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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
3章:情報探索と新たな仲間
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37:鍵王魔法











 店の片付けを終え、ドアに『Close』の札を出し、四人は店の奥へと進んでゆく。

元より薄暗かった店内は更に光が入らず、ランプがなければ足元すら危うい場所となっている。

そんな中、ぽっかりと開いた穴のように続いている地下への階段へ、ライニは上機嫌なままに進んで行ったのだった。

鼻歌交じりですらある彼女の背中を見つめ、ライトたち三人は二の足を踏みながらこっそりと声を上げる。



「あ、あの、これ大丈夫なんですか……? 実は、この先にボスがいたりとか……」

「いやぁ、流石にそれはないと思うぞー? うん、たぶん」

「流石に自信持っては言えないよな……」



 魔法を見せろとは言われているが、どのように見せろなどの詳しい話は聞いていない。

あらかじめ聞いておくべきだったかと、今になって己の迂闊さを呪いながらも、ライトは溜息交じりに一歩を踏み出していた。

どちらにしろ、行かない手は無いのだ。いまだ何の収穫も得られていない以上、下らない事でチャンスを逃す訳には行かない。

そしてそれが分かっているのか、比較的平気そうな様子でヒカリが続く。

二人はこれまでにライニの人となりを多少なりとも知っており、少なくとも彼女自身は危険ではないと、そう判断していたのだ。

そういった理由もあって、躊躇いをすぐさま振り切り歩いていった二人。

そんな彼らの背中に、おろおろと周囲を見渡しながらも、白餡は意を決して後に続いていった。



「えっと……それで、あの魔法を見せればいいんですよね?」

「ああ。珍しい魔法を見せろとの話だったが、流石にあの魔法以上に珍しいものは持ってないからな」

「というより、他の魔法は普通にスキルで覚えられるのしか持ってないしなー。精々、白餡の召喚魔法ぐらいじゃないか、使い手が少ないのって」

「極めれば強いと思うんですけど……」

「まあ、確かにな。もっとステータスが高くて、多少のMP消費が気にならなくなる頃には強くなるかも」



 召喚魔法は、多くのMOBを召喚して物量戦ができるとなれば強く感じるが、その分だけ多くのMPを消費する事となる。

召喚中は常にMPを消費し、消費量は召喚したMOBの強さやその数に依存する。

それぞれのMOBごとに熟練度のようなパラメータも存在し、召喚した時間に応じて強くなっていくが、MP消費量から鑑みても序盤で育成する事は至難の業だ。

実際、MPポーションの消費量では、白餡が最も多くなっている。



「白餡は上級職どうなるんだろうなぁ」

「もしかしたら、何かしら隠しクラスが出るかもな」

「あはは、まさか」



 笑って首を振る白餡であったが、ライトとヒカリは半ば確信を持って視線を交わしていた。

確定した訳ではないが、隠しクラスが『変わったプレイスタイルから発生するのではないか』という仮説を二人は得ている。

そして白餡も、変わったプレイスタイルを確立しているプレイヤーの一人であることは間違いないのだ。

どのような形になるかは二人にも予測できないが、可能性は十分にあると、そう考えていた。



「おーい三人ともー、早く早くー」

「っと、ゆっくり歩きすぎたか」

「はーい。つっても、暗くて階段下りるのが中々怖いんだが」

「落っこちそうですよね……」



 とりあえず転げ落ちない程度には急ぎつつ、三人は階段を下ってゆく。

街の中にこれだけの地下室を作っていいのかどうかという疑問はあったものの、ゲームだという事で特に気にせず進んだ先――辿り着いた扉の前でたたずむライニは、得意げな表情で声を上げた。



