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第39話 その扉が開く音

「久しぶり……でもないか。3日ぶり」

「あ、うん」


 ティスタは相変わらず集合時間よりずいぶん早く来るのが趣味らしい。私も別に時間に遅れたわけじゃないんだけれど。


「じゃあ、行こうか」

「え、これで全員?」


 ここにいるのはティスタと私だけなのに。

 どうやら班員が死んでも、この作戦中はそのままらしい。


「そうみたい。こんな役目に増員するほど余裕はないってことじゃないかな」


 私達の役割は単純に言えば、見張り。

 もっと有体に言えば、戦力外のため放置らしい。


 もう遺跡探索はしなくていいことになった。

 3日前の作戦では18人が死んだ。融合体以外での被害では正直、ありえないほど多い。多分、ここ10年では一番ぐらいの死者が出た作戦だったんじゃないかな。死亡率で言えばまた別だろうけれど。今回の作戦はかなり参加者が多かったし。


 18人の全てが遺跡中心部ではなく、外縁部付近の探索をしていた人達だった。その中にはもちろん、私の班の人たちもいる。私が生き残ったのは幸運だからでしかない。色々な要因が重なったおかげというか。


 今回のことで、上層部は遺跡の危険度を引き上げた。その影響で、探索はかなり高位の魔法師だけですることになった。中心部の高魔力存在は倒したようだけれど、一応というやつらしい。それゆえに、予想通り私達のような評価の低い魔法師は、もう遺跡探索からは除外された。


 まぁ実際のところ討伐隊としては、私達のような魔法師の命はどうでもいいだろうから、適当にこき使いたいのだろうけれど……今回の事故で、討伐隊という組織はそれなりに批判されているらしい。この状態で、また私達ぐらいの魔法師が死ねば、討伐隊を良く思ってない人達の格好の餌になってしまうから、行かなくていいようになっているんだろう。


 ということで、遺跡の入口付近に、2人で座り込む。

 ここで異常がないか見張ると言うのが仕事らしい。こんなの人間がやる意味があるのかは知らないけれど、これでお金がもらえると言うのなら、そんなにありがたいことはない。

 まぁ、一応この場所も未開拓領域なのだから、それなりに危なくはあるのだろうけれど。それでも、遺跡内部よりは大分ましだろうし。


「あたしたち、期待されてないんだね」


 ふとティスタが呟く。

 それがこの意味のなさそうな見張りをさせられていることだと言うのは分かる。


「それはまぁ」


 そんなものというか。

 正確な数値は知らないけれど、こうして私と同じ班な時点で、ティスタも相当遺物との同調率が低いのだろうし、適合する遺物がないのなら、戦力として見られないのは、討伐隊らしいというか。


「やっぱり同調者じゃないとだめなのかな」

「……だめってことはないだろうけれど」


 別に同調者……具体的には同調率が0.1未満の人でも、役割はある。

 単純なところで言えば、同調率0.05とかの融合体との戦いでは戦力外の人でも、こういう遺跡探索では十分有効な魔法師だし。他にも見えにくい所で言えば、哨戒任務とか同調者がするほどでもないぐらいの仕事なら、たくさんあるし。私はそこまで給料が欲しいと感じたことは無いから、希望したことはないけれど。


 でも、そういうことじゃないことはわかる。

 ティスタは融合体と戦うぐらいに人を救うことがしたいのだろう。それを討伐隊という場所でするのなら……


「それなりに同調率がないと戦えないから」

「やっぱそうだよね」


 逆に言えば、今の遺物との同調率が重視されている社会で、同調率が0.05もないようでは話にならない。

 というか、それぐらいの同調率でティスタのように考えている人の方が珍しい気がする。大抵、最初の同調率測定で、低いことが分かれば、将来のために他のことをするのが普通だというのに。あとは私のように諦めて過ごすか。


「あの子はどれぐらいなの?」


 ティスタが問う。

 けれど、質問がよくわからない。


「どの子?」

「昨日の、アイリちゃん。助けに来てくれたんでしょ?」


 アイリちゃん。そんなふうにアイリのことを呼ぶのはなんだか違和感がある。というか距離が近い気がする。

 いつのまにそんなに仲良く……いや、これはティスタの距離感が近いだけなのかな。


「……えっと、勝手に言うのは悪いと思うから」

「あ、そっか。そうだね。聞くのも良くないか……でも、同調者だよね」


 確信があるらしい。まぁ流石にそれぐらいはわかってしまうか。あんなふうに光魔法で地上から地下まで貫通なんか、同調者にしかできないだろうし。


 でも、一応頷くのはやめておいた。アイリは自分が同調者であることを隠そうとしていたし。まぁ、否定もしなかったけれど。嘘をつくのは嫌というか……ちょっと中途半端かもしれない。


「あたしも同調者になりたかったな」 


 ティスタが虚空に呟く。

 その言葉を聞いて、思ったことを口にする。


「同調者になりたい人もいるんだ……」

「え?」

「あ、いや。そうじゃない……わけじゃないんだけれど。ごめん。失言だった」


 また考えずに言葉を放ってしまった。もう少し考えて話して欲しいのに。

 今のは、ティスタの想いを嘲笑しているようにも取られかねない。私にとってはただの疑問であっても。


「ううん。別に気にしてないけれど」


 幸い、ティスタが気にしている様子はない。

 少しほっとする。あまり怒りを買うのは好きじゃない。まぁ、それが好きな人はいないだろうけれど。


「でも、どういう意味?」

「えっと。そのままの意味だけれど……」

 

