プロデューサーがオセロニアに異世界転生したらサハギンだった件【作・山岸マロニィ】
目が覚めたら、海の中だった。
何を言ってるか分からないと思うが、僕にも分からない。普通に寝て、普通に目覚めただけなのに。
もしかして夢か? しかし、嫌にリアルだ。水の感触、ヒレに感じる水圧。
──ヒレ? 何の事だ?
慌てて身体を見回す。そして叫んだ。
「サ、サ、サハギン!?」
青い鱗に覆われた筋肉質の魚人。見覚えがある。ないはずがない。だって、自分がプロデュースしているゲームのキャラクターなんだから。
夢だ。絶対夢だ。
何なら、呼吸を止めてみよう。苦しくなれば目覚めるはず。……そして気付いた。エラ呼吸をしているから、意味がない。
「マジかあああ!!」
頭を抱える。どうなってんだ?
混乱しているところに、赤い魚がふわふわと泳いできた。見覚えがある。石川県の名産のノドグロ。白身魚の王とも呼ばれる高級魚。それが、目の前を泳いでいる。これを逃がす手はない!
咄嗟に手を伸ばす。しかし、ノドグロはするりと避けて先へふわふわと進んでいく。
「捕まえてやるぜ!」
全身をバネにして水を蹴り追いかける。そして、今度こそと赤い尾ヒレを捕まえ──る直前、鋭い声が飛んだ。
「バカかお前!」
驚いて振り向く。すると、そこにサハギンっぽい少年が泳いで来た。
「どう見たって罠だろ? ほら、よく見ると釣り糸で繋がってる。飛び付けば釣られる寸法さ。
そもそも、ここはオセロニアの海の中だぜ? なんでノドグロなんかがいるんだよ」
それはそうだ……と納得しかけて、僕はあるワードに耳を疑った。
「オセロニアの……海の中!?」
「そうだよ。それがどうかしたか?」
「…………」
ちょっと意味が分からない。
だって僕はオセロニアのプロデューサー。それが寝て起きたらゲームの中の世界に居るって、どう解釈すればいいんだ?
僕の頭にひとつの言葉が浮かぶ。
──異世界転生。
信じがたいが、そう考えるしか理解できない。
でも、転生って事は、元の世界の僕は死んだのか? それは嫌だ。生きていてくれないと困る。転生じゃなくて、転移であって欲しい。
そんな事をぐるぐると考えていると、少年は呆れた顔をした。
「何ボケーッとしてんだよ。……なぁ、やっつけようぜ、あいつを」
「──俺はプサリ」
サハギンと魔族のハーフらしい。狩りが得意だが、この辺に現れる釣り人に奪われる事が多くて憤慨していた。
「だから、あの釣り人を逆に海の中に引きずり込んでやりたいんだ」
プサリは三叉槍を握って海面を睨んだ。
「おまえ、何て呼べばいい?」
「……え? えっと、……けいじぇい?」
「面倒くせーな。ケでいいや」
勝手に名前を変えられた。「行くぞ、ケ」と、プサリは泳いでいく。
「ま、待って……」
ここで置いてけぼりになったら、またどんな目に遭うか分からない。僕はプサリについて行く事にした。
ノドグロは優雅に泳いでいる。海面から差す光が、海上から垂れてゆらゆらと漂う釣り糸を照らす。
プサリは岩陰に身を潜めてその様子を眺めた。
「……だけど、釣り人を引きずり込むって、どうやってやるの?」
僕が聞くと、プサリはニヤニヤと答えた。
「あの釣り糸を思いっきり引っ張るんだ」
いい作戦だろ、とプサリは得意気だが、ものすごく単純じゃないか。
「おまえも力を貸せ、……えと、名前何だっけ?」
「けいじぇ……」
「おう、ケだった」
「…………」
プサリは慎重に釣り糸に近付いていく。
「触るなよ、怪我するからな」
意外と考えている。プサリは三叉槍を差し込んで、ゆっくりと絡めていった。ノドグロも引っ張られて、ゆらゆらとこちらにやってくる。
しばらくすると、釣り糸のたるみがなくなり、ピンと張った。
「……いくぜ!」
プサリは三叉槍を思い切り引っ張った。
「ケ! 引っ張れ!」
言われて僕も三叉槍に手を伸ばす。ギリギリ引き合う感触が伝わる。相手も本気だ。
「このままじゃ釣られる! あの岩まで引っ張るぞ! そうすれば、槍を固定できる」
プサリは海底の砂を踏みしめて、全力で力を入れる。僕も反対側から押す。
相手は多分一人。こちらは二人。数的には有利なはずだ。
ノドグロがふわふわとついてくる。顔の前に張り付いて、前が見えない。僕は針から外そうとした。
「バカ! 針が引っかかると危ないだろ! そのままにしとけ」
ノドグロは切ない顔で漂う。
──釣り糸を引く力が増した気がする。助っ人が来たのか。
「くっそーー!!」
プサリは顔を真っ赤にして力を込める。二人の全力で、何とか岩場までたどり着いた。プサリがすかさず、岩の隙間に槍を差し込む。
「援軍を呼んで来い!」
「……誰を?」
「誰でもいいから、早く!」
僕は慌てて海の中を泳いで行く。
