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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
最終章:南天の輝きと悠久の王
154/167

147:しばしの休息












 掲示板に公開されたミフラミスルの情報は、当然ながら大きな波紋を呼ぶこととなった。

山の中に隠された封印都市、その光景にロマンを抱く者。噴水があることを確認し、便利な中継地点の発見を喜ぶ者。人がいないことに注目し、実装前のエリアに迷い込んでしまったのではないかと疑う者。そして、何故そんな街を発見できたのかと騒ぎ立てる者。

反応は多種多様であったが、ヒュウガに挑んでいるプレイヤーが一様に目指すようになったことだけは確かであった。

ミフラミスルには四箇所の入り口があり、それぞれが山の特定の場所に繋がっている。

例によって見つけづらい場所にあったものの、一度見つけてしまえば発見はそれほど難しくはない。

問題は――



「……やっぱり、フロストコロッサスに苦戦してるみたいだな」

「まあ、そう簡単に勝てる相手じゃないしな」

「参加パーティ数で強化される仕様だったとは……大規模ギルドも苦戦してますね」



 阿鼻叫喚に包まれている攻略スレを眺めながら、ライトたち三人はミフラミスルの探索を続ける。

現在、ミフラミスルに足を踏み入れることができているプレイヤーはごく僅かだ。

あの『ビーストキング』の攻略パーティですらフロストコロッサスを前に敗北してしまったのだから、その難易度の高さが伺えるだろう。

尤も、パーティ数で強さが変わることを突き止めたのも彼らであったため、ただで転んだ訳ではないのだが。



「通行証を預けてくればもう一度戦闘することも可能、と……まあ、よくそこまで調べてくるもんだ」

「ふむ……兄さん、もう一度戦いますか?」

「勘弁してくれ。氷属性の素材は十分だし、しばらく相手にしたくない」



 酷い消耗戦となったフロストコロッサスとの戦いを思い返し、ライトは深々と嘆息を零す。

装備の修復が完了していない現状では、もう一度戦うことは不可能だろう。

少なくともそれが終わらなければ周囲での狩りも難しく、特に損耗の激しかったゆきねのゴーレムたちの修復を考えると今しばらくの時間が必要だ。

その上で、周辺での狩りから得られた素材での装備の強化も必要なのである。

次の行動に出るには、それなりに時間を必要としているのだ。



「……もどかしいな」

「ヒカリ? お前やっぱり、あの柱のこと――」

「お前だって同じだろう、ライ。早いところアレを登りたい……お前だって、そう思ってるはずだ」



 その言葉を否定できず、ライトは街の中央に立つ巨大な柱を見上げる。

先は見えなかったものの、延々と上まで続いていくあの柱の内部。

それが山の頂上まで続いているという保障などどこにもない――だが、どこか確信を持ってヒカリは考えていた。

あの先には、自分たちが求めているものがある、と。



「慌てても仕方ないのはわかってるし、万全の状態で挑みたいのも確かだ。けど、あの先にあると思うと、な」

「あの先か……確かに、すぐにでも見に行きたいのは事実だが、それでも準備は念入りにしないとな」

「ふむ……まあ、そうですね」



 二人の話す様子に、アマミツキは僅かに視線を細める。

ライトたちの言葉の中に、どこか違和感を感じていたためだ。

だが、その明確な理由までは捉えきれずに、アマミツキはひとまず疑問を脇において声を上げる。



「しかし、あの《霊王》が言っていた言葉はどこのことを指していたんですかね?」

「《霊王》の? 何か言っていたか?」

「ライ、忘れたのか? この山の頂上に到達して門とやらに干渉するには、あのレイドクエストを攻略する必要があるんだぞ?」

「あー……そういえば、確かにそんなことも言ってたか」



 既に随分と昔のことにも感じられる言葉を記憶の内から掘り起こし、ライトは若干乾いた笑みを浮かべていた。

忘れていた言葉であるが、それが事実ならば、今この山を登ってきている者達の中で、最終地点まで辿り着けるのはライト達しかいないということになるのだ。

しかしそれを知っているのもおかしいため、他人にそれを伝えることは出来ない。

何ともいえない気まずさを感じ、思わず視線を泳がせる。



「そう、だな……まあたぶん、あの柱の先で何かあるんじゃないか?」

「何があるかまでは流石に読めないけどな。あんな門番がいたんだし、しばらくは強い敵を出さないで欲しい所だけど」

「そこまで優しくしてくれるもんかね、タカアマハラは」



 望みは薄いとばかりに肩を竦め――ふと、静かな街の中に重い音が響き渡るのを察知する。

