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チェリとルイル  作者: 霧島まるは
おまけ
15/17

チェリとルイルの生活1

 どうしよう、どうしよう。


 チェリは、慌てていた。


 彼女の家に、魔法使いが住み始めた。


 しかし、ここは彼を迎え入れられるような家ではなかったのだ。


 父と二人暮らしの時の家具はそのままだったので、とりあえずベッドの数は足りている。


 しかし、この家は部屋を仕切って作ってあるわけではなかった。


 父親と暮らしてる時は恥ずかしくなかったし、ニタの時は女同士。


 だが、魔法使いのルイルは違うのだ。


 それに、ベッドも固い木で出来ている。


 父親が作ってくれたので、丈夫でしっかりしているが、ルイルには寝心地が悪いのではないだろうか。


 魔法使いの家の、あのふかふかのベッドを思い出した。あの家と比べると、ここには本当に何もないのだと、彼がいることで思い知らされる。


 ルイルは、丸太を組み上げられた壁に、手を触れて見つめている。深紫のローブを羽織ったその姿は、この家の無骨さとかけ離れた知性が溢れていて、随分不調和に見える。


 チェリは、いろんな違和感を抱えながらも一番強く感じたのは、この家が狭く見える、というものだった。


 ニタは、彼女は自分勝手にいたりいなかったりしたので、この家の空間がきちんと埋められた気がしなかった。しかし、ルイルは違う。黙って消えたりしないため、静かだが必ず見渡せる家のどこかにいるのだ。


 チェリは、お父さんと住んでいた頃を思い出していた。あの頃には、これほど意識して考えたことはなかったが。


 男の人が一人家の中にいるだけで、家はこんなに狭く感じるのか、と。


 そんな思考にとらわれていた彼女に、いつの間にかルイルが視線を向けていた。


 じーっと見つめていたのに、気づかれてしまったのか。


「あっ…」


 慌てて言い訳をしようとした口を、チェリは自分の手で覆った。彼女の声は、ルイルにはうるさく感じるようだ。


 少しは慣れたと彼は言ってくれたが、うるさいのを喜ぶ人はいないだろう。


「……」


 怪訝の目にあたふたしながらも、チェリは何とか息を整える。


 声を大きく出さないように気をつけて。


「い、いろいろ足りないし、古くなってきてるけど、少しずつ居心地よくしますね」


 不安は山盛りだが、一緒に暮らすことを歓迎する気持ちを、何とか言葉にしたかった。


 なのに。


 ルイルは、ため息をついて、こう言うのだ。


「勘違いするな」、と。


 勘違い?


 何をチェリが、勘違いしているというのだろう。


 ぽかんとしていると。


「この家は、お前のものだ。そして、私は客ではない。お前は、いつも通り生活をすればいい」


 短い言葉の塊が、みっつほど積み上げられる。


 要するに──気を使うなと言っているようだ。


 客ではない。


 そう、ルイルはお客さんじゃない。


 これから、一緒に暮らす人。


 いつも通り。


 そっか。


 とりあえず、いつも通り生活をしよう。


 単純なチェリは、そうすることにした。


「それじゃあ…」


 チェリは、矢筒と弓を取った。


「それじゃあ、狩りに行ってきますね」


 彼女は、狩人だ。


 生き物を狩り、それを生きる糧としている。


 多くの蓄えがあるわけではないのだから、働かなければご飯が食べられない。


「………」


 ついさっき、いつも通りと言ったルイルが、そんな彼女を見て少し考え込む様子を見せた。


「……私も行こう」


 そして──とんでもないことを言ったのだ。


「えっ!?」


 本当に驚いて、つい大きな声を出してしまった。


 な、何で?


「森はいま、ニタの世界だ。何をするか分からん」


 よく分からないが、危ないことがあるかもしれないと。


 チェリのことを、心配してくれているのだろうか。


 それが、嬉しくて。


 えへへ。


 にへらっと、緊張感なく笑ってしまった。



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