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第15話 ならばどうするか

 一緒にいたい。

 その感情と向き合ったところで、この現実が変わるわけでもない。

 でも、アイリは嬉しそうに私の手を取って歩いている。

 こうやって2人で帰るのもいつぶりだろう。


 半年ほど前にこうして帰っていたのが、随分と遠くの出来事のように感じる。

 今こうしてアイリと共に居てみれば、否応なくわからされてしまう。私がどれだけ、こうしていられる時間を切望していたのか。


 思ったより自分の心に鈍感になるのが上手いらしい。

 こんな感情知らない。いや、知らないと思っていた。

 ……本当はずっと前から知っていたのに。

 この心があることを私は知っていたはずだったのに。


 それでも、現実はいつだってそこにある。

 一緒にいたいと願ったところでできないことは沢山ある。


「やっぱり、はっきりさせておきたいけれど……アイリはあの部屋には来ちゃだめだよ」

「……どうして?」

「どうしてって、来ないほうが良い理由しかないから」


 それはもうどうしようもないことでしかない。

 あの場所で何もせずにいられたのは、私達に何も役割がなかったから。私はそのままだけれど、アイリは違う。

 アイリの同調率が上がったのなら、あんな場所にいる暇なんてない。


「練習をさぼって、アイリが死ぬなんて嫌だからね」

「……大丈夫だよ」

「本当に?」


 返事は聞こえない。

 やっぱりアイリだってわかっている。

 

