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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
2章:太陽の少女と氷の龍
30/167

28:卵を孵す為には

次回掲示板回が入り、2章は終了です。











「で、戻ってきたはいいんだが――」



 東の山の入り口、管理小屋のある辺りまで強制的に帰還させられたライトたちは、ひとまずその管理小屋の中で一息吐いていた。

今回あった出来事だけでも一杯一杯だと言うのに、これ以上なく面倒なものを押し付けられてしまったのだ。

ライトはちらりと白餡のことを横目に見ながら、肩を竦めて声を上げる。



「どうするんだ、これは?」

「どうするって言われても、とりあえず孵化させた方がいいんじゃないのか? 折角貰ったんだし」

「そ、そうですよ! ドラゴンの赤ちゃんですよ、赤ちゃん! 凄く見たいじゃないですか!」

「ああ、うん。これに関して冷静な判断力を白餡に求めるつもりはないし、孵化させる事に関しては異存は無いから、存分にやっててくれ」

「あ、はい!」



 尤も、ライトとしては卵を破棄する事も選択肢の一つとして考えてはいたのだが、それを伝えれば白餡が怒り狂う事は目に見えていたので、口に出す事はなかった。

ともあれ、ボーっとしていた所で問題が解決する訳ではない。

ライトはヒカリに目配せすると、互いに頷いてから声を上げた。



「とりあえず今後の事を決めなきゃな。アマミツキ、とりあえず今回のダンジョンの事に関して、どうしよう?」

「はい、掲示板の事ですね? ……あ、兄さん。他のプレイヤーが近付いてきてないかどうか見張ってて下さい」

「ん、ああ。話も卵も他人に知られたら拙いしな」



 ライトは窓際に移動し、適当に端の方に置いてあった椅子を引っ張ってきてそこに座る。

その状態に満足したのか、アマミツキは小さく頷くと、右手の人差し指を立てながら声を上げた。



「今回の事に関して、掲示板には報告しない事をお勧めします」

「と言うと?」

「正規の方法で入り込んだ訳ではないですからね。まあ、仕様上可能な範囲の方法で侵入した訳ですから、いきなりBAN喰らうような事は無いと思いますけれども」

「あー、それもそうか」



 アマミツキの言葉に納得し、ヒカリはこくこくと首肯する。

あの遺跡に突入する事ができたのは、雪崩に追われてクレバスに飛び込むなどといった変わった行動をしたためだ。

あれが無ければ、そもそも存在に気付く事すらできなかった。

どう考えても大幅にショートカットしているとしか思えない方法なのだから、それが知れ渡るのは避けなければならない。

しかし、明かさなかったならば明かさなかったで、多少のリスクが存在するのだ。



「しかし、それならその卵が孵った場合どうするんだ? 氷古龍って言いふらさなかったとしても、そんな魔物にはさっぱり見覚えがないだろうし、質問される事もあると思うんだが」

