【3-6】墓参りへ
0.25は、案内人と共にレポソ村へ行くことにした。
歩いて行くと、時間がかかるため、機関車で近くの町まで行く。レポソ村までは鉄道は通っていないので、駅を降りたところから、さらに十キロ歩かないと着かないのだ。
首都とは違って、道は舗装されておらず、少し傾斜のある丘陵となっている。歩くには少々きつい道だ。
首都よりは空気が新鮮なものの、今日の天気は曇りで、青空を見ることは叶わない。
しかし、緑の草木や小麦の田園が広がっており、自然の匂いが香ばしい。小鳥のさえずりや、風が木々を揺らす音が聞こえる。
朝から出発して、着く頃には夕日が沈む時間帯になっていた。
「ねぇ、案内人さん?」
隣を歩く、ローブの女に話しかける。
「……なに?」
「レポソ村ってのは、どんな場所なんで?」
「……小さな田舎村。孤児院がある。自分の故郷」
そういえば、アレスが以前言っていた。案内人は孤児院で、少年兵として育てられたと。
「なるほど。だから歩き慣れているわけだ」
歩くことが仕事と言ってもいい旅人を除いて、普通の人間なら根を上げそうな舗装されていない道が続いている。案内人は何度もこの道を往復して、慣れているのだろう。
「これぐらい……普通」
身寄りのない子どもを、兵士に仕立て上げるような孤児院だ。幼い頃から厳しく鍛えられたはず。とても不憫な話だ。
「戦争には行かなくて済んだんでしょう?」
「うん……自分がまだ小さい頃に、終わったから……」
「戦後は、どうなっちまったんで? 今もまだ孤児院は残っているんですかい?」
「うん……。でも、廃墟になってる……。リオンたちが焼き払った……」
リオン・キャニオンは、平和連盟の創始者であり、彼もレポソ村の出身だ。
「平和連盟の大半は、元少年兵士団だったとか」
だから、死んだ彼らがレポソ村で埋葬されているのだ。
「うん……。みんな……あの村のお墓で眠っている……」
なぜ、コゴロウはそんな彼らと一緒にいたのだろうか。ストーム以外に答えを知る人間が、レポソ村にいればいいのだが。
徐々に小さな集落が見えてきた。
「あれが、レポソ村ですかい?」
「そう」
彼女は短く答えた。
小さい村だが、煙突や工場もなく、空気が澄み渡っていた。人々の顔も心なしか明るい。
おそらく、これが帝国に侵略される以前の、本来のマカローニの姿なのだろう。首都では考えられないことだ。
案内人についていくと、墓地が見えてきた。村の一番奥に位置していて、石碑がいくつも並んでいる。二階建ての小さな孤児院も、百メートルほど遠くに見えた。
「着いた……」
大きな石碑の前で、案内人は立ち止まった。石碑には、人の名前が彫られている。案内人はその中の一つを指さした。
「ここに、アカサカ・コゴロウの名前がある……」
アヅマの言語ではなく、マカローニや帝国で使われている言語で、その名が刻まれていた。
「他は、平和連盟の皆さんの名前で?」
「うん。自分と……友達が彫ったの」
「そりゃあ、大変だったでしょう」
「でも……誰もやらないから……」
世間では反逆者として扱われている彼らを、弔ってくれる人たちはいないのだ。墓があるだけでも、ありがたい。
「……あんたはいったい、この国で何をしていたんですかい……?」
コゴロウは彼らと共に戦っていたのだろうか。せめて彼がどのように生きて、どのような最後を遂げたのか知りたかった。
だが、答えてくれる本人はもういない。
墓を優しくなでていると、雨がぽつりと降ってきた。




