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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
最終章:南天の輝きと悠久の王
151/167

144:攻略法











「全員、作戦は理解したな?」

『応よ。しっかし、綱渡りな作戦だよなぁ』

『ん、いつものこと』

『あははは、違いないね』



 ケージの告げた作戦に、笑いながらそう応じたのは『碧落の光』の面々だった。

ヒカリやアマミツキの、限界ギリギリの無茶振りにもいい加減慣れている彼らは、笑いながらフロストコロッサスへと向かい合う。

『コンチェルト』の面々は多少緊張はしていたものの、それでも気後れするようなメンバーは一人としていなかった。

やることは単純なのだ。あとは、少しの工夫をすればいいだけの話なのである。



「力押しではあるが……最も確実な手だ。根競べと行こうか、フロストコロッサス!」



 ライトたちが旋回することでその場に縛り付けているフロストコロッサス。

だが、その足が動かないわけではない。ライトたちを追うように、フロストコロッサスは体を回転させている。

そんなフロストコロッサスの足元を見据えながら、まず動き出したのはケージだ。

その杖の向けられる先は、視線と同じフロストコロッサスの足元。

二箇所ある、若干沈んだ地面。そこにフロストコロッサスが足を踏み入れた瞬間――その足元に、赤い魔法陣が浮かび上がった。



「貴重なアイテム使ってるんだ、少しは止まれよ――《グレイプニル》!」



 ケージがそう宣言した瞬間、フロストコロッサスの足元から灰色のロープが伸びる。

それは、ケージの使用できるトラップの中で最も高い拘束力を持つ縛鎖だ。

拘束用アイテムの拘束力、および耐久力を上げるスキル、そして相手のスキルを一部封印するスキルを追加した拘束トラップ。

貴重な素材を使用しており、もし強引に破られれば盛大な赤字は免れないほどの逸品だ。

その拘束力は、通常のエネミーなら解除されるまで一切の身動きが取れなくなるほどのものだ。

だが、相手はボスエネミーであるフロストコロッサス。例え両足の拘束に成功していたとしても、それをいつまでも拘束し続けられるとは、ケージも考えていない。

――故に、次なる手を打つ。



「白餡!」

『――凍てつく白き眠りの箱。安らかなる氷神の抱擁。今、その腕の内にて、悠久なる安寧を与えよ。《フリージングコフィン》!』



 ケージの宣言に応え、あらかじめ詠唱を開始していた白餡が、その魔法を解き放つ。

《フリージングコフィン》はその名の通り氷属性の魔法であるが、あまり攻撃能力の高い魔法と言うわけではない。

相手を氷の棺の中に閉じ込め、拘束するための補助魔法。だが、相手も氷の中に閉じ込められてしまうため、上から破壊するつもりで魔法を撃たなければあまりダメージが通らないという、使い所の限られる魔法であった。

これまでは敵の分断に使用してきた魔法であったが、今回の相手は巨体を持つフロストコロッサス。

発生させた氷の棺だけでは、精々膝下までを巨大な氷で覆いつくすのが限度だ。

しかしそれでも、若干沈み込んでいたクレーターごとフロストコロッサスの足を氷で拘束することに成功し、白餡は小さく頷く。

だが、悠長に喜んでいるような時間はない。

まだ、フロストコロッサスを完全に拘束できたわけではないのだから。



『ソルベ、《ドラゴンブレス》!』



 白餡の号令と共に放たれるのは、ソルベの光線状のブレスだ。

最終奥義たる《オーバード・ドラゴンブレス》には遠く及ばないが、それでも《オーバード・ドラグノール》で強化された古龍のブレス。

その一撃は、白餡の氷の棺にも劣らぬほどの巨大さで、フロストコロッサスのもう一方の足を埋め尽くしていた。

両足を拘束され、フロストコロッサスの動きが止まる。

巨像も拘束を破ろうともがくが、それでも両足まとめての二重拘束は、そうそう破れはしない。

完全に足の止まったフロストコロッサスを確認し、ケージは続けて声を上げる。



「ゆきね、《グレイプニル》に使っているロープの耐久度回復を優先! その他の面子は足元の氷を壊さないように攻撃! 白餡は氷の破壊状況に注意しつつ、放たれたフロストコロッサスの破片を蒸発させろ!」