「その場合には、『雪山で雪崩に巻き込まれて、気付いたら巣穴のような場所にいた』とでも言えばいいでしょう。不確かな情報だから、掲示板には載せなかったと」

「それで納得してくれるかな?」

「大体本当の事ですからね。他に説明のしようもありませんし」



 しれっと言い放つアマミツキに、ライトは小さく苦笑を零していた。

確かに、あの白く染まった雪山の中で同じクレバスを見つけ出す事は至難の業だ。

仮に発見する事が出来たとしても、飛行魔法が無ければ岩棚まで飛び移る事はできないし、それが出来たとしても扉を破る事は難しい。

様々な条件が重なったからこそ、あの遺跡への侵入を果たす事が出来たのだ。



「まあ、聞かれた時には臨機応変に答えるしかないって事か……」

「そういう事ですね」



 あのダンジョンに関する情報は明かさず、氷古龍に関する事も伏せておく。

聞かれるのは少々面倒ではあるが、全てを説明するよりはマシであろう。

そう納得する事として、ライトは小さく嘆息を零していた。

だが、ヒカリはまだ若干険しい表情を崩さぬまま、アマミツキに対して声を上げる。



「アマミツキ、ちょっと気になる事がある」

「はい、何でしょう?」

「今回エネミーから手に入れたアイテム。あれを、プレイヤー生産職に渡す事は出来ないだろう?」

「あ……」



 ヒカリの言葉を聞き、ライトは目を見開く。

主にリビングアーマー、その他もろもろの遺跡内エネミーのドロップアイテム。

あの崖突き落としによる稼ぎを含めれば、それなりの数が集まっているのだ。

しかしながら、掲示板に報告する事が出来ない以上、それを素材として提示する事は不可能だ。



「つまり、しばらくの間はこのアイテムを素材には出来ないって事か?」

「んー、まあそうですね。兄さんが武器製作のスキルでも取ればまた別ですけど、流石にそんな余裕はありませんしねぇ」



 生産職は、最初から生産職を目指していない限り、スキル構成が厳しくなってしまうのが通常だ。

飛行魔法のためにほぼ大半のリソースを割いているライトには、そのような事をする余裕など欠片もない。

つまり、このパーティは武器・防具生産を他のプレイヤーに頼らざるを得ないのが現状なのだ。

薬品――回復アイテムの自給自足ができている点は大きいが、武具も重要な要素である以上、無視する事はできない。



「勿体無いな……しばらく倉庫の肥やしにするしかないのか」

「いや、方法ならあるだろ?」

「ええ、まあそうですけど……姉さん、本気ですか?」

「何?」



 にはは、と笑うヒカリと、どこか困惑気味なアマミツキ。

そんな二人の様子に、ライトは首を傾げる。



「何か案でもあるのか?」

「そう。ほら、いるだろ? 専属スミスって奴」

「つまり、情報を外に漏らさない人を仲間として抱き込もう、と言う魂胆ですね」



 その言葉に、ライトは驚くと共に納得していた。

情報を外に漏らしたくないなら、信頼できる仲間を増やせばいい。

それならば確かに、遺跡で手に入れたアイテムを加工する事も出来るだろう。



「確かに、私たちのパーティは少々特殊です。恐らく、レベルもトッププレイヤークラスとなっているでしょう」

「まあ、20超えてればなぁ……」

「しかし、誘うとなれば慎重にならざるを得ません。爆弾に近いものを抱えてしまった訳ですしね」



 ちらりと横目に白餡の様子を見ながら、アマミツキはそう口にする。

慎重になる必要がある――それは、紛れも無い事実であろう。

あの遺跡の情報、扉に刻まれていた地図、そして古代文字。どれもこれも、非常に重要な情報なのだから。

