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第18話 つぐみ

 まばゆい光が視界の中を駆け抜ける。

 こうしてアイリの魔法の練習を見るのは二日目だけれど、彼女の魔法はなんというか、綺麗すぎるというか。


 というか、この魔法……おそらく光系攻撃魔法第一種光線だろうけれど、この魔法をもう何十回と見た気がする。それこそ目が痛くなるぐらいには。ずっと反復練習をするというのはやっぱりそれなりに大事なことなのかな。


 私もこういうことをしたほうが良いのかなと思いつつ、アイリの隣で術式を編んでいる。術式を編んで、崩して。魔力まで流して魔法を発動させてしまうと疲れてしまうから、こういう方法を取っている。


 というか、こうやって術式を編むだけでもそれなりに疲れることは疲れるんだけれど。アイリはよく魔力が持つというか、体力が持つというか。


 やっぱり、そういう所から違うのかな。

 同調者とそうじゃない人では。

 ……まぁ、私は魔法師の中でも体力が少ない方だろうけれど。


「アイリ」


 彼女の名を呼んでみる。

 すると、アイリは手を止めてこちらを見る。

 あんまり真剣にこっちを見られても困る。そんなに大層な話じゃないし、あんまり邪魔するつもりじゃなかったのに。


 ……なら別に話しかけなければいいのにということかもしれないけれど。

 でも、こうして声を出してしまえば、今更なかったことにはできない。

 そういうところは短絡的なところが出ているのかな。


「こういうのはよくやってたの? 魔法の練習」

「……うん。子供の頃からずっと」


 それは私の予想通りの答えだった。

 アイリが魔法を使う所をちゃんと見たのは初めてだけれど、あまりにも綺麗な魔法を使うから。一朝一夕の魔法じゃない。

 これでも私も魔法師になれるぐらいには魔法が使えるけれど、あんなふうに術式を綺麗に編むことができる気がしない。


「なんていうか……大変だったね。すごいけれど」

「……すごい?」

「多分ね。私はこんなに魔法の練習とかしたことないし」


 私と比べるのは少し微妙かもしれないけれど。

 多分、私は魔法師の中では下から数えた方が早いぐらいの能力しかないし。


「すごい、のかな。あんまりわからなくて。ずっとこれぐらいはやりなさいって言われてたから」


 アイリにとってはこれが日常らしい。

 

「でも、なんだか怖いよ」

「怖い? なんで?」

「なんていうか、私また本当に同調率が上がったって実感するからかな……また戦いに行く日が近い気がするっていうか」


 ……そういうことか。

 たしかにアイリはずっと戦いが怖いと言っていた。

 多分、彼女は戦い向きの精神ではないのだろう。

 そんな人なのに同調率が高く出てしまったのは魔神様の気まぐれというには迷惑すぎるというか。


「まぁ、怖いよね。私に共感されても意味ないかもだけれど」

「そんなこと、ないよ」

「そうかな……」

 

 私は意味はないと思う。

 結局、私は安全圏にいる人でしかない。

 アイリに何かを言う資格なんてない。

 それぐらいのことはわきまえている。

 いくら一緒にいることを許してくれていても、多分彼女と私のいる場所は違う。こうして話していること自体が異常なことぐらいはわかっている。


 ……それをわかっていないといけない。

 それに自覚的でないといけないという感覚はある。


「……でも、多分、前よりは怖くない気がするっていうか。ううん……怖いけれど、戦う理由は見つかった気がする」

「そう、なの?」

「うん。だからだと思う。同調率が上がっているのも」

「えっと、ごめん。それは関係あるの?」


 だからという言葉と同調率が上がったという言葉が上手く繋がらなかった。

 これは私が詳しくないからなのかな。


「あー、うん。あると思うよ。多分だけれど。同調も魔力が関係していることだから」

「感情関連説?」

「多分、それかな」


 魔力と感情が密接に関連しているらしい。

 それなら、意思の変化で同調率が変わるのもわかる……のかな。遺物が魔力のどの部分を読み取っているのかもわからなければ、感情と魔力がどのように関わっているのかわからないのだから、実際どうなのかはよくわからないけれど。

