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第16話 ゆえの決断

 魔法の訓練というと随分と仰々しいけれど、大抵の魔法師は子供のころから大なり小なり触れてきているもので、習慣化している者も多い。

 私もあの部屋にいたとはいえ、魔力操作は癖のようにやっていたし。手の中で魔力を遊ばせるぐらいだけれど。


 それに魔法の訓練は今時細分化されすぎていて、なんだかややこしい。

 魔力操作という基礎技術も操作精度や操作速度に分化されているし。魔法学者的にはもう少し分類できるという話を聞いたこともある。


 けれど、結局のところ魔法の技術である魔法力というのは、一言で測れるものではない。

 魔法師と一言で括ってしまうことが多いけれど、その仕事は多岐にわたる。私達のような戦闘をする魔法師もいれば、遺物解析をする魔法師や魔法研究をする魔法師もいる。後者を魔法師に加えない場合もあるけれど。その辺はややこしい所というか。


 それぞれに必要な能力は違う。

 遺物解析をする魔法師なら、発動速度がどれだけ遅くとも詳細な解析が可能な解析魔法を扱える能力が求められるのだろうし、魔法研究をする魔法師なら別に魔法が使えなくても魔法の知識が求められるのだろう。

 

 なら私達のような戦闘をする魔法師に求められる力とは何か。

 特に討伐隊の魔法師に求められる力とは何か。 

 それは簡単に言えば、勝つ力でしかない。


 討伐隊の目的は、融合体を倒すことだから、融合体を倒すための力が求められる。

 この場合、強く求められるのは戦闘技能に近い魔法であって、それ以外の魔法はあまり求められない。


 使える魔法の種類が多いとか、知識が多いとかは副次的要素でしかなくて。

 魔法の発動速度や威力の方が大事ということである。

 だから、無駄に大きな図書館はあまり利用されないのだろうし、魔法練習用の訓練室は大抵混雑している。


 これが対人戦とかを考慮するのならまた変わってくるのだろうけれど……幸い戦争的なものはもう200年ぐらい起きていないし、特に今は融合体にかかりきりだから。

 ……まぁこれも、融合体との戦争という見方もできるけれど。

 

 ともかくそんなわけだから、私達がやることは大体使える魔法の練度を高めるということになる。

 だからこの討伐隊の基地には、それなりの訓練室がたくさんある。

 大抵の魔法師はここで魔法の練習というか訓練をしているらしい。

 

 そんなわけで私は訓練室に来ていた。アイリと一緒に。

 初めて来た訓練室はそれなりに大きい四角い何もない個室だった。

 壁が厚く、少し触れてみれば、魔力が流れている。多分、強力な魔法を使っても周囲に被害が出ないようにしているのだろう。

 そういえば、これだけ強力な魔法師がたくさん揃っているのに、事故が起きたという話はあんまり聞いたことがない。この壁のおかげなのかな。


「訓練室って初めて入ったよ」

「あ、そっか。レーネは入ったことないんだっけ」

「まぁね」


 一応、訓練しないといけないという義務はないんだけれど。

 まぁ推奨はされているし、討伐隊の役割を考えれば、魔法力の研鑽を怠るのはさぼっていると言われても仕方ないけれど。


「アイリは子供の頃から?」

「そう、かな? 8歳の時からだから……もう8年ぐらい?」


 それはたしかに彼女の足取りに迷いがないわけだ。

 多分、私1人だったらこの場所に来るのも結構苦労していた気がする。

 ここの討伐隊の基地は思ったより構造が複雑というか、色々な施設を一か所に置きすぎな気がする。あの部屋のように何にも使われていない区画もあるわけだし、ああいう場所は解体とかをしたほうが分かりやすくはなると思うのだけれど。


「そういえば、個室なんて随分と個人主義だよね。一応討伐隊って言ってるのに」

 

 こんな個室で訓練してていいのだろうか。

 多分、私としてはそれは助かったところなのだろうけれど。

 討伐隊という組織が規律を重視していれば、1年間ずっとあの部屋でさぼっていることなんかできなかっただろうし。


「まぁ結局のところ、最後に戦うのは数人だし。それに同調者同士は分担はしても協力とかは苦手な人も多いから」

 

 そういうものなのか。

 同じく数人で戦う探索者とかは、仲間同士で協力するものらしいけれど。その辺りは個人の力の差なのかな。

 ……まぁ仮に規律で押さえつけようとしても、同調者という強力な個人を律するのは難しい気もするけれど。


「さて。まぁまずは基礎訓練からだよね」


 そう言って、アイリは床に座り込む。

 ……体内魔力循環からやるらしい。本当に初歩初歩。確かに基礎は大事だけれど……こんな真剣に体内魔力循環をやる魔法師はあまり多くない。


「レーネ?」

「あ、ごめんごめん。ちょっと、意外で」

「えっと……何が?」

「いや、基礎的なことからやるんだなって。アイリならこんなことしなくても良いと思ってたよ」

「私を何だと思ってるの? こうしないと魔力に見放されちゃうよ」


 そんなことは無いと思うけれど……

 アイリが目を閉じる。どうやら魔力に集中するらしい。

 それに倣い、私も目を閉じる。


 目を閉じてみれば、体内の魔力を感じる。

 どうやら私の魔力はそれなりに多いらしい。魔法師としては平均かそれ以下とはいえ、魔法師に成れる程度には魔力があったというのは、幸運なのかな。

 それに少し……なんというかぷかぷかしている。多分これが魔力形質というやつなのだろうけれど、あまり意味はわかっていない。

 まぁ私の魔力形質は致命的な不適合性とかはないし、あまり気にしていないけれど。


 うーん。

 ……だめだ。うまく集中できない。

 目を閉じていたら、どうしても昨日の言葉を思い出してしまう。

 

