フヘン
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小学校5年生の時、友人との下校中、工事作業用のドリルの音が嫌に響いた。
俺の住む町はいかにもな田舎で、学校から家までの帰り道には雑木林と、今は絶対に使われていないであろう廃墟が連なっている。
学校から一歩踏み出せば、すぐ田んぼが拡がるこの町では
用水路が延々と続いていた。
学校の帰り道では、ザリガニを取るのが流行っていた。
当時は、まだ日本ザリガニもそこまで珍しいものではなく、大きくて、色味もかっこいいアメリカザリガニの方が価値が高く感じられた。
ドリルの音が近づくが、特にそれについて関心のない俺たちは、いつものように用水路に目を向け、そのまま目を離せなくなった。
そこには、白い濁水で満たされた用水路と無数に拡がるザリガニの死体が浮かんでいた。
あの時のことはよく覚えている。工事現場の1番下っ端っぽい若い男性に抗議し、自然を壊すなと訴えた。男性はいかにもめんどくさそうにため息をつきながらも、優しいなお前たち、と飴をくれて肩を叩いた。
その後、大人は腐ってるとか、僕たちはこうはならないようにしようと、近くの公園で話したものだ。
そのあとは決まって、お互いの夢について話し合う。
友人の中村はサッカー選手、それも海外で活躍できるほどの。僕は漫画家。とびきり売れて、決して恵まれているとは言えない家庭を支えるのが夢だった。
俺たちの夢には、子どもに夢を与えたい、という当時で考えたら随分ませた目標があった。
僕たちはその夢が叶うことを1ミリも疑うことなく、毎晩近くの公園に行っては、遅くまで語り合った。
懐かしい
あの時から水位が随分と下がった用水路の水。今の子達はザリガニとったりするのかな。そんなことを考えながら1人、俺は以前の通学路を歩いていた。
中村とは別々の高校に進学してから一度も会っていない。
別に仲が悪くなったわけじゃない。高校に入ってからはお互いの夢を実行に移す。なんとなくだけど、お互い理解してたんじゃないかな。
だから、本気で描いた。描いて描いて描いて、描きまくって、勉強して、吸収して、また描く。その繰り返し。
そして今日、高校3年間の集大成として臨んだ漫画賞の結果発表の日。僕は自分の入賞を疑わなかった。これで堂々と中村に報告に行ける。一歩進んだんだって。
中村は、高校卒業と同時に海外の、確かドイツだったかな、クラブチームと契約することが決まったらしい。
おめでとう。本当にお前は最高だよ。今までもやると決めて、お前ができなかったことなんてなかったんじゃないかな。夢を叶えて、夢を与える人は皆んな、アイツみたいなすごいやつなんじゃないかな・・・。
俺は・・
漫画賞の結果は落選だった。講評も担当者からのオファーも何もない。本当に目も当てられないような出来だと判断されたんだろう。
帰ろう。外は氷点下とまではいかなくても、それなりに冬空だ。部屋で漫画を描いていて、ドキドキしながら、自分の熱を、スマホの振動を全身に感じながら受話器ボタンをとった。
2分ほどの電話の後、スマホの振動と共に、僕の体からも
鼓動と熱とが、体から消えていくような感じがした。
家から徒歩30秒ほど、通学路の帰り際にある何気ない公園。俺と中村が、過ごしていた公園。そこに人影があったのは必然だったのかもしれない。
中村がいた。
中学を卒業して以来、彼のことはネットニュースやSNSでチェックはしていたけど、実際に会うのは実に3年ぶりになる。
それでも、僕は特段緊張とか違和感を覚えることもなく、まるで3年前までの何気ない毎日と同じように、先にベンチに腰掛けていた中村の横に腰を下ろした。
「・・・」
「・・・」
僕たちは話さなかった、いや僕は、話せなかった。今日本当は伝えるつもりだったんだ。賞を取ったぞって、これからはもっと忙しくなるって、そうやって、お前と同じ目線で話をしていたかった。会えない寂しさなんかよりも、その事が現実になると気づいた時、本当に寒気がした。
「俺、海外のクラブチームと、契約することになったんだ」
「・・・知ってる
お前はやっぱすげえよ、おめでとう」
「お前の方は?漫画描いてるんだろ?
