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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
最終章:南天の輝きと悠久の王
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142:氷の巨像












 鳴り響く鈴の音は、氷のドームの内側で反響し――けれど、度重なる爆音の中にかき消される。

しかし、それを発している当人であるアンズは、一切気にすることなく手の中の鈴を鳴らし続けていた。

巫女系統クラスの専用装備である神楽鈴。その中でも、ドロップ品のレアアイテムに相当する【サルメノイスズ】。

現実にあるアンズの実家である神社の、御神体として奉られている品だ。

こののアイテムが出たときには、アンズも『タカアマハラの連中が狙ってやった』としか思えなかったが、どちらにしろ強力な装備であることに変わりはない。

その装備を持ってブーストされたアンズの魔法とスキルは、メンバーのステータスを大きく上昇させていた。

そして、そこに上乗せされるのは、旬菜の放つ強化魔法だ。



「――《ハイ・エンチャント:ブレイズ》」



 対象拡大と範囲拡大、そしてアンズの支援による効果時間の延長を交えた旬菜のエンチャント。

その発動と共に、前衛で戦う面々の武器が一斉に炎を纏い始めていた。

熱は感じる。だが、熱さはない。凍えるような気温を吹き散らす暖かな熱は、しかしエネミーにとっては身を焦がす灼熱の炎と化す。

武器攻撃そのものを魔法属性へと変更させる《ハイ・エンチャント》は、ゴーレム系統のエネミーと戦うにはかなり有用な魔法である。

とは言え、それだけで今回のフロストコロッサスを相手にして簡単に勝てると思うほど、ケージは楽観的な性格はしていなかったが。



「よし……前衛、基本的には足止めだ。主なダメージソースはどうしてもヒカリになるから、前衛組みは足止めに専念するように。だが、プリス。お前は可能ならダメージを与え続けてくれ」

