表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/11

第9話 再会と断罪


地下牢の出口へと続く、長く暗い回廊。

背後では警報の鐘が鳴り響いている。

だが、前方から駆けてくる衛兵たちは、私に届く前にことごとく悲鳴へと変わった。

ある者は、錆び付いた天井の鉄柵が頭上に落ちて絶命し。

ある者は、古びた石床が突然陥没し、階下へと消えていく。

私は一度も足を止めなかった。10年閉じ込められていた私に順路など分かるはずもないが、迷うことはない。

分かれ道に来るたび、私が選ぶべきではない通路は「偶然」の崩落によって塞がれていく。まるで世界が、「こっちだ、お前の獲物はここにいる」と手招きしているかのようだった。

 

「ふふふ……」


私は、監獄の上層にある重厚な扉の前に立った。

『副看守長室 ザックス・ドレイク』。

一年前、私の左手首を切り落としながら「俺の人生はこれで上がりだ」と笑った男の部屋だ。

私はノックもせずに扉を開けた。

 

「……あ?誰だ!?」

 

かつて私の飯を抜き、骨を折り、右目を潰した男がそこにいた。

不潔な革鎧は脱ぎ捨て、今は金糸の刺繍が入った副看守長の制服に身を包んでいる。

 

「久しぶりだな、ザックス。私の手首と引き換えに手に入れたその制服は、さぞかし着心地が良いのだろうな」

 

微笑みながら近づくと、ザックスは椅子を蹴り飛ばすように立ち上がった。

 

「……き、貴様。なぜ、ここに」

 

「主の御加護、と言いたいところだが……残念ながら神は不在だ。代わりに世界が、君に借りを返したがっている」

 

ザックスは腰の剣を引き抜こうとした。

だが、私から搾り取った幸運で肥え太ったその指は、剣の柄を掴み損ねた。

焦った彼が身を屈めた瞬間、壁に飾られていた重厚な紋章の盾の鎖が、音を立てて千切れた。

 

ドゴォッ!!

 

「ぎ、ぎあああああああかっ!!」

 

重厚な盾が、ザックスの右肩を、机との間に挟み込む形で叩き潰した。

かつて彼が私の右足を折り、手首を落とした時と同じ――いや、何倍もの衝撃かもしれない。

砕けた骨が肉を突き破り、鮮血が机上の高級ワインに混じった。

 

「が、ぁ……抜いてくれ……!おい、絶禍!お前は俺の幸運の貯金箱だろうが!助けろ、俺を助けやがれ!!」

 

ザックスは涙と鼻水を流しながら、壁に釘付けにされた状態で叫んだ。

私は彼の目の前まで歩き、その潰れた肩を見下ろした。

 

「貯金箱、か。……ああ、その通りだ。だが残念なことに、今日が満期でね。これまで溜め込んだ利子をつけて、すべて引き出させてもらう」

 

私は彼の目の前で、机の引き出しを一つずつ開けていく。

 

「ノエルマの棺の場所を吐け。お前なら、聖遺物の移送記録を管理しているはずだ」

「言う、わけ……が……!」

 

ザックスが言いかけたその時。

彼が苦痛で激しくのたうち回った拍子に、その足が机の隠しスイッチを「偶然」蹴り飛ばした。

カチリ、と音がして、背後の書棚が反転する。そこには、極秘の移送記録と、教団本部の聖域へ立ち入るための『通行証』が収められていた。

 

「……ふふ。隠した秘密さえ、お前自身の身体が暴いてくれる。本当にお前は、運がいいな」

 

私は通行証を拾い上げた。ザックスは絶望に目を剥き、潰れた腕を抱えて呻いている。

 

「あ、ああ……待て、行くな……頼む……死なせてくれ……っ!」

「お前は私に、無理して生きてなくていいと言ったな。……なら、私からも言葉を送ろう。お前は、無理して死ななくていい」

 

私が部屋を去ろうとしたその時、ザックスが叫ぼうとして、自分の唾液と溢れた血を喉に詰まらせた。激しくむせ返り、パニックで暴れる彼の手が、卓上のランプをなぎ倒した。

瞬く間にカーテンに火が燃え移る。

「お前が手に入れた『一生遊んで暮らせる幸運』だ。最後まで、たっぷりと味わうがいい」

 

背後で、肉が焼ける臭いと、焼かれた男の声にならない喘ぎが響く。

 

「アーメン」

 

燃え盛る監獄を背に、私は夜の聖都へと歩き出した。

手元には、彼女へと続く通行証。

さあ、本当の『執行』を始めよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