少なく、あまり頻繁には出てこないエネミーである。

実際に象ほどの大きさがあるためかなり巨大であり、その分体力も高いため倒すのには少々苦労していた。



「――っと」



 飛来してきた氷柱を躱し、ライトは軽く苦笑を零す。

凄まじい速さで放たれるレーザーや、高い追尾性能で追いかけてくるミサイルに比べれば、この程度の攻撃など児戯のようなものだ。

空中に向けて放たれる攻撃を軽々と回避し続けながら、ライトは周囲への警戒を続ける。

爆弾を投げる訳には行かないため、ただ回避する事しか出来ないのだ。

それを話していた時に、白餡が『何故普通に地上で戦おうと思わないのか』と呟いていたが、今更である。



「ヒカリ、あのエレメンタルを倒したら後は適当で大丈夫だ。白餡もいくらか敵を倒してる」

「了解。流石に戦闘中まで卵抱えてなくてよかった」

「まあ、流石にな」



 白餡はそれなりに責任感が強いため、戦闘を完全に人任せにするような事はなかったのだ。

とはいえ、動物好きの性格は変わらず、戦闘が終わったらすぐさまインベントリから幼生結晶を取り出しているのだが。

そんな白餡は、召喚魔法で呼び出した魔物たちに敵を抑えさせながら、火属性の魔法で敵を攻撃している。

流石に、この氷属性のエネミーばかりの地域では、氷属性の魔法は効果が薄かったのだ。



「召喚魔法、面白そうだなぁ」

「お前は火属性特化のままだろう? それに、アレはかなりの情熱がなきゃ出来ないぞ?」



 そう呟くライトが引き攣った笑みのまま見つめているのは、《テイミング》に成功して味方となったマルマスだ。

いかついマンモスのようなエネミーを相手に『可愛い』とのたまい、根気よく《テイミング》を続けた彼女の情熱は、流石のライトも引きながら尊敬を覚えるレベルであった。

無論の事、人の事を言えた義理ではなかったが。



「って言うか、中型のエネミーでも味方に出来るんだな」

「出来ない奴は分かるらしいからな……趣味で選んでる部分もあるんだろうけど。さて、そろそろ戦闘終了か」



 現れたエネミーを殲滅し、空中を素早く飛び回っていたライトは、その姿勢を安定させる。

例え戦闘が終了して落ち着いていたとしても、決して地上に降りようとはしないのだ。

その辺りの事は既に諦めているのか、白餡は特にツッコミを入れる様子も無いまま、倒れるエネミーたちからドロップアイテムを回収していく――スノウ・エレメンタルを優先的に。