まさかやめたのかー?」
「ばっか お前 描いてるよ
それもとびっきり面白えやつを!
今日実は賞の発表が・・あって・・・」
ギリッ
中村の顔は見えなかった。でもこちらを見ていることだけはわかった。言葉に詰まったのもあるけど、一度意識が中村に向いてしまったせいで、俺は改めて口を開く機会を失ってしまった。
「僕さ 久しぶりにお前に会って不思議な気持ちになったんだ
お前さ 久しぶりに会った親友に何の言葉をかけずに黙って横に座り込むんだぜ?しかもこんな真夜中によ」
中村は僕とは目を合わせようとせず、下を見たまんま続ける。
「普通ビビるだろそんなの でも僕何とも思わなかったんだ
いや、何ともって別に興味ないとかそー言う話じゃなくて
なんか当たり前みたいにさ 中学の時と何ら変わりない感じ」
お前もか。って言葉は口にしなかった。だって俗っぽいし
、何かそー言う感覚を共有するのって、僕達の間じゃキモい感じがした。
「賞・・どこに出したんだ?」
「・・手塚・・ 集英社の」
「マジか!?1番でかいところじゃねえか
すげえな」
「すごくも何ともねえよ 応募だけなら誰でもできる
現に俺は賞貰えなかったし・・」
「・・・それでもお前はすげえ」
「・・・」
「オレさ、本当は今のチームよりもっと強いチームからオファーが来てたんだ」
初耳だった。多分他の誰にも言ってないんだろうけど。どの道聞く気はなかった。聞きたくなかった。これ以上話したら、本当にお前がどこかに行ってしまうんじゃないかと感じた。
「ドイツでも指折りの強豪チームでさ、ヨーロッパの世界大会にも何回も出てて・・」
「もういいって・・」
「しかもそこで優勝とかしちゃうチームなんだぜ?」
「やめろよ・・」
「いけるチャンスはあったんだ、新しい場所に飛び込む最高のチャンスが!」
「やめろって!!」
時間が止まった気がした。いや、進むのかな。俺は。
諦めがついた気がする。やりきったよ、頑張ったよ、俺はここがげんかー
「僕は・・土壇場で・・楽な方に逃げたんだ・・」
「!!」
「手塚ってことはあれだろ 少年ジャンプだろ
あそこは子供達に夢を与える最高の環境だよな
ワンピース ナルト ドラゴンボール
俺でも好きな漫画がたくさんある
お前は、子どもに夢を与えるっていう目標を
夢の先を忘れてなかったんだ・・」
「・・」
「僕は 忘れてた いつしか海外に行くこと
それが全てになってたんだ」
同じだった。中村も、苦しんでた。内容は違うけど、
あの時語り合った理想と現実のギャップに打ちのめされていた。
「・・中村・・お前小学生の時のさ 用水路事件覚えてる?」
「・・ああ・・」
「・・そっか 今からちょっと見にいこうぜ」
「何だよ急に・・」
「俺たちは変わるけどさ 変わらないものもあるんだぜえってそんな話 積もる話もあるしさ」
一瞬中村は黙り込んだが、すぐにニッと笑った。その笑いにどんな意図があったかは俺にはわからない。
「・・だな・・漫画家様の心動く台詞回し聞いてやるとするか」
「いいか!?俺はまだ漫画家じゃねえ!賞も何も取ってねえんだ!まだまだこれからだ!お前もだろ!」
「・・ああ行くべ」
子どものためとか、あの時の気持ちとか、正直よくわからない。でもこれだけは確実に言える。
今も昔も、お前にだけは本気の自分でありたいんだ。
普遍であり、不変。そんなものがかけてたら嬉しいです。