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Blade Blaze Online -太陽を抱く蒼穹-  作者: Allen
1章:始まる世界とチュートリアル
10/167

09:初日終了










 プレイ開始してから、現実時間で7時間――ゲーム内時間では14時間ほどで、ライトたちはゲームからログアウトする事を決めていた。

それが連続プレイ時間の限界であり、それ以上ログインしていようとすると強制ログアウトが作動してしまう。

一応、三十分前にはアラームが鳴るため、森の奥にいてもそれ程問題はなかったのだが。



「しかし、マップが無いと夜の森を抜けるのは無理だよなぁ」

「それどころか昼間でも同じだろうさ。俺たちには森を歩くための知識がない」



 ゲーム内の景色は既に真夜中。

しかし、精神的な疲れはあるものの、肉体的な疲れは皆無だ。

そんな奇妙な感覚を味わいながらも、一行はランタンを持ったケージを先頭に明かりの灯る街へと進んでゆく。

ファンタジー的な世界観ではあるが、NPCショップはしっかり24時間営業しているのだ。

今回は、そこでこれまで手に入っていたアイテムを売り払い、揃ってログアウトする予定だった。



「いやぁ、稼いだ稼いだ。俺たちひょっとして最強じゃね?」

「バカ言ってんじゃない……と言いたい所だが、現段階では否定できないんだよなぁ」



 ちらりとプリスのほうへ視線を向け、ケージは小さく嘆息する。

一行のレベルは現在のところ13――現在のトッププレイヤー達がどの辺りにいるのかは定かではないが、レベルの高いダンジョンに入り浸っていた以上、それが平均を大きく超える数値である事は間違いない。

