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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
最終章:南天の輝きと悠久の王
164/167

157:全ての答え












 目の前で話している《魔王》と《女神》――この二人が自分達の両親であると告げられ、ライトとヒカリは困惑を隠すことができずにいた。

確かに、目の前の相手に対して何らかの繋がりを感じていたことは事実である。

とても他人とは思えない感覚。親近感とも違う、どこかアマミツキに対して感じるものにも近い奇妙な実感。

だが、そんな相手が自分達の両親だとは、露ほども思っていなかったのだ。

唖然とした表情のまま固まっている二人に対し、《魔王》は口元を笑みに歪めながら告げる。



「お前達の想像する両親とは違う。先ほども言ったが、お前達はミナの胎から生まれたわけじゃない。先ほども言ったとおり、お前たちはこの世界の太陽と蒼穹から創り上げられた存在だ」

「……意味が、よく」

「お前達の意識の前提が違うからな、理解しがたいのも無理はないが。お前達は、ここがゲームの中だと思っているのか?」



 《魔王》の告げる言葉に、二人は虚を突かれたように目を見開く。

理解が及ばなかった。だが同時に、どこか納得できるところもあったのだ。

しかしそれを声に出すこともできないまま、ただただ《魔王》の独白が響き渡る。



「そも、ゲームとは何か……まあ、そんな禅問答が好きなのは《賢者》ぐらいだろうが。まどろっこしいのは嫌いでな、言ってしまえば、ここは一種の異世界・・・だ。この『永遠の正午』も、『BBO』と呼ばれるゲームも……どちらも、お前達が普段存在している地球とは別の場所に存在している」

「異世界……? でも、BBOはゲームサーバ内に創り上げられたVR空間じゃ……」

「そこまでは間違いじゃない。BBOは、そのVR空間内に《創世ゲネズィス》された一種の異世界、と言うことだ。つまるところ、お前達は日常的に異世界へ旅行トリップしていたわけだな」



 突拍子も無いその言葉。だが、それによって納得できてしまった部分があることも事実だった。

現代技術から考えればあまりにも高度すぎるグラフィック、あまりにも現実的過ぎる五感、そしてまるで本当に生きているかのようなNPC――何のことはない、《魔王》はただ、それが現実・・だったのだと告げているのだ。



「ここもまた一つの現実世界である、と言う前提で話を進める。飲み込めたか?」

「……とりあえず、それを念頭に置きます」

「いいだろう。ここが現実世界であるとすれば、今ここにいる俺やミナもまた現実である。そして、俺たちから生まれたお前達もまた、現実の存在だ。お前達はデータの塊などではなく、確かな肉體を持つ人間だ。ならば、地球と言う世界に存在することも不可能ではない」

「その前提なら、確かにそうかもしれない……でも、太陽と蒼穹から生まれたって言うのは理解できません」

「だが実感はある、そうだろう?」



 不敵な笑みと共に告げられた《魔王》の言葉――それを、二人は否定することができなかった。

今ここが、自分達のいるべき場所であると、一部とは言え確かにそう感じていたのだから。



「人間を創造することは、面倒ではあるが不可能ではない。事実、BBOの中ではこれだけの人間(AI)が生きているのだからな。まあ、お前達の場合は少々特殊だが」

「人間を、創造って……それに、世界も。それじゃあまるで、貴方は――」



 その先を口に出すことはできず、ヒカリは口を噤む。

認めてしまえば、自分達の知っている世界全てがひっくり返ってしまうような気がして。

何故なら、それはまるで。



 ――『神』と形容する他ない存在ではないか、と。



 そんなヒカリの考えを読み取ったかのように、《魔王》は笑みと共に告げる。



「受け取り方は自由だ。お前達に嘘を告げる理由はなく、俺は誓って真実のみを口にしている。お前達は、俺の都合で創造された存在だ」

「……なら、それは何のために?」



 正直なところ、納得できるかと問われれば頷くことはできないだろう。

世界についても、目の前の存在についても、とてもではないが常識では考えられないような言葉を告げられている。

だが、対人において培われてきたヒカリの感覚は、《魔王》の言葉に嘘はないと告げてきていた。

どれだけ問いただしたところで今以上の言葉が出てくることはないだろうと判断し、ヒカリは続けて問う。

――自分たちは、一体何のために生まれてきたのか、と。



「理由は一つ。俺たちが、ここから出られるようにするためだ」

「ここから? この『永遠の正午』とかいう空間からって言うことですか? 出られない?」

「言っただろう、ここは楽園にして監獄だと。俺とミナはここから出ることはできない……そのままではな。まあ、微細な力を持たせた分け身ぐらいなら出せるが……説明が難しいな」



