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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
最終章:南天の輝きと悠久の王
155/167

148:柱の先に












「いいのかよ、ヒカリ? 先越されちまってるぞ?」

「いやいや、別に一番最初に到達しなきゃいけないって訳でもないしな。別に構わないさ」



 若干悔しげな様子を交えるダンクルトの言葉に、ヒカリは苦笑しながらも首を横に振る。

現在、ミフラミスルでは『シルバーレギオン』の面々が柱の内部の探索を開始しようとしている。

彼らの戦闘部隊も全てがこのミフラミスルに到達できたわけではないのだが、既に10パーティがこの場に揃っているのだ。

どうやらグレイスレイド支部のメンバーも集まってきているらしく、かなりの大所帯となっている。

流石は、ゲーム内でも最大規模を持つギルドであると言えるだろう。

そんな彼らの様子を遠巻きに眺めながら、ヒカリは集合しているメンバーに対して声を上げる。



「確かにアドバンテージは取られてるが、行動できないものは仕方ない。あたし達の装備はまだしも、ゆきねのゴーレムの修復はまだ完全には終わってないしな」

「ただ修復するだけなら終わってただろ、お前……」

「あっははは、いいじゃない。このまま進んでこれ以上敵が強くなったら、太刀打ちできなくなるのは事実なんだしさ」



 ゴーレムにレベルの概念は存在せず、ゴーレム自身のランクと作成した時点での品質の高さがその強さに影響する。

つまり、ゴーレム自身が成長することはなく、パーツの品質を上げることで強化されていくのだ。

ディオンは間違いなく現状で最高クラスのゴーレムであるが、それでもフロストコロッサスとの戦いでは力不足を感じざるをえなかった。

そのための強化を含めた修復中なのだが、それに時間がかかってしまっているのだ。



「生産と修復をすれば、その分ゆきねのレベルも上がる。その素材のためにあたし達が狩りをすれば、あたし達のレベルも上がる。今は準備期間なんだ、急ぎたいのは否定しないが、焦る必要もない」



