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32話 勝負の行方

 執務室へ入るとカーヴェル公爵はすぐに扉の鍵をかけ、執務机の右上の引き出しを開けた。


 その奥から鍵付きの小箱を取り出し、胸ポケットに入っていた真鍮の鍵を差し込む。


 カチャンと小さな音を立てて小箱の蓋が開き、カーヴェル公爵はその中から白い包み紙を取り出した。


「これが……例の薬です」


 包み紙の中身は淡褐色の粉で、アマリリスがエドガーを追い詰めた際に入手した証拠と酷似している。


「アマーリエ様、確かに私がカーヴェル公爵へお渡した薬のようです。効能を確認されますか?」

「もちろんだ」

「なっ、なぜだ!? ここまでしたのに私を信用していないのか!?」

「カーヴェル公爵様、この特殊配合の薬は保管状況によって効果が下がる場合があるのです。信用していないわけではなく、今後の無用なトラブルを避けるためですわ」


 アンネが機転を効かせて、無理なく証拠の調査ができるように宥めた。渋々納得したカーヴェル公爵は薬を調べる様子をジッと見守っている。


 アマリリスはルシアンがあらかじめ用意しておいたコンパクト型の魔道具に、粉薬を少しだけ乗せた。


 この魔道具にはルシアンに使われた毒薬の情報が入力されている。それと違うものなら赤、同一のものなら青く蓋が光る仕組みだ。


 そっと蓋を閉じて、魔道具の解析を待つ。


 ほんの数分がジリジリとアマリリスの心を掻き立て、シンと静まり返った執務室に痛いほどの静寂が流れた。


(これが青く光れば、カーヴェル公爵を捕えることができる……!)


 やがて、魔道具の解析が終わり、コンパクトの蓋が光り出す。



「――青、だわ」



 この瞬間、カーヴェル公爵の持っていた薬が、ルシアン暗殺未遂に使われた毒薬と同じ成分だと証明できた。


 アマリリスが呟いたのと同時に、ドカンッと大きな音を立てて施錠されていた扉が吹き飛ぶ。


「なっ、何事だ!?」


 カーヴェル公爵はひどく驚いた様子で破壊されたドアに視線を向けた。


「やあ、久しぶりだね。カーヴェル公爵」

「第五騎士団、特別指揮官テオドール・クレバリーだ」


 そこに現れたのは、ルシアンと青い雷が漏れ出すテオドールだった。




 時は少し遡り、アマリリスとアンネがカーヴェル公爵邸へ向かう前夜のことだ。


 ルシアンとテオドールはイクシオ商会の取り締まりをしていた。アンネの情報により、違法な薬物や奴隷など、フレデルト王国では犯罪となる売買が行われていると聞き出したのだ。


 アンネがイルシオ商会で販売した商品の帳簿を回収する目的もある。


 だが、当然のように非常に柄の悪い従業員たちの激しい抵抗を受けていた。


『ルシアン殿下、あの勝負は忘れてないですよね?』


 テオドールは青い雷を操り、目の前の従業員を三人まとめて倒す。だが次々に剣を振り上げごろつきのような従業員が襲いかかってきた。


『忘れるわけないよ。どんなことをしてでも、テオドールとユアンには負けない』


 ルシアンも負けじと剣を振るって敵を倒すが、騎士団長にまでなったテオドールには敵わない。

 圧倒的にテオドールが倒した人数が多いが、ルシアンは負ける気がないようだ。


『そうですか……では負けでも恨み言は言わないでください』

『そっちこそ!』


 張り切るふたりの活躍により、第五騎士団の団員たちは従業員の捕縛と、証拠の押収に専念することができた。


 証拠を精査して目的の書類を手にしたルシアンとテオドールは、アマリリスたちと翌日の計画について最終確認をすることになった。


『ねえ、なんでリリスが自ら潜入捜査なんてする必要があるわけ?』

『だから、あたしだけじゃカーヴェル公爵を落とせないからよ! 何度も言ってるじゃないの、しつこいわね!』

『だが、ルシアン殿下の言い分もわかる。俺もリリスに危険なことはしてほしくない』

『あたしが一緒なんだから危険なことなんてないわよ。そんな下手な商売なんてしてないから! ほんっとうにあんたら面倒くさいわ!!』


 アンネはルシアンとテオドールが思ったことを遠慮なく口にしている。しかも、なぜだかアンネ対ルシアンとテオドールの構図になっていて、本題についてさっぱり話が進まない。


『あの、そろそろ話を進めてもよろしいですか? 計画通り実行するので、反対されても聞く気は一切ありません』

『リリスが潔すぎる……!』

『くそっ、俺は兄なのに……!』


 このひと言で反対するふたりを黙らせ、準備を整える。


『では、私がこの魔道具で同一の毒薬かどうか調べます。色を口にしたら、部屋に飛び込んできて大丈夫です。アンネさん、通信用の魔道具は問題ありませんね?』

『ええ、もちろんよ。超小型化したこの魔道具を耳に嵌めれば、通話状態になるわ。自動的に魔力を感知して通話が始まる仕様だから安心して』


 アンネが持つのは、耳の穴に差し込むように使う最新の魔道具だ。今回の計画のためにイクシオ商会でより寄せたと笑っていた。


『では、明日はよろしくお願いいたします』


 こうして、アマリリスたちは様々な準備を整えカーヴェル公爵邸にやってきたのだ。




「なっ、どうしてルシアン殿下が……? まさか、私を騙したのか!?」

「なんのことだ? それよりも、ここにいる奴らは全員動くな。確かめたいことがある」


 テオドールがすぐさまカーヴェル公爵の言葉を否定する。


 これもアマリリスたちの計画だ。カーヴェル公爵の逮捕の混乱に乗じて、潜入捜査に身を投じたアマリリスとアンネを安全に確保する目的もある。


「君の持っている包み紙を見せてくれる?」


 ルシアンがアマーリエ王女に扮するアマリリスに近づき、優しく声をかけた。アマリリスは観念したふりでカーヴェル公爵から受け取った物証を手渡す。


(これでルシアン様がカーヴェル公爵を追い詰めることができる……)


 この後はアマリリスとアンネは騎士たちに捕まり、この屋敷から逃がしてもらう算段になっていた。


 だが、カーヴェル公爵はあきらめが悪かった。




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