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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
最終章:南天の輝きと悠久の王
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141:隠されしもの












「山からの景色も大したもんだとは思ってたが……これは流石に、ゲームじゃないと味わえない光景だな」

「確かに。これだけでも、きた甲斐があったと思うよ」



 山の断崖で見つけた巨大な亀裂。横に並ぶのは四人が限界と言った程度の広さしかないその領域は、両側を分厚い氷で覆われた谷底のような場所だった。

頭上は雪と氷で覆われており、光が差し込むことは無い。

だが、両側の断崖を覆っている青白い氷は、僅かに光を帯びて亀裂の中を照らしていた。

僅かに仄暗い、幻想的な風景。そんな光景を見上げながら呟くのは、先頭を進むケージとプリスだ。

現実世界どころかゲームの中ですら殆ど見ることの出来ないようなこの光景は、感動を呼び起こすには十分なものだったのだ。

一方で、淡々と周囲の観察を行っているのはアマミツキだ。

このような光景の中でさえ普段の調子を見失わない彼女は、近くの壁に触れながら僅かに目を見開いて声を上げる。



「周りは確かに氷のようですね……ただの氷という訳でもなさそうですが」

「なんかのアイテム? 採取できないかな?」

「入り口の辺りで、炎で炙られても全く溶けていませんでしたから、取れたら面白いとは思いますけど……」



 ゆきねの言葉に対してそう返しつつ、アマミツキは持っていたナイフを周囲の壁に叩きつける。

だが、ナイフは甲高い音を立てて弾かれるだけであり、壁には小さな傷一つ付けることは叶わなかった。

もっと威力の高い攻撃の場合はどうなるのか――それも気になることではあったが、無駄な労力になる可能性が高いとアマミツキは首を横に振る。

恐らくはフィールドオブジェクトであり、破壊することは不可能だろう。



「まあ、現状では不可能だと考えておきましょう。そもそも、どうやって加工するんですかこれ」

「うーん……氷だしねぇ。直接身につけるものは厳しいし、この強度だと加工も中々難しいか……」



 ぶつぶつと考え始めるゆきねを他所に、アマミツキは再び周囲へと視線を向ける。

僅かに上り坂となっている亀裂の内部。フィールドマップから確認すれば、進む方向は確かに霊峰ヒュウガの頂上を向いている。

しかし、薄ぼんやりとした光では先を見通すことはできず、この亀裂がどこに続いているのかも定かではない。

これだけの規模がある時点で、これが偶然の産物である自然物と言う可能性は捨て去っていたが。



「……兄さん、何か見えますか?」

「いや、特には何も……ここだと高度も稼ぎづらいしな」



 普段よりも低めの空中を飛行しているライトは、視線を細めて薄闇の向こう側を睨む。

とは言え、見通せる範囲は非常に少ない。魔法による明かりも灯してはいるが、それほど広い範囲を照らせるわけではないのだ。

幸いであると言えるのは、エネミーの気配がないことだろう。

この亀裂に入ってから既に十分ほど進んでいるが、エネミーが出現する気配はない。

地下とも言える場所であるため雪崩の心配も薄く、警戒こそ途切れさせることは無いが、雪山に入ってからは最もリラックスできるエリアとなっていた。



「これだけあって何も無いってことはないと思うんですけどねぇ」

「それに関しちゃあたしも同感だが、ここまで来るとどれだけの規模のものが出てくるのか、ちょっとわくわくしてくるな」

「そ、そうですか? ちょっと嫌な予感がするんですけど……」

「白餡、それフラグです」



 その返しに対してうろたえ始める白餡の様子を横目に、アマミツキは思考を続ける。

この先に待っているものは、一体何なのだろうか。

単なる抜け道であり、頂上への近道であれば最も都合がよい。

エネミーが出現せず、直線で楽に距離を稼げるこの亀裂は、非常に都合のよいものなのだ。

だが、その可能性は薄いだろうとアマミツキは考えていた。

理由は二つ。一つは、傾斜があまりきつくない点だ。この険しい山で、ちょっとした坂道程度の傾斜を進むだけでは、山の斜面に沿って進むことはできない。

事実、入った当初は見えていた天井を覆う雪も、徐々に闇に紛れて見えなくなり始めている。

そして二つ目は、奥からまったく風を感じない点だ。

この山の風は、基本的に山頂からの吹き降ろしである。もしもこの先が山道に繋がっているのであれば、風が通り抜けないはずがない。

だが、この場で感じる風は殆どなく、あったとしても稀に背後から僅かに空気が流れる程度だ。



(少なくとも外に直通している可能性は薄い……まあ、入り口みたいに雪で埋まっている可能性もありますが。もし外に通じていないのならば、ただの行き止まり? いや、これだけのギミックがある場所で、その可能性はまず無いと考えるべきですね……)



