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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
最終章:南天の輝きと悠久の王
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140:氷の断崖












「近くで見ると益々凄いですねぇ」

『登るとなると一苦労だろうな、これは。一応、上にエネミーの気配はないが』

「ここは無理して登る必要もありませんけどね」



 目の前に広がる――否、目の前を覆いつくす白と黒の断崖。

雪と氷に覆いつくされたそれは、人間が決して立つことのできない角度の斜面として、一行の前に立ちふさがっていた。

少なくとも傾斜は70度以上。最早斜面と言うよりも壁と言った方が適切であろう。

普通に登ることは不可能であり、ライトのような空を飛ぶ魔法を習熟してるプレイヤーでなければ登ることは難しい。

登攀できないことは無いだろうが、迂回路がある以上はどちらにしろリスクの方が勝ってしまう。



「さて、わざわざここまで近寄ってきたわけですが……一体何があるんですかね、ソルベ?」

『クゥ』



 振った尻尾でぺたんぺたんと新雪を叩くソルベは、鼻を鳴らしながら斜面へと接近する。

一際雪の積もるその斜面。岩肌すら見えないその場所は、足をかけることすら難しい。

登ることは不可能だろうとアマミツキは視線を上げ――そこで、ふとライトが声を上げた。



『ん……? アマミツキ、ソルベはそこの場所を示してるのか?』

「はい、何だか雪を掘ろうとしてますけど」

『……やっぱり、何かおかしいな。見てみろ、アマミツキ、ヒカリも。そこの辺りだけ、岩肌が一切見えないぞ』

「え? あ……確かに、そうですね」

『ふーむ……雪が積もってるだけにしても、ちょっと不自然だな』



 ライトの報告に、ヒカリとアマミツキは黙考する。

90度の絶壁と言うわけではないため、雪が積もりやすい状態であることは確かだ。

だがそれでも、登れば登るほど角度が急になってくるこの斜面で、一切岩肌が見えないこともまた不自然に感じられる。

ソルベが指し示さなければ見逃してしまっていたであろう異常。

それを受け、ヒカリは決意したように指示を飛ばす。



『アマミツキ、周囲に敵の気配は?』

「ありません。ソルベも反応していませんし、とりあえず周囲に敵はいないようです」

『それもまたちょっと不自然だが……まあ、襲われるよりはマシか。白餡、聞こえてるな? アマミツキの所まで行って、少し待機してくれ』

『は、はいっ』



 ヒカリの言葉を耳にしてアマミツキは後方へと視線を向ける。

指示を受けた白餡は、その場でぺこりと頭を下げて、若干あわただしい様子でアマミツキの傍まで走り寄ってきていた。

その姿に、少々過剰反応しすぎではないのかと呆れた視線を向けながらも、アマミツキは彼女を待ち構える。

雪の中ではあるが、《スノー・ウォーク》の効果が続いている以上は転ぶような理由もなく、白餡は無事にアマミツキの元まで辿り着く。



「来ましたけど……私、一体何をやるんですか?」

「まあ結論から言いますと、ここの雪を溶かすことですね」



 白餡の疑問に対し、アマミツキは肩を竦めながらそう答える。

