第34話 過去の破片
もう融合体が出現しなくなってから半年経つ。
融合体は殲滅されたという説とか、融合体の元になる魔導機械の生産場を叩いたという説とか色々あるけれど、実際のところは何もわからないというのが実情らしい。
まぁわからないことをいつまで考えていても仕方がない。
……同じように魔法師管理機構が思ったのかは知らないけれど、人類は融合体討伐以外に魔法師を使うことにしたらしい。
そしてその対象は巨大遺跡での遺物探索。
結局、遺物と言っても最大の狙いは魔力増幅器の情報なのだろうから、融合体に怯えていることは変わらないけれど。
というわけでこの第五空中要塞都市においても、遺物探索が行われることになった。所属する魔法師は全員参加で。
同調者であるアイリはもちろん、私も参加することになった。
正直、全然やりたくない。
遺跡とかこつけてはいるけれど、結局未開拓領域であることに変わりはないし。
でも、命令だし。こうして上の命令に従うという契約で普段ただ魔法の練習をしているだけでお金をもらっているのだから仕方がない。
というわけで遺跡探索が始まるらしいんだけれど……
「……違うところになっちゃった」
第1回143遺跡攻略作戦当日、集合場所でアイリは悲し気に呟いた。
私は少し違う場所が集合場所だから、私はここにいるわけにはいかない。
指定された時間まではまだ余裕があるけれど。
「まぁ、仕方ないよ」
慰めるように言ってみる。
私はただの魔法師で、アイリはもう同調者なのだから。
配属される班が違うことぐらいわかっていた。
彼女もそれぐらいわかっていたはずなのに。
「一緒じゃないとやだ……」
「そんなこと言われても」
「……だって心配で」
「えぇ……」
……そんなことを私に言われても困る。
アイリの一緒にいたいという気持ちが大きいのは知っているけれど、こういうどうしようもない時まで言われても困る。この命令に背いたら、職を失うわけだし。
それに心配という言葉は、どちらかと言えば私の台詞な気がする。
危険なところに行くのはアイリなわけだし。
私の班の探索担当範囲は上層の端。大した危険はない。はず。
対してアイリは下層の中心。明らかに魔力濃度が高い場所に投入されるらしい。
まぁ同調者なのだから当然なのかもしれないけれど……それなりに心配ではある。
「まぁ、心配しても仕方ないよ。どうしようもないし」
言い聞かせるように呟く。
私自身にも呟いたのかもしれない。
結局なるようになる。融合体と戦うというわけでもないのだし。
……なんか妙に楽観している気がする。
昔はもっと怯えていたのに。
「……また、会えるよね」
アイリが願うように呟く。
あ、そっか。私はアイリとまた会えることがわかっているから、こんなに楽観できているらしい。
今は彼女が隣にいようとしてくれるから、あまり心配していないらしい。
……なんだか照れくさいけれど。
「帰ってこれれば会えるよ。約束はできないけれど」
大丈夫とは思いつつも、これから行く場所は未開拓領域なわけで、そこで死ぬことがないと約束できるほど、まだ楽観的ではないらしい。自信もないし。
アイリの影響で多少は魔法の練習をする時間は増えたから、動けないってことは無いと思うんだけれど……
「レーネ、やっぱりこれ……」
「なにこれ。魔導機?」
「……あげる」
「えっと……ありがとう?」
魔導機を手渡される。
魔法が刻まれている魔導機は、術式を編むという工程を省けるわけだけれど、結局単純な術式の展開速度がそこまで変わるわけもなく、魔法師で使っている人はほとんどいない。それこそ複雑な術式を使う時ぐらいにしか使わない。
例えば、回復魔法を使うときか。
「これ、回復魔導機?」
アイリが頷く。
回復魔動機なら、もう持ってるけれど……というか、そんなに常識のない人だと思われているのかな。流石に未開拓領域に行くのなら回復魔法の使用手段ぐらいは持っていく。
「これ、同調者用に配られた特別なやつ。第5世代回復魔法が内蔵魔力だけ使えるから。1回限りだけど」
「へぇ……」
じゃあ、これは普通の回復魔動機ではないということらしい。
それはすごいかもしれない。というか、もうそんなのできてたんだ。
250年前におきた回復魔法の革命により生まれた第5世代回復魔法。それは死にかけの人であっても救うことができる回復魔法。魔力情報自体の補完を行うことで、ほとんど全ての外傷を治すことができ、失った手足なども全て治る。
それが産まれてから250年経つけれど、未だに第6世代回復魔法はできていない。第5世代の効率化と術式改良で十分ともいうけれど。
「けど、アイリ。こんなのもらえないよ」
「え……なんで?」
「だって、これはアイリが同調者だから貰えたものでしょ? 私は同調者じゃないし」
第5世代回復魔法は魔力消費と術式の複雑さが第4世代までの比じゃない。
それゆえに個人の力だけで術式を編むのは相当難易度が高い上に、術式を編んで回復魔法を使っても魔力が空っぽになりかねない。
多分、その欠点を補うのがこの魔導機なんだろうけれど。
魔導機に第5世代回復魔法を刻むというのは昔から行われてきたし、今でも病院とかはそれが主流だけれど……こんなに小型化したものは見たことがない。少なくとも、一般人が手に入るものではない気がする。
「それにアイリが持ってないとそれこそ不安なんだけれど」
「私は、大丈夫だよ。怪我なんてしないし」
たしかにアイリが怪我するところなんか想像はつかないけれど。
でも、彼女が行く場所はもっとも魔力が濃い場所だし。流石に融合体ってことはないだろうけれど、とても強い魔物がいてもおかしくないし。
「それにほら……私もあるから」
彼女は懐からひょいと同じ魔導機を取り出す。
「え? 2つ持ってたってこと?」
さっき特別製とか言ってたのに。
まぁたしかに予備とかも考えればいくつか配るもの……なのかな?
