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ノベロニア・アンソロジー【第一章・第二章 合併版】  作者: ノベロニア・アンソロジー実行委員会
■■■ ノベロニア・アンソロジー【第弐章】 ■■■
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14/22

夜行、襲来【作・エイル】

――― 【アート】山岸マロニィ ×【作家】エイル ―――



「——ほぅ?この閻魔を誤魔化そうとするとは、随分と舐められたものだな?」

閻魔宮大法廷。罪人の魂が裁かれる厳正な場からは、今日も見事にドスの効いた声が響き渡る。

「いいだろう。お前には大叫喚地獄での刑期を10年増やしてやろう。骨の髄まで反省してこい!」

抵抗し喚きながら獄卒に連行される罪人と入れ替わりで秘書が閻魔の元にやってくる。

「お疲れ様です。こちらが新しく増えた書類になります。大半はいつも通り、新たな魂の詳細とそのリストです。いくつか決済もございますので必ず目を通しておいてください。そうそう、魂に骨はありませんよ」

「そんなことは分かっとるわ!お前は慣用句というのを知らんのか?」

「知っていますよ。まだ反論できる元気があるようで何よりです」

閻魔はふんと鼻を鳴らし手元の書類を整——


ドゴォォォォン(・・・・・・・)


「何事だ!」

閻魔が怒鳴ると同時に伝令が飛び込んできた。

「報告!艮門より夜行襲来!付近に他の敵影なし、単独の模様!」


挿絵(By みてみん)


「夜行だと!一体何があった!」

「詳細不明!哨戒の玄武第三・第四小隊とは連絡途絶、現在櫓門にて青龍第一・第三小隊が交戦中!」

夜行、黄泉の国で最も危険視されている存在。夜行の行動に善悪はない。ただ気の赴くままに蹂躙する様はまさに歩く災害である。これまでに何度も討伐隊が組織されているが、そのいずれもが悉く殲滅されている。如何に訓練を受けてきた精鋭達であるとはいえ、一般の怪異を想定した警備が夜行の不意の襲撃に対応できるはずがない。

すでに闇夜には禍々しい赤の球が浮かんでいる。すでに夜行の領分となっている今、一刻の猶予も残されてはいない。

「総員、第一種戦闘配置!付近の小隊は直ちに応援に向かえ!討とうとするな、足止めでいい!まずは乱れた隊列を整えよ!朱雀・白虎各隊は各自持ち場にて待機、裏鬼門からの襲撃に警戒!黄竜隊の状況は!」

「全隊出撃準備完了、いつでもいけます!」

「よし、第一は北部・第四は東部に急行!その他は各持ち場にて指示を待て!」

「獄卒は囚人から目を離すな!混乱に乗ぜんとする愚か者は叩いて沈めろ!」

作戦本部と化した法廷に沢山の衛士・官吏が出入りする。目まぐるしく情報が変化する中、閻魔と官吏らは的確に指示を出し続ける。

「青龍第一及び第三、後退!戦線が下がります!」

「玄武第二は後方射撃を展開!続いて黄竜第四が出撃!青龍隊の撤退を掩護!」

「黄竜第四、会敵!遠隔攻撃はすべて高濃度の妖気に弾かれている模様!」

「良い!じゃんじゃん打ち続けろ!多少は足止めになっているはずだ!目眩しにもなる!」

「二時の方角より瘴気・妖気が急上昇!領域収斂・濃度上昇共に加速度的に進行!」

「っ!まさか——」


ズガァァァン(・・・・・・)


高密度に圧縮された瘴気・妖気の爆発。時として自らの命と引き換えに引き起こされるそれは、並の妖怪であっても甚大な被害を招く。爆発に伴う衝撃は言わずもがな、拡散された瘴気が毒素となりその場にいたもの達を害するからである。妖気の少ないものは場合によっては少しその場にいただけで死に至ることもあるほどだ。

そんな爆発を、災害たる夜行が戯れ(・・)に起こした。莫大な妖気のほんの一部(・・・・・)を解放して引き起こされたそれは、文字通りあたり一面をまっさらにした。大地は黒焦げ、塀はえぐれ、展開していた兵達は起き上がることすらできない。

「ふわぁ、すっきりしたねぇ」

笑顔を貼り付けた夜行が再び閻魔宮にむけて歩き出す。かと思えば、不意にその腕を自身の背後へを振り回した。その手には衛士の頭が乗っており、どこからか現れた体が横でどさりと倒れた。

「……へぇ。面白いことかんがえるねぇ」

頭を後ろに回すが、何者の姿も見えない。しかしそこかしこに隠しきれない妖気がいくらかあることを夜行は察知していた。

「次は隠れ鬼かな?いいねぇそれ。ほらみんな、行っておいで」

号令と共に夜行を形作る妖怪達が蠢き出す。夜行が掴んでいた頸と肉塊の匂いや妖気を記憶し散り散りになる。所々でもぞもぞと集まり、同時に悲鳴や叫び声と共に隠形していた衛士達が姿を現した。