それは、ミフラミスルの四方にある巨大な門が開く音。

新たなプレイヤーが、フロストコロッサスを降してこの街に足を踏み入れた瞬間であった。



「おや、新しい連中が入ってきたか」

「あたし達を含めて四組目か……今度はどこの連中かね」

「多少はにぎやかになりますかね。その分だけ私たちに集まる視線が増えますけど」

「にはは、まあ有名税ってやつだな」



 憂鬱な調子で呻くアマミツキに対し、ヒカリは特に気にした様子もない。

他者との折衝を引き受けている彼女の言葉には一切の動揺はなく、その様子にライトとアマミツキは自然と安心感を覚えていた。

しかし、やはり誰が入ってきたのかは気になるものだ。一体誰がこの街に辿り着いたのか、確認のために三人は歩き出す。

新たな街に足を踏み入れた際のプレイヤーの行動は、ほぼ決まっていると言っても過言ではない。

即ち、噴水の登録だ。



「しかし、あんまり人が増えてきたって感じはしないな」

「元々この街が静かですからね。多少増えたところで、人なんていないに等しいでしょう。まあ、大型ギルドが攻略して来てますし、そのうち賑やかになるんじゃないですかね?」

「そうだなぁ……ま、いつまでこの山にプレイヤーが集まってるかって所でもあるんだが」



 果たして、多くのプレイヤーがこの山に集ったことはどのような結果をもたらすのか。

予想以上に大きな流れとなりつつある現状に、ヒカリは期待と不安がない交ぜになった感情を抱く。

元は、あくまでも自分達がタカアマハラに――《魔王》と《女神》に接触しようとしたがための挑戦だ。

この山でどのようなイベントが待ち構えているのかなど全く知らず、求めている答えを得ることができるのかどうかもわからない。

けれど――



(この妙な、確信にも似た感覚……前もあった、《霊王》と戦った時の感覚にも似てる。だけど、少し違うのは……とても、心地よい感じがすること)



 見上げる視線は、遥か上方へ。

いずこからか感じる、包み込むような不思議な感覚。

その奇妙な感覚が、その先にある何かの確信を与えていたのだ。

ヒカリにも、そしてライトにも。



(この間から妙に強くなってきているあの感覚……ライも、動きが少しだけ変わってきている気がする。そして、この山を登り始めてから、その傾向も顕著になってきてる)



 視界の外の情景を捉えられるようになったライト、そして同じく変化し始めている自分を自覚しているヒカリ。

少しずつ強くなるその感覚は、果たして何を示しているのか。

思考は深く、己自身の不確かな感覚を確かめるように霞の中へと手を伸ばそうとして――静かな街に響き渡った歓声に、ヒカリは意識を目の前へと戻していた。

大きな通りの先、噴水を前に腕を振り上げているプレイヤー達の方へと。



「あれは……『シルバーレギオン』の第二軍団、か?」

「そうみたいですね。3パーティとなると、比較的少数精鋭での攻略でしたか」



 フロストコロッサスの攻略は続いており、現在のところでは、5パーティによる攻略が最も味方戦力と敵戦力のバランスが有利であるとされている。

尤も、これは一般的な話であり、高レベルプレイヤーが集っていた場合はその限りではない。

ライト達がその例に当たるだろう。彼らの場合、特に一般的な戦闘方法を取っていないため、相手を不利な状況に押し込む戦闘方法を得意としている。

ライト達のレベルが高く、尚且つ有利な状況を作り上げたが故の勝利だったのだ。



(あたし達のような作戦を使ったのかどうかはわからないけど、3パーティとなれば苦戦は必至……かなりの精鋭っぽいな。第二陣でそれだけの実力がある辺り、『シルバーレギオン』は流石の地力の高さというべきなのか)



 準大規模ギルドでもおよそ不可能だと思われるその戦果に、ヒカリは素直に感嘆の吐息を零す。

1パーティが限度の小規模ギルドには無縁な話であった。

尤も、規模を大きくするようなつもりもないため、特に羨むようなこともなく新たな到着者たちを観察し――ふと、その視線がぶつかる。

恐らくリーダーを務めたと思われる、『シルバーレギオン』隊長格の共通装備を纏った男性プレイヤー。

どこか外国人らしい造作をした金髪の男は、ヒカリの姿を見るとその表情を歪めていた。

そこから伝わる悪感情に、ヒカリは僅かに視線を細める。

同じくそれに気づいたライトは、鋭く囁くようにヒカリへと向けて声をかける。



「ヒカリ」

「大丈夫、わかってるよ。話は聞いてたしな」



 この山を登り始めた当初、『荒覇吐』の傾櫻たちが告げていた忠告を思い返す。

大型ギルドのメンバーの一部は、『碧落の光』や『コンチェルト』が情報を独占していると考えている――尤も、別に濡れ衣というわけでもなく、事実であることは確かなのだが。

