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第3話 きっとそうなら

 定期的に存在している遺物同調率測定。

 空中要塞都市の魔法師全員に課された義務で、これを無断でさぼればそれなりに怒られる。

 まぁそんなわけだから私も同調率を調べに来た。5日ほどある検査日の4日目。1番人が少ない日を狙ったおかげか、あまり人はいない。すぐ終わりそうな感じがする。


 いつもは最終日に来ることが多いから、こんなに人がいないのは意外だった。まぁ最終日の方が私みたいな駆け込み需要もあるということなのだろうけれど。


 そんな私が今回は少し早めに来たのはやる気があったわけではなく、アイリに誘われたからだった。どうやら彼女は今日という日が人数の少ない日であるとわかっていたらしい。


「よく知ってたね」

「少し聞いたことがあって」


 へー。随分と詳しい人がいたものだけれど。

 私も人が少ない日に来れるなら、そうできる方が良いし、今度の測定日も4日目に来ようかな。


 適当に受付を済ませて、待機室の一角に座る。

 ちらりと周りをみれば、私達のように誰かと来ている人もそれなりにはいる。というか、それが典型的な測定日の過ごし方らしい。


「えっと、もう少しかかりそうだね」

「そうみたい」

「測定って言うけれど、流石に待ち時間長すぎるよね」

「……言われてみれば、そうかも」

「私達のやることといえば、魔力を流すだけなのに」


 まぁ魔力形質と各遺物の同調率を調べるというのはそれなりに時間がかかることなのだろうけれど。


「というか、同調率っていうのもよくわからないよね」

「……そうかな」

「だって、遺物って言ってもただの古代魔導機なわけで。人によって出力が違うってのはなんていうか、変じゃない?」


 魔導機らしくないというのか。

 魔導機と言えば、魔力を流せばそれなりの効果を発揮するものなはずなのに、遺物には同調率と呼ばれる謎の適性がある。それはあまりにも魔導機らしくない。


「多分魔力増幅器としての性質の問題なんじゃないかな。魔導機は大抵、魔力増幅器としての性質を持つけれど、遺物は循環型だからそのせいで多分……」

「循環型だと、やっぱり大変なのかな」

「まぁ、うん。そうだと思う。遺物は魔力増幅器と言っているけれど、瞬間的な増幅じゃなくて、恒常的な増幅をするようになるから、魔力形質の相性って概念がでてくるっていうか」


 確かにそういう違いはあるのかもしれない。遺物は魔力を流して起動するというよりは、魔力自体を強化する魔導機という違いというか。


「それに同調率は安全装置の意味もあるの、かも」

「そうなの?」

「多分だけれど。もし同調率の低い状態で魔力増幅を無理やり行ったら、魔力情報への負荷が酷いっていうか……身体が持たないと思うよ」

「そのために遺物側で制限をかけてるってことか」


 でも、それなら。

 これはちょっと怖い想像だけれど……戦況が本当に不味い状況になったら、適性のない魔法師でも命を賭して遺物を起動しないといけなくなるんじゃないかな。そんなことにはなって欲しくないけれど。

 というか、その制限というのが解除できないものであってほしい。


「魔力同士に同調率っていうか……適性や相性があるのは、少し面白いよね。魔力なんて、ただの力の塊なのに」


 少し変な性質はあるけれど。

 魔力は基本的に力であって、それ以上でもそれ以下でもないのに。

 でも、魔力には相性がある。それは私達の持つ魔力が純粋なものではなくて、複雑なものだかららしい。


「人同士にも魔力相性みたいなものがあるよね。ほとんど占いみたいなものだけれど」

「一応、魔力接続とかだと関係あるみたいだね」


 そうらしいけれど。

 でも、魔力接続なんて技術としては存在するだけで、何かの役に立つわけではないし。もし仮に魔力接続が必要とされる状況だったとしても、それなりの補助魔導機を使うだろうし。


「レーネと私の魔力相性はどうなのかな……」

「アイリってそういうの気にするんだね」


 本当にただの占いというか。

 ほぼ意味ないものなのに。


「い、いや。別に。でも、どうなのかなって」

「まぁ良いんじゃない?」


 測らないとわからないことらしいけれど。でも、こんな風に2人で過ごしていても苦ではないのだから悪くはない気がする。

 それに良いってことにしておいた方が楽だし。


「……そうかな」

「きっと、そうだよ」


 不思議な感じがする。

 こんな風に誰かと過ごすときが来るとは思わなかった。それに疑問を持たないというか、あまりにも当然のように2人でいるというのも。それこそ本当に魔力相性が良いのかもしれない。なんてね。