今のところ掲示板を確認していない為どの程度攻略が進んでいるのかは判明していないが、少なくとも西の森のマップをコンプリートしている者は他にいないだろう。



「とりあえず、今回の情報はボスを倒したら公開、でいいんだよな?」

「ああ。公開した所でそこまで行けるような連中は限られてるとは思うが……まあ、一度クリアしたらここに入り浸るつもりも無いしな」

「どこかに行くのか?」

「はい、王都の方へ行くつもりなんです。あっちじゃないと、ギルド登録できませんし」



 その言葉に、ライトは納得して頷いた。

ギルドの結成には、王都での登録が必要となる。

また、ギルドハウスとして使用できる建物も多く存在しているため、団体でのプレイヤーの第一目標であると言っても過言ではないだろう。



「溜めた金はギルドハウスに使うつもりなのか?」

「ああ。と言っても、まだ借りるので精一杯だろうけどな。でも、少しやりたい事があるんだ」

「やりたい事?」

「一階で喫茶店をやって、二階を私達の本拠地にする! 前々から決めてたんです。私達の拠点にするなら、それがいいって」



 アンズの発した言葉に、ライトは小さく笑みを零す。

彼は、ケージの家が喫茶店を経営している事を知っていたのだ。

ゲーム内では、料理と言うものも確かに存在している。

一般スキルである《料理》によって作られた食べ物は、食べる事によって一定時間内様々な効果を発揮させられるようになる。

時間制限つきのステータス強化、と言った所だろう。



「へぇ……じゃあ、軌道に乗ったら食べに行ってみるとするかな」

「ああ、是非そうしてくれ。歓迎するよ」



 言葉を交わしながら、一行はニアクロウの入り口をくぐる。

流石にサービス開始直後ほどではないものの、人の数はそれなりに多い。

これから夜にログインしてきた者たちと、人員が入れ替わってゆく事となるのだろう。

そんな中で、手近にあったNPCショップへと入った一行は、手に入っていた素材の一部を売り払う。

一応、生産職が現れた時の為に多少は取っておこうという話になったのだ。

それでも、金額としては現状十分なほどの量となっていたが。



「よし……じゃあまた明日だ。よろしく頼む、ライト」

「ああ。時間に関しては、また後で連絡してくれ。携帯のアドレスは知ってるだろ?」

「大丈夫だよ。またな、みんな」



 それぞれが挨拶を交わし、ウィンドウを呼び出して操作する。

そしてログアウトボタンを押して――彼らの姿は、この世界から消え去っていた。











 * * * * *











 寝起きとは異なる、意識が切り替わる感覚。

それに対して頼斗が抱いたイメージは、テレビのチャンネルを変える光景だった。

まるで視界が一瞬で切り替わるように、黒く染まり――そして目を開いた先にあったのは、見慣れた部屋の天井だった。

小さく息を吐き、頼斗は身体を起こす。



「ふぅ……何つーか、予想以上に熱中しちまったな」



 仲間がいたから……それも理由の一つだっただろう。

けれどそれとは別に、頼斗はあの世界に魅せられてしまった自分がいる事にも気付いていた。

頭から《エンターキー》を取り外し、ソフトを起動させていたパソコンをシャットダウンする。

すっかり暗くなってしまった部屋の明かりをつければ、既に夕食の時間となっていた。

あまり遅れても問題だと、頼斗はすぐさま準備を開始する。と――



『兄さん、戻ってきてますか?』

「っと……ひなたか、どうした?」

『はい、ご飯を一緒にどうかなーと思いまして』

「言わなくても付いてくるだろうに。いいぞ、行こうか」



 苦笑しつつ扉を開ければ、私服を身に纏ったひなたの姿があった。

いつも通りの眠たげな瞳にどこか安心感を覚えながら、頼斗は声を上げる。



「それにしても、タイミングよく出てきたな」

「はい。私もログアウトした直後だったので」



 食堂までの道を並んで歩きながら、二人は言葉を交わす。

そこでひなたが発した言葉に、頼斗は眉根を寄せていた。

明言はしていなかったが――ひなたもまた、BBOのプレイヤーだったのだ。



「そういえば、合流できなかったな……ちゃんと待ち合わせているべきだったか」

「いえ、私も図書館に入り浸っていましたので」

「……お前も色々とプレイ方法間違えてるな。いや、特に決まってるわけじゃないのか?」



 ひなたの言葉に対して半眼になり、頼斗は嘆息する。

幼い頃から一緒に暮らしているだけに、彼女の行動パターンに関してはある程度把握していたのだ。

そして、本好きであるひなたが図書館に引き寄せられるのは、一応想定の範囲内ではあった。

流石に、そこで一日分のプレイを終えるとは思っていなかったが。


 食堂に入り、料理を受け取って席に着く。

寄って来る子供たちを適当にいなしながら向かい合って座る間も、二人は今日の報告を交わしていた。



「へぇ、図書館にそんな効果があったとはな」

「隠し魔法や隠しレシピ……中々有意義でしたね。私じゃなければここまで発見は出来なかったでしょうけど」



 成績優秀なひなた――彼女は、ある才能によってその成績を得ている。

それは、目にした光景や文章を一目見ただけで完全に覚えてしまう、いわゆる完全記憶能力と呼ばれるものだ。

本の記述なども、そのページを一枚の画像として頭の中に保存して、それを瞬時に呼び出す事が出来る。

性質上、モノクロの画像で記憶している為に、色の付いたイラストなどを記憶するのは苦手なのだが――



「残る本はあとちょっとですね。明日の時間があれば全て記憶できるでしょう」

「……製作者泣かせなんだか何なんだか」



 ひなたの言葉に、頼斗は小さく苦笑する。

半ばお遊びの要素として情報を詰め込んでいたのだろうが、まさか二日で読破されるとは思っていなかっただろう。

それだけ、ひなたが規格外であると言っても過言ではないのだが。



「まあ、俺も明日はまだ用事があるしな。ちょうどいいと言えばちょうどいいか」

「そういえば、兄さんは何をしてたんですか?」

「ああ。西の森の攻略だな」

「……は?」



 頼斗が何気なく口にした言葉に――普段とろんとした目をしているひなたが、その目を大きく見開いた。

そんな彼女の反応に、頼斗はくつくつと笑いを零す。

その反応は、若干期待していたものだったのだ。



「……その反応、嘘を言っているというわけではないみたいですね。でも、どうやったんですか? 正直、初日じゃ北と南の街道でレベル上げして、森にちょっと入る程度が限度だと思うんですが」