「すごいすごい。たくさんいるね」

夜行は鋭い爪の斬撃で無惨に散らばる残骸を切り崩す。隠れ場所失った者の中には特攻を仕掛けるものもいたが、触れるまもなく惨殺されるばかり。遠方からの狙撃も百鬼らに阻まれるばかりで、時間を稼ぐことすら叶わない。まっさらになった大地で残りわずかの衛士は最後の力を振り絞る。



が、突如夜行は攻撃の手を止めた。

「はぁ、なんだか飽きちゃったなぁ。そろそろ帰ろうかなぁ」

夜行はそのまま衛士らに背を向け、自らが壊した門の方へと歩き始める。まるで何事もなかったかのように、荒れ果てた大地を百鬼が練り歩く。そのおどろおどろしい光景を前に満身創痍の衛士らは何もできなかった。気まぐれに全てを破壊し飽きが回ればどこかしこへと去る、災害としか形容できない化け物に、誰もがもはや立ち向かう気力は残されていなかった。



否、一人だけは違った。己が守るべきもの、守りたかったもの、その全てを粉々にされたのにただ立ち尽くすことができない者がいた。名もなき衛士は最後の力を振り絞り、制止も聞かずよろめきながら一矢報いんと切りかかった。だが所詮は個の力、災害に叶うはずもない。夜行は足を止めて振り返り、衛士を軽くいなしその鋭い爪で一裂きせんと振りかぶった。


「——何をしとるか貴様は!」


しかしその爪は衛士に届くことはなかった。作戦本部の混乱をまとめた閻魔が自ら魔装に身を包んで飛んできたのだ。夜行の一撃を小手で受け止めた閻魔はそのまま一薙ぎ二薙ぎと襲いかかる。夜行はひらりひらりと楽しそうにかわす。しばらくの後、瓦礫に足を取られわずかに夜行の動きが止まった隙を逃さず閻魔は夜行の首を両断する。しかし夜行の体は崩れ落ち、いつの間にか閻魔の背後でうすら笑いを浮かべていた。

「君、すごいねぇ。他の誰よりもつよいねぇ」

振り向きざまに一閃、夜行はゆらりとかわすもわずかに体が揺らぐ。畳み掛けの一突きは確かに夜行の体に大きな風穴を開けたが、再び体は崩れ本体は少し離れた位置に立っていた。

「でも少し短気なのがよくないね。少しくらいお話ししようよ」

「災害などと話すことなどない。いい機会だ、この場でお前を断罪してやろう」

「つれないなぁ。せっかく君に届け物を持ってきたんだけどなぁ」

夜行は徐に自らの肩に手を突っ込むと、ごそごそと一つの魂を取り出した。

「……ほぅ?一体どこで連れ去った?」

「人聞きが悪いね。彷徨っていた所を保護しただけだよ。僕たちの仲間にしてもよかったんだけど、偶には君の元に送り届けるのも悪くないと思ってね。ほら、行きな?」

夜行の手を離れた魂はふるふると夜行と閻魔を交互に見やり、そして勢いよく閻魔の後ろへと隠れていった。

「それじゃあやることもやったし、今日はもう帰るね。また今度君にはたっぷり遊んで欲しいなぁ?」

「随分と舐められたものだな。私がお前を簡単に逃すとでも?」

「——それじゃあ、またね!」

閻魔が号令をかける間もなく夜行の体は崩れ落ちた。今日の襲撃は全て分霊によるものだったようで、閻魔らは改めて立ち向かうべき災害の強大さを思い知ることになった。

「……状況終了。各隊は直ちに被害状況を報告。被害の少ない隊は第二種警戒体制を維持。救護隊は直ちに展開し負傷者の手当てを頼む」

閻魔がテキパキと指示を出していく。やがて宮内からも応援が駆けつけ、瞬く間に事後処理が進んでいった。

「さてと……あとはお前だな?」

あらかた指示を出し終えた閻魔は、先ほどから震えっぱなしの魂に目を向けた。手元の端末を操作し情報を探してゆく。

「ふむ……これか。なるほど、随分と好き勝手にやってきたようだな?ここまで罪状が多い奴も久しぶりだ」

魂はびくりと全身(?)を震わせる。閻魔に睨まれてしまってはもう逃げ出そうにも動けまい。

「——だがまぁ、この場から逃げ出そうとしなかったことは評価してやる。来い、審判の時までお前が待つ部屋に案内してやる」


しばらくして、とある魂が地獄一体の話題となった。その魂は極悪人であったとされながらいかなる刑務・地獄であろうと率先して取り組み、あらゆる場面で模範的であった。模範囚として刑罰が軽減され、衛士として肉体を与えられた後もその姿勢は一切崩れることはなかった。ただ、「夜行」と聞くたびに発狂しそうになるのはいつまでたっても治らなかったらしい。

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