生産職を味方に抱き込むとすれば、それらを話さなくてはならなくなる。



「まあ、その辺はゆっくり慎重に行くべきでしょう。別に、焦る必要も無いわけですしね」

「そうだな……また俺たちに合った狩場を見つければ、装備が劣っていてもそれほど気になる訳じゃないか」

「遺跡の中で手に入れたアイテムもある訳だしなー」



 アマミツキの回収してきたアイテムはそれなりに多い。

どれもこれも装備制限がレベル20なので、ようやく装備できるようになったばかりといった状態ではあるが。

ただ、装備できないアイテムに関しては、売る事も出来ない倉庫の肥やしにならざるを得ないのだが。

装備を素材に分解するスキルがあればまだ活用できるかもしれないが、現状では役に立たないとしか評価できないだろう。



「まあ、誘う云々に関しては、優先順位はそれ程高くないので後々考える程度でいいでしょう。次の問題は、そこの卵に関してです」

「えっ!?」

「いや、そんな驚いた表情しなくても。当たり前じゃないですか」



 孵化させる事に全面賛成である白餡が、卵を問題だと指摘するアマミツキに反応して顔を上げる。

彼女は傍らにMPポーションを山のように積み上げ、それを次々に飲み干しながら卵にMPを分け与えていた。

これは、卵に手を当てるとメニューが表示され、《メモリーアーツ:氷》を持っている場合、MPを注ぎ込めるようになるというシステムとなっている。

その隣にはメーターのようなものが表示されており、現状ではまだ殆ど溜まっていない状態となっていた。



「その様子では孵化するまでにかなり時間がかかりそうですが、孵化したらそれで終わりじゃないんですよ?」

「ん、そうなのか?」

「はい。エネミーを卵から育てるシステムに関しては公開されておりませんが、そういったシステムの存在を示唆するような記述を図書館で発見する事が出来ました」



 とんとん、と指先で自分の頭を叩きながら、アマミツキはそう口にする。

これは彼女が頭の中で本のページを捲っている動作であり、必要となる本の記述はすぐさま発見された。

尤も、全てアマミツキの頭の中の話であるため、外から見ていても分からないであろうが。



「卵には、それぞれに孵化の方法が存在しています。その卵の場合は、氷属性のメイジがMPを注ぎ込むという感じでしょう。しかし、卵は孵化させただけで終わりではありません。その後、赤ん坊のエネミーを育てる必要があるんです」

「あ……そ、それは確かに」

「具体的に言えば餌ですね。それ以外に必要となる事に関しては特に気にしなくても良さそうだったので割愛しますが……少なくとも、餌の調達は必要です」



 虚を突かれたように三人は目を見開き、氷古龍の卵の方へと視線を向ける。

エネミーの赤ん坊で、餌が必要となる。生まれてくるものは氷古龍。

将来的にはあれだけの巨体を得る事となる強力な龍だ。



「え、えっと……それで、この子が必要とする餌って何なんですか?」

「いや、知りませんけど」

「えええええ!?」



 おずおずと問いかける白餡に、アマミツキはしれっと表情を変えぬままにそう答える。

そんな彼女の回答に対し、白餡は思わず悲鳴じみた声を上げてしまっていた。

読んだ本を瞬時に記憶し、あらゆる知識を蒐集している天才、アマミツキこと東雲ひなた。

彼女が知らないと口にしたという事は、即ちあの図書館にはそれに関する知識は存在しなかったという事を示しているのだ。



「卵と聞いた時に氷古龍本人……あれって人でいいんでしょうか? まあそれはともかく、聞いておけば良かったなーとは思いましたけど。とにかく、ニアクロウの図書館にはそれに関する情報はありませんでした」

