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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
3章:情報探索と新たな仲間
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38:生産職プレイヤー












「いやぁ、助かったよ。まさかこんなに目当てのものが見つかるなんて」

「お気になさらず。こちらにも多少の下心はありましたから」



 リオグラス王都フェルゲイト、その一角の大図書館。

ちらほらと人影が見られるその建物内で、二人のプレイヤーが一つの卓に腰を落ち着けていた。

一人はアマミツキ。影のような漆黒のマントの中に、長い黒髪を紛れ込ませるスカウト。

そしてもう一人は『ゆきね』と名乗ったプレイヤーだ。

長い銀髪をポニーテールに結っているが、髪の量が多いためにバラけて身体に纏わり付くようになっている。

しかしそれを煩わしいとは思っていないのか、比較的小柄なその体は銀の筋に塗れている。



「それで、ゆきねさん。貴方はどうして調合書レシピブックを?」

「ああ、うん。これはまあ、ただの趣味みたいなものなんだけどね」



 アマミツキの問いに、ゆきねはそう返す。

しかしそんな間にも、二人は己が手にする本から決して目を離そうとはしなかった。

互いが、互いの目的を何よりも優先している。

噛みあっているのかいないのかは判別できない状態であったが、二人の間には奇妙な信頼関係のようなものが生まれつつあった。



「ボクは、色々と作るのが好きでね。だからか、簡易生産なんかやらないで、いつもマニュアルで物を作ってるんだけど」

「ああ、分かります。と言っても、私は効果が上がるからマニュアルでやってるんですが」

「あれ、きみも生産職?」

「一応そうですね。《生産:薬品》を取得しています」



 ただし、アマミツキには生産職であるという意識はあまりない。

彼女がやっている事はあくまでも兄と姉のサポートであり、不特定多数のプレイヤーに商品を売って金を稼ぐためにやっているのではないのだ。

無論、それが家族にとって役に立つと判断すれば行うだろうが、少なくとも今はポーションがいくらあっても困らない状態だ。

そのおかげで彼らは効率的に成長が出来ているのだから、パーティ全体が満足できているのである。



「それで、貴方は何を取得していますか?」

「あはは、実は全部なんだ」

「……は?」



 思わず素っ頓狂な声を上げて、アマミツキは顔を上げる。

予想もしていなかった言葉を耳にして、さしものアマミツキすら意識を向けざるを得なかったのだ。

調合書レシピブックを探していた事から、特殊なレシピに興味を持っている事は分かる。

それ故に、そういった方面に特化していると考えていたのだが――



「全部とは……驚きですね。確かに、特殊レシピを実行するにはそれに対応した生産スキルが必要ですが……そんなさまざまなレシピを手に入れているのですか?」

「いや、まだ全部って訳じゃないんだけどね。でも、ボクは物を作るのが好きなんだ。とにかく色々作ってみたい、そう考えてスキルを取得していってね……気がついたらこんな感じさ。ブラックメイジにも転職して、《生産:呪物フェティッシュ》も取得したよ」

