【1-6】飢餓の少女
翌朝のマカローニも薄暗かった。太陽が恋しい。窓から差し込む日の光も感じないので、起きたという感じがしなかった。
宿場を出て、あてもなく歩く。
昨日のサルーンのマスターによれば、アカサカ・コゴロウはストームに殺されてしまったらしい。0.25は、死んだコゴロウのことを知りたかった。本当にストームに殺されたのか、なぜ殺されたのか。
――彼がどんな風に生きてきたのか。
まずは、マスターにもう一度話を聞くことにした。
昨日は途中でシシーニョの騒ぎに邪魔されて、詳しい話を聞けなかったのだ。あわよくば、昨日の案内人にも、もう一度会いたい。彼女はストームについて、何か知っている様子だったから。
しかし、彼女は素直に答えてくれなさそうだ。
朝から酒場まで赴いたのだが、店の入り口付近にかけている看板はあたりまえのごとくCLOSEだった。スイングドアには鍵がかかっている。窓から店内の様子を覗き込んでみたが、人の姿はなかった。
しかし、ドアの横に誰かが倒れていた。近づいてそっと体をゆする。おさげヘアーの少女だ。薄汚れた質素なシャツを着ている。紺色のズボンには、ほつれが目立つ。年齢は十代後半ぐらいか。
「もしもし、大丈夫ですかい?」
「……あ、あぁ」
今にも死にそうな声で、彼女はうなった。
「そんなところで寝ていたら、風邪をひいちまう。ちゃんと家で寝なさいな」
「……ここが、家さ!」
まだ寝ぼけているらしい。その様子に苦笑いを浮かべる。
「困っちまいますね。マスターもいないみたいですし」
倒れ伏していた少女は、0.25の脚をつかんだ。彼女の腹の虫が、悲鳴のように鳴っている。
「飯を……飯を……」
物乞いか。昨日に聞いた案内人の話によると、今のマカローニは、働く子どもたちも多く、低賃金での労働者が多くなっているらしい。子どもには過酷な環境だ。
「少し、待っててくだせぇ」
0.25は近くの店を探す。パンの匂いが漂ってきたので、その店に駆け込んだ。自分の朝食の分も合わせて購入した。
サルーンの方へ戻り、倒れている彼女へパンを与える。
すると、彼女は起き上がって獣のように食いついた。一口で、拳二つ分の大きさのパンを平らげてしまった。あたりまえだが、食べ終わった彼女はむせていた。
近くの井戸で水を汲んできて与えると、彼女はぐいぐいと飲んだ。
「よほど空腹だったようで。もうすぐで飢え死にしちまうとこでしたね」
「……ああ! 全くさ! あなたのおかげで助かったのさ!」
水を飲み干すと、彼女はまぶしい笑顔を浮かべた。こんなにすぐ元気になるなら、さほど深刻な状態ではなかったようだ。
「うひっひ、元気になったようで何よりです」
「すべてあなたのおかげさ! アタイはミサ。あなたの名はなんというのさ?」
「あっしには百を超える名が――」
いつも通りの自己紹介をすると、女の子はさらに興味を増したようだった。
「カッコいいのさ! アッシさんは、まるで救世主さんみたいさ!」
ついさっきまで倒れていたとは思えない、明るい笑顔で彼女は笑った。
「あっしは救世主っていう柄じゃないですぜ。ところで、ちとお聞きしたいんですが、ストームについて何か知っていませんかい?」
こんな少女がストームと関わりがあるとは思えないが、ついでに聞いておくことにした。
「……あいつは神出鬼没なのさ。三年前から、無差別に人を殺しているのさ」
「奴は悪い人だけを殺すらしいですがねぇ」
「そんなの関係ないのさ。あいつは誰だって殺す。アタイだってアッシさんだって狙われるかもしれないのさ」
0.25も少女と同じ考えだった。
だが、昨日の案内人はまるで確信を持ったかのように、ストームについて語っていた。彼女はストームの正体や動機を知っているのかもしれない。あるいは彼女自身がストームか……。
「ストームは、いったい何がしたいんですかねぇ?」
「殺人鬼の考えなんて検討もつかないのさ! 何にせよ、いつまでも好き勝手させないのさ!」
彼女は元気に走り去っていった。飢餓の危機を脱してエネルギーに満ちあふれているみたいだ。
サルーンの店内に、人の気配はない。夜にならないとマスターに会えないのかもしれない。別の場所を当たるしかなさそうだ。
「どこにいるんですかい? ストームさん……?」
0.25はどこかにいる賞金首に問いかけた。