「さあ、到着だよ。ここが私の実験場だ!」

「うわぁ、途端に怪しくなった」

「いや、最初から怪しかっただろう」

「あはは……」



 極めて上機嫌な様子のライニに、一同は引き攣った表情で声を上げる。

非常に重厚な、まるで雪山の遺跡に入った場所のような巨大な扉。

流石にアイス・エレメンタルと戦った場所ほどではなかったが、薄暗い中にある巨大な扉はそれだけで威圧感を発していた。



「さあさあ、入って入って」

「おい、普通に開けたぞ」

「意外と軽いんじゃないの?」

「すっごく重そうな音してますけど……」



 普通に扉を押し開けて、ライニは本人曰く実験場とやらへ足を踏み入れてゆく。

そんな彼女に三人も続いてゆき――目の前に広がった光景に、一様に硬直した。

そこには円形の、小さな体育館ほどの広さがある空間が広がっていたのだ。



「……いや、まあ。確かに随分下がってきたなーとは思ったけど」

「こんなもの、街の下に作って大丈夫なのか、おい」

「あっはっはー、気にしない気にしない」



 明らかにグレーゾーンなのではないかと言いたくなるライニの声音に、三人は同時に半眼を向ける。

そんな視線から逃れるようについと視線を逸らすと、ライニは実験場の向かい側にある壁の方を指差した。

内部は天井に埋め込まれた証明によって照らされ、ここに来る途中までよりも遥かに明るさが確保されている。

しかしその照明に使われている石は遺跡にあったものにも近く感じられ、よりこの空間の合法性を疑わせる結果となっていた。



「さてさて、それではお嬢さん。あそこが見えるかな?」

「あ、はい」



 どこか仰々しい仕草でライニが指差した先を、白餡は若干引きながらも見つめる。

その先にあったのは、若干色合いが違っている壁と、その前に立っている人型の的と思われる物体だった。

人型といっても等身大ほどの板に丸い頭が乗っているような形状で、的として置いてあるために辛うじて人型に見えているという程度のものだ。



「さあ、あそこにどうぞ」

「いや、どうぞって……」

「私としては派手な攻撃魔法が推奨なんだけど、君の魔法はそんな感じ?」

「あ、はい。一応そうですけど、それって的を示す前に聞くべき事じゃ――」

「よしオッケー、それじゃあ行ってみよう!」



 一連の会話の中で、白餡の表情は徐々に失われてゆく。

相手が全く話を聞いていないという事を理解したのだ。

彼女はそういった手合いに関しては――アマミツキによって――耐性ができているため、対処の方法もそれなりに理解している。

要するに、何を言っても無駄なのだ。白餡は嘆息を零し、的をフォーカスできる位置まで進み出る。



「……それじゃあ、行きます」

「うんうん、どんどん行っていいよ!」



 果てしなく輝いているライニの笑顔と、少し離れた場所で頷いているライトとヒカリに背中を押され、白餡はもう一度溜息を吐いてから的の方へと向き直る。

そして杖を構え、ゆっくりと詠唱を開始した。



「『来たれ第七の魔、厳格にして偉大なる炎熱の侯爵。過去と未来、騒乱と調和、40の軍を支配せし魔なる者。我は汝が炎の魔眼を喚起する者なり――』」



 図書館でアマミツキが見つけ出したスキルブック。

その中から手に入った魔法は、使い勝手こそ悪いものの、意外な場面でこれまで活躍を見せてきた。

この魔法を上手く運用できるのも、アマミツキの采配のおかげなのだろうか――そう考えて微妙な気分になりながら、白餡は詠唱を完成させた。



「『――燃えよ、《アモンズアイ》』」



 掲げた杖の先に光が宿る。

紅く輝く光は、炎を纏う熱線となり、瞬時に的へと向けて駆け抜けた。

魔法の飛翔速度は風属性以上。威力は火属性以上。そう考えれば強力であるが、消費と詠唱の長さを考えればやはり難しい魔法である。

そんな白餡の思いを他所に、駆け抜けた熱線は狙い違わず的に命中し、そこに紅の炎を吹き上げた。



「おおおおおお! これはいい!」



 放射される熱によって汗を浮かべながらも、ライニは興奮した様子で声を上げる。

《ブレイズピラー》ほどではない硬化時間がすぎ、紅の火線はゆっくりと細くなり、消滅してゆく。

必要以上に照らされていた室内も元の光量へと戻ってゆき――そして、何も変わらない部屋が現れた。

的となった人型すら、何の変化も起きていない。破壊不可能オブジェクトだったのかと、白餡は小さく納得の吐息を零しつつ杖を下ろした。



「えっと、こんな感じでよろしいでしょうか」

「うんうん、オッケーだよ。いやぁ、鍵王けんおう魔法が見られるとは思わなかったなぁ」

鍵王けんおう魔法?」



 ライニの言葉に、白餡は首を傾げる。

その名前は、これまでに聞いたことのない言葉だったのだ。

アマミツキから受け取った本にも書いていなかった名前であり、白餡が知る由もないものであったが。

そうして疑問符を浮かべる彼女に対し、ライニは至って上機嫌な様子で説明を開始した。



「昔の王様が従えたっていう、72の魔物の力を呼び起こす魔法だね。スキルブックで覚えられる可能性がある事は知ってたけど、既に失われてしまってる物もあるし、結構貴重なんだよ」

「ほー、なるほど。やっぱりソロモン王関連だったのか」



 ライニの解説に対し、納得した様子で頷いたのはヒカリであった。

アマミツキほど出ないにしろ、彼女もまた様々な無駄知識を有している。

ヒカリも魔法の名前で多少は正体を予想していたのだ。



「って言う事は、同じようなスキルブックがまだ70以上あるって事か?」

「いや、失伝してるものも多いからね。いくつか見つけられれば御の字だと思うよ。もしもそれで魔法に認められたら、習得するチャンスも増えるかもしれないけど」



 魔法に認められる――その言葉に、ライトは視線を細めてライニの姿を見つめていた。

何気ない言葉ではあったが、今の言葉が隠しクラスの存在を示唆していたように感じられたのだ。

つまり、鍵王けんおう魔法をいくつか発見する事により発生するクラス。

それがいかなる力を持っているのかは定かではないが、少なくとも可能性がある事は確かだろう。

白餡の持つ鍵王けんおう魔法は、扱いは難しいが高い威力を持っている魔法である。

掲示板にスキルブックの報告をした際にも、他にもありそうだから探してみるという意見はいくつか見られた。



(もしかしたら、いずれ隠しクラス発見の報告が来るかもしれないな……)