あんまりよくわからないけれど。
「うん。だから持ってて」
「でも……」
「お願い。心配だから……」
アイリはまたしても私の手をがっちりと握り震えた声を出す。それをされると断りにくい。ずるい。
まぁ……今回は嫌なことというわけでもないから、私が折れることにしよう。
「じゃあ、有難く貰っておくよ」
……よく考えたらそんなに断る理由もない。
でも、受け取ってしまったけれど、これを使う時があるのかな。
あんまりどんな遺跡かはわかってないんだろうけれど、そこまで強い魔物は確認されていないはずだし。
まぁ、お守りというか。そんな感じで。
「えっと、じゃあ……行ってきます」
「いってらっしゃい。ほんとに気を付けてね」
アイリに軽く手を振って、その場を後にする。
彼女も手を振っている。大きく。それも少しばかり泣きそうな目で。
……大げさすぎる。
どうせまたすぐに会えるのに。
まぁでも何か不測の事態があれば、これで今生の別れになるかもしれないのかな。
そう思えば、アイリがそうするのもわかる気がするけれど……そういう話をするなら、ずっとそうだし。空中要塞都市内にいても、ふいに天罰が落ちて急死する可能性が0というわけじゃないし。
そんなことを考えながら、集合場所まで歩く。
集合場所は少し遠い。まぁ私の所属する班は魔法師の中でも特に微妙な人たちばかりが集まっているのだろうし、半分ぐらい除け者扱いなのかもしれない。
この巨大古代遺跡探索は班に分かれて行うことになっている。
中心部や魔力濃度の高そうな部分に同調者やそれに類するものを投入して、遺跡を制圧。あとは細かな探索は私達のような魔法師にやらせるらしい。
まぁたしかに私のような何もやることがない魔法師と違って、同調者がいなくなればまた融合体が現れたときに空中要塞都市を守る人がいなくなるわけだから、そんな感じになるのは当然のような気もするけれど。
でも、だからって2日目以降の探索は魔法師だけというのは随分と臆病すぎる気がするけれど。どれだけ同調者を手札として残しておきたいんだろう。
当分は遺跡に通うことになる。
かなり気が重い。
面倒くさいし。
……アイリはいないし。
そっかこれから当分、昼はアイリと会えなくなるなんて。
……うーん。思ったよりも悲しいらしい。
まぁ会えなくなるわけじゃないからいいのかな。
でも、アイリはずっと一緒にいたいと言っていたし、私も本当はそう思うべきなんだろうけれど……
「傾いてる……」
私達の関係の天秤はずっと傾いている。
アイリのおかげで崩れたりはしていないけれど、それでも傾いている。
均すためにも少しぐらいは頑張らないといけないかもしれない。
せめて、今回の班行動は、魔法学校の時みたいにはしたくない。
そんなことを考えながら、集合場所に着いたときにははもう私以外の班員である3人が集まっていた。
どうやら私が最後らしい。まだ時間までは少しある。みんな時間にゆとりを持ちすぎな気がするけれど……
「……え」
足が止まる。
班員らしき人が顔を上げ、私を見つける。
一瞬、怪訝な顔をしたあとに驚いたように目を見開く。
……私は彼女を知っている。
名前はティスタ。
魔法学校時代の知り合いがそこにはいた。




