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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
2章:太陽の少女と氷の龍
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26:氷結の領域












 二つの炎に包まれ、巨大な氷の塊が崩壊してゆく。

核に直接届く十二個のグレネードと、高威力極まりない炎の魔法二種の直撃。

それをまともに受けてしまっては、いかなボスと言えどもひとたまりも無かった。

HPを全損させて崩壊してゆくその様子を、一行は固唾を呑んで見守る。


 ――そして、アイス・エレメンタルは輝きを失った核を地面に落とし、完全に沈黙した。



「……か、勝った?」



 信じられないとでも言うかのように、白餡がぽつりと呟く。

しかし、無理もないだろう。ライト自身、半ば信じ切れなかったのだから。

けれど、これは確かな勝利だ。とんでもない格上を相手に、ライトたちは勝利したのだから。



「ああ、勝ちだ。あたしたちの、勝ちだ!」

「は、ははは……! ああ、やったぞ、皆!」

「ふぅ……流石に神経削りましたね」



 次々に、歓声が上がる。

偶然弱点属性が突けて、尚且つ大ダメージを与えられる手段があった。

けれども、それだけでクリアできるほど、このゲームのボスは甘くはない。

ライトの回避能力がなければ、まともな戦闘にはならなかっただろう。

ヒカリが相手のヘイトを稼がなければ、大きなダメージを与える事は不可能だっただろう。

アマミツキがあの時爆弾を投げ込まなければ、あれだけのダメージを一気に与える事はできなかっただろう。

そして、白餡がいなければ、絶対に倒す事は不可能だっただろう。

全員が己の役割を果たし、それを完遂した。それこそが、ライトたちが勝利する事が出来た理由だ。



「さて、とりあえずアイテム回収しちゃいましょうか」

「また、現状では加工も無理そうなアイテムが入ってきたな……」

「そろそろレッサードラゴンの素材は使えるようになったんじゃないか?」



 個人倉庫の中に突っ込まれているボスの素材を思い浮かべ、ライトは苦笑を零す。

何の因果か、二度も格上のボスを相手に戦う事になってしまったのだ。

しかも、それらを相手に勝利し、戦利品を得る事が出来ている。

前のケージたちのパーティと同じく、何かが間違った構成をしている事は事実であったが。



「――あっ!?」

「ん? どうかしたか、白餡?」



 突如として白餡が上げた声に、ヒカリが顔を上げて首を傾げる。

しかしそれには反応せず、地面に落ちたアイス・エレメンタルの核よりアイテム回収を行っていた白餡は、大きく目を見開いてウィンドウを凝視していた。

そのまましばし硬直していたが、はっと我に返った白餡は、どこか興奮を隠せない様子で声を上げる。



「れ、レアドロップみたいなのが出まして……びっくりしました」

「相手よりも低いレベルで倒すとレアドロップが出やすいという話でしたからね。これだけ差があれば確率もそれなりに上がるでしょう」

「それでそれで? どんなのが出たんだ!?」

「あ、はい。これです」



 そう言って白餡が提示したウィンドウに映っていたのは、【氷精霊の核結晶】と名の付いたアイテムであった。

確かに、他のアイテムのレア度が4~5である所を、このアイテムは8という高いレア度を誇っている。

レアドロップであると見て、間違いはないだろう。



「へぇ……凄いな、白餡!」

「ふむ。他の面子にレアドロップは無しか……どうやら、結構低い確率を引き当てたらしいな。おめでとう、白餡」

「あはは、ありがとうございます」



 二人からの賞賛を受け、白餡は恥ずかしそうに頬を掻く。

その横でやる気の無さそうな拍手をぱちぱちと鳴らしていたアマミツキは、ふと背後へと視線を向けると、ぴたりと動きを止めた。

それに気付いたライトとヒカリは、彼女の様子に疑問符を浮かべながら声をかける。



「アマミツキ、どうかしたのか?」

「はい、あの石碑なんですけど……」



 アマミツキが視線を向けていたのは、アイス・エレメンタルが護るようにしていた石碑であった。

あれだけの炎や爆発を受けたと言うのに傷一つないそれには、何やら文字のようなものがいくつも刻まれている。

が――



「何だ、この文字……?」

「読めないな……普通の文字は日本語で書いてあるのに」



 奇妙な記号のようにしか見えないその文字。

視線を向けた白餡も首を傾げるそれに三人が沈黙する中、ゆっくりと近寄ったアマミツキが、その文字をじっと睨みつけるようにしながら声を上げる。



「古代文字、ですね」

「古代文字?」

「はい。この世界で昔使われていた文字、と言う設定です。図書館で読みました」



 度々アマミツキの口から現れる図書館情報であるが、今の所全て信頼できる情報ばかりだ。

これまでもエネミーに関する情報や土地に関する情報など、何かと役立つ情報が多い図書館である。

人があまり見向きもしないであろう場所にそれだけの情報を隠していたという点については、少々製作側の意地の悪さを疑わなければならない所であったが。



(まあ、あの人ならありえるか……)