「うん、分かった」

「それからゆきね。ディオンも十分にダメージソースになり得る存在だ。隙を見て攻撃するように頼む」

「まあ、直接足止めしろと言われないだけマシかな……あれに殴られたらディオンもただじゃすまないよ」



 エネミーの強さとしては、ヒル・ジャイアント以上だ。

耐久度を減少させる手甲こそないものの、あの巨体からの攻撃を受けてはゆきねのゴーレムとてただでは済まない。

しかもプレイヤーと違い、倒れたら戦線復帰は不可能なのだ。

貴重なダメージソースを減らすわけにも行かず、ケージはゆきねの言葉に頷く。



「とにかく少しでもダメージを与えなけりゃ始まらない。だが、氷属性はだめだ……分かってるな?」

「は、はい。吸収されるかもしれないからですよね? ソルベにもブレスは禁止させておきました」



 《オーバード・ドラグノール》の時間が勿体無いと、ソルベは既にフロストコロッサスへと向けて突撃している。

とは言え、その得意技であるとも言えるブレスや氷属性魔法は使用していない。

相手が氷属性であることは分かりきっており、下手をすれば吸収・回復してしまう可能性があるからだ。

そして氷属性特化のソルベの場合、火属性のエンチャントの効果を受けることができない。

その為、現状では純粋なステータスの強化のみに留められていた。

例え弱点属性を突けずとも、最高位のドラゴンであるエンシェントドラゴンのソルベ。

フロストコロッサスを相手に十分な戦闘を繰り広げ――しかし、それでも目に見えるほどのダメージを与えることは出来ていなかった。



「得意属性を封じられているのは痛いな……あの切り札も、通じるかどうか分からんし。とにかく、そっちは火属性で攻撃を。アンズとアマミツキは回復と支援を徹底してくれ」

「分かったわ。ま、こっちはいつもとやること変わらないわね」

「これだけの数ですと手が足りなくなりますしね。了解です」



 即死級のダメージすら受けかねないのだ。回復アイテムを惜しんでいる余裕はない。

己のクラスであるポーションマイスターのスキルで強化したポーションの数々を取り出し、アマミツキは頷く。



「よし……では、行動開始だ。全員、チャットの声には耳を傾けておけよ!」

『その宣言ついでに報告だ、ケージ。あのデカブツ、自動回復を持ってやがる』

「……これからってところで嫌な報告だな、ライト。アマミツキ、相手のライフの観察も任せたい」

「まあ、了解です」



 他に適任もいないだろうとアマミツキは頷き、そして全員がフロストコロッサスへと向き直る。

突き刺さるライトとヒカリの魔法でも、あまり大きなダメージを受けた様子には見えないフロストコロッサス。

そのライフは、今のところ回復しているようには見えない。

何か条件があるのか――そう思考を巡らせるアマミツキとケージを他所に、前衛組はフロストコロッサスへと向けて突撃してゆく。

頭脳労働は完全に他のメンバーに任せているのだ。

今は少しでも、フロストコロッサスのHPを削らなければならない。

それを己の姿で表現するかのように、彼らは武器を手にして巨大な敵へと立ち向かう。



「回帰――《情報:肯定創出・蛇断十柄》!」

『――――ッ!』



 真っ先に敵の傍まで辿り着いたのは、一切重心を揺らさず駆けるプリスと、その巨体ゆえの速度を持つディオンだ。

炎を纏う二人の刃はフロストコロッサスに叩きつけられ――プリスの一閃はその巨大な足に切れ込みを走らせ、ディオンの一撃は肩口の氷を砕け散らせる。

予想以上に大きく入った一撃。だが、それだけだ。HPの減少そのものは、ケージたちの予想を超えるものではない。



「わけ分かんねぇエネミーだなぁ、おい!」



 次に辿り着いたのは高い機動力を持つダンクルト。

相手の動きが読めないため、今はスキルを使わずの攻撃だ。

ダンクルトが狙ったのは、先ほどプリスが切れ込みを走らせたフロストコロッサスの足。

無傷の場所を攻撃しても効果が薄いと睨んでの攻撃だ。

斬り付けられ、僅かに溶けた様子のあるフロストコロッサスの足へ叩きつけられるのは、黒い装甲を纏うダンクルトの蹴り足。

勢いと体重の乗ったその一撃は狙い違わず亀裂へと叩きつけられ、フロストコロッサスの足に確かにヒビを走らせる。


 そして、亀裂の広がったフロストコロッサスへと飛び込むのは、後に続いた旬菜とバリスだ。

揺らめくような炎を纏う二人の拳は、躊躇うことのない踏み込みと共に正拳突きとして放たれる。

共にスキルは使っていない。まずは様子見をしながら引き付ける――それが、前衛の役目なのだから。

二人の攻撃はヒビを広げたフロストコロッサスの足へと突き刺さり、その表面と呼ぶべき氷の外殻を粉砕する。

その様子を見つめ、プリスは頷きながらも厳しい表情を消すことが出来ずにいた。



(四人で攻撃してこの程度……硬いし、それにHPはそこまで減ってない)



