旅には必要なものだと思ったんです。
神子はちっさい子供でした。・・・・俺もちっさいだろとか思った奴前に出ろ。
歳はたぶん3・4歳?茶色の髪にまあるい赤みがかった茶色の瞳。枝みたいな折れそうな手脚が、子供らしくないほっそりとした体にくっついている。
普通の体重でもさすがに3・4歳ぐらいの子供だったら抱えて走るぐらいわけないけど、それ以上に楽だったのは、この子供ががりがりに痩せていたからだ。
しかも、馬車から逃げ出したのは火事場の馬鹿力だったのか、魔物の件が一段落して子供を腕からおろすと、かくりと足が崩れて立ち上がることが出来なかった。どれだけの期間かは知らないが、少なくとも俺たちが合流してから数日間、この子供が馬車から下りて歩いているところを見たことが無い。それだけ歩かなければ、筋肉が衰えても仕方がないだろう。
しかたがないので今も抱えたままでいる。
「俺は尊。お前の名前は?」
「・・・ヴェルデ。」
「ヴェルデな。馬車壊れちゃったから、少しずつ歩けるようになろうな。」
抱えているせいで近い顔が、しばらくじっと俺の顔を見ていたが、何を考えたのか黙って頷いた。
ちなみにシュオルさんとバラスさん以外の人は遠巻きだ。すげーな神子効果。まるで俺まで呪われてるみたいな反応だ。
「タケル。」
「はい?何シュオルさん。」
「・・・疲れたら代わろう。言ってくれ。」
見上げるとどこか嬉しそうな、困ったような顔をしながらシュオルさんが言ってくれた。どうしてそんな表情になるのかははっきりとはわからないけれど・・・・申し出はありがたいね。
ただ、ヴェルデがギュッとつかまって離してくれそうにないけれども。
この年齢の子供との付き合いなんてほとんどなかったからなぁ・・・人みしりの気があるとか?いや、そうでなくても大きな男の人なんて、子供にとっちゃ怖いか。・・・・・・・・俺だってヴェルデよりでかい男だぞ、念のため言っとくけど。
バラスさんがなんか言ってくるかなとか思ったけど、特に反応なし。この人もよく考えてみれば変な人だよな。普通は近づくのも嫌がられる神子の護衛を引き受けるような人だし。まぁ、そんだけ報酬が良いのかもしれないけど。
「ちなみにどう行くことになったんだっけ?」
「ん?ああ、上流を迂回だな。」
「この旅って予定とかは無いの?待ち合わせているんでしょ?」
「あるにはあるが・・・まぁ、こういう事態も含めてたてられているから問題ない。」
まぁ、知れ渡っている不幸だもんね。当然と言えば当然か。じゃあそっちは気にしない方向で。
「ヴェルデは川ってみたことあるの?」
腕の中の子に聞いてみれば、フルフルと首を振る。ちょうど外も見やすくなったわけだし、いろいろ見せてやろう。
「あれが川。水がいっぱい流れて濁ってるだろ?ああいう川には近づいちゃだめだ。苦しい思いはしたくないだろ?」
「ちかづくと、くるしいの?」
「近づくだけなら苦しくない。でも、あのいっぱいの水に落ちたら起き上がれないことが多いから、息が出来なくなっちゃうんだ。水に顔付けたことはある?」
「うん。」
「それと一緒だけど、自分じゃ水から出られなくなっちゃうよ。だから、ああいう荒れた川には近付いたらだめだ。」
「うん。」
ふむ。なかなか素直な子じゃないか。これぐらいの年齢の子ってもっと生意気かと思ってたけど。
ところで、魔力を持ってると神子なんだっけ?
「ヴェルデはどんな力を持ってるんだ?」
「!」
「あれ、言いたくなかったか?じゃあいいや。特別気になったわけじゃないし。」
するっと口から洩れた疑問に真っ青になられては、ちょっと悪いこと聞いたかなと思ってしまう。力のことまで気にするもんかね?ああでも、力を持っているから今こうして親元から離されているわけだし、そういいもんでもないか。考えなしだったかな。
「・・・・・・・・・ひ、だせる。」
「うん?」
「そうか、ヴェルデは火がおこせるのか。」
「ああ、そうなの?じゃあ旅には便利だね。」
「・・・。」
「は?」
「くっ・・」
シュオルさんの通訳に思った事を言って笑えば、ヴェルデとバラスさんには驚かれ、シュオルさんには噴き出された。
・・・・・・・我慢せずに笑えば良いじゃん。ホントに便利だと思ったんですぅ!
どうやらシュオルさんは尊に慣れてきたみたいです。
尊は考えがとりとめがないなぁ・・・。