「それはまた……」



 徹底した生産へのこだわりに、ある意味感服の念すら覚えながら、アマミツキは視線を本へと戻す。

尤も、プレイスタイルのおかしさと言う点では、アマミツキのパーティの誰一人として文句を言えた口ではなかったが。

しかし、余計に都合がいいとも言える。そんな思いを無表情の仮面の下に隠しながら、アマミツキは再び声を上げた。



「しかしそれでは、熟練度の伸びも悪いでしょう」

「そうなんだよねぇ。おかげで、特殊レシピの前提条件になるような熟練度も満たせてないし」

「また難儀なプレイスタイルですね」



 しかしながら、ゆきねにそのプレイスタイルを後悔した様子は全くない。

純粋に、その特殊なプレイスタイルを楽しんでいる様子だった。

そんな彼女の姿に、アマミツキは視線を向ける事無く僅かに目を細める。

――どこか、楽しげに。



「まあ、私の周囲にも特殊なプレイしている人が多いので、多少は分かりますよ」

「へぇ、そうなんだ。ボク以外にも……ねえ、それってどんなプレイしてる人?」

「そうですね。空飛んだりとか、火力特化とか、片っ端から召喚MOB集めたりとか……」



 自分の事は棚に上げ、アマミツキはそう口にする。

ちなみに、白餡が《テイミング》を使用するのは片っ端からではなく、彼女が可愛いと感じたエネミーのみだ。

そのため、氷の精霊王の遺跡ではエネミーを仲間にしようとはしなかったのである。

ただし、イエタスが可愛いかと問われれば、それにはアマミツキも疑問を抱かざるを得なかっただろうが。

しかしゆきねはそんなアマミツキの内心は知らず、きょとんと目を開いて視線を上げていた。



「空を飛ぶ……それってもしかして、あの『爆撃機コンビ』?」

「おや、ご存知なのですか?」

「ん、まあ情報交換程度に掲示板は覗いてるからね。そのとき見かけたスレで、ボクと似たように変わったプレイしてる人がいるのかなって探してたから」



 成程、とアマミツキは小さく頷く。

換わったビルドをしているプレイヤーを発見しては目撃情報が投稿されるあのスレは、アマミツキも先日覗いていたのだ。

目撃情報が投稿されたのはほんの数日前であったが、あの目立つプレイスタイルゆえか、それなりに話が盛り上がっていたのである。

目立っているのはやはり空を飛んでいるライトとヒカリであったが、多くの召喚MOBを操る白餡も若干注目され始めている。

流石に、ほぼ常時ハイディングしているアマミツキは目撃情報が少なく、あまり話題には乗っていなかったが。



「本人に直撃できた人がいないから、どういう人達なのかっていうのは分かってなかったらしいけど……まさかそのパーティメンバーがこんな所にいるとはね」

「まあ、色々と用事がありまして。しかし、あのスレもお仲間・・・探しにはちょうどいいかもしれませんね」

「えっ、いや、仲間って……!」



 そんなアマミツキの言葉に、ゆきねは途端に慌てた様子で顔を上げ、言葉を詰まらせる。

その様子を視界の端で捉え――アマミツキは、気付かれぬ程度に口元を笑みにゆがめていた。



「ええ、ネタビルド仲間というのは中々見つかるものではありませんからね。お互い笑いあう程度がちょうどいいのでしょうが」

「え……? ぁ、お、ぅ」



 アマミツキは、表情を隠しながら内心で笑う。

条件はお互い同じ。ただし、自らの弱みは極力見せない。

そんなアマミツキの考えを僅かながらに気づいたのか、ゆきねは引き攣った表情で声を上げる。



「きみ……性格悪いね」

「心外ですね。『性格が最悪』とか『一度生まれ変わった方が世界のためだ』とかなら言われた事ありますが」

「あはは、もっと悪いじゃないか」



 小さく笑い、ゆきねは軽く頭を振る。

そうして顔を上げた彼女の表情の中には、既に先ほどの不満げな色は残っていなかった。

自身も変わり者である自覚はあるのだろう、そして何よりも、アマミツキも同じ狙いを抱いていた事に気づいていたのだ。

即ち、変わったビルドの者同士、パーティを組む仲間が欲しいと。



「生産職で私たちのように変わった事をしている人がいるかどうかは分かりませんでしたが……探せばいるものですね」

「よく言うよ。偶然見つけただけじゃないか」

「運も実力の内ですよ」

「あはは、全くだ」



 二人は小さく笑い、本から顔を上げる。

両者の利害は一致しているのだ。変わったアイテムを手に入れたために、仲間ではない生産職にアイテムを渡しづらいライトたち。

そして、変わったビルドであるが故に固定パーティに拾われず、資金や素材の調達が難しいゆきね。

どちらにとっても利がある――それが、彼女たちの関係だった。



「しかし、生産スキル全般ですか。熟練度上げるのには苦労しそうですね」

「それは否定しないよ。普通はどれかに集中してあげるものだからね。でも、マニュアルでの生産は熟練度も上がりやすいし、ボクはその作業を苦痛には思わないから」



 マニュアルでの生産は、作業のタイミングなどが非常に難しく、それを苦痛に思うプレイヤーも多い。

そのため、簡易生産というモードも存在しているのだが、難易度の高いマニュアル生産のほうが遥かに熟練度の伸びがいいのだ。

その差はかなり大きく、現在のトップクラスの生産職は全てマニュアル生産を行っている。

だが、マニュアルはそれだけ個人の技量が関わってくるため、その中でも十分に高い性能を持つアイテムを生産できるのはごく一握りだ。

安定した性能を発揮できる簡易生産か、個人の技量に左右されるマニュアル生産か。

下手なマニュアル生産ではきちんと稼ぎを得られないため、簡易生産にするプレイヤーも多いが――



「……好きこそ物の上手なれ、とはいいますが。貴方の作ったアイテムはどの程度の性能で?」

「ふむ、とりあえずこんなものかな」



 そう言って、ゆきねが差し出してきたのは一本のHPポーションだった。

机の上に置かれたそれを手に取り、アマミツキはその性能の解析を行う。