『了解だよ』

『わ、分かりました!』



 完全拘束している以上、白餡も攻撃に回ったほうが確実ではある。

だが、少しでもフロストコロッサスの回復手段を潰していくことが重要なのだ。

拘束がなければ、最悪この領域全ての氷が消費されるまで、フロストコロッサスと戦い続けることになるかもしれない。

削り取った、或いは発射された氷を破壊できる以上、それをするに越したことはないのである。

尤も、前衛組が削り取った分については、彼ら自身が蒸発させたほうが効率がいいのだが。



「攻撃開始だ! 上空!」

『足の氷を壊さないように気をつけろ、だろう? 分かってるさ』

『上半身はあたしたちが受け持つ、腰から下はそっちに任せるぞ!』



 フロストコロッサスの背後に回りこんでいるライトとヒカリが、魔法の準備をしながら頷く。

足元が固定されている以上、背後に対する攻撃は難しい。

対空防御の必要がないため全ての《エアクラフト》を攻撃に回しているライトと、足元の氷に影響を出さぬようにするため《ヒートスティンガー》の詠唱を行うヒカリ。

あの砲弾による攻撃がなければ上空の自分たちに攻撃が届くことはない。

そう考えて魔法を放とうとした二人は――腰から上が180度回転したフロストコロッサスの姿に、思わず絶句していた。



『そんなのアリかよ!?』

『ライ、回避!』



 ぐるりと勢いよく回ったフロストコロッサスの上半身に、ライトは半ば悲鳴を上げながらも即座に旋回を開始する。

幸運だったのは、フロストコロッサスがまだ攻撃態勢に入っていなかったことだろう。

腕を上げ、攻撃態勢に入ったまま回転されていれば、流石のライトでも反応し切れなかったはずだ。

ライトたちを狙って腕が持ち上がるが、それでも先に行動していたライトたちのほうが早い。

二人を追うようにして放たれた砲弾は、壁に激突して青い破片を飛び散らせていた。

当然と言えば当然であるが、砲弾を放てばそれだけフロストコロッサスの体積は減る。

固められた足元から氷を吸収し始めるフロストコロッサスの姿を確認し、ケージはライトへと向けて声をかけていた。



「ちょうどいい、そのまま狙われながら攻撃してくれ。奴の体積を削るのには都合がいい」

『無茶を言ってくれる……と言いたいところだが、まあいつもの仕事だしな。やってやるさ』



 若干苦い表情ながらも頷いたライトは、フロストコロッサスの周囲を大きく旋回しながら魔法を準備する。

ライト自身の攻撃力は、決して高いとはいえない。より効率よくダメージを与えるためには、タイミングが重要なのだ。

回復中のフロストコロッサスは動きが止まる。厄介な回復能力ではあるのだが、攻撃するためのこれ以上ない好機であることも事実だ。

棒立ちになった状態のフロストコロッサスへ、ヒカリのワンドが向けられる。



『――《ヒートスティンガー》!』

『行け、《ミーティア》』



 放たれる光の砲撃と、その周囲を旋回するように突撃する《エアクラフト》。

まず届くのは、ヒカリの放った《ヒートスティンガー》だ。

極大の光線となって放たれるそれは、真っ直ぐとフロストコロッサスへ向けて直進し、その威力を炸裂させる。

熱を伴う光の砲撃だ。氷属性のエネミーであるフロストコロッサスに対しても有効なダメージを与えられ、尚且つ足元の氷に影響を与えることがない。

そして、そんな航戦の後に続くのが、ライトの《エアクラフト》だ。

中にグレネードを仕込まれた《ストライカー》に分類される魔法。

ヒカリの放った《ヒートスティンガー》を取り囲むかのように飛んだ《ミーティア》は、光線の直撃によって僅かに融解したフロストコロッサスに突き刺さり、盛大な爆発を発していた。

