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第10話 死神の行進


監獄を後にした私の背後から、地響きのような足音が迫っていた。


「逃がすな! その異端者を細切れにして塵にしろ!」


先頭で馬を飛ばし、怒鳴り散らすのはローレンツォだ。

だが、私は足を止めることすらしない。

視線の先にあるのは、聖都の一等地。

私を地下に追いやって手に入れた金で、彼が築き上げた成金の城――ローレンツォ邸だ。


「射て! 射殺せ!」


彼の号令で矢が放たれるが、私に触れることさえ許されない。

矢は空中で、偶然互いに衝突して粉砕され、足元で爆ぜた下水の汚泥も、私を避けて透明な壁があるかのように左右へ流れ落ちる。

だが、私を避けたその汚泥のすべてが、猛スピードで突っ込んできたローレンツォを直撃した。


「ぶはっ!? ごぼっ、おえええっ!!」


私は、そこで初めて足を止め、ゆっくりと振り返った。

馬は転倒し、ローレンツォは無様に泥の中を転がっている。

彼が身につけていた豪華な法衣は、聖都の排泄物で見る影もなく汚れ果てていた。


「な……っ、な、何だ、この泥水は……っ!!」


彼が立ち上がろうとしたその時、連鎖は始まった。

転倒した馬がパニックで暴れ、その重い蹄がローレンツォの右膝を正面から踏み抜いた。


「ぎ、ぎああああああああああああっ!!」


さらに運悪く。

爆発した下水管の鋭い破片が、彼の下半身に深く突き刺さって、深くめり込んだ。

傷口から汚水が流れ込み、激痛と屈辱にローレンツォは自分の顔を掻き毟る。


「……ローレンツォ。お前に相応しい、不潔な最期だ」


私は、汚水啜りながら悶絶する彼を見下ろし、静かに宣告した。


「お前が犯した罪は、お前自身の身体が一番よく知っているようだな。……安心しろ、私の至福はまだ始まったばかりだ。死ぬまで、その汚泥の味を忘れるな」

「ま、待て……助け……あ、が……!」


彼が伸ばした手は、再び偶然近くの馬に踏みつぶされ、指が砕けていく。

私はその絶叫を背に、再び歩き出した。



ローレンツォの豪邸。

扉を押し開き、エントランスに足を踏み入れると、そこには別の醜悪さがあった。


「この、出来損ないが! 掃除の仕方も教えられないの!?」


階段の踊り場で、一人の女が幼い少女を足蹴にしていた。

厚化粧で塗り固めた顔は、怒りに歪んでひどく醜い。ローレンツォが、私から奪った金で囲った後妻だろう。


「痛い? あら、ごめんなさい。でも、私の靴が汚れた痛みよりはマシよね?」


女は下卑た笑いを浮かべ、少女の細い指をヒールで力任せに踏みにじった。

その指には、見覚えのある銀の指輪が光っている。

私が、ノエルマのために、血を吐く思いで金貨を貯めて作った、誓いの指輪だ。


「……あら、誰?」


ようやく私の存在に気づいた彼女は、扇で鼻を覆い、汚物を見るような目で私を射抜いた。


「何なの、その不潔な格好」


彼女は少女の頭をさらに踏みつけながら、私を蔑んだ。


「いいわ。ちょうど苛立っていたところよ。その子と一緒に、一生動けないようにしてあげる」


彼女が私に向かって扇を振り上げた、その瞬間だった。

彼女が少女を踏みつけていたヒールの踵が、何の前触れもなく折れた。

激しくバランスを崩した彼女の身体が、踊り場の手すりを越えて宙に舞う。


「え……っ? あ、ああああっ!」


真っ逆さまに落ちた彼女の顔面を、偶然金具の腐食した巨大なシャンデリアが、逃げ場を塞ぐように直撃した。


グシャリ。


「……あ……が……」


シャンデリアの鋭いガラス片が、彼女の顔をズタズタに刻み、その両目を深々と貫いていた。

もはや顔の造作すら判別できない。ただの、血に濡れた肉の袋だ。


「……似合っていないな。その指輪も、その人生も」


私は動かなくなった彼女の手から、銀の指輪を抜き取った。

指輪は、彼女の指が衝撃で千切れたことで、驚くほど滑らかに私の手へと戻ってきた。

泣きじゃくる少女には目もくれず、私はクローゼットへと向かった。

そこには、ローレンツォが誂えた最高級の法衣が並んでいる。

私は囚人服を脱ぎ捨て、黒い贅沢な布地に身を包んだ。


「……ただいま、ノエルマ」


懐に、回収した指輪を仕舞い込む。

鏡の中に立つのは、もはや地下牢の廃人ではない。

黄金の瞳を爛々と輝かせ、死の香りを纏った、漆黒の聖職者。

さあ、行こう。

この世界の頂点に座る神に、地獄の報告をするために。


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