「じゃ、じゃあどうするんですか!? この子、飢えちゃいますよ!?」

「相変わらず動物が相手になると正気を失いますね……だから、それに関して相談するんですよ」



 そんなアマミツキの言葉に、白餡は沈黙して視線をライトの方へと向ける。

彼は、小さく苦笑しつつ、その視線に対して首肯を返していた。

そして、その様子を観察していたヒカリが、改めて話を進めるために声を上げる。



「で、今後の事か。と言っても、餌に関する知識なんてどこで集めればいいんだか」

「ニアクロウの街の中にある程度の情報はあるかもしれませんね。ただ私としては、王都の大図書館にも何らかのデータがあるのではないかと睨んでいます」

「大図書館とはな……となると、またお前はそこに篭ってるつもりか?」

「流石に規模が違いますから、全ての本を読みきれるとは思ってません。けど、必要な情報を調べるだけなら十分だと思います」



 アマミツキの読書ペースはかなりのものだが、その彼女の口から『読みきれない』という言葉が出た以上、それは事実なのだろうとライトは小さく頷く。

今回は、あまりゲームプレイから遠ざかるつもりは無いと言う事なのだろう。

しかし、ある程度の時間を決める必要があることもまた事実だ。



「となると……そうだな。二手に分かれるのがいいと思う」

「やっぱり姉さんもそう考えましたか」

「えっと、それはつまり、王都とニアクロウの二手に分かれて情報を探るっていう事ですか?」

「ふむ……確かに、そうだな。掲示板で情報を集める訳には行かない以上、それが賢明な所か」



 氷古龍の住んでいた山が近場にあるニアクロウと、大きな図書館が存在している王都。

どちらも、大量の情報が眠っている可能性は否定できない。

その為に二手に分かれて行動するのが効率がいいと、ヒカリはそう判断したのだ。



「王都へ向かうのはアマミツキと白餡だ。図書館を調べる以上はアマミツキの力が必要だし、白餡もくっついていた方がいいだろうしな」

「えー、私は兄さんと一緒がいいんですが。図書館で二人っきりって凄く背徳的な感じがしません?」

「その内容は私も地味に腹立つんですけど……」

「自重しろ自重。正直な所、俺もヒカリの案に賛成だ。こちら側で歩き回るとなると、嫌でも人の目に付く事になるからな。変わった装備をしている俺らは注目されやすい。そうなった時、白餡は対応するのがちょっと辛いだろう?」

「う……」



 人見知りの気がある白餡だ。ナンパされる可能性があると考えると、どうしても萎縮してしまう。

そんな彼女の様子に苦笑を零し、ライトは改めて声を上げる。



「俺とヒカリがニアクロウ、そしてアマミツキと白餡が王都。分かれて情報収集を行う」

「その後、王都で合流するって感じかな。今は色んな奴が向こうに集まってるから、専属スミスを探すのにもそっちの方が都合いいだろうしな!」

「仕方ないですね……まあ、了解です。その方向性で行くとしましょう」

「やっぱり私はアマミツキの世話役なんですね……」



 何となく納得しがたいものを感じてがっくりとうなだれる白餡に、ライトとヒカリは思わず苦笑を零す。

ともあれ、今後の方針は決まった。まだ見ぬ氷古龍の子供の姿を想像して、ライトはどこか心が高ぶるのを感じていたのだった。











 * * * * *











 ――光が、差し込む。


 雲ひとつ無い蒼穹より降り注ぐ、南天の太陽の輝き。

その光は、硝子に包まれた半球の空間へを、惜しみなく照らし続けていた。

透き通る空間には、ただ輝きのみが在る――その筈だった。



「始まったな」

「始まったね」



 それは、その光すらも灼き尽くすほどに鮮烈で。

 けれど、全てを包み込むがごとき穏やかな輝き。


 黒き衣と白銀の装甲を持つ、銀髪銀眼の男。

 白き衣と黄金の薄布を纏う、金髪金眼の女。


 硝子の床に置かれた白いテーブルと椅子に並ぶように腰掛けながら、二人はただ静かに微笑む。



「楽しみだね」

「楽しみだな」



 二人の足元に広がる硝子の床――その下に、地面と呼べるものは存在していなかった。

けれど、頭上にある天空が続いている訳ではない。

そこにあるのは、無数の星々の輝く遠い遠い宇宙であった。

遠く離れれば離れるほど、どこまでも広く大きく、無限に全てを内包しながら広がってゆく無謬の宙。

それを包むのは、螺旋を描く黄金と白銀の輝き。


 ――無限螺旋――



「わたしは待ってるよ。ずっと、ずっと」

「俺は見守り続けよう。ずっと、ずっと」



 輝く二重螺旋の根本は、そう口にして。ただ静かにテーブルの中心と視線を向ける。

置かれているのは硝子の地球儀。


 その中で輝くのは――太陽の如く笑う少女の、眩しい笑顔。


 再会を夢見て、それでも妥協は出来ず、ひたすら歩み続けた少女の物語。

まだまだ始まったばかりのそれを、二つの輝きは静かに見守る。

――いつの日か、己の許に辿り着く事を夢見ながら。



「お前は、どんな願いを捧ぐのか」

「貴方は、どんな祈りを抱くのか」



 そう呟いて、二つの輝きは目を閉じる。

どこか、耳を澄ますように。どこか、光を感じるように。


 どこか、祈りを捧げるように――



『我らの楽園よ、永遠なれ』






















今日の駄妹


「しばし兄さんとは別行動ですか……まあゲームの中では姉さんに譲ると決めましたし。その分だけ現実であんな事やこんな事やそんな事を……」

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