……と、目の前に漂っている何かがいた。──巨大クラゲだ。長い触手の中に……少女がいた。知っている。ジュレだ。僕は声を掛けた。
「ちょっと、手伝ってもらえますかああ!?」
ジュレを連れて岩場に戻ると、プサリは相変わらず槍を引っ張っている。そしてジュレを見て叫んだ。
「バカか! クラゲなんか連れてきたら、こっちがやられるだろ!」
怒鳴られて、僕は再び助っ人を探しに行った。
すると、エイみたいなヒレを揺らして泳ぐ美女がいた。フォルネウスだ! 彼女なら強いはず。僕は声を掛けた。
「ちょっと、手伝ってもらえますかああ!?」
……ところが、プサリのところへ連れて行くと、不満そうな顔をした。
「わらわはそういう地味な事は趣味じゃないのじゃ」
プサリは怒鳴った。
「もっと使えるのを連れて来い!」
次に出会ったのは、デプスネレイド。何とか頼み込んで加勢してもらうものの、ゆらゆらと揺れる人魚のヒレでは力が足りない。
「もっと誰かいないのかよ!」
今度はセリーヌ。竪琴を弾きながら耳障りな歌を歌うものだからたまらない。
「どっか連れて行け! ……てか、人魚系以外にしろ!」
……注文が多い。
僕は少し違う方向へ向かった。……すると、いた。強そうなのが。
「ちょっと、手伝ってもらえますかああ!?」
……言葉が通じたかは分からないが、ついて来たから通じているのだろう。
プサリはそれを見て、ちょっと驚いた。
「ゼールタント! ……って、使えそうで使えないやつ!」
とりあえず加勢させておいて、次を見に行く。
……いた。キモいけど。
プサリも同じ感想だった。
「ユグルパ! キモっ!」
次は、なんか明るいやつ。
「ランドゥール。灯とか言う割にカップ戦くらいしか輝かないやつ!」
まだ援軍は必要そうだ。
……いた。間違いなく強い。
僕は声を掛けた。
「ちょっと、手伝ってもらえますかああ!?」
──その姿を見ると。プサリは唖然とした。
「タルヴァトルーク! 地味に綱引きやってるより他の事しろって感じだけど、まぁいいや。引っ張れ!」
……タルヴァトルークが言えるのなら、僕の名前も普通に呼んで欲しい。
そう思いながらも、みんなで槍を引っ張る。
「それえええええっっ!!!」
釣り糸がグイッと揺れた。その先でジャボンと泡が立つ。──やった! 勝った!!
釣り人は竿を手放してもがいている。トゲトゲした銀髪は見間違うはずがない。──ジークフリード!
そういえば、夏イベントで強引に釣り好き設定にしたんだっけ……。
彼はもがきながら、体勢を直して海面に浮かぼうとしている。
「これで気は済んだか……な……?」
しかし、プサリは釣り糸を解いて槍を構えた。
「行くぜ! ケ!」
「……え?」
「あいつをやっつけるんだよ!」
……いや、海に落とすのが目的じゃなかったの? その段になって、僕は慌てた。
プサリの前に進み出る。そして、何とか落ち着かせようと手を振った。
「ちょ、ちょっと、落ち着こうよ。ステイステイ」
「どけよ。逃げちまうだろ」
「あー、あのね。ちょっと、大人の話をしよう」
「……あ?」
「あのね、彼は、ゲームアイコンの顔にもなっている人気キャラなんだ。彼をその、やっつけてしまうのは、オセロニア的には、とても都合が悪くてだね……」
「……何言ってんだおまえ?」
僕は冷や汗を流して全力で作り笑顔を作った。
「あのね、だから……」
──その時、背後で嫌な気配がした。
「……ブクブクブク(竜闘気、解放!)」
「…………ぁ!」
避ける間もない。金色の竜が突進してくる。プサリたちは一目散に逃げだしたが、僕はそこまで泳げない。竜の牙が迫る。そして──。
「────ハッ!!」
飛び起きるとベッドだった。全身にびっしょりと嫌な汗をかいている。
……夢か。
それにしては生々しかった。水の感触が手やヒレに残っているようだ。
あと、竜に噛まれた感覚……。
ふと腹を見てみて、僕は血の気が引いた。
牙の跡が点々と、赤く残っている。
……という事は、あれは本当に転生していて、今のこの状況は、いわゆる死に戻りってやつ、か……?
いやいやいや。気のせいだ。絶対気のせい。
そう思いながら手を見ると、スマホが握られていた。画面をつける。すると。現れたのは、サハギン。
「…………」
どうやら、日付けが変わったらやる習慣の単発ガチャをしながら寝落ちしたようだ。
──ツイてないな。
僕は画面を戻した。まだ星のかけら一個で回せるガチャは残っている。
僕はそのボタンを押した。
歯車が回る。またB駒だ。……出てきたのは、可愛い系で人気の、ポイズントード。
……と突然、僕の意識は暗い沼に飛んだ。
「──ケロケロ」
……は?
ケロケロとしか言葉が出て来ないんだが。
とりあえず手を見ると、赤と水色で色分けされて、のっぺりとツヤツヤしてる……。
「──────ゲコッ!!!」