直撃を受けたフロストコロッサスは、その上体をぐらりと傾かせる。



「効いてるぞ、続け!」

『嫌になる硬さだよ、もう!』



 苛立ち交じりのゆきねの声と共に動くのは、大剣を振りかざすディオンだ。

炎を纏う大剣は、その巨体に見合わぬ速さで、体勢を崩しているフロストコロッサスへと突き刺さる。

修理費さえ度外視すれば、強力極まりない性能の白銀の騎士だ。

続けざまに繰り出される巨大な剣は、炎を吹き上げながらフロストコロッサスへと喰らい付き、そのHPを確かに削り取っていく。

そうして飛び散ったフロストコロッサスの破片は、地面を駆け回るソルベが咥えて白餡の元まで運んでいるのだ。

フロストコロッサス相手にはあまり活躍できないソルベも、物の運搬であれば何ら問題はない。

尤も、戦力として非常に勿体無いことは事実なのであるが。



「動きを止めたことで、攻撃機会は増えている……その分だけ、HPは少しずつでも削れてきている」



 ディオンの畳み掛けるような攻撃と共に、他の前衛組もひたすら攻撃に徹している。

フロストコロッサスのHPは、少しずつではあるがダメージが回復量を上回ってきており、現在は回復後でも三分の一程度が削れた状態となっている。

フロストコロッサスは、その体が大きく損傷を負えば、すぐさま回復行動を開始する。

外見の破壊に重点を置いた攻撃を狙っている現状、その頻度は非常に高くなっている。



「そして、それだけ幾度も回復を行っていれば――」



 そんなケージの言葉と共に、フロストコロッサスは再びHPの回復を行い――その外見が復活しきる前に、HPバーの上昇は動きを止めていた。



「――足の下の氷も、品切れになるだろうよ」



 瞬間、全員が行動を開始する。

まず攻撃を届かせたのは、大剣を手に攻撃を繰り返すディオンだ。

その剛剣は砲弾を放ったまま指先の形成が済んでいないフロストコロッサスの右手へと叩きつけられ、その手首を切断する。

そして、そんなディオンの肩を足場として跳躍したのはプリスだ。

あらゆる存在を切断する力を手に、彼女はディオンに倣うかのように、フロストコロッサスの左手首を半分以上断ち切る。

だが、それだけでは終わらない。続く三人の打撃によって亀裂は広がり、自重に耐えかねたかのようにフロストコロッサスの左腕は崩壊していったのだ。

両手を失い、主だった攻撃手段の大半を使えなくなったフロストコロッサス。

そこへ放たれるのは、白と紅の二色の光条だ。



『――《ヒートスティンガー》!』

『――《アモンズアイ》ッ!』



 いつも通りの砲撃を放つヒカリと、フロストコロッサスが回復手段を失ったが故に攻撃へと回った白餡。

先に突き刺さったのは白餡の放つ《アモンズアイ》だ。大きく損傷していたフロストコロッサスの胸部へと命中したそれは、氷を大きく溶かしながら貫通し――そこへ、ヒカリの放つ《ヒートスティンガー》が突き刺さる。

二つの熱量によって水と化したフロストコロッサスの胸部は弾け飛び、二人の魔法は完全に貫通して背後の門へと突き刺さる。

そしてそれと同時に、フロストコロッサスの持つ一つ目のHPバーは消滅し――フロストコロッサスの体は、完全に崩れ去っていた。

その様子だけを見れば、勝利したようにも思えただろう。だが――



「な……ッ!? バカな、HPはまだあったはずだぞ!?」



 フロストコロッサスのHPはまだ残っていたはずなのだ。

削り取ったのはあくまで一つ目のHPバーであり、まだ二本が存在していたはずなのである。

だが事実として、氷でできた巨体は崩れ去り、その場に破片となって散らばっている。

以上ともいえる事態に混乱し、それでも警戒は絶やさぬまま周囲へと視線を走らせ――瞬間、ライトの声が響いた。



『アマミツキ、アンズを連れてその場から離れろ! 下からまた出てくるぞ!』

『っ、分かりました!』



 その言葉に従い、《ハイディング》を解いたアマミツキがアンズを抱え上げてその場を離脱する。

そしてその直後、フロストコロッサスの巨大な腕が、二人が先ほどまで立っていた足元から出現していた。

登場時と全く同じその光景に、ケージは状況を理解して苦い表情を浮かべる。



「HPバーが一本削りきられる度、ああして出現し直すって訳か……厄介だな」



 地面に手をつき、足元の氷から自らの体を形成してゆくフロストコロッサス。

先ほどまでの苦労が水泡に帰したような錯覚を覚えつつ――しかし、それでもケージは笑っていた。

苦い表情でもなお、負けることは無いと宣言するかのように。



「さっきの攻略法に間違いはない。あとは、こっちのアイテムが尽きるか、奴のHPが尽きるかだ……」

『にはは、それなら続きと行こうじゃないか! 後二回、同じことを繰り返すだけだってな!』



 同調するようにヒカリが笑い、そしてフロストコロッサスが再び姿を現す。

持久戦の気配に辟易しながらも、全員が怯むことなく、フロストコロッサスへと向けて突撃を再開していた。





















今日の駄妹


「これは流石に……余裕が……!」

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