 

「え……じゃあ、戦う理由がないままだったら同調率は上がらなかったってことなの?」

「うーん……そうかもね」

「なら……」


 それはなんていうか。

 これはあまりにも勝手な意見かもしれないけれど。


「そんな理由見つからないほうが良かったね」

「……そう?」

「だって、そうだったら同調率は同じままだったのに」


 同調率が半年前と同じなら、戦わずに済んだはずなのに。

 それをアイリも望んでいると思ったけれど。


「私はそうは思わない、かな」


 なんだか意外だった。戦うことは怖いままだと言っていたのに。

 これが怖くなる理由だったら、わかりやすかったと思うのに。

 ……でも、恐怖を押さえつけるぐらいには強い理由が見つかったということなのかな。


 なんだか、ほんの数カ月の間にアイリはとても遠くに進んだらしい。

 元より私とは同じ場所ではなかったのだろうけれど、それでも数カ月前より私達のいる場所の距離は離れている気がする。


「たしかに戦うのは怖いし、今でもあの時のことを思いだしたら手が震えて、何もできなくなるけれど。でも……理由は見つけられた方が良かったかな」

「……それって、どんな理由なの?」


 自分で言ってから思ったけれど、こんなことを聞くのは驚いた。

 こんな質問、少し踏み込みすぎな気がするけれど。

 

「えっと……うーん……」

「あ、いや。別に無理に聞きたいわけじゃないんだけれど」


 アイリは難しそうに言葉を濁す。

 やっぱり踏み込みすぎだったらしい。

 だからもうちょっと考えて話すべきなのに。どうして全然学ばないのか。


「あ、ううん。嫌とかってわけじゃないよ」


 どうやらさっきの質問は踏み込みすぎたわけではないらしい。

 ……意外と私も人と関われるようになっているのかもしれない。なんて。

 それはちょっと自分に甘すぎるかもだけれど。


「ただ、ちょっと……その、あんまり言いづらいっていうか」

「恥ずかしい?」

「そう、なのかな。別にそんなつもりじゃないんだけれどね」


 アイリは少し恥ずかしそうに長い桃髪を弄る。

 彼女の髪は長い上にとても綺麗に存在している。なんというか、私のただ伸ばしているだけの髪とは違う気がする。


 そんなことを思考の端で考えていたからだろうか。

 次の言葉に私は上手く反応できなかった。


「あの、レーネを守りたくて」

「……え、わ、私?」


 言葉がよくわからなかった。

 私を、守る?

 それはつまり……

 えっと。

 私を守るということで。


「え、それが理由?」

「そう、だよ」

「それは……なんていうか……」


 いいのかな。

 いや、別にそれに私が何かを言うことはできないけれど。

 だって、私は今までも、同調者達の手によって融合体から守られているのだし。これは私に限った話ではないけれど。


 ……でも、アイリは。

 私という個人を守りたいから、というのが理由だと言った。

 それはつまり。

 

 私のせいで、アイリはまた戦わないといけないってことかもしれない。

 きっとそういうことらしい。


「そんな……えっと」

 

 ……そんなこと言わないで欲しい。

 その言葉を必死に呑みこんだ。きっとそんなことをアイリに言ったところで彼女が困ることは目に見えていたから。

 だから私は、言葉絞り出す。


「その……まぁ、アイリがそれで良いなら良いけれど」

「うん。良い理由だと思う。なんだかしっくりくるっていうか。まぁ、私も最近気づいたんだけれど。この理由が自分の中に在ることに」


 アイリはにこりと笑う。

 その笑顔は相変わらずあまりにも穏やかだけれど。

 いつもその笑顔を見れば、なんだか安らぐけれど。


 でも、今日は違った。

 だって、アイリの言葉が耳から離れなかったから。

 

 彼女が語った戦う理由。

 それは。

 その理由は。

 言葉を選ばずに言うのならば。

 私が言えたことじゃないのはわかっているけれど。

 こんなこと、アイリには絶対言えないけれど。


 本心を吐露するのなら。

 その理由は、私にとってはとても。

 とても嫌な理由だったから。

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