そう言えば俺……
バッドエンド系魔法少女だと想定すると、中の人がいるはずだ。それは方橋の能力で探してもらい、見つかった。島崎 アカリ、モッキューなる奴も『アカリ』と言っていたのでビンゴ。意外なことに俺と同じ中学校だった。
どうしようか。と考えながら方橋に渡されたDVDをフル視聴した結果、島崎の仲間になるということに決定した。一人だけで孤独に戦うバッドエンド系魔法少女はなかなかいなかったので、追加の魔法少女が来るはずという観点からだ。それならおそらくロクでもないことを考えているモッキューの近くまでいくことができる。
さて、ここで問題が出てくる。俺は追加の魔法少女になれるのかという問題だ。ここを解決するために採用したのが方橋の変化を俺にかけてもらうというもの。日常の方から破壊されていくタイプもあるらしいので、そちらの方のケアを忘れてはいけないが、それは情報が出てから後々という感じで。
本当は俺が魔法少女になる必要なんてあんまりない。要はもし、敵が現れたら全部俺が相手するから、と一言告げて実力を見せつければ島崎が魔法少女をやる必要は全く無くなるのだ。あるとすれば、モッキューが島崎を人質に何かするくらい。この間違った決断をさせたのはDVDを渡してきた方橋とハマってしまった俺のせいだ。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
私、日野谷 アオイ、中学二年生の女の子。今日も元気いっぱいに登校だ!
始まった、俺が魔法少女を救う物語が。
母親の中では俺が女性として産まれたことになっているし、書類も俺が女性として生まれたことになっている。学校の友達も、教師も、俺に関わったことがある人の認識を全員変えた。方橋が……。結局、俺が生きてこっちに戻って来れたのはあいつがいたからなのでは?
玄関の前に映る自分の姿を見て思う。方橋曰くクール系らしい。少し吊り目な大きな目、頭が小さくスタイルが良い165.5センチ。胸は少し控え目、そして青い髪、これは主人公と思われるヒカリがピンクの髪をしているので、統一感を持たせるため。あと何か青髪のやつが一番悲惨なことになる法則あるし、こっちのキャパオーバーのやつ来られても困るので事前に一つ潰しておこうとのこと。
俺の見た目を設定している時の方橋は、ずっとニタニタしていて、博士の異常な愛情に酔って回り続けているこの世界の片鱗を見た。
うーむ、やはり馴れないな。
風に揺れる下の布、訳のわからんリボン、リボンに関しては方橋に絶対につけろと言われたからつけているだけで、自分一人だったらつけてないんだからね、ホントなんだからね。
歩いて十分の学校に着いて考えたことがある。俺には友達がいない。そうだった。俺、コミュ障なんだった。あっちの世界ではもう喋るしかなかったし、この人にどう思われるかなんて考えなくて良かったからいいものの、こっちでの俺のぼっち具合たるや。
取り敢えず、教室を出て方橋に電話をかける。
「あのー、すみません、方橋さん。そう言えば俺、友達いないんですけど、なんとかして作って貰うことは、できないですかね」
「成る程、道理であんなに顔が整ってんのにモテない訳だ。コミュニケーションが壊滅的なんだな」
「そう」
「確かにあっちの世界はな、そんなこと気にしなかったからな」
「どう、いける?」
「そりゃできるよ? でもさ、やはり年上としてはさ青少年の健全な心の成長というやつを願っている訳よ」
「成る程、つまり?」
「ガンバ♡」
そうして電話が切られた。
取り敢えず、俺は教室に戻って机の上に突っ伏した。ここで目を閉じる派と開ける派がいるだろうが、俺は開ける派。何故なら目を閉じてこうしていた時、移動教室だというのに誰も起こしてくれなかったという悲劇を体験したからだ。
いつまでもこうしている訳には行かない。覚悟を決めて俺は…… 顔を上げて…… もう一度突っ伏した。
この優柔不断を何度か繰り返してからだろうか。
「よーし、ホームルーム始めるぞ」
担任が入って来た。取り敢えず、最初のチャンスが終わった。
俺も薄っすらわかってはいたことだが、結局島崎に話しかけることはできなかった。
ハードルが高すぎる。あの子凄い人気者なんだよ、朝から帰りまでずーっと友達に囲まれてた。でも、俺が仲間にならないと島崎に大変なことが起こるんだよな。というか、まず最初はなんて呼べばいいんだ? 島崎さん? 友達が言ってるようにアカリン?
俺が頭の中で反省会を開きながら帰路に着いている時に、電話がかかってきた。方橋からだ。
「出るぞー」
「何処らへん?」
「うーんとね、ちょい待ち、URL送る」
「ありがと」
「成功した? アカリちゃんに話しかけるの?」
俺は、何も言わず電話を切った。
空間を繋ぎ合わせて、取り敢えずテレポートを行う。
方橋から送られてきたURLに示されていた、青いコンビニの前でボーッとしていると、地面の辺りが光り始めた。
予想が確信に変わった。あれは完全に人神だ。あの魔法人には見覚えがある。
そんなことを考えていると、甲高い声が聞こえてきた。
「ここモキュ」
「わかった」
島崎が上空から現れる。変身はもう済んでいて、魔法少女オタクの一歩を踏み始めた者としてはそのデザインだけで、飯を食える。
今回の人神は、ロボットのような見た目をしていて、ショベルカーだのドリルだのが無茶苦茶な場所についている。
「つ、強そうだよ? モッキュー」
「アカリならやれるモキュ、心の明かりを強めて!」
うーん、どうしたものか、取り敢えず傍観でもしようかな、島崎の戦いも見たいし。
自分の体の何十倍もの大きさの相手に向かって、島崎は突っ込んでいく。そこら辺にいるような中学二年性とは思えない心の強さである。
勿論、考え無しの特攻が通用する訳は無く、シャベルで出来た手のようなものに殴打されて地面に叩きつけられた。
「オェ、オ、エ」
のたうち回りながら吐瀉物を撒き散らす島崎を見て、行くのが遅過ぎたと後悔をしていたが、人神が二発目を打ち込もうとしているのを見て慌てて飛び込んだ。だから、忘れていた。変身するのを。方橋に作ってもらった変身のためのステッキを鞄にしまったままだ。
制服のまま、シャベルでの殴打を受け止めた俺は今日初めて島崎に声をかけた。
「あのー、大丈夫ですか?」