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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
2章:太陽の少女と氷の龍
22/167

20:雪山











 冷たい風を斬り裂き、空を翔る。

身を切るようなその冷気の中でも平気でいられるのは、偏に【ウォームポーション】と呼ばれるアイテムのおかげだ。

アマミツキの生成したそれは、冷たい空気の中でも行動の制限を受けずに活動できると言うアイテムだった。

本来、冷気の中ではAGIが減少することになり、さらにMPが徐々に減少することとなってしまう。

これとは逆に熱気の満ちたエリアもあり、その場合はVITが減少してHPが徐々に減ってゆく事になるのだが。



「――『爆ぜよ、炎熱。集いたる炎はその枷を外し、万物を砕く衝撃とならん――《ブレイズバースト》』!」



 吹き上がるのは円を描く炎。それが一点へと集束し、途端に巨大な爆音を響かせる。

そして、それに連なるように響く爆発音がいくつか。

それは、ヒカリが唱えた魔法に、ライトの投げていたグレネードが巻き込まれて爆発した音であった。

とは言え、問題はない。元より誘爆させる事を狙って投げつけていたのだから。



『キュオオオオォォォォォ……』



 その爆発に巻き込まれて落下してゆくのは、アイスホークと呼ばれる飛行エネミーであった。

山道から更に進んだ雪山のエリア。そこで現れたエネミーは、今までのものとはまた違った様相や性質をしていたのだ。

エネミーのレベルは更に上昇、西の森の最深部よりもいくらか高い。

最低でも敵のレベルは15、高い時は18レベルほどの敵が現れるのだ、入り口でこれならば更に奥まで行けばもっと強力なエネミーが現れる事だろう。

実際の所、現在のライトたちではまだそれは少々きびしい部分がある。

とは言え――



「この辺はもう慣れてきたな」

「にははは。そーだな、結構レベルも上がったし!」



 現在、ライトのレベルは19、白餡は17、アマミツキは16、ヒカリは15と言ったところだ。

以前ケージのパーティに参加していた時ほどではないが、十分に効率の良い狩りが出来ている。

そもそも、普通に考えればこんなバランスのパーティで戦えること自体が異様なのだが。


 この雪山のエリアでは、それにちなんで氷属性のエネミーが多く出現する。

 まず、先ほどの青と白を纏った鳥型のエネミーであるアイスホーク。

山道に出てきたショットバードと同じく、飛行して相手へと向かってくる鳥型のエネミーだ。

小さな氷の槍のようなものを飛ばしてくるか、その冷たい身体で体当たりしてくるかが主な攻撃方法だ。

氷は少々速度が高く、ショットバードが相手のときよりも更なる集中力が必要となる。

が、ライトにとってはそれ程問題のある相手ではない。

氷は一直線にしか飛ばないため、攻撃の軌道が読みやすいのだ。それを用いて易々と攻撃を躱し、ヒカリの魔法で撃墜している。



「さて、地上の加勢だ」

「あいよー」



 アイスホークの全滅を確認したライトは、ヒカリと共に地上の敵へと視線を向ける。

尤も、それらは悉く【パラライズグレネード】と【スリープグレネード】で動きが鈍っているのだが。

ともあれ、地上では召喚を駆使する白餡が鈍った敵を相手に有利に戦闘を進めている。

湯水のようにMPポーションを使用しているが、そのおかげで数での不利を埋める事が出来ていた。


 白餡に向かっていっているエネミーは主に三種類。

まず、ウォルフを白く変色させたようなエネミーであるスノーウォルフ。

これは基本的にウォルフと変わらず、攻撃に氷属性が付加されている事以外は大差ない。

その為対処法もさして変わらず、問題なく倒す事が出来ていた。


 次に、毛むくじゃらの雪男のような外見であるイエタス。

2メートル半ほどの身長を持っており、手は少々長い。毛の長いゴリラが巨大化して、色が白くなったらこうなるかもしれない、と言った感じの外見をしていた。

こちらは少々タフであり、弱点属性を突ける光の魔法攻撃ですら二発以上必要となる、少々厄介なエネミーであった。

とは言え、動きはそれ程素早くはない。スノーウォルフを抑えられているのでれば、近付かれる前に封殺する事も可能であった。


 そして、最後の一体。巨大な角を持っているトナカイのようなエネミーであるビッグホーン。

こちらは体力こそ少ないものの、素早さと攻撃力はそれなりに高い。

現状レベルで劣っているライトたちでは、一撃を受ければ少々きついダメージとなってしまう。

後衛職であるため、ダメージ量はそれなりのものなのだ。



「白餡!」

「はい! 皆、下がって!」



 既に、それらのエネミーに対して一通り《テイミング》を成功させていた白餡は、前衛として使役していたウォルフ、ウルフベア、スノーウォルフ、イエタスを後退させる。

現状、エネミーたちのヘイトが向いているのは白餡および彼女の召喚MOBたちだ。

ならば存分に狙い撃てると、上空の二人はそれぞれの武器を構える。

その内、ライトが構えるグレネードに関しては、以前とは少々違った様相をしていた。

具体的に言えば、小型化していたのだ。ジャムのビンぐらいだったそれが、栄養ドリンクのビンほどのサイズへと。



「『爆ぜよ、炎熱。集いたる炎はその枷を外し、万物を砕く衝撃とならん――《ブレイズバースト》』!」

「よし、そこだ!」



 ライトは両手に三個ずつ、計六個の小型グレネード――【スモールグレネード】を、ヒカリの魔法発動に合わせて投げつける。

これは《生産:グレネード》の熟練度上昇によって現れた新型であり、今まで片手に一個ずつしか投げられなかったグレネードを三個まで同時に投げられるという優れ物であった。

