表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インパーフェクト・ピース  作者: まんぜるら
第四章 『 FALL 』
28/49

【4-1】肉食獣

 三年前のマカローニ。

 

 この国は、相変わらず誰も住んでいないかのように静かだ。

 以前来た時よりも開発が進んでいるため、道路はしっかりと整備され、建物も増えている。段々と故郷の街に近づいているのが、なんとも憎たらしい。 

 マカローニは大嫌いな街なのに。


「空気がまずいぜ」


 大西方帝国から、遥々とこの小さな国に来て、もう二か月も経つ。

 今日も人探しのため、バルデナスはマカローニの首都をぶらついている。ほどよく引き締まった体型が、レザーベストとよくマッチしていた。

 お探し中の人物は未だに見つからない。なにせ、探している男はお尋ね者だ。簡単に会えるわけがない。


(どこにいるんだぁ? リオン・キャニオンさんよぉ……)


 大通りに行き交う人々を睨み付ける。荒野で餌を探しているときの肉食獣は、こんな心情なのだろうか。 

 すれ違う人々は目を背けたり、顔を伏せる。


 通りかかった店から、男たちの会話が耳に入ってきた。そこは小さな雑貨店だった。店主と思われる男は、柄の悪い男二人組に囲まれていた。一人は眼帯をしていて、もう一人は百八十センチほどの高身長だ。


「困りますよ、お客さん。うちにはお金がないんです」

「シッシッシ! 払えないんなら、銃は売ってやらないんだし。最近は物騒になってきているから、銃がないと困るんだし?」

「ストームに襲われたら、どうするんだ? 身を守る道具はあった方が安心だろう?」


 二人の男に説得され、店主は渋々ながらも口を開いた。


「……わかりました。平和連盟の方々には、いつもお世話になっていますから」


 その言葉を聞き、バルデナスは思わず立ち止まった。

 平和連盟と言えば、リオンが率いている反帝国組織だ。


「軽々しく連盟の名を出すなし! もし警察隊に聞かれたらどうす――」


 店の前に立っていたバルデナスを見て、男は言いかけていた言葉を飲み込む。

 やがて、にやつきながらこちらへ近づいてきた。


「そこの美青年。ちょっと、シシたちとお話するし。ここじゃ、人目があるから場所を変えるし」


 黒いコートを着た身長の高い男は、バルデナスの肩に手を置いた。


「馴れ馴れしくさわるんじゃねぇぜ。さっさと着いてきやがれ!」


 汚らわしい手を払い、スタスタと人通りの少ない場所まで歩いて行く。

 手っ取り早く、拳か銃で解決しよう。この街で柄の悪い人間に絡まれたら、九割以上の確率で、話し合いでは解決しない。


「あいつ、生意気だし! あの整った顔をぐちゃぐちゃにしてやるんだし!」


 怒りをあらわにしながら、二人の男たちはバルデナスを追いかけた。


 建物に囲まれ、ひとけのない場所になると、男たちの方に振り返る。


「ここら辺でいいだろ。さあて、教えてもらおうか。お前らの親玉・リオンの居場所をよぉ」

「何? それを知ってどうするつもりだ?」


 眼帯をつけている男が尋ねてきた。


「端的に言えば、この手でぶっ殺すためだぜ」


 バルデナスがそう言うと、二人は手をたたいてゲラゲラと笑う。


「お前は相当なバカなんだし! あいつより強い男なんて、このマカローニにはいないんだし! 誰も敵わないんだし!」

「こいつ、きっと外から来たんですよ。だから、あの人がどれだけ強いか知らないんだ」


 彼らのあざ笑う顔を見ていると、虫酸が走る。


「笑うんじゃねぇ。さっさと、奴の居場所を教えやがれ!」

「お前、さっきから偉そうなんだし。まずは正しい上下関係をシシたちが教えてやるんだし」


 身長の高い男が殴りかかってきた。彼の動きは大して早くもない。さらりと横に躱せば、簡単に避けられた。

 そして、その隙に男の体を蹴り飛ばす。彼の体は大きく吹っ飛び、もう一人の眼帯男に激突した。


 腰のベルトにかけているホルスターから銃を引き抜き、地面に倒れる彼らに向ける。


「これが正しい上下関係だろ? わかったら、早くリオンを呼びやがれ!」

「な、なんでお前の言うことなんか――」


 素早く撃鉄を起こして、地面に向けて引き金を引く。重低音の乾いた音が響き、男たちは黙り込んだ。


「あんまりオレをイライラさせるんじゃないぜ。お前らも、先週のあいつらみたいになりたいか?」

「お、お前……まさか……」


 眼帯の男が震えた声で言った。


「あの噂の殺人鬼……ストームだし? 標的になった奴らのほとんどは、頭を撃ち抜かれたっていう……」


 殺人鬼とは人聞きの悪い。殺したのは、金目当てで絡んでくる無法者たちだけだ。

 だというのに、嵐のように忽然と現れた謎の男という意味で、ストームなんていう大層な名前で恐れられている。バルデナスにとっては、おもしろくなかったが、怯える彼らを見ていると口元が緩む。


「へっへ、ここにも嵐が吹くかもしれねぇぜ?」


 バルデナスは不適に笑った。

 すると、彼らの顔からだんだんと血の気が引いていく。


「先週、俺の知り合いも、こいつに頭をぶち抜かれたんです。まさか、こんな若いやつだったなんて……。ひぃぃ、どうか命だけはお助けを……」


 眼帯男は地面に手をついて、土下座した。


「……お前の望みは確かリオンを殺すことだし?」

「端的に言えば、そうだぜ」

「シッシッシ、いいんだし。途中で怖くなって逃げるんじゃないんだし?」


 二人の男はバルデナスに背を向けて走り去って行った。


「へっ、逃げるだって? 冗談言うんじゃねぇぜ」


 バルデナスの頭の中には、リオンを殺すことしか頭になかった。

 ようやく、家族の仇を討てるのだ。もう何もできない子どもではない。あの日から、十年間。リオンを打ち倒すことだけを考えていた。


「十年前、オレを殺さなかったことを後悔させてやるぜ、リオン」


 しかし、油断してはならない。平和連盟の頭である、リオン・キャニオンはそこら辺のならず者たちとは訳が違う。彼は元軍人で、少年兵士団を率いていた男だ。簡単に勝てる相手ではない。


 バルデナスは拳銃を握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