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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
2章:太陽の少女と氷の龍
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25:射抜く焔の瞳












 《フライト》を唱え、ライトは宙へと駆け上がる。

柱だけが立ち並ぶこの空間ならば、天井の高さを気にする事無く自在に飛び回る事も可能だった。

そうしてライトとヒカリが斜め上に対して飛び込むように接近すると共に、沈黙を保っていたアイス・エレメンタルも動き始める。



『――――――』



 響くのは、ワイングラスを打ち合わせたような音。

甲高い音が広い空間に染み込むように響き渡る。そしてそれと共に、アイス・エレメンタルの体からいくつかの氷の破片が分離した。



「自分で壊れた?」

「いや、違う。しっかり掴まってろ、ヒカリ!」



 氷の身体より分離したのは、自らを抱き締める手のような部分。

指の一つ一つが氷の破片となり、その先端を二人の方へと向けたのだ。

数は計八つ。向けられた氷は鋭く尖り、それだけでも武器になるように思える。

けれど、その氷たちが発したのは、そういった生易しい攻撃ではなかった。


 ――鋭い氷の先端に、青白い光が灯る。



「っ、ライ! 止まるな、動き続けろ!」

「了解!」



 その輝きを見つめ、ヒカリは即座にそう判断してライトへと伝えていた。

そして彼もまた、何の根拠も無いその言葉を信用し、ヒカリの言葉の通りに行動する。

真っ直ぐ、速度を落とす事無く全速力で、ライトは宙を駆け抜ける。

そんな彼の通った場所を――先ほどの青白い光が、光線となって駆け抜けた。



「レーザー!?」

「当たった柱が凍ってる……弾速もかなり速いけど、撃つ瞬間まで追尾しながら来る訳じゃないみたいだぞ。動き続けてれば当たらない!」

「逆に言えば止まったら危ないって事か……分かった、俺は回避を優先する。ヒカリ、攻撃は任せた」

「応ともさ! あたしが頑張って狙いをこっちに引き付けてやる!」



 レベル差が大きい以上、体力の少ないメイジであるライトたちでは、攻撃を受け止める事など不可能だ。

一応、ライトには《オートガード》があるため一撃のみならば耐え切れると思われるが。

だからと言って油断はせず、全ての攻撃を回避するつもりでライトは駆ける。

そしてそんな彼の背中で、ヒカリは詠唱を開始していた。

唱えるのは、最も多くダメージを与えられるであろう魔法。



「『天を穿て、紅き尖塔よ。逆巻き、うねり、飲み込んで焼き尽くせ』」



 しかしそんなヒカリの声に反応するかのように、アイス・エレメンタルは新たな動きを見せる。

その上部が、まるで杭が突き出すかのごとく形状を変化させたのだ。

その奇妙な変形に、ライトは視線を細めて警戒しつつも、動きを止めようとはしなかった。

先ほどの攻撃も、見てからでは回避する事が難しいものだったのだ。

あらかじめ避けづらい攻撃が来るものであると考え、回避に専念する。


 その判断は、功を奏する事となった。


 杭のように伸びた氷がアイス・エレメンタルから分離し、青白い光を噴出させながら飛び出す。

まるで、一つ一つがミサイルであるかのように。

青白い光を噴出しながら飛び交うそれに、ライトは思わず頬を引き攣らせる。



「また妙な攻撃方法しやがって……!」



 飛び出した氷の杭は、一直線にライトたちの方へと向かってきている。

しかも、そのミサイルたちはそれぞれ別の軌道を描きながらも、滑らかな弧でライトたちの事を追いかけてくる。

それはまるで、追尾ミサイルのように。



「おいおい、マジか……! しっかり掴まってろ、ヒカリ!」



 こくりと頷くヒカリの気配を感じながら、ライトは更に駆ける。

弾速はそれ程速くは無い。レーザーと比べるべくも無いが、その追尾力はかなり高かった。

緩やかに弧を描きながら追ってくるミサイルたちに、ライトは舌打ちする。



「『其は天を掴む焔の御手。包み込め――《ブレイズピラー》』!」



 そしてそんな時、ヒカリの魔法が完成した。

発生したのは巨大な炎の尖塔。アイス・エレメンタルの足元から発生した炎の柱は、氷で出来たその身体を炎によって包み込んでしまっていた。

現在ヒカリが使える中でも、最も威力と持続力の高い魔法。

炎に特化した魔法攻撃力を持つヒカリが操るそれは、例え格上相手であろうとも、十分にダメージを与えられるものであった。



「よし! ライ、柱を盾にするんだ!」

「分かった!」



 その言葉を聞き、ライトはすぐさま加速して近くにあった柱の後ろ側へと回りこんでいた。

そして僅かに時間を置き、ライトの動きを追いきれなかったミサイルは柱に激突し、衝撃を走らせる。

それを確認したライトは、柱を蹴ってその場から離脱していた。

彼が一瞬前までいたその場所を、レーザーが狙っていたのだ。



「動き回りながらミサイルを誘導するしかないか……」

「ああ。立ち止まってたらレーザーに狙い撃ちにされそうだぞ。ミサイル一発程度ならまだ当たっても大丈夫かもしれないが、一発喰らったら動きが鈍って連続で喰らう事にもなりかねないな」