『一緒に住まない?』


 あれは、どういう意味だったのか……

 いや、意味は分かっている。一緒に住むってことは、一緒に住むってことなんだろうけれど……えっと、どうしてそんなこと。

 集中した方がいいのはわかっているけれど……


 ちらりと目を開ける。

 アイリは私の疑問を他所に目を閉じている。

 ……もう直接聞いた方が早いかな。彼女が言い始めたことだし。


「……アイリ、話しても大丈夫?」

「うん。いいけど。どうかしたの?」


 話しても彼女の集中はそのままのようで、どこまでも自然体に座っていた。

 多分、彼女にとっては体内魔力循環は随分とやってきたのだろう。それこそ自然とできるほどに。

 魔法師でなくても大抵の人は体内の魔力操作ぐらいできるけれど。ここまで綺麗に魔力と向き合える人は魔法師の中でも少ないんじゃないかな。


 これなら、聞いても大丈夫そうかな。

 ……なんかこうして話しているとあまりあの部屋にいる時と変わらない気がする。なんだかそれはとても……


「レーネ?」

「あ、うん」


 少しぼうっとしていた。

 やっぱりうまく集中できていないらしい。


「あの、アイリはなんで一緒に住みたいの?」

「えっ!」


 ……どうやら集中は切れてしまったらしい。切らしたというべきかもだけれど。

 アイリは目を泳がせて、口をぱくぱくとさせる。


「あ、えっと。その……昨日の」

「そう、昨日の。帰ってから考えてみたんだけれど。よくわからなくて」


 そのせいで昨日は少し寝つきが悪かった。

 ここに来るまでは今まで通りだったから、あまり気にしてないのかと思ってたけれど、この様子だとそうでもないらしい。


「確認だけれど、冗談とかじゃないんだよね?」

「……うん」


 まぁアイリはあまり冗談とかを言う人じゃないし、それは分かっていたけれど。

 それでも少し突拍子がなさ過ぎて、確認してしまった。


「なら、えっと。どうして?」

「あの……レーネと沢山一緒にいるにはどうしたらいいかなって考えて。それで……」

「あー、たしかに」


 そうすれば、一緒にいる時間は増えるのかな。逆に言えば、あと4年という時間制限があるのだから、そういうことをしないと時間は増えないのだけれど。

 だから一緒に住みたいなんて言ったらしい。

 割と単純な理由だった。そしてわかりやすい。


「あ、あのね。別に軽い気持ちで言ったわけじゃないよ」


 アイリが私を見つめて呟く。

 またしてもはっきりとした意志と共に。


「ほんとに。本気で。一緒に住みたいって思ってる」


 それはわかった。

 というか、大概アイリは結構しっかりと意思を持って言葉を紡いでいる気がする。それぐらいのことは私でもわかってきた。

 けれど。


「うーん……」

「……やっぱり。だめ、かな」

「だめってことはないけれど……」


 どうだろう。

 私はあまり誰かと住んだ記憶がない……わけじゃないか。魔法学校では誰もが2人部屋だったし。

 でもあれは、共に住んでいたというよりはただ同じ部屋にいただけというか、1人ずつ住んでいたという風な感じが強い。少なくとも共同で暮らしていたという感じはしない。


 だから、誰かと住む私が上手く想像できない。というか……一緒に住むと何かが変わるのかな。たしかに一緒にいる時間は増えるのだろうけれど……

 それは同時に独りでいる時間が減るということでもある。

 ……なんというか、それは少し怖い気もする。相変わらず孤立的な精神だけれど。


「アイリは私と住むと嬉しいってこと?」

「う、うん。そう。そうだよ」


 彼女はこくこくと首を縦に振る。

 こういうちょっとした動作すら綺麗な動きに見えるのは相変わらず不思議なところというか。アイリが丁寧だからなのかな。

 丁寧に、真剣にこの世界と向き合っているからというか。それなら多分、私ももう少しぐらいは真剣にあるべきな気はする。その方が釣り合うというか。


「……まぁ、じゃあ。そうしようか」

「え、いいの?」

「まぁ、うん。一緒に住もうよ」


 言ってしまった。決断してしまった。

 アイリが笑ってくれるのは嬉しいけれど、この決断は少し怖い。

 ……ちょっと急に近づきすぎのような気がする。

 アイリと一緒にいたいという気持ちは嘘ではないけれど、近づきすぎても互いを傷つけてしまうこともあると言うし。棘刃の葛藤というのだっけ。


 ……まぁ、いっか。

 アイリの気持ちと向き合うと決めたのだから。

 これぐらいはなんでもない。

 ……多分。

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