 相手の動きに注意を払いながら攻撃を加えていくが、削り取れる氷に対してフロストコロッサスのHPは微々たる量しか減っていない。

現在の彼女たちの攻撃は、間違いなく弱点属性を突いての魔法攻撃となっているはずなのだ。

だと言うのに、与えられているダメージはあまりにも少なく――それでいて、外見的なダメージは大きい。

そのちぐはぐな様子に、プリスは警戒心を隠せずにいたのだ。

と――その瞬間、背筋が粟立つ感覚を覚え、プリスははっと視線を上げる。

顔面と言うもののないフロストコロッサスの頭部。視線など存在しないのも関わらず、プリスは『見られている』という感覚を覚えていたのだ。



「下がって! 攻撃来ます!」



 チャットを起動しての警戒。

フロストコロッサスの巨大な腕が振り上げられたのは、それとほぼ同時であった。。

動きは緩慢に見えるが、それはその巨大さ故だ。振り下ろされる巨大な腕は、多少の回避では対応しきれないほどの攻撃範囲を有している。

攻撃の軌道を見極めているような余裕はない。すぐさま、攻撃範囲外まで下がらなければならないのだ。


 フロストコロッサスが振り上げた拳は、前衛たちがいた場所へと一直線に振り下ろされる。

範囲の広い薙ぎ払いでなかったことは幸いであると言えるだろう。

攻撃の予兆を察知したプリスの警告によって、前衛たちは皆、フロストコロッサスからの攻撃を回避していた。

巨体を持つディオスまで攻撃を回避できたのは僥倖であると言えるだろう。


 フロストコロッサスの拳が地面へと突き刺さり、巨大な振動と衝撃を走らせる。

直撃すればただでは済まないだろう。即死級のダメージを受けることは間違いない。

思わず寒気が走るのを感じながらも、プリスたちは再び攻撃の準備をしながら、注意深くフロストコロッサスの動きを観察する。

初見のエネミーであり、更に強大な力を持つボスである以上、その動きを見極めなければ勝ち目はない。

視線が集中する中、フロストコロッサスは体を起き上がらせ――広げた手の指先を、上空を舞うライトたちの方向へと向けていた。



「何……?」



 ヒカリの二度目の攻撃のため接近してきていたライトは、フロストコロッサスの唐突な動きに警戒心を高める。

ヘイトは前衛たちが稼いでいるとはいえ、大きなダメージを与えているのはヒカリであり、そのスキルの効果も上乗せすれば狙われること自体に疑問はない。

だが、この動作は一体何をするつもりなのか。ライトは即座に体を翻し、旋回するように移動して――その刹那、フロストコロッサスの指先が、ライトたちへと向けて射出されていた。



「なッ――!?」



 旋回をしていなければ、間違いなくその弾丸の餌食となっていただろう。

巨体を持つフロストコロッサスの指先は、ただそれだけで砲弾にも等しい大きさを持つ。

目にも留まらぬ速さで射出された指先は、ライトたちがいた場所を貫いて壁に突き刺さり、砕け散る・・・・

足を掠めて飛んで行ったその一撃に、ライトは思わず息を飲んでいた。



「遠距離攻撃はあると思っていたが……!」



 よもや五発の砲弾が飛来するような一撃だとは思わず、ライトは呻きながら飛行を続ける。

直撃すればただでは済まない。だが、それでも思考だけは絶やさぬまま、ライトはチャットへと向けて声をかけていた。



「アマミツキ、今の攻撃に関して分析を!」

『もう行っています。と言っても、アレだけでは分かることは少ないですが……一度に放てるのは五発、左手も可能なのかどうかは不明、そして――フロストコロッサスの外見的ダメージは、HPバーの総量とは関係ないという程度でしょうか』

「外見的ダメージと、HPバーの不一致、ってことか?」

『はい。先ほど前衛組が足の一部を破壊しましたが、HPと比較するとあまりにも減少が少なすぎる。そして先ほどの攻撃です。恐らくフロストコロッサスは、その体を構成する氷を失っても、それほど問題はないのではないでしょうか。事実……フロストコロッサスの足元を見てください』

「足元だと?」



 アマミツキの言葉を聞き、ライトはフロストコロッサスの腕の動きを警戒しながらも、その足元へと視線を向ける。

氷の地面に仁王立ちす巨像。その立ち姿に変化はない。だが――その足元では、確かに異変が生じていた。



「足が、地面に同化している?」

『その距離だと少し分かりにくいかもしれませんが、アレは同化ではなく、吸収です。足元にあるあの青い氷を、足を伝って吸収しているようなのです』

「氷の吸収……つまり、アレがHP回復の種って訳か」



 HPバーへと視線を向ければ、前衛組とヒカリが削った体力が目に見えて分かる速度で回復して行っている。

回復の速度は、ダメージを与える際の速度よりも明らかに速い。

もしもこれが常時発動型の能力であったならば、あのライフを削りきることは不可能であると言えるだろう。



「……あの氷の補給をしない限り回復しないのは、まだマシだったと言うべきか」

『少なくとも、まだ『詰んだ』と言うような状況ではありませんが……何かしらの対策をする必要があります』

『……アレの分析は俺が受け持つ。ライト、アマミツキ、そっちはそっちの仕事に専念してくれ』

「ケージ……大丈夫なのか?」

『あいつが相手だと、俺のトラップは殆ど役に立たないからな。手を拱いているのも趣味には合わないし、精々あのデカブツの鼻を明かしてやるさ』

『鼻ないですけどねぇ』



 アマミツキの言葉に苦笑しつつ、ライトは頷く。

あのような攻撃方法がある異常、ライトは敵に専念せざるをえない。

ヒカリにしても、絶え間なく魔法を唱え続けなければならないのだ。

分析や指示を行うだけの余裕はない。



「分かった、そっちに任せる。こっちは――とにかく、奴のHPを削る!」

「――《サンライトスピア》!」



 輝く光の槍が直撃し、フロストコロッサスのHPが削れる。

だが、その量は回復した量に及ばない。何らかの対策を講じなければ、いたちごっこが続くだけ――否、その前にライトたちの回復手段が尽きるだろう。



(早めに頼むぞ、ケージ……!)



 ゆっくりと顔を上げるフロストコロッサスの気配を感じながら、ライトはただ己の集中力を高め続けていた。





















今日の駄妹


「こういう敵の場合、本当にできることが無いんですよね……兄さん達を含めて観察に回らなければ」

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