 私の返答に、ティスタは悩むようにえーっとと言葉を伸ばす。


「レーネは同調者にはなりたくないの?」

「そうだね。戦うのとか怖いし」

「へー、戦うのが怖いかー。討伐隊らしくないね」


 ……そうかもしれない。討伐隊なら、恐怖を抑えて利他的精神を持つべきなのはわかっている。でも、私はそのような精神に迎合できない。


「でも、命を取られるかもしれないんだよ?」

「まぁ、そうだけどさ。同調者になればみんなを守れるから」


 とても素晴らしいことかのように語る。実際にそれは正義なのだろうし、まぁ、そうかもしれないけれど。同意するのは難しい。共感ができない。


「それにレーネだって、この前は私を守ってくれたよね」

「でも、怖いものは怖いから」


 正直、あまりちゃんと覚えていないんだけれど。

 辛うじてとはいえ、勝ったせいか、あの恐怖を上手く思い出せない。思い出したいわけじゃないけれど。でも、なんだか、もう過ぎたことになってきている。

 あれからまだ3日しか経ってないというのに、死にかけたことも、班員が死んだことも、何もかもが過去になりつつある。私の世界はなんというか、あまり現実味を帯びていないせいか、すぐに出来事が過去になり、後悔へと変わっていく。今がないというべきか。今を見つけられていないというべきか。


「うーん。あたしだって、怖くないわけじゃないけれど。それよりはみんなを助けたいと思うよ。普通はそうじゃない?」

「全体主義? それとも功利主義だっけ?」

「こーり? 難しいことは知らないけれど、その方が良くない?」


 ……そう言われれば、反論の余地はない。

 融合体を倒さなければいけないというのは、人類全体の目標であり、それが達成されなければ、人類は滅べる。だから、同調者になって、人々を助けたいというティスタの想いは正しいのだろうし、だからこそ反論できない。


 ……でも、私は戦いたいとは思わない。

 アイリにも、戦ってほしくはない。


「まぁあたしも結局、助けられている立場だからね。アイリちゃんとかに。何も言えないけど」


 ……そう。私達は何も言えない。何も言えなくなる。アイリとか、他の同調者に助けられているのだから。彼女達のすることに何も言えない。

 だから、アイリに何かを望むことなんか。できるわけがない。


 風が吹く。

 この遺跡は山の中に在る故に、私達がいる場所もそれなりに標高が高い場所で、風が強い。ひゅうひゅうと音がする。

 普段いる空中要塞都市よりは低い場所だから、寒いことはない。それに、この風の音のおかげで沈黙が肯定されるのもやりやすい。


「あのさ。意外とレーネって話しやすいね」

「えっと?」

「もっと気難しいっていうか……変な人かと思ってた」

 

 なんかそれなりに失礼なことを言われている気がする。


「そう?」

「そうだよ。だって、学校ではいつも1人だったし、話しかけてもあんまり返事してくれなかったから」

「そうだっけ」

「そうだよ」


 アイリによる変化かな。別に学校の頃も、好きで独りでいたわけじゃないんだけれど。ただ感覚が合わなかっただけで。認識している世界観の差というか。


「ティスタも大勢でいたから怖かったっていうか」

「えー? 大勢で怖いって。別にみんな良い人ばかりだったよ?」


 そういう問題じゃないんだけれど。

 ただ単純に人数差がありすぎて、怖がっていたというか。というより、私の対人関係能力では1対1でないと、上手く話せないというか。


「あ、でも。最後の研究発表の時はレーネも誰かといたよね」

「……そうだっけ」

「あれ、違った? でも、みんな二人一組だよね」


 違わない。研究発表は私も二人一組だった。

 でも、あまりその話はしないで欲しい。その記憶は、もう忘れているのだから。忘れたことにしているのだから。思い出させないで欲しい。

 だからかもしれない。魔法学校の人と会いたくなったのは、この記憶を思い出すからかもしれない。


 ……またこの記憶か。

 失言の記憶。私の失敗の記憶。

 思い出したくもない記憶。


 乗り越えたと思っていたのに。アイリと出会って、後悔しないよう選んで、それで乗り越えることができたと思っていたのに。

 まだ、私はこの記憶と向き合えない。


 最近はもう少しばかり現実を見れていると思っていたけれど、それは幻想だったらしい。やっぱり私が変わったのではなくて、アイリのおかげというか。


 ちらりと上機嫌そうに魔法学校での話を続けるティスタを盗み見る。彼女にとっては、やはり魔法学校での記憶は良い思い出らしい。私とは違って。

 ……それは当然か。私と同じ視界を見ている人なんか、いるわけがないし。


 でも、だからこそやっぱり。

 なんだか息が重い。 

 

 この感覚は久しぶりな気がする。最近は誰かと話していてもこんなのなかったのに。

 ……誰かとって。最近、私が話した人は1人だけなのに。アイリとしか話していないのだから。


 逆説的に言えば、アイリと話すのは息が軽いらしい。

 息がしやすいのか。全然考えていなかったけれど……たしかにそうな気がする。私は、アイリの隣でとても簡単に息継ぎさせてもらっている。彼女の流れの中で。


 アイリが私の手を握ってくれると、私でも現実に接続されている感じがする。繋ぎとめてくれているというか、隣に誰がいてくれるというのが、ここまで大きな影響を与えるとは思わなかった。 


 それは多分、私にとって初めてのことで。

 ならば余計に、記憶のように失敗しないで欲しいと願ってしまうのだから。

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