チェリとルイルの生活1
どうしよう、どうしよう。
チェリは、慌てていた。
彼女の家に、魔法使いが住み始めた。
しかし、ここは彼を迎え入れられるような家ではなかったのだ。
父と二人暮らしの時の家具はそのままだったので、とりあえずベッドの数は足りている。
しかし、この家は部屋を仕切って作ってあるわけではなかった。
父親と暮らしてる時は恥ずかしくなかったし、ニタの時は女同士。
だが、魔法使いのルイルは違うのだ。
それに、ベッドも固い木で出来ている。
父親が作ってくれたので、丈夫でしっかりしているが、ルイルには寝心地が悪いのではないだろうか。
魔法使いの家の、あのふかふかのベッドを思い出した。あの家と比べると、ここには本当に何もないのだと、彼がいることで思い知らされる。
ルイルは、丸太を組み上げられた壁に、手を触れて見つめている。深紫のローブを羽織ったその姿は、この家の無骨さとかけ離れた知性が溢れていて、随分不調和に見える。
チェリは、いろんな違和感を抱えながらも一番強く感じたのは、この家が狭く見える、というものだった。
ニタは、彼女は自分勝手にいたりいなかったりしたので、この家の空間がきちんと埋められた気がしなかった。しかし、ルイルは違う。黙って消えたりしないため、静かだが必ず見渡せる家のどこかにいるのだ。
チェリは、お父さんと住んでいた頃を思い出していた。あの頃には、これほど意識して考えたことはなかったが。
男の人が一人家の中にいるだけで、家はこんなに狭く感じるのか、と。
そんな思考にとらわれていた彼女に、いつの間にかルイルが視線を向けていた。
じーっと見つめていたのに、気づかれてしまったのか。
「あっ…」
慌てて言い訳をしようとした口を、チェリは自分の手で覆った。彼女の声は、ルイルにはうるさく感じるようだ。
少しは慣れたと彼は言ってくれたが、うるさいのを喜ぶ人はいないだろう。
「……」
怪訝の目にあたふたしながらも、チェリは何とか息を整える。
声を大きく出さないように気をつけて。
「い、いろいろ足りないし、古くなってきてるけど、少しずつ居心地よくしますね」
不安は山盛りだが、一緒に暮らすことを歓迎する気持ちを、何とか言葉にしたかった。
なのに。
ルイルは、ため息をついて、こう言うのだ。
「勘違いするな」、と。
勘違い?
何をチェリが、勘違いしているというのだろう。
ぽかんとしていると。
「この家は、お前のものだ。そして、私は客ではない。お前は、いつも通り生活をすればいい」
短い言葉の塊が、みっつほど積み上げられる。
要するに──気を使うなと言っているようだ。
客ではない。
そう、ルイルはお客さんじゃない。
これから、一緒に暮らす人。
いつも通り。
そっか。
とりあえず、いつも通り生活をしよう。
単純なチェリは、そうすることにした。
「それじゃあ…」
チェリは、矢筒と弓を取った。
「それじゃあ、狩りに行ってきますね」
彼女は、狩人だ。
生き物を狩り、それを生きる糧としている。
多くの蓄えがあるわけではないのだから、働かなければご飯が食べられない。
「………」
ついさっき、いつも通りと言ったルイルが、そんな彼女を見て少し考え込む様子を見せた。
「……私も行こう」
そして──とんでもないことを言ったのだ。
「えっ!?」
本当に驚いて、つい大きな声を出してしまった。
な、何で?
「森はいま、ニタの世界だ。何をするか分からん」
よく分からないが、危ないことがあるかもしれないと。
チェリのことを、心配してくれているのだろうか。
それが、嬉しくて。
えへへ。
にへらっと、緊張感なく笑ってしまった。