 視線を細め、アマミツキは胸中で呟く。

ただ薄暗い、けれど幻想的な通路が続くだけの道。ただそれだけで終わるはずがないと、予兆を逃さぬように意識を研ぎ澄ませ――故に、アマミツキは気づいていた。

プレイヤーが四人横に並んでも、普通に通れる程度には余裕ができていたことに。

その事実に対し、アマミツキは僅かに目を見開いて声を上げる。



「姉さん、通路が少し広くなってませんか?」

「む? ……確かに、ちょっと広がってきてる感じだな。少しずつなってたのか、それともついさっき広がり始めたのか……」

「流石に、そこまで注意を払ってはいなかったな……周りの風景に目を奪われてたってのもあるが」



 二人の言葉に、頭を掻きながらケージが嘆息を零す。

彼は少々気が抜けていたことを反省しつつ周囲を見渡し、壁に触れつつ声を上げていた。



「僅かだが、触れて分かる程度には角度が付いている。最初からこれだけの角度が付いていたのなら、とっくに国道のような広さになっていただろうさ」

「となると、こりゃ朗報だ。変化が出始めたってことだしな」



 綺麗な風景ではあるものの、何も変化しない一本道ではいい加減に飽きてしまう。

この際だからエネミーの出現でもいいと考えていた頃の変化だ。

何であれ歓迎しようと、ヒカリは不敵に笑みを浮かべる。

そして、この場において変化が生じると言うことの意味を履き違えるようなメンバーはこの場にはいない。

全員が余すことなく気を引き締め、周囲の変化へと注意を払っていた。


 そして、程なくして――薄暗い通路は、唐突に終わりを告げた。



「これは……広間? それに……」

「……アレって、どう見ても門ですよね?」



 その高さは10メートル以上に達するかと言うような、巨大な門。

天井も高く、その全てがこれまでの通路と同じ――否、これまで以上に強い光を放つ氷によって埋め尽くされている。

そんな氷の壁に埋め込まれるようにして存在している巨大な門は、一行を威圧するかのように立ちふさがっていた。



「あからさまに何かありましたけど……あれ、開くんですかね?」

「開くんじゃないか? 開かない門に何の意味があるってんだ」



 若干哲学的な発言をしたバリスが、門の方へと向かって一歩踏み出す。

だが、その瞬間――アマミツキとケージの《危険感知》、そしてソルベに反応があった。

白餡の腕の中から抜け出して唸り声を上げるその様子に、ケージは鋭く声を上げる。



「止まれ、何かいるぞ!」

「ッ、敵か!?」

「恐らくは……門番と言うことでしょうかね」



 周囲を見渡しながら告げて、アマミツキは頷く。

この門の前のエリアは、半球を縦に半分に割ったような形状をしており、天井の高さはそれなりに高い。

飛行しながらの戦闘を行うライトたちも、十分に動き回ることが可能だろう。

更に外ではないため、雪崩の危険を気にする必要もない。

だが、それは同時に、それだけの戦闘をしなければならないような強力なエネミーが出現する可能性を示唆している。

決して、油断することはできないだろう――高まる《危険感知》のアラートの中、その気配を察知して、アマミツキは叫ぶ。



「……来ますっ!」



 瞬間――門の前の地面が、突如として盛り上がる。

否、盛り上がったのは地面ではない。その場を覆い尽くしていた青い氷だ。

氷はゆっくりと盛り上がり、その形を変容させていく。

出現したのは巨大な腕。まるで地面を突き破って現れたかと錯覚するようなそれは、そのまま地面へと手をつき、体を持ち上げるようにその姿を現してゆく。

それは――見上げるほどに巨大な、青い氷で形成されたゴーレム。



「来い、ディオン!」

『――――!』



