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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
最終章:南天の輝きと悠久の王
150/167

143:巨像の秘密












(さて、調べるとは宣言したものの――)



 巨大な氷のゴーレムを見上げ、ケージは苦い表情を浮かべる。

これまで相手にしてきたエネミーの中で、間違いなく最強であると断言できる存在。

並大抵のエネミーであれば、全プレイヤー中でも最高位の火力を誇るヒカリの魔法で押し切ることは可能だ。

実際の所、これまでのボス戦や狩りなどでは、ヒカリの能力に頼ってきた部分が大きい。

――だが、今回はそういう訳にも行かないのである。



(最も厄介な点はあのタフさだ。攻撃力も脅威ではあるが、決して回避できない攻撃って訳じゃない……考えねばならないのは、どうやってあいつのHPを削るかってことだ)



 どのような能力を持っていたとしても、エネミーが倒れる条件は変わらない。

即ち、そのHPを削りきることだ。だが、それにはいくつかの壁が立ちはだかっている。

まず、フロストコロッサスの防御力があまりにも高すぎる点だ。

通常、ゴーレム系は基本的に魔法攻撃に弱いと言う性質を持っている。

無機物の塊であり物理攻撃に対する耐性が高い時点で、魔法攻撃に対する耐性を低くしなければ、あまりにも強力な敵になりすぎてしまうからだ。

だが、フロストコロッサスはその限りではない。

物理攻撃は勿論、魔法攻撃に対しても高い防御力を有しているだけでなく、対抗属性の炎の攻撃でようやくダメージが入ると言うレベルなのだ。

ヒカリでさえあの程度のダメージしか与えられないのであれば、同レベル帯までレベルが上がっていたとしても、苦戦は免れないだろう。


 そして、その上で厄介なのがもう一点。

フロストコロッサスが、回復能力を有している点だ。

常にHPが回復し続けているわけではないが、一度回復を始めれば、その回復量は非常に高いものとなる。

足元の氷を取り込んでのHP回復は、苦労して与えたダメージの大半を回復されてしまう、非常に厄介な行動であった。



(一応は与えたダメージの方が上回ってるが、それも微々たる物だ。こいつのHPを削りきる前に、確実にこっちが息切れすることになる)



 回復手段には事欠かないが、それでもポーションは無限に存在するわけではない。

それよりも大きな問題なのは、フロストコロッサスの攻撃力がこちらを一撃で即死させるレベルであることと、この場では耐久力を回復できないディオスの存在だ。

大きなダメージソースとなっているディオスが倒れてしまえば、その時点で勝ちの目はなくなる。

何とかして、ディオスの耐久力が限界に達する前に、フロストコロッサスを倒さなければならないのだ。



(……やはり、奴のHP回復を封じる必要がある。だが、どうやって?)



 フロストコロッサスのHP回復は、足元の氷を取り込むことによって行われている。

だが、その氷を排除しようにも、プレイヤーの攻撃では破壊できない物体となっているのだ。

回復行為そのものを封じようとしても、足の裏から氷を吸収する以上、防ぐ方法はない。



(プリスに足を切断させる? だが、足からしか回復できないとは限らない。核を攻撃する? いや、どこに核があるのか……そもそも核が存在するのかどうかすらわからない)



 自問自答するように、ケージはひたすら思考を重ねる。

白餡の放った《アモンズアイ》はその性質にもかかわらずフロストコロッサスの体を貫通できておらず、実体を持たないながらも貫通しているはずの《サンライトスピア》も、特別ダメージが増えた様子はない。