 大図書館の主、常世思兼。彼女が主導して行ったのであれば、そういった事もありえるか、とライトは思わず苦笑する。

ともあれ、そういった情報をアマミツキがしっかり閲覧していたのは僥倖だっただろう。

それがなければ、この石碑が何なのかすら分からなかった筈なのだから。



「それで、読めるのか?」

「対応表を作れば、何とかいけると思います。少し時間をください」

「ああ、分かった。戦闘後の処理をやっとくから、存分にやってくれ」

「はい、それではお任せしました」



 アマミツキはライトの言葉に頷くと、インベントリの中から紙とペンを取り出していた。

いつもそれを持ち歩いているのかと疑問符を浮かべる所であったが、それに関してはあまり気にしない事に決め、ライトはアイテムの整理を開始する。

とは言え、ライト自身が攻撃に参加していた訳ではないため、グレネードの消費もそれ程ではないのだが。

むしろそれを消費したのはアマミツキであるため、彼女が使う為のグレネードを改めて作る程度しかやる事がない。



「意外と、ダメージは受けずに済んだな」

「って言うかむしろ、ダメージ受けてたら即死だったけどな。にはは!」

「今考えると、ダンジョンを歩き回っていた時以上の綱渡りでしたよね……おかげでレベル上がりましたけど」

「っと、そういえばそうだったな」



 白餡の言葉に頷き、ライトは己のステータスを確認する。

レベルは23。稼ぎもしていたとは言え、短時間でこれだけレベルが上がっているのだから、このダンジョンの難易度の高さが伺える。

他にも、白餡とアマミツキのレベルが21、ヒカリのレベルが20と、全員が20の大台を突破している。

それでも、このダンジョンに挑む最低レベル程度の数値なのではあるが。



「とりあえず《風属性強化》と《グレネード強化》に割り振るか……」

「あたしは《火属性強化Ⅱ》をMAXにしたし、次は《ステータス強化:INT》だな」

「相変わらず他の事する気はないんですね……私はいつも通り、パッシブスキルを順番に上昇、ですかね」



 レベル20達成によるSPボーナス3Pと、他のレベル上昇によるSPで、全員のスキルが満遍なく強化されている。

ボスを倒した事によって上昇したステータスを更に割り振り、ライトは己がステータスを確認する。

風属性の魔法使いとして戦えば十分すぎるステータスであったが、相変わらずまともな戦闘をするつもりは皆無であった。



「そういえば、アマミツキはSPを余らせてたな」

「あの子の事ですから、また突拍子もない事をしそうで怖いんですけど」

「にはは、ありえるなぁ」



 笑うヒカリに、残る二人が『お前が言うな』と言った意思を込めて半眼を向ける。

ただし、ライトが言えた義理ではないが。

どちらにしろ、パーティ全体で変わった構成ばかりにしているのだから、今更と言えば今更だ。

それでしっかり運用できているのだから、それ程問題は無いだろう。

流石に、今回の戦いは相性が良かったおかげではあるのだが。



「しかしこの遺跡、ここがラストだったのかな?」

「ボスがいたんだし、そうじゃないのか?」

「でも、この階層の出口は二つあった訳だし」



 ヒカリの言葉を受け、ライトは再びマップを確認する。

アイス・エレメンタルは確かにボスと呼べるようなレベルの敵であった。

しかしながら、この階層よりも上に向かうと思われる階段は確かに存在しているのだ。

だとすれば、その先には一体何があるのか。

そもそも、このダンジョンは一体何なのか。

様々な疑問が湧き上がる中、ヒカリは額に指先を当てて沈黙する。

少なくとも、現状の情報で判断する事はできないのだ。



「ま、とりあえずアマミツキ待ちかな――」

「はい、読めました」

「って早いですね!?」



 とりあえずもうしばし時間がかかるであろうと考えていたヒカリを遮るように、アマミツキが顔を上げて振り返る。

思わず反射的にツッコミを入れる白餡も慣れたものではあったが、いつもの事であったのでそれは流しつつ、アマミツキは声を上げた。



「正直読んでもよく分からない内容ではありましたけど……まあ、何とか行けましたね」

「相変わらずお前は無茶苦茶だな……」

「褒め言葉として受け取っておきます」



 事実その通り褒め言葉として受け取ったのか、アマミツキはライトの言葉に対して嬉しそうに笑みを浮かべる。

そんな彼女の様子に苦笑しながらも、ライトはその先を促していた。



「それで、何て書いてあったんだ?」

「正直読み取れたのは断片的ですけどね。『《霊王》より産み落とさ』、『月蝕の夜の欠片』、『精霊王の座す場所』、『凍てつく蒼白』、『極点に集う螺旋』……といった感じです」