尤も、威力に関しては普通のグレネードよりも若干下がってしまうが、そこは数によってカバーする事が可能だ。

その分消費も激しいが、材料に関してはアマミツキが大量に余らせているため、それ程問題はない。


 投げつけられたグレネードとヒカリの魔法が炸裂し、巨大な爆発を響かせる。

誘爆によるダメージ増加という要素があるかどうかに関してはアマミツキも確認できていなかったが、感覚としては威力が増しているように思えるが、現状それを確認する手段はない。

ともあれ、その二人の一撃によって、体力の減っていたビッグホーンやスノーウォルフたちは吹き飛んでいった。

そして大きくダメージを受けながらも体力を残していたイエタスも、続けて襲い掛かった白餡の《ファイアーボール》や召喚MOBの攻撃によってHPを削りきられていた。

戦闘の終了を確認し、一行は白く染まった息を吐き出す。



「ふぃー、だいぶ慣れてきたなー」

「ああ。結構安定してきたんじゃないか?」

「……私は未だに雪崩が起きそうで怖いんですけどね」



 山小屋のセーフティエリアを基点にしばしレベル上げを行っていた一行は、ある程度のレベルを得るに至ってようやく攻略を再開したのだが、白餡は未だに不安な表情を消せないままでいた。

これだけリアルに作られた世界なのだから、雪崩ぐらい起きてもおかしくないのではないか、と。

しかし、それに対してヒカリは変わらぬ笑顔で声を上げる。



「その時はその時だ! あたしが護ってやろう!」

「何で無駄に男らしく……?」

「だが実際、こうしないとこの近辺のエネミーは倒せないからな……やっぱり、柔軟性が無いのは弱点か」

「そりゃまあ、変わったビルドしてる人の宿命だとは思いますけど」



 ライトは現在、得たSPを《飛行魔法強化》と《グレネード強化》に回し、ついに《飛行魔法強化》をレベル10にしていた。

《グレネード強化》のレベルは現在4、今後は《風属性強化》と平行してレベルを上げてゆく事になるだろう。


 ヒカリのスキル構成は相変わらずだ。レベル11から15まで上がり、得たSPは全て《火属性強化Ⅱ》に回されている。

結果として、《火属性強化Ⅱ》のレベルは8となり、火力も大幅に上昇する事となっていた。

火属性が弱点であるこの辺りのエネミーに対しては、単体狙いの魔法を使えばほぼ一撃で倒す事が出来ていた。

尤も、体力の高いイエタスは別であったが。


 白餡の成長は順当である。《火属性強化》、《氷属性強化》、《フレンドシップ》へ順番にレベルを割り振っており、《火属性強化》は2レベル、その他は1レベルずつ上昇していた。

大きく変わった点と言えば、エネミーを一種類ずつ《テイミング》している事だろう。

アマミツキが大量に余らせたMPポーションを活用しているため、戦闘の度に大量に召喚して操る事ができるのだ。

おかげで変則的な前衛が生まれ、戦闘に余裕が生まれていた。尚、それぞれの召喚MOBに設定された熟練度もそれなりに上昇してきている。


 そして、アマミツキは――



「剥ぎ取り完了しましたか?」

「うおっ!?」

「……びっくりするから《ハイディング》は切ってから近づいてきてと言ったでしょう、アマミツキ」

「ごめんなさい、わざとです」

「なおさら悪いですよ!?」



 《シャドウウォーク》のレベルを10へ、そして《薬品強化》のレベルを6へ上昇させていた。

隠密に特化したその構成は、既に接近されても気付けなくなる領域である。

雪の上を歩いても足跡が残らないと言う点は謎以外の何物でもなかったが。

本人としては普通に地面を歩いているような感覚を得られるらしく、雪の道の上ではその方が楽に進めるため、この雪山に入ってからアマミツキはほぼ常に隠密した状態であった。