どこに核があるのかがそもそも不明であるが、これを狙う方法は見通しも立たない状況だ。

ゴーレム系、エレメンタル系を倒す際の常套手段ではあるのだが、今回はひとまず脇に置いておくべきだろう。


 思考を続けつつ、ケージはフロストコロッサスの観察を続ける。

その巨大な手は再びライトたちへと向けられ、氷の砲弾とも呼ぶべき指が射出される。

天井付近にいたライトたちを追うようにして放たれたそれは、二人が回避することによって天井に突き刺さり、氷の破片となって砕け散る。

やはり、青い氷で構成された天井が傷つく気配はなかったが――



「……待て」



 思考に引っかかった違和感に、ケージは思わず動きを止める。

落ちてくる氷の破片。それは、放たれたフロストコロッサスの一部。

それを拾い上げ、握り締めれば――それは、徐々に溶けて水の雫へと変化する。

――周囲と同じ、青い氷であるにもかかわらず。



(壊れない性質が消えている……そうだ、そもそもフロストコロッサスが出現したときも、この氷が形を変えていた。つまり、フロストコロッサスの体に取り込まれた時点で、この氷は不滅属性を喪失するのか)



 街中など一部のオブジェクトに設定されている不滅属性。

この周囲の氷がそれを有しているのも、ボス戦のフィールドが持つ性質の一環であると考えていた。

だがもしも、これがギミックであるならば。



(……通常の攻撃で、フロストコロッサスのHPは減少している。と言うことは、どこか別の場所に本体があって、それがあの巨像を生み出していると言うパターンの可能性は低くなる……まあ完全にありえないとは言わないが、周囲にそれらしいものはない)



 現在のステージは氷のドームであり、視界が遮られる場所は殆どない。

どこかに本体が隠されている可能性を考慮しつつも、ケージは異なる攻略法へと思考を巡らせていた。



(他の可能性として挙げるならば……やはり、奴が回復できない状況に追い込むことだ。検証がいる……!)