 ゆきねの背後よりにじみ出るように現れたのは、大型のミスリルゴーレムであるディオン。

イベント以来、度重なる改造を受けることにより、更に何重にも強化されたゆきねの切り札だ。

ゴーレムの消耗を嫌うゆきねが、ヒカリの指示を受けるでもなく即座に切り札を切ること決定した――それが何を意味するか、理解できていないメンバーはここにはいない。



「……『フロストコロッサス』。レベル、62!」



 そのレベルを見極め、アマミツキは呻くようにその名を告げる。

現在、ライトたちのレベルはおおよそ50代前半。最も高いライトとヒカリで55だ。

つまり、相手は10近くレベルが上の強敵。これがフィールドであれば、すぐさま撤退を選択するような相手だ。

だが生憎と、相手はボスに分類されるエネミー。そして、先ほどこの広間へと入ってきた際の通路は、フロストコロッサスの出現と共に青い氷によって閉ざされてしまっている。

既に、逃げることは不可能だ。



「倒すしかない、か……ケージ! あたしとライは独自に動く! 指揮をそっちに任せてもいいか!」

「アマミツキも手伝うならな! やるしかない、勝ってあの門の向こうを拝んでやろうじゃないか!」



 巨体から放たれる圧迫感を跳ね除けるように、二人のリーダーは声を張り上げる。

ライトとヒカリは詠唱を開始し、白餡はソルベに《オーバード・ドラグノール》を発動させ、ゆきねはインベントリから次々と大型武器を取り出してゆく。

前衛たちはそれぞれの武器を構え――それと同時に、フロストコロッサスはその動作を開始する。

5メートルにも達する巨体は、大型のゴーレムであるディオンよりも更に巨大だ。

例え緩慢に見えたとしても、その一歩は非常に大きく、想像以上の速度を持ってフロストコロッサスは行進を開始する。

それを確認し、まず最初に動き出したのはライトたちだった。



「俺たちで引き付ける! ケージ!」

「了解……全員、一時集まれ!」

「はぁっ!? おい、あいつ襲って来るんだぞ!?」

「今のままで勝てる訳無いだろ! アンズ、全体強化! そして旬菜、全員の武器に強化エンチャントだ!」

「あい、属性は火属性」



 ヒカリが詠唱する中、ライトは《エアクラフト》を展開しながら飛翔する。

宙を駆けるライトの魔法は次々とフロストコロッサスに突き刺さり、爆裂するが、三本あるフロストコロッサスのHPは殆ど削れていない。

ライト自身の魔法攻撃力がそこまで高くないことを考慮しても、ゴーレム系にあるまじき魔法防御力だ。

物理防御力が高いのは言うまでもないが、魔法防御まで高いとなればこれほど厄介なエネミーもそうはいないだろう。

だが、ダメージを与えることは出来た。自然とヘイトはライトに対して集まり、目のないはずのフロストコロッサスの顔が宙を駆けるライトの方向へと向けられる。

その敵意を一身に受けながら、苦い笑みと共にライトは呟く。



「これはまた、随分と厳しいな……いや、待て」



 他のメンバーから引き離すように飛ぶライトはフロストコロッサスの状態を確認し、思わず目を見開いていた。

先ほどの攻撃によって僅かに削れていたフロストコロッサスのHPが、完全に回復していたのだ。

その様子には顔を顰めざるを得ず、ライトは苦い声を零していた。



「無駄に硬い上に自動回復までとはな……こりゃ、長期戦になりそうだ」



 仲間たちが準備を終えたことを視界の端で確認し、ライトは身を翻す。

逃げ場のない死闘の火蓋が、斬って落とされたのだ。





















今日の駄妹


「何故こうもボスと遭遇戦になるのでしょうかね……今回は割と洒落になってませんよ」

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