ホウハッシー
「モキュ?」
モッキューは驚いているのだろう。全身の毛が逆立ち、唯一毛に覆われておらず確認できる目が泳いでいる。
島崎に関しても、転がることをやめアングリとした口から胃液を垂らしている。
気まず過ぎ。変身して、自分じゃないものになれればコミュ症じゃ無くなると思ったのに。
「あー、うん、嘘嘘、受け止めてみたりしちゃったりしてみたりしてね」
一体何が嘘なんだ? 自分で言って何もわからん。
「何者モキュ?」
モッキューは、俺の眼前に迫ってきた。毛が鼻に入ってきて鬱陶しい。
「島崎さんの、クラスメイトの日野谷 アオイ」
コミュ症過ぎて、とんでもなく無愛想になってしまったが、表面だけ見ればシリアスな今の状況に合っている気がする、ギリセーフ。
「アオイちゃんだ、あんまり家で寝れてない子。でも授業だけは絶対寝ないんだよ! 偉いんだよ」
島崎にそう思われてたんだ俺……。
とかなんとかやっている間に人神がもう一撃を入れる体勢になったので、思いっきり投げ飛ばす。投げた先へのリスク管理はバッチリ、誰もいない。
今のうちだ、急げ急げ。
ステッキについているボタンを押すと、煙が出るだけ、何って単純な仕組み、その間にテレポートで方橋を捕まえて変幻かけさせて、そんでまたその間に方橋自身も毛玉の姿になる。方橋は家で上裸の状態でカップラーメンを啜っていたが仕方がない。というか呼び出されること一分前からわかってんのに、カップラーメンなんて啜んなとも思っていたが、肩を叩くと丁度食べ終わったらしく、サムズアップ。流石方橋! これを新しい四字熟語にしよう。
「行くぞ」
「ハイハイ」と薄っすら面倒そうにする方橋をテレポートさせて俺も続いて行く。
またコンビニ前に戻って来た。
変身の度にこんなことをしなければならないのだと思うと、少々面倒だが仕方がない。方橋とはいえ完璧では無い。
「行こうか、ハッシー」
俺命名ハッシー、方橋の毛玉状態をこう呼ぶ。ハッキューにするかハッシーにするかで口論が起こったが、ハッキューはなんか放送禁止用語みたいだし、ハッシーにしても語尾にそんなのをつけていたゆるキャラがいた。少々の討論の末、放送禁止用語になんか似てるというのははやっぱ駄目という結論に落ち着いた。
「わかったハッシー! 行くハッシよー!」
完全にあのゆるキャラに引っ張られて、ハイテンションキャラとして生きることを決めた方橋に笑いそうになってしまったが、俺たちがグダグダしている間にまた島崎がピンチになっている。さっき喰らった殴打で、肋骨が折れたのだろう、苦痛に顔を歪めながらも立とうとしているが立てない。
取り敢えず俺は方橋に作ってもらった鎖鎌を人神にぶん投げて、人神が出そうとしていたビーム攻撃を防ぐ。
「方橋さん、何で俺鎖鎌なの?」
「差別化を図ろうとして、尖った武器を作ってみたハッシー! そしたら全然違う使い方されてビビってるハッシー! 後でなんか動画見るハッシー!」
「わかった」
俺は島崎をお姫様抱っこして、人神と距離をとる。また放たれたビームは、面倒なので俺が吸収しといた。
「助かったモキュ。ハッシーはどこ所属モキュか?」
何? 所属? そんなのがあるのか。ということは魔法少女は何人もいるのか。じゃあ俺別に要らなかったってこと? そんでハッシーめっちゃこっち見てくんだけど、思ったよりバッドエンド系では無いことに驚いてんの? それとも、モッキューに対して何て答えようかを俺に聞いてんの? 未来読めんじゃ無いの? 未来予知って変幻使いながらじゃ駄目なんだ、そうなんだ。
「秘密ハッシー!」
「特殊部隊ってことモッキュな。確かにその強さはおかしいモキュ」
良かった、話つながった。あぶねー、ナイスハッシー! あぁ、めっちゃドヤ顔してくる、ハッシーめっちゃドヤ顔してる。
「そうハッシー! ここは俺たちに任せて、モッキューたちは退がるハッシー!」
「了解モキュ、また会う時があればその時は頼ってくれモキュ」
毛玉達なんかカッコいいな、ハッシーのテンションもぶち上がってるし。確かにね、オタクだったら絶対言いたいもんな、俺に任せて先に行けってやつ。
モッキューは急激に大きくなると、あまりの痛みで失神した島崎を大きな口を開けて食べて消えた。
というか、こいつ前回の人神とは格が違うくらい強い。能力を使わない場合の方橋と同じレベルだ。要するに一撃で地形を変えられるとか言ってたあれ。前回のやつと比べると、鯛とシャチくらいの戦力差。とはいえ、まだまだ弱い。金縛りが効いてしまうということは、精神防御ができてないし、ここまでビーム攻撃が効いていないのに、まだビームに賭けるというこの戦い慣れていない感じ、多分、自分の能力すら把握できて無い。
この嫌な感じ、やっぱりバッドエンドしかないな。
人神は召喚されて直ぐの状態では、全力を出すことができない。それは、今の俺もそうだが、自分の能力を100%把握できていない。無限収納と名付けたさっきからビームを吸収している能力に気がついたのは、召喚されてから五年程が経ったとき寝ぼけながらやったらできたものだ。
「お返しするよ」
収納されたビームを人神に向かって放つ。二本の穴が体に空いて、血よりもどろりとしたオレンジ色の液体が垂れた。