「となると、真に警戒すべきはあのミサイルか」



 眉根を寄せ、ライトはそう呟く。

レーザーならば元々単発の攻撃だ。一発が掠って《オートガード》が破られる程度であれば、それ程問題は無い。

だが、ミサイルは一発一発が追尾して放たれる攻撃だ。一撃当たれば、追ってきた別のミサイルが次々と命中する事になってしまう。

そうなれば、体力の低いライトたちなど一瞬で敗北してしまうだろう。



「だが、攻撃パターンが少ないな……」

「ライ、あの腕の部分のパーツ。あれは、たぶん近接攻撃用なんだ」



 数秒おきに放たれるレーザーを回避しながら、ライトはヒカリが指差した方向へと視線を向ける。

そこにあったのは、アイス・エレメンタルの前で交差するように組まれている指がなくなった腕のパーツだ。

指は周囲の砲台だが、今の所あの腕の部分に動きは無い。

ライトたちのパーティが全員後衛という変わった性質を持つが為に攻撃方法が見えてきていないが、ボスである以上近接攻撃も備えているのは当然だろう。



「レッサードラゴンも遠距離攻撃はそこまで多い種類を持っていた訳じゃなかった……動かないエネミーなら、回避に専念すれば何とか行ける……!」



 逆に言えば、鳥の大群相手に回避しながら攻撃できるライトが回避しか出来ないという時点で、非常に厄介な敵である事が伺えるのだが。

相性がいいとは言え、ボスが相手なのだ。油断は命取りである。

そうしてライトが気を引き締めた瞬間、アイス・エレメンタルを包み込んでいた炎の柱が消え去っていた。

継続して与え続けていたダメージであったが、HPバーの減少は5%に届くか届かないかといった所。

それを確認して、二人は奥噛みする。



「ヒカリの攻撃力で弱点突いてもこれか……!」

「やっぱり、弱点まで攻撃が貫通してないか……けど、今の魔法じゃあの外殻を貫くのは無理だぞ」

「となると、やはり白餡に任せるしかないか――っと!」



 再び飛んできたミサイルに、ライトは自由落下するように下方へと駆ける。

ミサイルもまたそれを追い、重力の力を得て加速して――



「おおおおおおッ!」



 ライトは、地面に衝突するギリギリの瞬間に方向を修正していた。

正確に再現された重力によって身体を潰されるような圧力を感じるが、ライトはそれを黙殺する。

そして、その勢いを追い切れず、ミサイルは次々と地面に衝突し、氷の花を咲かせていた。

そんな間にも、ヒカリは再び魔法の詠唱を再開させる。

ヘイトの集中が十分ではないのだ。白餡が大きなダメージを与えれば、そちらにターゲットが向いてしまう。



「しかし、このレーザーだけでも何とかして欲しいもんだな……!」



 動き回っていればどちらの攻撃も回避可能であるが、鬱陶しい事に変わりは無い。

直線に逃げれば命中してしまうため、旋回するように回避しながら、ライトは思わず舌打ちする。

レーザーを放つ指は常に二人の事を指し示しながら輝き続けている。

ライトが攻撃に回る余裕を持てないのは、偏にこの攻撃の数が原因である。

八本のレーザーと、十発程度のミサイル。それらを掻い潜って飛ぶのは、ライトの反射神経を持ってしてもなかなかに集中せねばならない事であった。

ただひたすらに集中し、二種類の攻撃を躱す。ヒカリの二度目の魔法も発動し、アイス・エレメンタルが炎に包まれ――



「はい、どーん」



 ――浮遊する指の一つが、幾重にも重なる爆発の中で砕け散っていた。

その様を目の当たりにし、ライトは思わず目を見開く。



「アマミツキ……!」



 《バックスタブ》――《ハイディング》を発動している間に放った攻撃を大幅にブーストさせるスキル。

《ハイディング》は攻撃を行ってしまえば解除されてしまうため、使用できる状況が限られるスキルでもある。

アマミツキは、それを利用してグレネード類による攻撃を行ったのだ。

彼女自身の攻撃は威力が低く、大したダメージは与えられないが、グレネードの威力はライトの熟練度に依存する。