 

 それからしばらく2人で座っていれば、ぴこんと音がして、大画面上に番号が表示される。

 いくつかの数字の中に3398700という番号が見える。

 私の識別番号。ちょっと切りの良い番号なのは少し嬉しかったりする。

 ようやく私の順番が来たらしい。


「あ、私、呼ばれた。行ってくるね」

「うん。じゃあ、また」


 アイリはまだみたい。

 同時に予約しても少しずれがあるらしい。

 まぁ同時といっても完全に同じではないのだし。


 第3測定室。そこが今回の私の測定室。

 測定室と言っても、測定係の人がいて、機械がぽつりと置かれているだけなのだけれど。


「3398700ですね。では、座って」

「はい」

「やり方は分かりますね」

「多分、大丈夫です。前回と同じならですけど」

「同じですよ」


 なら、この目の前の四角い魔導機に魔力を流すだけでいい。

 それだけで遺物と同調率を測れるなんて、現代魔法技術はすごい。


 手で触れて、深く息を吐く。 体内の魔力を少しずつ流していく。

 私の中の魔力量はそれなり。魔法師としては少ない方なのかな。けれど、これぐらいなら特に困ることはない。


 流れ出る魔力がどういう経緯を辿って、同調率測定が行われるのかは知らない。

 だから、とりあえずぼんやりと魔力を流すだけ。


 魔力が流していると、どうにも集中できない。それなりに長時間魔力を流すわけだけれど、この間ずっと集中しておくというのがそれなりに無理のある話な気がする。

 もちろん集中したほうがいいのだけれど、あまり身が入らない。まぁ魔力が多少乱れたぐらいで、何か問題があるとは思わないけれど。それに別に同調率が低くても困りはしないし。

 どちらかといえば私が願うのは、同調率が低いことだし。あまり高いと困る。融合体と戦うなんてしたくないし。


「はい。これでいいですよ」


 しばらくの間魔力を流していれば、途中で測定官の人から声がかかる。


「それじゃあ、結果はすぐ送りますから。お疲れ様です」

「はい。ありがとうございました」


 ぺこりとだけして、測定室を後にする。

 アイリも流石に測定室には呼ばれていると思うけれど。

 どこかにいるのかもしれない。


 一応待機室までの帰りに、第2測定室をちらりと覗いてみれば、そこにはアイリがいて、測定係の人と少し話していた。

 それは今日初めて会った人という感じではなくて、知り合いという感じがする。友達という感じはしないけれど。


 それを横目に待機室へと戻る。

 通信端末を開いて、測定結果を見てみる。結果は相変わらずどの遺物との同調率もすごく低いと言った感じで。まぁ別に構わないのだけれど。

 それから少ししてアイリも出てきた。


「ごめん。待ったかな」

「ううん。別に。どうだった?」

「……えっと、いつも通りって感じ」

「私も。毎回ちょっと怖いんだよね」


 同調率は急に変動しやすいらしい。 

 それはどういう要因かはわからないけれど。でも、もしそれで急に高くなっていると困る。一応、毎回怯えてるけれど、特に高くなったことはない。

 まぁ、怯えてるからといって、特にこちらでなにかできるわけじゃないんだけれど。同調率の変動は心の差異ということもあるけれど、心なんて自分で制御できるものでもないし。


「でも、全部0ってのも助かるけれど、ちょっと悲しいよね。遺物に拒否されてるみたいで。アイリも全部低いんだっけ」

「……ううん。ひとつだけ、ちょっと同調できるみたい。同調率0.08だって」


 驚いた。

 ……嘘、あんまり驚いてはない。


 アイリは私よりはあの遠い戦場に近そうだし。そんなこともあるかと思っていた。

 まぁでも、1割もないんじゃ正直あまり変わらない。実際に戦えるのは最低3割の同調率がいると言われているし。

 けれど、それでも違うのは可能性か。


「なら、一応正規魔法師になる道もあるんだ」


 私にはほぼない道ではある。遺物との同調できる見込みはないのだから、別に何をしてもあまり意味はない。

 でも、アイリのように何かしらの遺物と同調できる可能性があるのなら、訓練を真面目にやればそれなりになる可能性はある。もちろん高い確率ではないけれど。


「ううん。私は、あんまり戦いとかはしたくないから」

「まぁ、そうだよね」


 アイリには危ない目には遭って欲しくない。

 でも、もし彼女が戦うことになったら。

 今、隣にいるアイリのことも遠い存在に感じてしまうのだろうか。

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