ここを調べると決めた以上、まずはこの雪を撤去しなくては始まらない。

その為には、炎の魔法を扱える白餡の力が必要となるのだ。

だが、そんなアマミツキの言葉に対し、白餡は首を傾げながら返す。



「え……でも、それならヒカリさんがやったほうがいいんじゃ?」

「あたしの魔法は、どうにもピーキーだからな。高い熱を発する魔法は、でかい音を立てるやつばかりなんだ」

「ヒカリさん? 降りてきたんですか?」



 高度を下げて着地し――《スノー・ウォーク》が掛かっていないため足が雪に沈んでいたが――ライトの背中から降りたヒカリは、白餡の言葉に頷く。

降りてきたとは言え、ライトが索敵を途切れさせているわけではない。

ヒカリの後ろにいながら咲く適用のフィールドマップを見つめている彼は、その視線をちらりとアマミツキのほうへ向けていた。

それを受け取り、アマミツキは小さく頷いて声を上げる。



「白餡、選択肢は二つです」

「え? 選択肢、ですか? 雪を溶かすぐらい、普通にやりますけど……」

「それは決定事項なので気にしないでもいいです。ですけど白餡、まさかこの場で雪を溶かし始めるつもりではないでしょうね?」

「え? あの、いや、それは……」

「相手はこれだけの高さで積もった雪ですよ。根元から溶かしていったら、変に崩れて貴方が埋まる可能性が高いです。つまり、空を飛びつつ上から溶かす必要があるわけです」

「あー、空って……」



 その言葉に頬を引きつらせ、白餡はライトの方へと視線を向ける。

空を飛ぶための方法は、当然ながら限られている。

だが、この『碧落の光』というギルドにおいては、比較的メジャーな行動でもあるのだ。

それ故に、白餡は複雑な心境でライトを見つめる。空を飛ぶとはつまり、彼にしがみ付く必要があるということなのだから。



「ええと……き、気にしてませんよ?」

「無理しなくていいから。と言うより、アマミツキは選択肢が二つあるって言っただろう」

「全くです。私を差し置いて兄さんに抱きかかえられるなど……なのでもう一方を選びなさい」

「いやその命令もちょっとどうなのかとは思うんですけど……それで、もう一つって?」

「……何故私に聞くんですか白餡。《オーバード・ドラグノール》と《ドラゴンウィング》は貴方のスキルでしょうに」

「……あっ」



 言われて自らのスキル欄を確認し、白餡は間の抜けた呟きを零す。

《ドラゴンウィング》は、自らの契約竜を強化するスキルの一つだ。

《オーバード・ドラグノール》の発動中ならば騎乗状態ドラゴンライドで飛行することも可能であり、現状の白餡ならそれなりの時間を飛行し続けることができる。

限定的な効果である上に空中戦闘には一日の長があるライトたちがいるため、そのスキルが日の目を見ることは殆ど無かったが。

そのことを思い出した白餡は、誤魔化したように愛想笑いを浮かべながら、ライトに向けて声を上げる。



「わ、分かりました。ソルベに乗ってやります!」

「うむ、あたしもその方が楽だから丁度いいな。紅焔を育ててたから普通の火の方はあんまり育ってないが、手伝うことはできるし」



 ユニーククラスを取得して以来、ヒカリは殆ど火属性の魔法を使用していない。

威力の面では明らかに桁違いなのだ。ライトとコンビを組んで使用するにしても都合のいい魔法であり、ヒカリの持つ《メモリーアーツ:火》の熟練度はそれほど上昇していない。