 ちらりと旬菜の様子を横目に見て、ヒカリはそう告げる。

あまり長々と時間をかけたくないのは事実だが、急ぎすぎて失敗してしまったのでは意味がない。

しっかりと下準備を行った上での挑戦こそが最短の道となるだろう。


 改めて準備に必要な時間を計算しながら、ヒカリは柱の方へと視線を戻す。

柱の扉を開き、続々と内部へと足を踏み入れていく『シルバーレギオン』の面々。

素早く進入して言っているが、決して無茶な突入というわけではない。

先行部隊は探索に重きを置くスカウト系統のプレイヤー達で構成されており、短い時間で素早く周囲の探索を終えている様子が確認できた。

基本的に、罠などが張り巡らされているダンジョンにはあまり潜らないため、その様子を感心しながら観察する。

――そんなヒカリたちの視界の端を、黒い影が横切っていた。



「ん……うん? な、何だ?」



 反射的に動くものを視線で追いかけ、その姿にヒカリは目を見開く。

その先にあったのは、紛れもなく『黒い影』としか呼称できないような存在だったからだ。

黒い、だが人型であることだけは確認できる影。

それは一つや二つではなく、無数に揺らめきながらこのミフラミスルの街にあふれ出していたのだ。



「これは……何だ、一体!?」

「おいおい、あの連中、何かトラップでも踏んだのか!?」



 ライトは驚きながらもヒカリをいつでも乗せられるように低く構え、ダンクルトも警戒しながら拳を握る。

『碧落の光』のメンバー全員が警戒態勢へ移行するが、しかし黒い影の群れは反応を示すこともなく、各々が勝手に動き回るばかりであった。

そんな影達の姿に困惑しながらも、アマミツキはじっと観察を行い――ふと、声を上げる。



「……ここに、住んでいる?」

「アマミツキ、どういうことだ?」

「見てください、兄さん。この黒い影達の動き……まるで、街に暮らすNPCのようにも見えます」



 その言葉に目を見開き、ライトは――否、『碧落の光』のメンバーは揃って周囲の影達の様子を観察し始める。

黒い影達は、まるでライト達を認識していないかのように動き回り、周囲の建物を利用しているような様子もある。

その姿は、確かに日常生活を送るNPC達と何ら変わらないもののようにも思えた。

しかし、家などのオブジェクトが動いているような様子はなく、実際に生活をしているような気配は一切存在しない。



「実装されていないNPC? けど、こんな現象は聞いたこともないし、何故今のタイミングになって……」

「タイミングは明らかに『シルバーレギオン』が柱に踏み込んだ時でしたけど……」



 当の『シルバーレギオン』はと言えば、この現象を目にして困惑しつつも様子を見ている。

今の自分達の行動が原因である可能性を考えているのだろう。

これまでプレイヤー達以外の存在が見つからなかったミフラミスルの街で、唐突に起こった変化。

それを無視することは誰にもできなかったのだ。



「柱に入るのが発生原因であるとした、何故あたし達の時は何も起きなかった?」

「確証のある答えは提示できません。私たちが例の資格を持っていたからか、一定以上の人数が必要だったのか、ある程度のプレイヤーがこの街に入れるようにならなければいけなかったのか……明確な答えを得ることは現状不可能です。ですが――」