白餡だけが徒歩――と言いたい所だが、彼女も少し違う。白餡はイエタスを仲間にしたその時から、この雪男を常に召喚してその背中に乗って移動していたのだ。

実際、かなり楽であるらしい。



「まあまあ、落ち着いて下さい。とりあえず、準備は大丈夫なんですよね?」

「ん、ああ……それはまあ、何とか」

「そうですか。では――逃げましょう」

『は?』



 アマミツキの言葉に、全員が首を傾げて声を上げる。

そんな一行の間を、雪玉がコロコロと転がり落ちていった。

ちらりとそれを見送り、アマミツキは肩を竦める。



「今のはスノーボールといいまして、まあ見たまんま雪の玉が斜面を転がってゆく現象です」

「ええと……それが、何か?」

「これは雪庇せっぴと呼ばれる、山の尾根から雪が張り出している部分が少しずつ落ちて転がってきているものだったりするんですが……端的に言いますと」



 その言葉と共に、一行は小さな揺れを感じ取る。

始めは小さく、けれど徐々に大きくなってきているそれ――



「――雪崩の前兆です」



 一斉に振り返った山の頂上、そこから巻き上がっている白い雪煙。

それを認識した瞬間、全員が後方へと向けて走り出していた。

ちなみに、ヒカリは歩幅が小さいため、ライトがすぐさま背負ってしまっていたが。



「や、や、やっぱり雪崩が起きたじゃないですかああ!?」

「いやー、まさか本当に起きるとは思いませんでした。リアルですねこのゲーム。ちなみに、あれはたぶん表層雪崩ですね。時速は100~200km、普通は逃げられません」

「口より足を動かせ!」



 言っている間にも、一行の後ろへと白い雪の奔流は迫ってくる。

速さの差はあまりにも大きい。いくら走った所で逃げられる筈もないのだ。

けれど――ライトの背中から身を乗り出したヒカリが、ある一点を指差しながら叫ぶ。



「ライ! あそこにクレバスがある!」

「――――!」



 四人の前方、雪に隠れて見えづらくなっている裂け目。

その意味を正確に掴んで、ライトは無言で速度を上げていた。

明確な言葉にするまでもない、彼女の言葉ならすぐに分かる、と。

そしてその本人は、ライトの背中の上で背後に視線を向け、タイミングを計りながら詠唱を口ずさんでいた。



「『天を穿て、紅き尖塔よ。逆巻き、うねり、飲み込んで焼き尽くせ。其は天を掴む焔の御手――』」



 雪崩は接近する。あの白い雪の流れがどれほどの破壊力を秘めているのか、想像も付かないのだ。

けれど、その圧倒的な自然の力を前にして、ヒカリは一切恐れを抱いていなかった。

彼女は真っ直ぐに雪の流れを見つめ、睨みつけている。

クレバスまでの距離はあと少し。けれど、紙一重で距離が足りない。

それを理解して、けれどライトは一切疑っていなかった。


 ――全員を護ると言った、ヒカリの言葉を。



「『包み込め――《ブレイズピラー》』ッ!!」



 雪崩が、全員を飲み込もうとした、その刹那。

立ち上った炎の尖塔が、迫り来る奔流を一瞬だけ二つに分断していた。

それは火属性第四の魔法、威力が高くそれなりに持続するこの魔法は、しかし僅かな拮抗の後に雪崩に飲み込まれてゆく。

けれど、四人がクレバスまで辿り着くには十分すぎる時間であった。

ライトはすぐさま隣を走っていたアマミツキと白餡の手を掴み、二人を引きずるようにして地面の裂け目へと飛び込んでゆく。



「ひゃあああああああっ!?」

「ヒカリ!」

「応ともさ! 《ファイアーボール》!」



 突然の浮遊感により発せられた白餡の悲鳴を他所に、ヒカリはライトの指示の元、近場にあった岩壁へと火の魔法を叩きつける。

その爆風に煽られ、四人の身体は頭上から落ちてくる雪の塊から逃れていた。

クレバスの真下を避け、危険が無いと瞬時に判断したライトは、すぐさま飛行魔法を発動する。



「『風よ、天へと至る翼を我に――《フライト》』!」



 瞬間、がくりと落下速度が減少する。

しかし、今ライトが支えているのは自分を含めて四人分の体重だ。

浮かび上がるには至らず、まるでパラシュートを開いたかのようにゆっくりと降下してゆく。

彼の視線が向いているのは、岩壁が突き出していて降りる事が出来そうな場所だ。

そこまでゆっくりと落下し、乗っても大丈夫そうである事を確認して、ライトはようやく飛行魔法を切る。

そして、一行は深々と息を吐き出していた。



「ふぅ……危なかったな」

「いやぁ、死ぬかと思ったなぁ。にはは」

「わ、笑ってられる精神が分からない……」



 四つん這いになって荒い息を吐いている白餡の様子に、ライトは思わず苦笑する。

と、そこでアマミツキが沈黙したままである事に気がつき、ライトは周囲へと視線を走らせた。

流石に、この状況で黙っているとは思えなかったのだ。

そしてその彼女は――反対側の岩壁の方をじっと見つめて、動きを止めていた。



「アマミツキ? どうかしたのか?」

「はい。あの……あれ、何でしょう?」



 視線の向きを変える事無く、アマミツキはその方向を指差して声を上げる。

ライトや他の面々も、その言葉に首を傾げて彼女の示す方向へと視線を向けた。

そこには――



「……何だあれ?」



 岩壁の途中に何の突拍子も無く、両開きとなる大きな扉が存在していたのだ。





















今日の駄妹


「むぅ、白餡がいたから片手でしたか……私と姉さんだけだったらプリンセスホールドをいただけたかも……いえ、まだチャンスはあります」

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