その為、アマミツキによる攻撃であっても、十分なダメージを与える事ができたのだ。


 ヒカリの攻撃の最中であるため、アマミツキに対する注意は薄い。

例え格上であったとしても、隠れる事に特化した構成であるアマミツキは、アイス・エレメンタルから隠密する事に成功していたのだ。

そしてその間に集中攻撃をする事によって、レーザーの砲台である指の一つを破壊した。

その事に満足げに頷くと、アマミツキは再びその場から走り去り、柱の後ろへと隠れる。



「アマミツキめ、あたしが耐久を減らした指を狙ったな」

「流石。よく見てるな、あいつは」

「にはは。あたしたちの妹だからな!」



 おまけに、大量に爆弾を仕掛けてから攻撃を行ったのか、本体に対してもそれなりのダメージを叩き込んでいる。

戦闘能力は低いのに、十分すぎる働きであると言えた。

故にこそ――彼女は、ここで黙っていない。



「行きます……っ!」



 柱の内の一つ、その後ろから飛び出してきたのは、杖を構えた白餡だった。

既に詠唱を完了させていた彼女は、アイス・エレメンタルへと鋭い視線を向け、声高に魔法の発動を宣言する。



「――《アモンズアイ》!」



 向けられた杖の先に集束するのは、紅色に輝く灼熱の光。

そして次の瞬間、その光は光線となってアイス・エレメンタルを射抜いていた。

ヒカリですら貫けなかった外殻を貫通し、氷の中心で輝くアイス・エレメンタルの核に、狙い違える事無く命中させながら。



『――――――!?』



 アイス・エレメンタルは甲高い音を発する。

その音は、まるで悲鳴であるかのように、不規則に空気を揺らしていた。

HPのバーは、先ほどのヒカリの攻撃と比べれば、信じられないほどの幅で減少してゆく。

弱点に対する弱点属性の攻撃。更に、長い詠唱が必要な高威力の隠し魔法。

これらの条件が重ならなければ成しえなかったであろうダメージに、ライトは思わず息を飲んでいた。



「今まであんまり考えてなかったが、あの魔法って貫通属性持ってるようなものだったのか……」



 使いどころが難しい魔法ではあるが、持続は長く、威力も高い。

こうやって核に命中させ続けている間、アイス・エレメンタルのHPは目に見えて減少し続けていた。

だが、それだけダメージを与え続ければどうなるか――それこそが、この戦いにおける最も大きな問題点であった。



「拙い……タゲが白餡のほうに向くぞ!」

「チッ!」



 ヒカリの言葉と共に、アイス・エレメンタルの残る七つの指が白餡の方へと向けられる。

それを目にして、ライトは舌打ちと共に彼女の方へと飛び出していた。

白餡は、魔法の終了と共に杖を降ろし、自らが狙われている事に気付いて目を見開いている。

魔法を撃った後には、若干の硬直時間が存在しているのだ。

イメージとしては反動を受けて体勢を立て直す時間が必要な感じであるだろう。

動きたいのに動けない、ほんの僅かな時間がもどかしく感じる瞬間。


 ――レーザーが、放たれる。



「きゃあッ!?」



 間一髪、白餡はその場に身を投げ出す事でアイス・エレメンタルのレーザーを回避していた。

しかし、後が続かない。そこまで体勢を崩してしまっては、後に続く氷のミサイルを避けきれないのだ。

降り注ぐミサイルを見上げて白餡は身を固くし――そこに、手が伸ばされた。



「逃げるぞ!」

「ぁ、わ!?」



 地を擦るような低空飛行で駆け抜けたライトが、白餡の身体を抱え上げて離脱する。

上から降り注ぐように飛んできていたミサイルは、地面に衝突して爆裂する。

だが、それでも油断する訳には行かない。二人を抱えれば、たちまち飛行速度が落ちてしまうのだ。

ライトは次なるレーザーが放たれる前に柱の後ろへと退避して、白餡を地面に下ろす。



「よくやった、おかげで何とかなりそうだ」

「あ、は、はい!」



 状況を掴みきれていない様子の白餡は目を白黒させていたが、その様子に苦笑しつつライトはその場から離れる。

