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インパーフェクト・ピース  作者: まんぜるら
第四章 『 FALL 』
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【4-4】総督府へ

 案内された場所は総督府だった。総督府の周辺は、検閲所とゲートが設けられていて、一般人は立ち入り禁止されている。今回はアレスの許可により、バルデナスも入ることができた。

 彼が特別な地位にいる人間だというのは本当らしい。


 この辺りには常駐帝国軍の軍事基地があり、総督府を囲うような形で厳重な警備が敷かれている。ある意味、マカローニの中で最も平和で安全な場所と言える。

 総督府の中に入ると、大理石の床と巨大な柱。人が上に乗れるぐらいのサイズのシャンデリア。とても豪華な内装になっていた。


「リコちゃんのおうちに、ようこそいらっしゃったの!」


 建物内を見回していると、見知らぬ女性の明るい声が聞こえた。

 彼女はピンク色のエプロンをしていて、白いコック帽を被っていた。年齢は四十歳前後だろうか。幼げな口調をしているが、声は低い。


「あんたは?」


 目の前にいる、料理人のような女性に尋ねてみた。


「リコちゃんはマカローニのしはいしゃなの!」


 彼女は皺だらけの顔で笑った。バカにされているようで癪に障るおばさんだ。


「この方はリコ・カステラーノ総督ですわ。と言っても、お菓子作りしか脳のない、単細胞のおばさんですけれど」

「もう意地悪なことを言わないでよ、アレスおじさん。スイーツ作りはリコちゃんの使命なの!」


 彼女もアレスと負けず劣らず変人のようだ。よもやこんな女がマカローニの総督だったとは。道理で国の治安が悪化したわけだ。


「あら、ごめんなさい。あなたはそのお菓子で、女帝陛下や軍人たちを巧みに丸め込んだんですものね。これからも頑張ってくださいまし」


 アレスはにっこりと笑った。


「おい、アレス。なんで、オレをここに連れてきたんだぜ?」

「寝床に困っていたのではなくて? ここの空き部屋を使うといいんですの」

「冗談だろ? オレはそんなに大層な身分じゃない」

「気にしないでいいんですのよ。わたくしたちは同じ敵を追う仲間同士じゃない」


 アレスはそのごつい手を、バルデナスの肩にそっとのせた。


「あなた、今日からここに住むの? やったあ、家族が増えるの!」


 総督はニコニコと笑っている。

 しかし、勝手に話を進められても困る。バルデナスは、まだ一言もここに泊まるなんて言っていない。


「いや、せっかくですが遠慮するぜ、総督さん。端的に言って、オレは野宿の方が性にあっている」


 マカローニには観光に来たわけではない。

 それに、教会で寝泊まりしている子どもたちをどうしても思い出してしまう。こんないい場所に泊まるなんて気が引けてしまうのだ。


「そんなこと言わないで。リコちゃんの家族になってよ……」

「仕方ないですわ。普通の人間なら、こんな女と一緒に住むなんて死んでもごめんですものね」

「そうなの?」


 悲しそうな目で、総督はバルデナスの方を見た。


「オレはそんなこと言ってませんぜ。気分の問題ですから。それに、探さないといけないものもある」


 十年ぶりに家族の仇・リオンに会い、興奮が冷めない。ぐっすり休むなど、できそうもなかった。


「もしかして、あなたもおたからを探しているの?」

「お宝?」

「旧マカローニ政府が残した財宝ですの。わたくしも、この女も、極秘裏に探しているのですわ」


 そんなこと、初めて聞いた。

 旧マカローニ政府と言えば、帝国に侵略される前の、今は亡きマカローニ政府のことだ。


「そんなものにこだわる必要が? 十七年前のマカローニが持っていた財宝なんて、たいしたもんじゃないだろう」


 マカローニにあって、帝国にないものなんて思いつかない。


「夢がないんですのね。財宝と聞けば、気にはなるものでしょう? 敬愛なる女帝陛下はご興味を示されているんですわ」

「だから、リコちゃんたちが探してあげてるんだよ。でもね、さっきそれについて、おもしろいことが分かったの!」

「あら、何が分かったんですの? リコおばさん」

「ぐふふ、実はねぇ――」


 二人は財宝について、何やら楽しそうに話し始めた。

 ビバタイトがどうとか、人形がなんたらと聞こえたが、そんなことはどうでもいい。バルデナスは未知の財宝よりも、リオンの――仇の首がほしかった。


 バルデナスは総督府を出る。

 去り際にリコからお土産と言って、ケーキをくれた。

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