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28話 最後の望み

すみません! 投稿予約ができておらず、大変お待たせいたしました。本日より連載を再開いたします!

毎日1話ずつ更新し、34話で完結となります。

ここからユアン再会編となり、消化不良だった部分をしっかりと執筆いたしますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです(*´꒳`*)

 さらに二週間が経ち、アマリリスの身辺はようやく落ち着きを取り戻した。


 季節は早春を迎えて草花は彩りはじめ、力強く生命が煌めいている。いつものようにアマリリスが王太子の執務室へやってくると、ルシアンとテオドールが待ち構えていた。


「リリス、誕生日おめでとう! これは僕たちからのプレゼントだよ」

「まあ! ありがとうございます!」

「せっかくだから開けてみて」


 ルシアンの言葉に促され、アマリリスはプレゼントを開く。正方形のジュエリーケースの中には、ひと際大きな透明の宝石がついたピンクゴールドのリング状のブレスレットが収められていた。


 ブレスレットはふたりの髪色を混ぜたような華やかな色で、ひと目で気に入り手首につける。


「俺からのプレゼントは別で用意しているから、今度屋敷に戻ってくるといい。使用人たちもリリスに会いたがっている」

「テオ兄様、嬉しいです! プレゼントも使用人たちに会うのも楽しみだわ」


 早速、テオドールがアマリリスを喜ばせると、手首につけた透明の宝石が淡いピンクに光った。それを見たテオドールがニヤッと笑う。


「あら、これは魔道具ですか?」

「そうだ。アマリリスがどれだけ幸せか調べるための魔道具なんだ」

「ふふっ、そんなことを調べなくても、私はもう十分過ぎるほど幸せです」


 まだカーヴェル公爵が捕まっていないので心残りはあるが、それは騎士団の仕事だ。テオドールとこうして会えただけでも奇跡的なことだと思っている。


 兄たちの入国拒否も取り消されたから、ユアンとも近々会えるだろう。どんなに遅くても結婚式には参加してくれるに違いないと、アマリリスは考えていた。


「そうかな。僕はもっとアマリリスを笑顔にしたいよ」


 ルシアンはそう言いながら、アマリリスを背後から抱きしめる。突然の抱擁でアマリリスの心臓は跳ね上がった。


 それと同時にブレスレットの宝石が先ほどよりも幾分濃いピンクに光る。


「どうやら喜んでくれたみたいだね。僕も別でプレゼントがあるから楽しみにしていて」

「ルシアン様、ありがとうございます」


 耳元でルシアンに囁かれ、アマリリスは早まる鼓動を隠して平静を装った。


(なっ、なんなの!? いつもならテオ兄様の前でこんな風に触れてこないのに……!)


 ブレスレットの宝石の光はアマリリスの感情に反応して、ますます色を深めた。


 それを見たテオドールは眉間に皺を寄せる。一方、ルシアンはすこぶる上機嫌で、軽やかな手捌きで政務をこなした。




 それから二週間後、アマリリスとルシアンは国王の執務室へ内密に呼び出された。


 ルシアンの執務室にある暖炉には仕掛けがあり、壁の後ろに隠された扉を開けると細く暗い通路が続いている。


「リリス。父上の命で隠し通路を使うけど、暗いから気を付けて。中は入り組んだ迷路になっているから、絶対に手を離さないでね」

「はい、わかりました」


 隠し通路は王族と側近のみが知る極秘事項だが、アマリリスが王族入りすることは決定事項なのであっさりと教えたのだろう。それは重責を感じるものでもあり、認められて嬉しくもあった。


(それにしても王家しか知らない隠し通路を使うなんて……よほどのことなのかしら?)


 アマリリスの胸中は嫌な予感でざわつくが、手のひらに感じるルシアンの温もりが落ち着かせてくれる。しばらく通路を進み、国王の執務室へ入ると同席しているのは宰相のみで護衛騎士すらいなかった。


