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23話 クレバリー侯爵家の惨状

 エミリオがクレバリー侯爵家から追い出されて、今度は後継者としてロベリアとダーレンが領地経営を手伝うことになった。


 そこでロベリアは父エイドリックにこう進言する。


「お父様、ダーレン様はすでにバックマン公爵家で領地経営をされていたそうなのです。お兄様のことでお疲れでしょうし、少しお休みになった方がいいわ」

「ううむ……だが、今はまだ休むわけには……」

「ですがひどい顔色ですし、無理をされては今後の運営に差し障ります。お母様は相変わらずお茶会やパーティーで家にいませんし、わたしがお父様のお力になりたいのです!」

「ロベリア……心配をかけてすまないな」


 少しだけ表情を緩めて、エイドリックはロベリアたちに少しの間、領地経営を任せることにした。

 

 だが、この決断がさらにクレバリー侯爵家を追い詰めることになった。

 真冬の気候もあいまってエイドリックの体調がなかなか回復せず、一カ月ほどの休養が必要だと医師に診断された。エミリオの件といい、アマリリスが出ていってから心労が絶えなかったのも影響していたらしい。


 その間も妻のフランシルはお茶会や貴婦人たちとの社交に忙しくしていて、いつも通りに過ごしていた。


 冬本番を迎えたある日の朝のことだ。

 エイドリックは経験したことのない寒さで目が覚めた。


「なんだ、この寒さは……? 暖炉の火が消えているではないか! おい、誰かおらんか!」

「旦那様、おはようございます。いかがなさいましたか?」


 エイドリックの怒号で駆けつけたのは家令のケヴィンだ。何食わぬ顔でエイドリックに尋ねてくる。


「暖炉の火が消えているではないか! 寒くて起きれんのだ、今すぐ火をつけろ!」

「申し訳ございません。あいにく薪の在庫が足りないため、各部屋で就寝の間は消すことになったのです」

「なぜそんなことになっている!? 冬季の薪くらい用意できる予算はあっただろう!?」

「それは……詳しくはロベリア様とダーレン様へお尋ねくださいませ」

「ふたりはどこにいる!?」

「旦那様の執務室でございます」


 ケヴィンの言葉にエイドリックはベッドから飛び起きて、手早く着替えを済ませてふたりがいる執務室へ向かった。

 クレバリー侯爵家が冬の薪すら買えないなんて、恥晒しもいいところだ。エイドリックの計算では、冬季の薪はもちろん、春まで問題なく過ごせるくらいの見通しが立っていた。


(何人も使用人が辞めてうまいこと人件費も削れたから、問題ないはずなのになぜ薪すら買えなくなっている? ロベリアとダーレンはなにをやっているのだ!?)


 体調不良も吹っ飛んだエイドリックは大股で歩き、勢いよく執務室の扉を開けた。すると耳に飛び込んできたのは、ロベリアとダーレンが罵倒し合う言葉だ。


「ダーレン様! あんなに領地経営ならできると言っていたのに、こんな寒い時期に薪も買えないなんてどういうことよ!?」

「うるさい! そもそも予算が少なすぎるんだ! 侯爵家だというのに、あれっぽっちの金額でどうしろというのだ!」

「はあ!? ご自分の手腕がないのをわたしたちのせいにしないでよ!」

「なにを言っている! 最初からあの予算でやれなんて、私を馬鹿にしているのか!?」


 エイドリックは醜い言い争いに頭が痛くなる。

 この様子では領地経営ができると豪語していたダーレンは、どうやら失敗したようだ。すでに弟夫婦が蓄えてきた資産も底が尽きそうな状態で、補填も難しい。


 その苛立ちをぶつけるようにエイドリックは叫んだ。


「いい加減にしろっ!!」


 怒声が執務室に響き渡り、ロベリアとダーレンはなじり合いをやめる。しんと静まり返った執務室にエイドリックが入り、机の上に乱雑に置かれた書類に目を通していった。


 ダーレンの杜撰な管理で、たった一カ月の間に随分と予算が使われてしまったようだ。すでに春までの分を使い切っている。


「お、お父様、加減はよろしいのですか?」

「……なぜこんなに予算をオーバーしているのだ? 私の組んだ通りに采配するだけで、問題なく冬は越せたはずだが」

「クレバリー侯爵、あの予算で運営などできるはずがない。あれにはフランシル夫人の茶会や社交に関する費用が入ってなかった。侯爵家の面目を保つための準備金を渡したら、屋敷の管理費が足りなくなったのだ」