そんな彼女の姿に、ライトは思わず苦笑を零していた。



「ちょっと気が早いんじゃないのか?」

「そ、そんな事無いですよ。だってほら、ゲージだって結構伸びてきましたし……!」

「いや、分かった、分かったから落ち着け。別にいいから」



 どことなく必死さを醸し出している白餡を宥めつつ、ライトは軽く肩を竦める。

どの程度の量が必要なのかは判明していないが、あって損するモノという訳ではないのだ。

スノウ・エレメンタルの素材が現状かなり貴重なものであり、更にレベルが高いものであるのは事実だ。

例え余らせる事になったとしても、それほど問題は無いだろう。

尤も、あれほどの巨体を持つ魔物を育てるのに、果たして余るほどの量を採れるのかという不安はあったが。



「はい、回収しました。では行きますよ」

「あっ、ちょっ、アマミツキ! エレメンタルの素材は私の方に……!」

「別に今すぐ生まれる訳じゃないんだからいいじゃないですか。インベントリ圧迫しますよ」

「う……で、でも……」

「ああはいはい分かりました、頂上付近に山小屋あるでしょうから、そこに着いたら渡しますよ」



 既に面倒くさそうな気配全開のアマミツキは、ひらひらと手を振りながらそう答える。

動物が絡んで正気を失っている白餡に対しては、まともに取り合う気が皆無となっているのだ。

思う存分やりたいようにやらせておけばいいだろう――その意志の下、アマミツキは白餡のスルーを行っている。

本人の方も、意識が完全に幼生結晶へと向かっているため、全く気にしてなどいなかったが。



「兄さん、姉さん、どうですか? 頂上は見えてきました?」

「いや、もうちょっとだな。とりあえず進もう」

「はい、了解です」



 現在、白餡たちの乗り物と化しているのはマルマスである。

イエタスよりも若干スピードが早く、更に白い体毛はふさふさしているため寝心地もよい。

召喚コストはイエタスよりもそれなりに大きかったが、常にMPポーションを準備している白餡にはそれほど問題のある量ではなかった。



「はい、行きましょうマルちゃん」

『……』



 寡黙ながらもこくりと頷き、マルマスはのしのしと雪道を進んでいく。

その間にも、白餡はマルマスの背中の上で、幼生結晶に魔力を分け与え続けていた。

徐々に増えるゲージも、ここに辿り着くまでに一割ほど上昇している。



「今日ずっとあの調子なら、明日プレイしてる最中に生まれるか」

「さてなぁ。まあ、楽しみにしとけばいいんじゃないか?」



 強大な魔物たる氷古龍の幼生が、果たしてどのようなものなのか。

色々と手間が掛かっているため、ライトやヒカリも強い興味を持っている事柄であった。

そして、もう一つ気になっている事は――



「ヒカリ、隠しクラスはあると思うか?」

「半々って所じゃないのか? 正直、レベル30までにあの卵を手に入れるのは殆ど不可能だろうし」

「まあ一応、転職して1から育て直すってパターンもある訳だが……」

「その辺、結構不親切だしなぁ。ま、あたしはあっても面白いと思うぞ」



 前プレイヤー中トップであると思われるケージたちですら、未だレベル30には届いていない。

この現状では、隠しクラスの情報など皆無であるといっても過言ではなかった。

以前ライトたちが立てた仮説も、検証する術などありはしない。

けれども、もしもそれが正しいのだとするならば――



「……まあ、今はいいさ。とりあえず、今は氷古龍だ。上級職は、その時になったら考えればいいだろう」

「だな。もうすぐ頂上っぽいし」



 ライトたちの進行速度は、普通に徒歩で進むよりも格段に速い。

飛行魔法と雪に慣れた魔物の足なのだから、当然と言えば当然であるが。

現実世界で登山に慣れていない人間であったとしても、進む事はそれほど難しくはなかった。

ダンジョンの趣旨を無視している事は理解しつつも、楽である事に変わりはないため、止めるつもりもなかったが。


 吹き荒ぶ風に寒さは感じるも、疲労の感覚は存在しない。

ウォームポーションのおかげでその寒さも軽減されているため、進む事に何ら障害は存在しない。

頂上は最早、仰がねば届かぬような場所ではない。

時間をかけて上り詰めたその場所に達成感を感じると同時――一行は、そこで足を止めていた。

ここは、フィールドダンジョンに分類される場所。その最奥にある存在は、当然ボスが存在している。

だが――



「さて、この辺にボス前の休憩地点があるはずです。そこを拠点に稼ぎましょう」

「今更ではあるが、本当に趣旨を間違えた攻略をしてるよな、俺達」



 ライトたちの目的はあくまでも、魔力の篭った氷――即ち、スノウ・エレメンタルのドロップ品なのだ。

それらから存分に素材を集めた後というならばまだしも、今この時点でボスに挑み、消耗しなければならないような理由は無い。

もしも他のプレイヤーが聞けば仰天するようなその目的に、しかし彼らは特に文句を言うでもなく従っていた。