「さっぱり分からんな」



 見も蓋もないヒカリの言葉であったが、事実その通りであった。

所々気になる単語はあるものの、それらが指す意味を察する事は難しい。

現状で分かる点は――



「《霊王》ってのは何だかよく分からんし、最初の二つは今は置いておこう。その次の二つから連想できるのは……『氷の精霊王』って言った所か?」

「このダンジョンに、そんな存在が……?」

「ふむ。まだ上の階層があるんだし、ありえなくはないか」



 分析するライトの言葉に、ヒカリは口元に手を当てながらこくりと頷く。

氷の精霊王が存在するダンジョン。それだけのネームバリューがあるならば、この規模の大きさにも納得できるというものなのだから。

むしろ、それだけのダンジョンに思いがけず侵入してしまった事の方が驚きであろう。



「そして、最後の『極点に集う螺旋』だが……これって、あの入ってきた扉に彫られていた奴の事じゃないか?」

「ああ、ありましたね。地図の中央部にある山から広がってる螺旋」

「と言っても、それだけだと意味が分かりませんよね?」

「まあ、そうなんだがな」



 白餡の言葉に、ライトは苦笑を零す。

あの扉の彫刻が関係しているのはほぼ間違いないのであろうが、それがどのような意味なのかは分からない。

それこそ、精霊王にでも尋ねない限りは判明しないだろう。



「でも、この石碑にそんな事が書いてあるんですね……あれ?」

「ん? どうかしましたか、白餡?」

「あ、いえ。ほら、この石碑の裏の所……」



 ぐるりと石碑の周囲を回りながら観察していた白餡が、何かに気付き声を上げる。

彼女が示したのは石碑の裏側、先ほどアマミツキが読み取ろうとしていた部分の反対側であった。

白餡の言葉を受け、残る三人も彼女を追いかけるように裏側へと回る。

彼女が示した石碑の裏面――そこには、表側と同じように少しの文字が刻まれていたのだ。



「裏側にも……文字数的には一言だけみたいですけど」

「これだけ裏側に、か。アマミツキ、何て書いてあるんだ?」

「ええと、これは……」



 手元の対応表と見比べながら、アマミツキはその文字列を観察する。

既に表が作ってあるのだ。それならば、読む事はそれ程難しくはない。

さっと、アマミツキはなぞる様に観察し――その言葉を、発した。



「『我らの楽園よ、永遠なれ』――っ!?」



 瞬間――刻まれていた文字が、眩い光を発した。

湧き上がる白い閃光が、四人を照らし、その視界を白く埋め尽くしてゆく。



「きゃあ!?」

「ッ、何だ一体!?」



 驚愕の声も悲鳴も、全てを飲み込んで、白い光が埋め尽くす。

そして、全員が耐え切れずに目を閉じて――そして、周囲は塗り替えられた。

光がおさまり、目を庇っていた腕をどける。

未だちかちかする視界を何とか開き、周囲を確認しようとして。


 ――そして、絶句した。



『――ほう、客人とは珍しいな』



 まず目に入ったのは、蒼い体毛。

否、それしか目に入らなかったといった方が正しいだろう。

それはあまりにも巨大過ぎたために、一瞬では全容を把握する事ができなかったのだ。



「――――」



 ぽかんと、口を開けたまま全員が硬直する。

獣のようにも見えるそれ。全身を蒼い体毛で包まれた魔物。

しかし、僅かに除く肌より見えるのは、確かに鱗のようなものであった。

頭部より生えるのは四本の角、そこから背中へと辿ってゆけば、家一つ分ぐらいはありそうな巨大な翼が一対。

更に辿った先にある尻尾には、氷のように透き通ったとげが何本も並んでいた。

全体的にずんぐりとした印象を受けるものの、その姿は非常に洗練されている、巨大な龍。



「氷古龍、アイシクル・エンシェントドラゴン……」

『我を知っているか。人の子にしては博識だな』



 アマミツキが呆然と呟いたその言葉。

それを肯定した蒼い龍は、どこか笑うような調子を声の中に滲ませ、白く染まった凍える息を吐き出していた。





















今日の駄妹


「……これは、姉さんの強運のせい、でしょうか……?」

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