とは言え、全く使えなくなっている訳ではないため、時折状況に応じて使ってはいたのだが。

ともあれ、雪を溶かす程度ならば現在のヒカリの熟練度でも問題はない。

《オーバード・ドラグノール》が時間制限のあるスキルである以上、それほどゆっくりと作業を行えないのは事実なのだ。



「と言うわけで、白餡がメインで雪を溶かす。あたしはその補佐として、崩れそうなところがあれば優先的に溶かして安全を確保する。そんな感じだが、大丈夫か?」

「はい。私は急いで溶かす感じでいいんですよね?」

「だな。《オーバード・ドラグノール》が効いてる内に大半は溶かしきりたいところだし」

「分かりました。それじゃあ、お願いします」



 頷いた白餡は、近寄ってきたソルベを一度撫で、そして立ち上がり杖を向ける。

かつては発動に制限がつき、尚且つ短時間しか使用できなかったこのスキルも、今では熟練度の上昇と共に発動時間も延びつつある。

リキャストタイムはそれなりに長いものの、流石に《オーバード・ドラゴンブレス》ほどの制限はつかない。

比較的便利な切り札として、白餡が普段から愛用しているスキルであった。



「――《オーバード・ドラグノール》!」

『クゥォォォオオオオオッ!』



 スキルの発動と共に、ソルベの体は一気に巨大化する。

スキルが成長すると共に徐々に大きくなっていっているソルベは、既に人を乗せて飛行することが可能なまでに成長しているのだ。

巨大化したソルベの体を確かめるように撫でた白餡は、そのまま更なるスキルを発動させる。



「よし、《ドラゴンライド》、そして《ドラゴンウィング》」



 白餡は冷たさを感じない氷の鞍に飛び乗り、その直後、ソルベの背中から巨大な翼が形成される。

藍色の翼膜の裏側は軽く強固な鱗に包まれ、スノウワイバーンのそれとは似ても似つかぬほどに頑強な防御力を有している。

普段の姿では所々に鱗の生えた犬にしか見えないが、翼が巨大化した今の威容は、正しくドラゴンとしての風格を備えていた。



「うおっ?」

「どうした、ライ?」

「ああ、いや……監視を続けてたんだが、今の《オーバード・ドラグノール》が発動した瞬間、周囲のスノウワイバーンが一斉に逃げてったんだよ」

「ほー……流石は古龍、種族としての格が違うってところか」



 白餡を乗せ、調子を確かめるように翼を羽ばたかせるソルベの姿を見つめ、ヒカリは感心したように呟く。

幼生体とは言え竜種の中でも最上位種に当たる古龍。

亜種でしかないワイバーンにとっては、絶対的に格の違う存在なのだ。

思わぬ幸運に笑みを浮かべながら、ヒカリは白餡へと向けて声をかける。



「どうだ、白餡。いけるか?」

「はい、大丈夫です」

「よし。それじゃあ時間も勿体無いし、とっとと行くとするか!」



 頷き、ヒカリはいつも通りライトと共に空へと舞い上がる。

そしてそれをおうように、ソルベもまた白餡を乗せて空へと舞い上がっていた。











 * * * * *











「で、出てきたのがこれって訳か」

「洞窟……いや、谷?」



 危険が無いことを確認し、アマミツキの元に集合していた一行。

そんな彼らの目の前に現れたものは、この崖に開いた巨大な亀裂とも呼ぶべきものであった。

崖のようではあるが、その頭上は分厚い氷と雪に覆われており、上からの光が入り込んでくることは無い。

だと言うに中を見渡すことができるのは、その青白い壁が淡く光を放っているためであろう。



「明らかに普通のエリアじゃないな……またどっかのダンジョンに繋がってるとかか?」

「ありえそうだが……流石に、ここから見てただけじゃ分からんな」



 雪を溶かし終え、地上に降りてきていたライトとヒカリは、内部を覗き込みながらそう言葉を交わす。

崖の中から出現したこの亀裂について、現状で判ることは少ない。

覗き込んだだけで分かるのは、この内部がそれほど急ではない上り坂になっていること程度だろう。

壁が仄かに光っているといっても、完全に奥を見渡せるほどの光量があるわけではない。

どこか誘うように光るそれは、不気味にも見える光景であった。

だが――



「……あたしは、進もうと思う。ソルベが示してくれた道だし、この山の秘密に近づくことになるかもしれないからだ」



 亀裂の前に集ったメンバーを見渡し、ヒカリは告げる。

現状、ヒカリたちはただ漠然と『山を登ればいい』と考えていた。

この山にヒントがあることは分かっており、《霊王》の言葉からもそれが間違いないことは理解していたのだ。

だが、この山の中で、具体的にどの場所に行けばよいのかまでは分かっていなかった。

そんな中、ソルベが――親は《霊王》の眷属たる氷古龍の子が見つけ出した道。



「これが答えであると確信できる訳じゃないが……それでも、賭けていいぐらいの可能性だとは思ってる。皆はどうだ?」

「私は賛成です。この山そのものが『目的』に関するヒントになっている可能性は高いですし、こんな形で隠されていたものに何の意味も無いとは考えられません。少なくともヒントぐらいは手に入ると思います」

「思考停止するつもりはないが、お前の言葉に否は無い。何かある気がするのは俺も同じだ。ここまで苦労したんだし、確かめない手は無いだろう」

「『コンチェルト』はそっちに協力する形だから、お前さんらが決定するならそれに従うさ。それに、前のセーフティエリアからもそう離れてるわけじゃないし、リスクも少ないからな」



 基本的にはヒカリに決定権を委ねている面々だ。

そのほかの頭脳派のメンバーが賛同していることもあり、他の面々に否定の感情は浮かばない。

何より、この隠しエリアとも呼べる場所に興味を惹かれていたことも事実なのだ。

どのようなエリアであるかは全く分からないが、ここまで派手な前置きがあった以上、何も無いと言うことは考えにくい。

結果として、このエリアへの侵入は全員が賛同することとなった。

全員の意見をまとめ、ヒカリは楽しそうに、どこか不敵な笑みを浮かべる。



「よし、それならここを進むとしよう! エリアが狭いからスノウワイバーンは入って来れないだろうけど、油断するなよ!」



 意気揚々と告げ、ヒカリはライトの背中に乗り込む。

この狭い領域でも飛ぶ気なのか、という呆れた視線を浴びつつも二人は舞い上がり――そして、一行は眼前の亀裂の中へと足を踏み入れていった。





















今日の駄妹


「密着はお預けですか……しかし、また妙なものを見つけてしまいましたね」

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