何だかんだと言いながら、全員氷古龍の幼生には興味を持っているのだ。

メンバー全員の白餡に対する積極的な協力体制の中には、そのような理由も存在していた。


 と、そんな時、全員の前に白い雪煙が立ち上り始める。

頂上付近に達し、唐突に発生し始めた吹雪――寒さは感じないものの視界を遮ってしまうそれに、ヒカリは眉根を寄せながらライトへと声をかける。



「ライ、小屋は見えるか?」

「ああ、ちょっと待ってくれ」



 山の頂上付近は若干吹雪いている為、普通に進めば視界はかなり悪い。

しかし、ライトほど高い位置で観察していれば、多少は物を探す事も可能なのだ。

更にいえば、視力という点でもライトはかなり優れている。

ヒカリでも見通せぬ雪煙の中、ライトの瞳は、確かに目標となる山小屋を発見していた。



「あったぞ、あっちの方角だ」

「よし、皆、とりあえず山小屋で休憩してから始めるぞ」

「はい、分かりました」



 流石のアマミツキも、この視界の悪い中では単独行動で収集しようとはしていない。

ヒカリの言葉には素直に頷いて、マルマスの背の上で大人しく座っていた。

ライトは風で煽られる感覚を感じながらも、危なげなくヒカリを背に乗せたまま飛行する。

もしも風属性の熟練度が低ければ、《飛行魔法強化》と《風属性魔法強化》を取得していなければ、ライトといえど風の中で煽られて飛ばされていただろう。

《フライト》とは本来、精々が浮ける程度の魔法でしかなかったのだから。

そんな中、ライトはゆっくりと高度を落としてアマミツキたちと並ぶように着地していく。

吹雪で悪くなった視界の中、一行の前には、一軒の山小屋が隠れるように鎮座していた。



「この吹雪の中でもちゃんと建ってるんですね……」

「まあそりゃ、ずっと吹雪いてる訳じゃないだろう……ありえるかもしれないのが怖いが」



 一応、この山は氷古龍と氷の精霊王が存在する、由緒あるダンジョンであると言っても過言ではない。

そんな凄まじい力を持った存在がいるならば、ファンタジー的に常時吹雪いているような地帯があったとしても不思議ではないと、ライトはそう考えていたのだ。

ともあれ、そんな事情にはあまり興味は無いし意味も無い。今用事があるのはスノウ・エレメンタルだけなのだ。

胸中でそう呟いて肩を竦めると、ライトはゆっくりと山小屋の扉を開いていた。



「ふむ……内装は前の所と殆ど変わらないな」

「あ、毛布がありますよ。お約束的な感じでしょうか?」

「それはいいですね。兄さん、人肌で暖めあいましょう」

「にはは、お前の作ったウォームポーションで十分温まってるからな、アマミツキ」

「しまった……!」



 割と本気で悔しがっている様子のアマミツキを乾いた視線で一瞥してから、ライトは小屋の中の様子を観察する。

中にあるものは山の中ほどにあったセーフティエリアと変わらず、使用する上でも全く問題は無い。

この低い気温の中ではカビくさい臭いも発生せず、体が温まっている以上は快適に使用できる空間だ。



「よし、ポーションやグレネードを作っても問題は無さそうだな」

「まあ、ここでグレネードを投げまくる訳には行きませんが。とりあえず、拠点として使用しても問題は無さそうですね。転移の楔を登録してしまいましょう」



 言って、アマミツキはインベントリからそのアイテムを取り出す。

氷柱のような、水晶のような、透き通り尖った石。

それと一対になっているのが、同じ材質の石で出来たプレートのようなものだ。

それらのアイテムを取り出したアマミツキは、尖った石を手に持ち、自らの足元に突き立てる。

板張りの床に突き刺さった石は、途端にその色を白く変色させ、やがて光となってプレートへと吸い込まれていった。

そして光を吸収したプレートは、同じく白い色へと染まりながら、一つの言葉をその表面に浮かび上がらせる。

――『東の山山小屋:頂上付近』、と。



「はい、これで登録完了です。一人死んだら全員で死に戻りですよ」

「面倒だが……まあ、仕方ないか」



 数が用意できていれば問題はなかったのだが、転移の楔はそれなりに高価なアイテムだ。

いくらポーションを湯水のように使用できるライトたちとはいえ、現状そこまでの金の余裕は無い。



「さて、それでは狩りを開始するとしましょうか。とりあえず、この吹雪地帯からは一端下がって、もうちょっと落ち着いて戦える場所まで行きますが」

「まあ、それがいいだろうな。それじゃあ早速だが、出発するとするか」

「ようし、それじゃあ雪の結晶狩りだ! 皆、頑張るぞ!」



 拳を突き上げるヒカリの言葉に、残る三人も笑顔で答える。

そして一行は、再び吹雪の雪山へと足を踏み入れていったのだった。





















今日の駄妹


「姉さんは兄さんとくっ付いて暖まれるのに、こちらは氷の塊を抱えた白餡ですか……たまには交代したいですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