 アマミツキが見つけたもののように、隠しクラスは通常通りのプレイをしていては発見できない可能性が高い。

掲示板でよく表れる言葉で表現するならば――『ロマン』、これに尽きるだろう。

ライトが仲間の候補として探しているのは、まさにそういったプレイヤーであった。



「後で、掲示板に流しておくか」

「にはは。養殖みたいだな……この周辺の奴かどうかは分からないぞ?」

「ま、その時はその時だ。別に敵になるわけじゃない」

「だな」



 笑うヒカリの姿に、ライトもまた小さく笑う。

こうした発見の数々も、このゲームの楽しみの一つなのだと、そう感じながら。

そしてそんな二人の様子を他所に、上機嫌な様子で語っていたライニは、満足した表情で大きく頷いて見せた。



「うん、これなら文句ないね。例の魔法使いへの紹介状を書いてあげよう」

「ほ、本当ですか? これ、この街の図書館で普通に置いてあった魔法ですけど……」

「いや、いくら小さな図書館だからって、本の山である事に変わりはないんだから。それを発見出来ただけでも十分なもんだよ」



 そんな言葉に対し、今更ながらにアマミツキの行動の非常識さを再認識し、白餡は乾いた笑みを浮かべる。

やる事成す事がいちいち無軌道すぎるのだが、今更指摘する事も手遅れである気がして最近は放置していたのだ。



「まあとにかく、紹介状を書くから上に戻るよー」

「あ、はい。ライトさん、ヒカリさん、お二人も……」

「ああ、分かってる」

「はいよー」



 若干気が逸っている様子の白餡に、ライトとヒカリは苦笑を零す。

氷古龍の餌を探す事は、彼女にとっての悲願となっているのだ。

しかしこの場はあくまでゲームであり、彼女の必死さもどこか微笑ましく感じられるものである。

そんな彼女の方へと歩み寄りつつ、ヒカリは疑問の声を上げた。



「なあ、白餡。この後どうするんだ?」

「はい? 一緒、ですか?」

「ああ、このままあたしたちと一緒に例の魔法使いのところに行くのか、それとも王都に戻るのか」



 その言葉に、白餡は失念していた事を思い出したのか、驚いたように目を見開いていた。

やはり思考力が鈍っている事に、ヒカリは思わず苦笑を零す。

あまりアマミツキを一人きりにしてしまっては、何をやり出すか分かったものではない――それが、パーティメンバー一同の共通見解であった。


 白餡はヒカリの言葉を聞き、ちらりとライトのほうに視線を向け、それから後ろを歩いていっているライニのほうへと視線を巡らせた。

そして最後にヒカリとライトを見比べるように視線を左右させた後、おずおずと声を上げる。



「えっと……私は、王都に戻ろうと思います」

「ん、いいのか? 面白い話聞けそうだけど」

「はい、それは後でお聞きします。それに、アマミツキを一人きりにもさせられませんから」



 それは彼女の本音であり――しかし、もう一つの思いが簡単に見えてしまう程度には分かりやすい態度であった。

ライトとヒカリの関係は、白餡も多少は知っている。

そして、彼女はあのアマミツキがこの二人に気を使っているという事に、衝撃と共に遠慮じみた感情を感じていたのだ。

久方ぶりの再会をしてから、まだあまり日は経っていない。

ならば、それを十分に堪能させてあげなければ――そう考えているアマミツキに、白餡も多少影響されていたのだ。

そんな彼女の様子に、ヒカリは小さく苦笑する。



「別に遠慮しなくてもいいんだけど……でも、折角だしな。分かった、そうしよう」

「あ、はい」

「はは……ありがとうな、白餡」

「い、いえ!」



 ライトの感謝の言葉に、白餡は恐縮して顔を伏せる。

それでも、ちらちらと二人の様子を見る視線は変わらなかったが。

色々な意味でアマミツキとは対照的なこの少女に、ライトとヒカリはいつも通りに視線を合わせ、小さく笑みを浮かべる。



「さて、それじゃあ行こうか」

「早く、その卵を孵してやらなきゃな」

「わっ……は、はい!」



 二人に背中を押され、白餡は先頭となりながら実験場を後にする。

そんな彼女に見えない位置で、ライトとヒカリは離れた場所にいる妹分へと想いを馳せていた。

――いい友人を手に入れたものだ、と。





















今日の駄妹


「ふむ……よかったですね、白餡。お仕置きせずに済みました」

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