 頷き、ケージは視界を巡らせる。

何とかして、フロストコロッサスがHPを回復できない状況を作らなければならない。

そのために最適な人員が誰であるかは、既に見当がついていた。

頷き、ケージはチャットへと向けて声を上げる。



「白餡、すまないが、こちらに来て欲しい。少し思いついたことがある」

『ふぇっ!? わっ、私ですか!?』

「ああ、お前さんなら一人で条件を満たしている。火力が若干足りなくなるのは痛いが、今後の作戦展開に関わるんでな」

『わ、分かりました。少し待ってください』



 駆け寄ってくる白餡の姿を確認しながら、ケージはフロストコロッサスの観察を続ける。

白餡が抜けたことで、ダメージを与えられる人員は更に少なくなる。

一応ソルベは戦闘を継続しているが、火属性を付加できなかったが為にダメージソースとはなりえていない。

攻略法の発見は急務であった。



「お、お待たせしました!」

「ああ、ありがとう。早速だが、ちょっとこれに対して火の魔法を使って欲しい」

「え? これ、ですか?」



 言いつつケージが示したのは、地面に転がっている青い氷の破片だった。

フロストコロッサスが砲弾として放ったものであり、天井にぶつかって砕けた氷は、小さな破片となって地面に転がっている。

その指示に対して白餡は首を傾げつつも、杖を向けて魔法を唱えていた。



「――《ファイアボール》」



 必要以上にMPを使うこともないという判断から放たれた、弱めの火属性魔法。

その直撃を受けた氷の破片たちは、溶けて液体になるような様子すらなく、一瞬で昇華してしまっていた。

その様子に、ケージは僅かに目を見開く。

得られた結果が、想像以上に都合がいいものであったためだ。



「……なるほど。処理は簡単と言うわけか」

「あの……?」

「ああ、済まん。次のテストだが、今度は奴の足元に向かって氷の魔法を放ってほしい。《アイシクルランス》がいいな」

「え? こ、氷ですか? 絶対ダメージは与えられないと思いますけど……」

「それで構わないぞ。ちょっと試したいことがあるだけだからな」

「はぁ……」



 釈然としない表情ながらも、白餡は頷く。

普段からアマミツキに色々と利用されているためか、疑問を持ちつつも躊躇することはなく、白餡は魔法を詠唱していた。

放たれるのは《アイシクルランス》。氷の槍を射出する魔法であり、現在の白餡のレベルならば覚えた当初よりも巨大な槍を放つことが可能だ。

そうして放たれた巨大な氷の槍は、真っ直ぐと飛んでフロストコロッサスの足へと浅く突き刺さり――そのまま、ポロリと落ちて巨像の足元に転がる。

当然と言うべきか、フロストコロッサスへのダメージはない。むしろ、回復しなかっただけ僥倖であると言えるだろう。

予想通りといえば予想通りの結果に、白餡は怪訝そうな表情を浮かべたままケージのほうへと振り返る。



「あの……これでどうするんですか?」

「これでいいんだ。ちょっと観察を続ける……そろそろだろうしな」

「そろそろ?」



 首を傾げながらも、白餡はケージに倣うようにフロストコロッサスへと視線を向ける。

前衛組からの攻撃や、空から放たれる爆撃。度重なる攻撃は、フロストコロッサスのHPを確かに削り――けれど、それを無意味であると宣言するかのように回復が開始される。

足元にある氷を取り込み、それと共にフロストコロッサスの氷の体とHPは回復していくのだ。

これまで削ったダメージの殆どを回復され、誰もが苦い表情を浮かべる中、ケージだけは確かな笑みを見せていた。



「……予想通りだ」

「な、何がですか?」

「見てみろ、さっきの氷の槍、足元にあったにもかかわらず、フロストコロッサスに吸収されていない」

「え? あ……た、確かに」



 先ほど白餡が放った魔法、《アイシクルランス》。放たれた氷の槍は、確かにフロストコロッサスの足元に転がっている。

だが、周囲にある青い氷のように、フロストコロッサスの体に取り込まれるようなことはなかったのだ。

これまでの性質から考えれば、取り込めたとしても全くおかしくはなかったというのに。



「可能性としては二つ。足の裏しか取り込める場所がないのか、もしくはこの青い氷しか取り込めないのかだ。尤も、俺は前者の可能性はかなり低いと考えているがな」

「それは、どうしてですか?」

「氷を吸収しているのは足の裏だが、足元はまるでクレーターができるようにへこんで来ている。周囲の氷を引きずり込んで取り込んでいる証だ」



 ケージの示すとおり、フロストコロッサスの足元はクレーター状に陥没し始めている。

氷を取り込んで回復している以上当然ではあるが、足元の氷は徐々に減ってきているのだ。

それは即ち、フロストコロッサスの回復手段が減ってきていることを示している。

とは言え、移動してしまえば大した意味はないのだが――



「後者であると考える理由は他にもある。奴が出現したときのこと、覚えているか?」

「はい。こう、氷の中から生えてくるように……あ、そうか」

「そう。奴の体の材質は、正しくこのエリアにある青い氷だけ。他のものを取り込めなかったとしても、それほど不思議じゃない」



 群がる前衛組を薙ぎ払おうと振るわれる腕も、飛び回るライトたちを撃ち落とそうと放たれる指も、全ては青い氷によって作り上げられている。

それがどのような意味を持つのかは定かではないが、ケージの考えを後押しするだけの説得力は有していた。

未だ有効なダメージは与えられていうない、強大極まりない敵。

その巨体を見上げながら、ケージは不敵に笑みを浮かべる。



「奴を構成するものは、いわゆる『魔力の篭った氷』じゃない。この青い氷だけ……そして、他の氷を取り込むことはできない。ならば、方法はある……聞いているだろう、ヒカリ」

『ああ、よく見つけてくれた! これで攻略法を編み出せる!』

「えっ、今の話だけでですか!?」



 ヒカリの歓声に、驚きの声を上げる白餡。

そんな彼女の声に対し、ヒカリは笑いながら告げる。



『にはは! 勿論、これだけあれば作戦を立てるには十分だ! ここまで面倒をかけさせてくれたんだ、きっちり返して倒してやるさ!』

『作戦立案は引き続きお任せします。正直、どうしても綱渡り感は抜けませんから』

「分かっているさ。道筋は見えている。奴を倒して、あの扉の向こうを拝んでやる」



 ヒカリとアマミツキの言葉を受け、ケージは思考を加速させる。

すべきことは――



「さあ来いよ、デカブツ。回復するだけすればいい」





















今日の駄妹


「ふむ、ふむ。なるほど……消耗戦ですね」

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