「おお、ふたりとも待っておったぞ。今日は其方らに頼みがあって呼び出した」

「頼みというより、命令ですよね?」


 ルシアンは半眼で国王を睨みつける。しかし、アマリリスもこの状況からそういうことなのだろうと感じ取っていた。


「まあ、そう申すな。ふたりにはカーヴェル公爵領へ行ってもらいたい」


 カーヴェル公爵領は王都の南に位置し、国の食糧を支える穀倉地帯だ。


 四大公爵のひとつで、アルマンド・カーヴェルが治めている。カーヴェル公爵はアマリリスの調べでルシアン殺害未遂の黒幕だと判明し、調査を進めていた。


「なにかあったのですか?」

「うむ。重要参考人を捕らえたが、一向に口を割らん。脱走の恐れもあるゆえ極力移送は避けたいのだ。そこでアマリリスの力で情報を引き出してほしい」


 極秘裏に呼び出されてただ事ではないのはわかっていたし、嘘つきや黙秘を貫く者の相手はアマリリスの得意とするところである。


 しかし、ルシアンは納得いかない様子で国王に噛みついた。


「そんなことに僕のリリスを駆り出さないでください。ふたりの時間がなくなります」

「ルシアン。王命の方がよかったか?」

「……父上は横暴すぎます」


 アマリリスはルシアンと国王のやり取りに苦笑いしつつも、考えを巡らせる。


(カーヴェル公爵ほどの大物であれば捜査も容易でないわよね……きっと、ようやく捕まえた重要参考人なのでしょうね)


 四大公爵のひとりともなればその権力は絶大だ。その気になれば大抵ことは握り潰せるし、捜査から逃げ切ることもできるだろう。


(カーヴェル公爵が手を打つ前に、迅速に処理する必要があるわ)


 アマリリスも命を狙われたうえに、ルシアンが毒を口にして倒れたのだから、むしろさっさと厳罰に処してもらいたい。


「承知いたしました。僭越ではございますが、隠された秘密を暴いてまいりましょう」


 アマリリスは誰もが見惚れるような笑みを浮かべた。




 王都から一週間ほど馬車で南に下り、アマリリスたちはカーヴェル公爵領最大の都市グラティムに入った。


 三角屋根で橙や黄色の壁の建物が、南地方特有の明るく陽気な風情を醸し出している。大通りは店が立ち並び、大勢の人々が行き交っていた。


 アマリリスたちはお忍び旅行を装っているので、少し裕福な商人夫妻風の衣装を身につけ違和感なく領民に馴染んでいる。


 だが、路地に目を向けると浮浪者が散見され、領民たちもどことなく疲れがにじみ出ていた。


(カーヴェル公爵領は近年不作が続いていたから、目に見えて影響が出ているわ……でも、私財が潤沢ならもう少しやりようはあるでしょうに)


「どうやらカーヴェル公爵は私財を投じる気はないようだね。かなり溜め込んでいるはずだけど」


 ルシアンもアマリリスと同じことを思ったのか、ちくりと嫌味を飛ばす。


「ええ。領民の暮らしより大切なものがあるようですね」


 なにしろカーヴェル公爵家には国家予算の三年分は私財があるのだ。エイドリックのように浪費するのも考えものだが、抱え込みすぎるのも強欲極まりない。


「まずは重要参考人のところへ行こう。テオドールが待っているから」

「はい。テオ兄様がユアン兄様の調査に専念できるよう尽力します」


 テオドールは主に捜査や調査を行う第五騎士団の特別指揮官として任命されていた。この人事は、アマリリスがユアンと安全に再会するための措置だと聞いている。


(ユアン兄様……よほど面倒な組織にいるみたいね。元気でいてくれたのが救いだけど。領地経営も代理の方が優秀だと聞くし、私も自分のできることに全力を注ぐしかないわ)


 クレバリー侯爵家については、テオドールがいつでも動けるよう当主代理ができる人材をカッシュに紹介してもらい領地を任せていた。


 残っていた使用人たちはそのまま屋敷で働くことを希望し、さらに当主がテオドールになり戻ってきた者もいるので以前の様子を取り戻している。


 クレバリー侯爵家は領地の魔物が出現する森で素材を集め、武器や防具作りで領地経営をしてきたが、エイドリックが落とした業績を元に戻すにはしばらく時間がかかりそうだ。


(それでも、使用人たちや領民たちの暮らしが今以上に悪くなることはない。あとはユアン兄様だけね)


 アマリリスはずっと離れ離れになった兄たちとの再会を望んできた。ルシアンとの婚約を受け入れたのもそのためだ。


(ユアン兄様と会えるようになったら、私の望みがすべて叶う)


 アマリリスは突き抜けるような青い空を見上げた。




書籍も発売しましたので、よろしければこちらもお願いいたします<(_"_)>ペコッ

詳細は↓下にあります。

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