 口を引き結び、《魔王》は虚空を見上げる。

しばし黙考した後、彼は視線を降ろしてライトの問いに答えていた。



「今現在では、ほんの小さな穴が開いているに過ぎない。毛先を突っ込んで僅かにかき回すのが精一杯と言ったところだ。だから、せめて手首ぐらいまでは突っ込めるようにしたい、と言うことだな」

「……要するに、この空間の外に干渉し易くしたい、ってことで?」

「ああ、それで正しい。そのために、俺はお前達を生み出し、そして外の世界に向かわせた。そして、お前達が再びここに戻ってくれば、目的が達成される仕掛けだったという訳だ」



 得意げな表情の《魔王》の言葉に、二人はどう返したものかと困惑していた。

ならば、彼の目的は達せられたと言うことなのだろう。

だが、それで何かが変わったと言う感覚は無い。

果たして、どうなったと言うのか――そんな疑問に答えるかのように、《魔王》は続けていた。



「お前達は、共に空を構成する概念を元に肉体を構築し、そしてそれに耐えうる魂から生まれた。空と言う概念こそが、俺の目的にとって都合がよかったからだ」

「空、ってことは、この場所と外の世界を繋げようとしたってことなんですか?」

「ほう? 自分自身のことだから実感があったか。お前の言うとおり、空には無限の繋がりを示す概念が含まれている。お前たちが外の世界で育ち、そしてこの世界に戻ってくることで、ゆっくりと馴染ませながら世界を繋ぐことができると言うわけだ――馴染ませるために、三年を要したがな」



 三年という言葉に、ライトとヒカリは目を見開く。

まだ、彼が三年前に何かをしたと言ったわけではない。

だが、この場において《魔王》が発したその言葉に、何の意味も無いとは到底思えなかったのだ。



「だから……その時にあたしたちを送り込んだから、それより前の記録がなかったのか」

「一応だが、他にも三年前にした理由はあるぞ? それ以前まで遡ると、現在への影響が大きすぎる。過去改変は因果の制御が非常に面倒だから、極力影響の少ない三年前にしたって訳だ。後は暗示で済むからな」



 またも常識からかけ離れた言葉が飛び出していたが、ライトは首を振ってその考えを追い出していた。

いくら考えたところで、その仕組みなど理解できるはずがない。

《魔王》は真実を告げる意思こそあれど、詳細に説明するつもりなど一切ないのだから。

ともあれ、今の言葉を解釈するならば――



「俺たちは、三年前に生まれたと言うことですか」

「その通り。それ以前の記憶は俺たちが作ったものだ。離して配置したのは、お前達に互いを意識させるためだ。お前達にとっては、一緒にいないこと自体が不自然な状態だからな」

「……あたしたちの過去に矛盾があったのは、それが理由」



 呟き、ヒカリは腰掛けた椅子に深く体を沈める。

三年よりも前の記録がなかった理由は、言葉にしてしまえば単純だ。

ただ単に、それ以前では三久頼斗も六木光も存在していなかったというだけなのだから。

とても信じられる話ではなかったが、それでも二人の体は理解していた。

こここそが自分達の居場所だと――この場こそが、自分達の生まれた場所だと。

苦悩と共に沈黙する二人に、しかし《魔王》は甘やかすような真似はしなかった。



「どこで生まれて、どこから来たのか。その答えは示したぞ? ならば、後はお前達だ」

「っ……俺たちは、どこへ行くべきなのか」

「お前達がこの場に足を踏み入れた時点で、俺の目的は達成されている。故に、お前達は既に因果に縛られてはいない。どこへでも行けるだろう……これまでの礼だ、手助けをしてやってもいい」