「……こうも大きな変化イベントが起きたんだ、何かしらのアクションがある可能性が高い、と」

「ええ、その通りです」



 ライトの言葉を肯定しながら、アマミツキは注意深く周囲の様子を探る。

現状、変化と呼べる変化はこの影が現れたことだけであり、他に何かが起こっている様子はない。

だが、何の説明も無しにこれだけの変化を及ぼすこともないだろう。

そう考えたアマミツキの思考を肯定するかのように――一つの声が、響き渡った。



『この地に……足を踏み入れし、者たちよ――』



 響き渡る、声。

低く、重く、まるで地面すら揺らしているのではないかと錯覚するほどに力強い声音。

しかし、その声の発生源を辿ることはできず、『シルバーレギオン』を含めたプレイヤー達は皆緊張した面持ちで周囲の警戒を行う。



『ここは……《女神》に選ばれし英雄たちの休む場所……封印都市ミフラミスル』

「英雄? 《女神》に選ばれた……なら、この影達は」

「その英雄って訳か? 影だけじゃよく分からんけど」



 動き回る影達の様子だけでは、その姿を把握することはできない。

一応シルエットだけは把握することができるが、分かることは精々その性別程度である。

しかし英雄と呼ばれている以上、その力はかなり強力なものであることが予想される。

この影達が敵か味方かわからない以上、警戒を怠ることはできなかった。



『《女神》の地に、足を踏み入れし者達よ……汝ら、偉大なる王への拝謁を望むならば――』



 ぞわり、と――総毛立つような感覚が、ライト達を襲う。

それは、その声の中に感情が込められたためではない。

発せられた言葉が、確かに空気を震わせ、その発生源を知らせるものへと変わっていたためだ。

プレイヤー達の視線は、その方向へと一斉に向けられる。このミフラミスルの中心に聳え立つ巨大な柱――そこに巻きつくように顕現した、巨大なドラゴンの姿へと。



『――我、幻燈龍クラグスレインの試練を突破して見せるがいい』



 それは銀色の、まるで鏡のように透き通った鱗で覆われた、巨大な龍。

どちらかといえば東洋龍に近いその姿だが、巨大な翼も存在しており、まるで柱を包み込むように地上を睥睨している。

琥珀色の瞳の中間で輝くのは、サファイアのような宝玉。

三つ目の瞳のように輝くそれを誇るようにしながら、幻燈龍クラグスレインはプレイヤー達へとそう宣言していた。



「ドラゴン……しかも、少なく見積もっても老龍エルダークラスですよ。下手をしたら古龍エンシェントに届きます」

「ソルベ……いや、あの遺跡で会った氷古龍に届くような化け物か? そんな相手に勝てるのか……?」



 最強の種族といっても過言ではないドラゴンの、更に上位種である存在。

ソルベもその一角に当たるのだが、まだまだ幼生であるソルベにはあのドラゴンたちのような強大な力を発揮することはできない。

一応、一時的に力を発揮することは可能だが、それは白餡の最大のスキルである《オーバード・ドラゴンブレス》を発動した短い間だけだ。

その状態を長時間維持できるようなことがなければ、直接戦うことはまず不可能だろう。

だが――



「試練、と言っていますからね……直接対決するとは限りません。と言うか、直接戦える相手だとは思えません」

「まあ、瞬殺されるのがオチだろうしな」

「油断は禁物……タカアマハラならやりかねない」

「それは……なぁ」



 到底勝てるとは思えない相手の姿に、ダンクルトは小さく嘆息する。

とは言え、直接対決の可能性がないわけではないため、旬菜の言葉を否定できる者もいなかったのだが。



『拝謁を望むならば、英雄たる証を欲するならば――我が試練、見事打破して見せるがいい。待っているぞ――』



 一方的に告げ、幻燈龍の姿は空気に霧散するように薄れていく。

それと共に、街の中にあふれていた黒い影達の姿もゆっくりと消え去っていった。

街は元々の静けさを取り戻し、まるでその名の通り、幻であったかのように全ての痕跡が消失する。

だが、プレイヤー達が受けた衝撃は、先ほどの出来事が幻ではなかったことを告げていた。



「やはり、イベントがあったって訳か……にはは、これは面白くなってきた」

「あれを見てそういえるのは流石だが……直接対決だったらどうするんだ、あれは流石に勝てる相手じゃないぞ?」

「古龍どころか老龍ですら私達には無理な相手ですよ、姉さん。正直、私も一切の手立てが見つかりません」



 先ほども幻燈龍の識別を行っていたのだが、一切のステータスを識別することができなかった。

それはつまり、ライト達と幻燈龍の間には大幅なレベル差が存在していることを示しており、他のエネミーと比べてレベルの値よりも強大なステータスを有するドラゴンが相手では、勝ちの目など一切存在しないことを示していた。

しかし、そんなアマミツキの言葉に対し、ヒカリは小さく笑いながら返す。



「直接戦ったらその通りだけど、クラグスレインはあくまでも試練って言ってたからな。もうちょっと楽な相手である可能性も十分にある。現状じゃどっちとも言えないが……まあ、その辺はあいつらが調べてくれるだろ」



 視線の先にいるのは、幻燈龍の衝撃を引きずりつつも、号令の下に再び柱へのアタックを開始した『シルバーレギオン』の面々だ。

彼らが――と言うよりもクライストが――幻燈龍と戦う可能性を考慮していないはずがない。

だがそれでも、柱へのアタックには万全の体勢で臨んでいたのだろう。

彼らは一度引き返すようなこともなく、そのまま挑戦を開始していたのだ。



「できれば混ざってどんな具合なのか見てみたい所ではあるが……あたし達はまだ動けないし、そもそもあの中には加えちゃくれないだろうな」

「情報を秘匿される可能性もありますし、できるだけ自分達の目で見ておきたいところでしたけど……まあ、仕方ないですね」



 同行してもしっかりとした連携が取れるとも限らず、そもそも屋内ではライトとヒカリが十全に力を発揮できるとも限らない。

その状態では精々が『寄生』にしかならないだろうと、アマミツキは嘆息と共に首を振る。

ともあれ、今できることは早く準備を整え、この柱に挑戦することだろう。

『シルバーレギオン』のメンバー全てが柱の中へと足を踏み入れていったことを確認し、ライト達もまた踵を返す。

目指すは、スノウワイバーンの素材による全員の装備の更新と、ゆきねのゴーレムたちの修復だ。

『碧落の光』の面々は、スノウワイバーンを狩りにミフラミスルの外へと赴いてゆく。


 ――『シルバーレギオン』の部隊が全滅したとの知らせを確認したのは、その狩りを終えてからのことであった。





















今日の駄妹


「見事にフラグ立ってましたね、『シルバーレギオン』。まあ彼らも分かってたでしょうけど」

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