ターゲットをもう一度ヒカリに戻さなくてはならないのだ。

しかし、そうすれば勝てるだろう――そう考えて飛び出し、ライトとヒカリは目を見開いた。



「な……!?」

「形が、変わった!?」



 二人が目にしたのは、強固な外殻の全てを散らせ、核を露出させながら周囲へ無数の氷を浮かばせるアイス・エレメンタルの姿。

その姿に言い知れぬ嫌な予感を感じ、ライトはすぐさま白餡がいた場所とは異なる柱の後ろへと身を隠す。

そして、僅かに顔を出しながら様子を見ようとして――その顔の横を、氷の破片が通り抜けた。



「ッ!?」

「……あれ?」



 警戒して振り返り、それと共にヒカリが疑問符を浮かべる。

氷の破片は宙に浮いたまま、攻撃をしてくる様子も無かったのだ。



「何だ? 一体何が――」



 疑問符と共に声を上げようとした、その瞬間。

アイス・エレメンタルの書くが、強い輝きを周囲に放った。

発せられた無数の光線は宙に浮かぶ氷の破片へとぶつかり――レーザーを、異なる方向へと反射させる。



「なッ!?」

「きゃああああッ!?」



 反応しきれるはずも無い、全方位の無差別攻撃。

さらには乱反射した光線によって、柱の後ろも安全地帯ではなくなる。

とっさに柱を背にしてヒカリを庇い、彼女に直撃させる事だけは避けたライトであったが、その一撃によって《オートガード》を粉砕されてしまっていた。

響いた悲鳴は二つ。白餡もまた、ライトと同じ状況であった。

せめてもの救いは、これが単発の攻撃であった事だろう。連続攻撃であったとしたら、《オートガード》が破られた瞬間に次の攻撃手倒されてしまっている。



「くそッ、オールレンジ攻撃とは……!」

「けど、核が露出してる今なら――」

「駄目だ、破片がすぐに戻ろうとしてる! 今から攻撃しても間に合わない!」



 氷を戻している最中は無防備であったが、今から詠唱を開始しても間に合わない。

舌打ちと共にその姿を見送って――ライトは、目を見開いた。

正確に言えば、アイス・エレメンタルの背後に現れた少女の姿に対して。



「自分からバラバラになる奴を倒す常套手段って、内側に爆弾を放り込む事ですよね」



 ひょい、と、パズルが組み合わさってゆくようなアイス・エレメンタルの中に、六個のグレネードを投げ込む少女。

アマミツキは、どこかにやりとした笑みを浮かべながら、ライトの方へと目配せしていた。

それを見て、ライトは思わず笑い声を上げそうになりながら、残る二人の仲間へと声をかけていた。



「ヒカリ、白餡!」

「おう! 『天を穿て、紅き尖塔よ。逆巻き、うねり、飲み込んで焼き尽くせ――』」

「はい! 『来たれ第七の魔、厳格にして偉大なる炎熱の侯爵。過去と未来、騒乱と調和、40の軍を支配せし魔なる者――』」



 氷が組み合わさってゆく中、二つの詠唱が響き渡る。

そしてそれを聞きながら、アマミツキは再び六個のグレネードを取り出していた。



「知ってますか? グレネードは爆破半径に含まれている場合、問答無用で誘爆するんですよ」



 そして、彼女は六個の爆弾を放り投げ、後ろに走りながら退避してゆく。

それと同時に爆ぜた十二個の爆弾が、アイス・エレメンタルの身体を内側と外側から粉砕し、組み合わさる途中の身体を再び周囲へと爆散させていた。



『――――――ッ!?』



 響き渡る、悲鳴のような音。

しかし、それも高らかな二つの詠唱に飲み込まれて。



「『其は天を掴む焔の御手。包み込め――《ブレイズピラー》』ッ!」

「『我は汝が炎の魔眼を喚起する者なり――燃えよ、《アモンズアイ》』っ!」



 ――発せられた形の異なる二つの炎が、アイス・エレメンタルの核を確実に貫いていた。





















今日の駄妹


「素晴らしい兄さんの雄姿ですね。映像を記録できるアイテムがまだ買えないのが残念です」

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