 あくまでも傲慢に《魔王》は告げる。それが本心からの言葉なのか、或いは偽悪的なものなのか――それは、ヒカリにも判別ができなかったが。

彼はあくまでもその調子を崩すことなく、ライト達に対して薬指と小指を除いた三本の指を示す。



「俺がお前達に示してやれる選択肢は三つだ。一つ、このままもとの場所へと戻り、これまで通りに生きていく。何も変わりはしない、ただ普通の人間として生きるだけだ」



 中指を折りながら、《魔王》は一つの選択肢を示す。

言うなれば現状維持だろう。これまで通りの生活に戻るだけ、何も変わらない。

ライトはあの児童養護施設で、そしてヒカリは引き取られたことになっている家で。

作られた過去を捨てて、人間として生活していく――ただ、それだけの話だ。



「二つ。これまでの偽りを嫌うならば、別の世界へ移動させてやることもできる。お前達の望む人間を連れて行くことも許可しよう。俺の道具としてのこれまでを否定し、お前達自身として生きようとするならば、それを手助けしてやる」



 人差し指を折りながらの言葉に、二人がまず思い浮かべたのはアマミツキの姿であった。

人間関係において最上を定めていたライト達にとって、三人の家族は何よりも重要なものとして認識されている。

言い換えれば、それ以外の人間に対して一線を引いていたのだ。

だからこそ、それまでの全てをリセットしたとしても、三人で生きていくことに否はない。



「そして、三つ――お前達二人が、再び元のように溶け合い、この世界の天空で一つになること」

「え……?」

「人としての生を捨て、再びこの空で一つになる。お前達が願いに抱いた姿の通り、太陽と蒼穹として、この空で輝き続ける。これが、俺の示す三つ目の選択肢だ」



 最後の指を折り曲げ、《魔王》は告げる。

その言葉と、そしてイメージに――二人は、言い知れぬ幸福感のような感覚を抱いていた。

言葉で言い表すことはできないだろう。あるべきものが、あるべき場所へと戻る、ただその実感だけがある。

二人で溶け合い一つになること。果たしてそれは、どれほど幸福なことなのだろうか。

その想像に、二人はただ喉を鳴らすことしかできなかった。

そんな二人の姿を見つめ、《魔王》は薄く笑みを浮かべる。まるで、何かに期待するかのように。



「決断はお前達に委ねよう。お前達がどのような選択をしても、俺はそれを支持し、支援しよう。働きには正当な対価を……短いとはいえ、お前達が一生をかけてこなした大仕事だ。存分な対価をやらねばならん」



 三年。それを少ないと見るか多いと見るかは、この場の誰にも分からない。

だが、ライトとヒカリにとって、この三年間は唯一真実と呼べる時間なのだ。

彼らの全てと言ってもいいその時間に見合う報酬は用意しなくてはならない――それこそが、《魔王》として君臨する男の矜持だ。

そして、それまで沈黙を保っていた《女神》もまた、突然に動きを見せる。

立ち上がる動作と共に姿を消した彼女は、一瞬でライト達の後ろに出現し、二人を同時に抱きしめていたのだ。



「悩んでもいい、迷ったっていい。でも、お願い。どうか、あなたたちが幸せになれる道を選んで」

「俺たちが……」

「幸せに、か」

「例えどのような形でも、あなたたちの運命を歪めてしまったことは事実だから……だからどうか、幸せになって。わたしも、レンも、絶対に手伝うから」



 抱きしめてくる《女神》の言葉と温もりに、細波立つ二人の心はゆっくりと冷静さを取り戻していく。

そして、同時に思考が巡るのは、自分達にとっての幸福と言う言葉だ。

果たしてそれが何なのか――それは、考えるまでもないことで。



「ヒカリ」

「うん、ライもそう思ってるよな」



 視線を合わせ、二人で微笑み合う。

答えは最初から決まっている。これから先どうするかなど、問われるまでもないことだ。

だからこそ、二人は自信を持って、試すような表情の《魔王》を正面から見つめ返していた。



「俺たちの選ぶ答えは決まっている」

「だから、どうかそれを見届けて欲しい。例えどうであれ、貴方達はあたし達の両親だから」



 そしてその言葉に、《魔王》と《女神》は、共に嬉しそうに破顔して見せていた。

まるで、本当に子供の成長を喜ぶかのように。



「よく言ったな、いいだろう」

「あなたたちの答え……わたしとレンが、見届けるよ」



 頷き、告げる。

その、答えは――





















今日の駄妹


「そう……ずっと、一緒にいられるんです。だから、どうか――」

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