飲み干したら
日曜日には満開だった川沿いの桜並木の桜の花びらが散っている。
強風が吹き荒れているのか、散った花びらが舞い上がり桜吹雪になっていた。
去年、築40年のマンションの修繕が行われた時にそれに合わせて隙間風を防ごうと、部屋のサッシと窓やドアなどを換えるリフォームを行ったお陰で吹き荒れている強風の風は少しも部屋の中に入って来ない。
私は吹き荒れる風に翻弄されている桜の花びらを眺めながら、コレクションしていたウィスキーの最後の1本を飲んでいる。
満開になる数日前から部屋の閉じこもり、毎日コレクションしていたウィスキーやブランデーを飲み続けていた。
部屋に閉じこもるのを選択したのは、現在、全世界で未知の細菌が猛威を振るっているからだ。
致死率が70%を超えるとんでもない病原菌で、感染すると感染したあと1時間程で全身の細胞が溶解していき、その細胞が溶解する激痛でのたうちまわりながら死亡する。
だから感染しても生き残れた約30%の人たちは、身体のアチラコチラが溶解して化け物のような見た目になっていた。
最初に感染者が出たのは西の大国。
西の大国の山間部に落下した隕石に付着していた病原菌ではないかと、各国の研究機関は考えているらしい。
らしいって言うのは、その研究機関の研究者たちも次々と感染して、亡くなったり化け物のような見た目になっていたりしているから。
そんな状況なので、マンションの直ぐ下の大通りやマンションと川の間にある住宅街の家々の庭や道には、溶解した人の遺体が多数あって生き残れた人たちが細々と遺体を片付けている。
今飲んでいる最後の1本に至るまでに病原菌に対抗できる薬が開発される事を願ったが、駄目だった。
まぁ1週間そこらで薬が出来るわけが無いのだけどね。
密閉された部屋の中の酸素が尽きるのも時間の問題、だから此のウィスキーの最後の1杯を飲み干したら、ベランダから飛び降りようと思ってるのだ。