しかし、有しているものは公開できない情報ばかり。更に言えば、他のプレイヤーにとっては必ずしも益になるとは限らないものだ。

敵視されても反応に困る、というのがヒカリにとっての正直な感想だが――相手からすれば、そう単純な問題ではない。



「ほう、先人様の登場か。随分とのんびりしているのだな」

「準備が終わってないからな。それより、到達おめでとう。流石は『シルバーレギオン』の第二戦闘部隊だ、この人数でフロストコロッサスを倒すとはね」

「フン、皮肉か? 我々は真っ当にプレイしているプレイヤーだからな、チートを使っているお前達には勝てんさ」



 進み出た隊長の言葉に、ヒカリは笑みを浮かべたまま彼の後ろに並ぶほかのメンバーへと視線を走らせる。

彼の話に同調しているのは、おおよそ三人程度といったところだろう。

少なく感じるが、十八人パーティの四分の一程度と考えるとなかなかの人数だ。

正面に立つ隊長の名は『ゼスティン』。敵意を隠そうともしないその姿に、ヒカリは楽しげに笑みを浮かべる。



「タカアマハラの作ったこのゲームで、チートをする方法なんてものがあるのなら聞いてみたいもんだが……あたしは、あたし達にできる全てを発揮しただけだ。それで勝てる相手なら勝てるし、勝てない相手なら勝てない。それだけだろう?」

「チッ……だが、お前達がここで足踏みをしている間に、アドバンテージは既に消え去った。ここから先は『シルバーレギオン』が踏破する」

「にはは、いいんじゃないか。『シルバーレギオン』ならそれだけの力があるだろう」



 敵意を向け、それでも正面から打ち破ろうとしているゼスティンの言葉に、ヒカリはただ笑いながら頷く。

握っている情報を差し出せといわないのは、ただ自分達の力で打ち勝ちたいと考えているからだろう。

他者に関する嫉妬の感情が強くとも、彼は『シルバーレギオン』の第二戦闘部隊隊長。

ただ愚昧な人間を、ギルドマスターであるクライストが任命するはずがない。

そして、そんな愚直な姿に対し、ヒカリは悪意どころか好感すら覚えていた。

くすくすと笑いながら、ヒカリは彼に対して偽りなく告げる。



「あたし達は規模が小さいギルドだからな。フロストコロッサス戦での消耗を回復するにも時間がかかる。けど、そちらは生産職も数が揃ってるんだし、補給も短く済むだろう。同じ土俵じゃ、あたし達に勝ち目はない。是非頑張ってくれ」

「……何なんだ、お前は」



 絞り出すようなゼスティンの声。それに対して、ヒカリは苦笑しか返すことはできなかった。

これはヒカリ自身の気質の問題だ。己のギルドメンバーを、そしてライトとアマミツキを特別扱いしてはいるが、ヒカリにとっては誰であろうとも照らし導くべき存在だ。

己の中で強くなってきているその認識を噛み締めながら、己へと向けられる視線の全てを受け止める。

ゼスティンの感情はどこか困惑に近いものへと変化してきているが、強い敵意を向けてきているものも存在する。

だが、それすらも受け止めて、ヒカリは苛立つライトを押さえながらニコニコと笑みを浮かべていた。



(あたしはもっと打算的だと思っていた。手の届く範囲を導くのが精一杯だと。でも、何故だろうな――)



 敵意も、害意も――それすらも愛おしいと、可愛らしいとすら感じる。

そんな己の感覚自体に混乱しながらも、決してゼスティンたちに対して悪感情は抱かぬまま、ヒカリはただ偽りなく告げていた。



「今のところ、この街で見つけたものは特にない。精々、あの柱の中に登り階段があるぐらいだが、あたし達はまだ行動できる段階じゃないんで調べてはいない」

「……何故、それを教える?」

「隠す理由もないからな。有用な情報が無くて済まないが」

「ちっ……総員、マスターへの報告のために帰還だ。無駄な時間を使った」



 踵を返し、ゼスティンは部隊を引き連れて噴水へと向かう。

王都にいるクライストへの報告のためだろう。戦後処理も必要となるため、移動は必須のはずだ。

一部強い視線を向けてくるものたちも、それ以上の口を挟むことはない。

背を向けて去っていく彼らの背中を見送り――ヒカリはただ、己の感情を隠すことも無く、ただただ楽しげな笑みを浮かべていた。





















今日の駄妹


「ん……姉さん? 気のせい、でしょうか?」

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