 ニアクロウの南北にある街道――その近辺が、初心者向けのエリアとして設定されている。

西には森があり、そして東には山へと続く道がある。

そのどちらも、初心者が足を踏み入れるには少々難易度の高いエリアとなっていたのだ。

浅いところで敵を倒してすぐさま逃げるならまだしも、攻略などと口に出来るほど深く入る事は不可能だ。そう、普通ならば。



「うちのクラスに嶋谷賢司ってのと篠澤友紀ってのがいるんだがな……覚えてるか? あいつらの幼馴染四人組」

「……ああ、あのリアル剣士さん。ひょっとして、あの人たちと一緒にプレイしてたんですか?」

「ああ。何せ、あのチケットを一緒に貰った仲だったしな。しばらくは一緒にプレイしようって事になったんだ」

「確か、篠澤姫乃……でしたっけ? あの人、実在する古流剣術の傍流を習ってるらしいですし、それならトカゲゾーンで戦えるのも不思議じゃないですね」

「それは俺も知らなかったな」



 彼女が剣術を学んでいるのは周知の事実であったが、そんな詳しい話は知らなかったのだ。

ともあれ、頼斗たちが西の森で稼ぐ事が出来たのは、偏に彼女の実力の賜物である。

彼女の技量が無ければ、例えあの優秀なメンバーが揃っていたとしても、西の森の奥地まで足を踏み入れる事は不可能だっただろう。




「それで、兄さんは何レベルになったんですか?」

「ああ、13だな」

「……間違いなくトップですね、本当に」



 半眼を浮かべ、ひなたは嘆息する。

疑う余地も無いと言わんばかりの確信に満ちた表情で、彼女はそう口にしていた。

尤も、それは頼斗も分かっていた事であるのだが。



「流石に、それぐらい高くもなるか」

「と言うかですね、兄さん。現状での平均レベルはおよそ4、高レベルプレイヤーでも7って所なんですよ? 何でその二倍近いレベルになってるんですか」

「……そんなもんだったのか?」

「掲示板を見る限りはそうですね。BBOは割とレベルが上がりづらいゲームですので」



 ひなたの言葉に、頼斗は軽く肩を竦める。

今更と言えば今更だ。別に自重する理由も特には無く、どちらにしろケージたちと分かれて行動するようになればあまり効率の良い狩りも出来なくなる。

そうすれば、レベルも自然と落ち着く事になるだろう。



「ところでひなた。お前、掲示板まで見てたのか?」

「はい。と言っても、少しだけですよ」



 公式の掲示板は、ゲーム内にいても閲覧と書き込みが出来るようになっている、プレイヤー同士の交流の場だ。

掲示板には二種類あり、記名板と匿名板に分かれている。

その名の通り、記名板では自動的に名前が表示され、そして匿名板では名無しのままで書き込みをする事が出来るのだ。

前者は積極的な攻略情報など、そして後者は取りとめも無い雑談などが行われる。

情報として信用されるのは言われるまでも無く前者であり、匿名板で自慢げな言葉を口にすれば『記名でおk』というレスが飛んでくる。



「ちなみに、西の森に出入りしているパーティの事は若干話題になってます。まあ、既に他のプレイヤーも入れるレベルに達し始めてますから、話題は流れてますが」

「成程な……まあ、攻略情報を載せれば炎上するだろうけど」

「そうですね。ですけど、隠していると酷い事になりますから、素直に公開した方がいいと思います」

「ま、その辺りは嶋谷の奴に任せるさ」



 元より頼斗は客員メンバーのようなものだ。

あのパーティのリーダーはあくまでもケージであり、頼斗はそれに口を出そうとは考えていなかった。

彼は思慮深い人間であり、その方が安心だと考えている節もあったのだが。



「ところで、明日はクリアできそうなんですか?」

「ああ。準備は万全だ。それでも相手の方が格上だろうけど……あのメンバーなら、何とかなるだろうな」

「そうですか。それなら、明日は合流しますか?」

「ああ。けど、レベルがだいぶ違っちまうぞ?」

「大丈夫です、こちらもさっさと読み終えてレベルを上げておきますので」



 しれっと答えるひなたにツッコミを入れかけ、頼斗は言葉を飲み込んだ。

ひなたは、やる時はやる。それこそ、思いもよらないような方法を使って。

それに関しては、頼斗もひなたの事を信じていた。



「……まあ、分かった。あんまり無茶するなよ?」

「はい、分かってます」



 無茶の基準が根本的に異なっている可能性はあるが、今更言っても仕方ないと、頼斗は小さく嘆息する。

ひなたの目は、既にやる気になった表情のそれとなっていたのだ。

そんな彼女の仕出かす事に、少しだけ期待しながら――頼斗は、楽しげな笑みを浮かべていた。






















今日の駄妹


「しかし、一人ではきついですね。自慢げに話してましたし、あの子を巻き込みましょう」

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[良い点] 面白いです! [気になる点] 半眼を浮かべとは、聞いたことの無い表現ですね。 また、文中に半眼になるとの表現が多いなと。 お気に入りだとしても、同じ表現は多用すべきではないですね。
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