 練習をしなければ魔法力は落ちていく。

 魔法を発動する速度や、魔力操作練度は日ごろから魔法を使う訓練をしておかないと、維持することも難しい。


 私も最近は一応魔力を動かしてみたりしている。

 あの部屋で少し触るだけだけれど。

 でも、もし融合体という化け物と戦うのなら、もっとちゃんと練習しないといけないはずだから。


「確かに魔法の訓練は大事だよね。わかってるよ」

「なら、いいけれど」


 結局、一緒にいたいと願ったところで、私達は一緒にはいられない。

 それは分かっていた。

 でも、まぁ……素直になったからか少しは楽だけれど。


「じゃあ……レーネも一緒に練習してくれる? それなら、一緒にいられるよね」

「まぁ、そうだけれど。でも、私は同調者じゃないから」

「……それ、そんなに気になる?」


 まぁ……どうなんだろうという気はする。

 同調者とそうじゃない人では多分魔法力に大きな隔たりがある。魔法力に差があるもの同士で、魔法の練習をしても互いに得られるものは少ないし、あまり良くないというか。

 魔法学校でも、共同体とは大概の場合似たような魔法力の人同士で組まれていたような気がするけれど。


「……私は、レーネとなるべく一緒にいたいよ。だから、あの部屋に行っちゃいけないって言うなら、レーネも一緒に外にでよう? 私と一緒に」


 悩んでいる私の手を強く握り、彼女が私の目を見つめる。

 同年代でも比較的小柄な私よりも小さな彼女が私を見つめる時、それは大抵強い意志がある時であることはわかっている。

 強い意志と、そこから溢れ出る願いがあることを。


 それには簡単に抗えない。

 特に私のように流されるのが癖になっている人にとっては。


「わかったよ。次の日からはそうしようか」

「うん」


 アイリは嬉しそうに笑う。

 それを見れば、少しぐらい流されたとしても良いような気はする。


 けれどまぁ、同調者とそうじゃない私で練習を一緒にしても、なんというか位階が違いすぎてよくわからないことになるんじゃないかなという気もするけれど。


「レーネ。私ね」


 アイリが穏やかな言葉を紡ぐ。

 相変わらず彼女の声は綺麗で、こうして星明りの下で歩いていたら、聞き逃してしまいそうになる。そこにあるのがあまりにも自然的すぎるというのか。

 私にとっては、とても心地が良い声をしているというのか。


 ……なんというか。

 ほんの少しの言葉に色々と思いすぎな気もするけれど。


「今日、レーネと会えると良いなって願ってた。魔力測定に来たら、会えるかなって」

「そうなんだ。アイリも測定に来たのかと思ってたよ」

「それもあるよ。私も測定して。それで会えたらって」


 ……なんだか私と同じようなことをしている気がする。

 私もアイリと会えるかもしれないと淡い期待を持っていたから。私には同時に会うのが恐ろしいという想いもあったけれど。


「帰ろうとした時、レーネがちょうど測定室に入っていってね。それで、待ってたんだ」

「え、最初からいたの?」

「うん。気づいてなかったよね?」

「全然」


 測定場所に来た時は急いでいたからというのもあるけれど、全然気づかなかった。待合室はそれなりに広いとはいえ、ちょっとうかつすぎる。


「でも、全然出てこないから。心配したよ。前より長くなかった?」

「あー……言われてみればそうかも。今日はちょっと長かったというか。新年だからじゃないかな」


 いつも1種類の測定方法だけれど、今回は3種類ぐらいだった。

 去年もそうだった気がする。ここに来て、初めての測定は何種類かの測定方法でやって、大変だった。これから定期的にこれをするのかと思えば、げんなりとしたような記憶がある。


「え? でも、私はいつも通りだったけれど……」

「それはまぁ。アイリが同調者だからじゃないかな」


 同調者なら普段からそれなりに詳しい検査をしていてもおかしくない。検査の頻度も高いみたいだし。


「そうなのかな……」

「まぁ、待たせちゃったのは私が来るのが遅かったからみたいな所はあるけれどね」

「そう。それで、レーネを待ってたんだけれど……」


 アイリの声が少し下がる。

 あまり思い出したくない感情の中にいるかのように。


「その、迷ったんだよ。レーネは私とは話したくないって言ってたから。迷惑じゃないかって。帰った方がいいんじゃないかって。レーネは意図的にさっき無視したんじゃないかって」

 

 ……さっきも同じようなことを言ってたけれど、私はそんなに拒絶するようなことを言ったっけ。まぁ似たようなことは言ってしまったのだろうけれど。


「でも。やっぱりもう一度話したくて。きっと今日を逃したらもう二度と会えない気がして。だから、待ってたんだけれど……」

「それで、寝ちゃってたの?」

「ちが……違わないけれど……でも、あの椅子すごいふかふかで。それに昨日は少し夜更かししてたから、その」


 少し焦ったように言い訳をするアイリは健気でとてもかわいらしい。こういう時の動きまでかわいらしいのは一体どういうことなのか疑問に思わないでもない。


 けれど、もしも私がアイリに気づかなかったらどうしていたのだろう。

 それこそ気づかないふりをして逃げていたかもしれない。私が最初にしようとしたように。


「そうじゃなくて! えっと、だから……レーネが話しかけてくれて嬉しかった。またこうして話せて」


 私を見つめながら紡がれた言葉に少し面食らう。

 それはあまりにも純粋な想いすぎて。単純に言うのなら眩しくて。

 けれど、それに私は向き合うことを決めたらしい。きっと同じではなくても、似た感情が私の中に在るからかな。


「私も、話しかけて良かったよ」


 ……まぁ、こう想えるのはこうして歩いているからだけれど。

 もしアイリに失望された目を向けられていたなら、こんな風には思えなかっただろう。


 今考えても、よく話しかけようと思ったというか。私にそんなに勇気があったのかな。そんな風には思えないけれど。

 ……いや、きっとただアイリと話したかっただけなのだろう。また彼女に名前を呼んで欲しいという願いがどうにも止められなかったから。


 そんな話をしていれば、いつも別れていた十字路にたどり着く。

 なんだかあっという間だった。いつもは長く単調に感じる道が何故か。

 ……何故かじゃないか。原因はわかっているのだから。

 

「えっとじゃあ、またね」


 またね。

 そう言えるのがどれだけ幸運なのかは知っている。


 そして私は手を放そうとするけれど。

 でも、アイリは私の手を握ったまま離さない。


「……えっと。どうかしたの?」

「……あのね。提案があるんだけれど」

「提案?」

「そう。えっと……」


 少し言いづらそうに口を噤む。

 今日のアイリが言いづらいことなんかあるのだろうか。さっきまで傍から見てみればそれなりに顔が赤くなるようなことを言っていた気がするけれど。

 ……まぁ、私が言えたことじゃないけれど。


「えっと。なにかな」

「……レーネ。あの、一緒に住まない?」

「……ぇ?」

 

 彼女は顔を真っ赤にしながら、聞き間違いかもしれないようなことを言った。

 意味がわからず硬直する私を薄っすらとした星明りが照らしていた。

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