そこに表示された回復性能は、アマミツキの作り上げたものと大差ない。

否――



「……貴方のスキル熟練度は?」

「あはは、薬品はそれなりにやる機会があるけど、それでも70ぐらいかな」



 その言葉に、アマミツキは沈黙する。

アマミツキのスキル熟練度は、既に200を超えているのだ。

ゆきねの熟練度は、アマミツキのおよそ三分の一。それでこれだけ性能が近いと言う事は、かなり驚異的な事であった。

アマミツキもマニュアル生産を行っており、収集した情報からそれなりの腕があることを自負している。

事実アマミツキの作ったポーションは効果的であり、ライトや白餡のMPが尽きないのは偏に彼女のおかげなのだ。

しかし――



「クリティカル生産、ですか。この性能はどれぐらいの頻度で?」

「あ、やっぱり分かるんだ。まあ、それなりの量を一度に作るから数は稼げるけど……そうだね、HPポーションなら二回に一回かな」



 アマミツキはその言葉に、かつて姉に対して感じていた感覚を思い返していた。

自身の才能が追いつかない、絶対的な努力の力を。

クリティカル生産とは、マニュアル生産における複数の行程を、全て最良のタイミングで成功させた際に発生する。

それによって生まれたアイテムの効果は通常よりも高く、あらゆるアイテムでその検証が行われている。

しかし難易度はマニュアル生産の比ではなく、アマミツキですら十回に一回成功する程度であった。

――それを、二回に一回。



「……私としては、どうしてあなたほどの腕を持つ生産職が埋もれていたのかが理解できませんが」

「いやぁ、皆まずは持ってるスキルと熟練度聞いてくるからねぇ。その時点でまずは弾かれるかな」

「これだけの性能のアイテムを提示できれば、嘘吐いてもバレないでしょう」

「いや、流石に全部クリティカル出来る訳じゃないからね。これでも頑張って練習したんだよ」



 クリティカル生産は、頑張って練習した程度でそうそう成功するようなものではない――とは胸中で呟きつつも、どこか納得している自分がいることに、アマミツキは小さく肩を竦めていた。

姉のような人間も、探せばいるものなのだ、と。とはいえ、ゆきねも才能が無いという訳ではないのだが。



「貴方も中々やりますね、ゆきねさん」

「ゆきねでいいって言っただろう? こっちも、アマミツキって呼んでもいいかな?」

「はい、大丈夫です」



 小さく頷き、アマミツキはメニューを操作する。

そうして開いたフレンドリストの画面から、目の前にいる相手へとフレンド申請を送信していた。

それを受け取り、ゆきねはどこか嬉しそうに笑みを浮かべる。



「こちらも、貴方のような人を探していました。今の所貴方の言葉に嘘はないと判断しますし」

「警戒心が高いのか低いのか……ぶっちゃけボクってかなり怪しいと思うけど」

「それは私も普段から言われている事なので」

「色々言われてるんだねぇ、きみ」



 とはいえ、全く根拠がない訳ではない。

少なくともここで出会った事は偶然であり、熱心に調合書レシピブックを読んでいる事からもゆきねが生産職である事は明らかだ。

また、掲示板で有名になりつつあるとはいえ、ライトのパーティは決して魅力的な物件という訳ではない。

変わったプレイスタイルをしているが故に立ち入れる場所は制限されやすく、寄生するにも搾取するにも向かないメンバーだ。

尤も、実際は貴重なアイテムを数多く有しているため、生産職からすれば垂涎の的であっただろうが。

故にアマミツキは、ゆきねが純粋にパーティを探していたと判断したのだ。



「ネタビルドの人はネタビルドの人としか組みづらい。いやぁ、世知辛い世の中だよね」

「ふむ……そうでもないかもしれませんけどね」

「え? それってどういう事?」

「その内分かると思いますよ。まあ、組みづらいのは事実かもしれませんが」



 肩を竦め、アマミツキはフレンド登録が完了したフレンドリストへと視線を向ける。

と――そこに書いてあった一つの情報に、アマミツキは動きを止めていた。

それを見て、ゆきねへと視線を向け、更にフレンドリストへ視線を戻す。

そんなアマミツキの反応に、ゆきねは小さく楽しげな笑みを浮かべていた。



「あはは、どうかした?」

「いえ……まあ、別にいいですけどね。私としてはむしろ好都合です」

「あれ、そうなの?」

「はい、兄さん的な意味で」

「へぇ?」



 特に意味は分かっていない様子で、ゆきねは首を傾げる。

しかし、それに対して説明するつもりはなく、アマミツキは肩を竦めて視線を本へと戻していた。

思いがけず目的の一つを達する事ができたが、本来の目的はまだ達成できていないのだ。



(思えば、兄さんのため以外で私が動くのは殆どなかったかもしれませんね……まあ、間接的に見れば兄さんのためですが)



 本のページを捲り、アマミツキは目を細める。

確かに、兄のため、姉のためと言う部分がある。しかし、アマミツキがそれ以上に意識していたのは白餡の事であった。

殆ど唯一の友人と言ってもいい彼女の姿を思い浮かべ、アマミツキは小さく笑う。

自分が少しずつ変わってきている事を自覚して――



『――そう、それでいい』

「っ!?」



 ふと耳元で響いた声に、アマミツキはバッと後ろへ振り返っていた。

しかしそこには誰の姿も無く、人が走り去った形跡もない。



「アマミツキ? どうかした?」

「……いえ、何でもないです。気のせいでしょう」



 不気味には思いつつも表情には出さず、ゆきねに対してそう返して、アマミツキは再び思考の渦へと埋没していった。

――僅かな疑念を、残して。





















今日の駄妹


「男性の声、でしたでしょうか。私の耳元で囁いていいのは兄さんと姉さんだけだというのに」

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