「……フランシルはどこにいる?」

「ええと、今はサンルームにいますわ」


 エイドリックは無言でサンルームへ向かった。


(フランシルめ……私が療養している間はおとなしくしていろと言ったのに、好きにやりおって……!)


 沸々と込み上げる怒りでエイドリックは険しい表情になっていく。

 ガラス張りのサンルームはいろとりどりの花に囲まれ、上品な香りが鼻先を掠めた。いつもならこれで眉間の皺が取れるのだが、今日ばかりはそうはいかない。


「あら、体調はよくなったの?」

「フランシル……お前、私が言ったことを理解していなかったのか?」

「ええ? なによ、そんな怖い顔して」

「私が療養している間は屋敷でおとなしくしていろと言いつけたであろう!!」

「夜会には参加しないでおとなしくしていたでしょう!?」

「毎日のように茶会に出かけていたのに、どこがおとなしいというのだ!?」


 エイドリックはヒステリックに泣き叫ぶフランシルを見て、切り捨てることに決めた。当主であるエイドリックの言いつけを守れない妻など、お荷物でしかない。


 茶会に参加して金になる話を持ってくるならまだしも、ご婦人たちと実のない噂話や愚痴を語るだけなのだ。そのために新しいドレスや装飾品を購入するなど、無駄使い以外のなにものでもなかった。


「フランシル、お前とは離縁だ。今すぐ実家へ戻れ!!」

「ひどい……ひどすぎるわ……!!」


 ケヴィンにフランシルを実家に帰すように伝え、エイドリックは執務室へ戻る。

 これからクレバリー侯爵家の財政を立て直さなければならない。今後はフランシルの予算が浮くので、後は無能なダーレンを追い出すことにした。


「ダーレン様」

「なんだ、まだこの書類の処理が済んでいないのだ。後にしてくれ」

「ロベリアとの婚約を解消します」

「なっ……!」

「お父様、勝手に決めないでよ!」


 エイドリックはクレバリー侯爵家を守らなければならないのだ。自分の代で潰すわけにはいかないので、構わず言葉を続けた。


「ダーレン様はすでにバックマン公爵家とのご縁も切れており、援助を期待できません。さらにこの一カ月で使った予算は三カ月分になります。今後、領地経営をお任せするにも不安が残る。それならば、ロベリアとの結婚を見送るのが筋というものでしょう」

「だが、それはフランシル夫人が……!」

「予算を見て、渡してはいけない金額だと理解できないようでは無理です。これから一週間後にはこの屋敷からも出ていってください」


 あくまでも原因はダーレンにあると責め立て、期限を設けて出ていくようにエイドリックは宣告する。呆然としていたダーレンだが、やがてフラフラと執務室から出ていき、ロベリアだけが残された。


「お父様……ダーレン様と婚約を解消したら、わたしは誰と結婚するの?」

「お前は王城へ行くのだ」

「王城?」

「アマリリスが王太子と婚約できたのだ。ダーレンの時のように奪い取ってこい。アマリリスかロベリアか戻ってきた方は、どこか金のある貴族の後妻に嫁がせる」


 クレバリー侯爵家の存続のみがエイドリックの目的となってしまった。浪費家の妻を追い出し、無能な娘婿を放り出して、実の娘までも駒のように扱い利益をむしり取る。


 そうでもしないと維持できないクレバリー侯爵家は、いつ没落してもおかしくない状況だった。





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