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22話 想いを乗せて

「おい、私を呼びつけて、いったいなんなのだ! お前らの戯言に付き合っている暇はないぞ!」

「ブリジット伯爵、お忙しい中ご足労いただきありがとうございます。本日はルシアン様の暗殺未遂事件について、お話を伺いたいのです」


 ブリジット伯爵はアマリリスとカッシュが待つ取調室へ入った時から、激しく威嚇してきた。すでにエドガーから話を聞いているので、情報のすり合わせと身柄の確保が目的だ。

 さらにブリジット伯爵が単独で仕掛けたのか、さらにその上からの命令なのかもはっきりさせたい。


「ふんっ、それの事件が私とどう関係あるというのだ!」

「ではお伺いします。なぜエドガー・フロストを夜会の責任者へ指名したのですか?」

「………それがなにか問題か?」


 アマリリスの質問にブリジット伯爵は少しの間、目を閉じてから答えた。決して視線は逸らさず、ジッとアマリリスを睨みつけている。


「王太子であるルシアン様の暗殺未遂事件ですから、人事も含め調査しております。万が一謀反に繋がる証言や証拠が出てきましたら只事ではございませんので」

「ふん、特別なことなどなにもない。部署異動が叶わず心機一転新しい仕事に取り組みたいと申しておったから、私が手配してやっただけのことだ」

「では夜会の責任者を選んだのは、どなたかの指示ですか?」

「いや、私の判断だ」


 身動きひとつせずブリジット伯爵はそう証言し、首元のクラバットを直した。


(ふうん、慌てた様子は見られないけれど、やはり嘘をついているわね。話すことを拒絶して目を閉じていたし、あまりにも視線が合いすぎる。それに微動だにしないなんて、不安や動揺を隠すためだわ)


 人が嘘をつく時、さまざまな反応を見せる。

 目が泳いだり、瞬きが増えたり、ソワソワと落ち着かなくなるものだ。だが、逆にそれらを抑えようとして、身体が少しも動かず、視線を逸らさないのも嘘をついているサインになる。


 最後の最後で気が緩み、ブリジット伯爵は整った状態のクラバットに手を伸ばした。これは以前も嘘をついている時に見せたサインだ。


(異動させたことは認めたけれど、その理由も自己判断も嘘。やはり、カーヴェル公爵が絡んでいる可能性が高いわ。どうやってそこまで情報を引き出そうかしら?)


 アマリリスは高速で思考を巡らせる。

 チラリとカッシュに視線を送ると深く頷き、アマリリスの好きにやっていいと示してくれた。国王からも自由に進めていいと許可を得ていることもあり、アマリリスはここでブリジット伯爵を捕縛する決断をした。


「それでは、こちらの書類をご覧ください。ブリジット伯爵から提出された支援金要請の書類と、実際に支援金を使用した帳簿です」

「なっ、どうしてこれが……!」

「以前からブリジット伯爵の支援金要請について、ルシアン様が調査を進めておられました。今回のことも踏まえてカッシュ様がその調査資料を精査したところ、ブリジット伯爵の支援金横領が発覚いたしました」


 ブリジット伯爵はギリッと奥歯を噛みしめている。鼻筋と眉間に皺が寄り眉が吊り上がって、その表情は嫌悪と怒りに染まっていた。


「ブリジット伯爵、取引をしましょう。誰の指示なのか証言してくださるなら、支援金横領について処罰を考慮します」

「……誰の指示でもないと言っているだろう」

「いいえ、それは嘘です」

「なぜそう言い切れるのだ!?」


 いい加減にしろと言わんばかりに、ブリジット伯爵は声を荒げる。だがアマリリスはそんなことはまったく気にせず、少しだけ事実を伝えた。


「私に嘘は通用しません。表情や仕草から、嘘か真実か読み取れますので」

「そんなことできるわけが……」

「アマリリス嬢の言っていることは事実です。すでにエドガー・フロストを陥落させましたから」


 カッシュの援護で、ブリジット伯爵は瞳がこぼれ落ちそうなほど目を剥いている。口は動いているものの、言葉が出てこない様子だ。


「エドガー様はすでにこちらで保護しております。ブリジット伯爵もご希望されるなら、保護した上で証言をお願いしたいと考えています」

「…………」


 ブリジット伯爵はガックリと項垂れ、固く握った拳を震わせている。


「できない……私には無理だ。私が暴露したら、家族が殺される」

「ではブリジット伯爵のご家族も保護します。証言をお願いできますか?」

「本当に、家族も助けてくれるのか……?」

「はい。ご家族が安心して過ごせるよう手配いたします」

「……わかった。それなら話そう。その代わり、家族だけは絶対に助けてくれ」

「承知いたしました」


 カッシュへ視線を向けると、承知したと力強く頷いてくれた。これでようやく、トカゲの頭を捕まえられる。

 ルシアンが毒に倒れ、その敵を捕まえられるのだ。


「では誰がブリジット伯爵に指示を出しているのですか?」

「……アルマンド・カーヴェル公爵だ」


 アマリリスは、ようやく謀反を企む主犯の名前を掴むことができた。

 

 それからエドガーと同じくブリジット伯爵も保護下に置き、現在はカッシュが証言を聞き出している。


 ブリジット伯爵は領地経営がうまくいかず、支援金の横領を思いついたがアマリリスが来たことで、申請が通らなくなり困窮していた。

 横領の事実をカーヴェル公爵に掴まれ脅迫されたのと、成功したら多額の資金を援助すると言われ手駒として働かされていた。


 今は証言を取り、物的証拠となるものを精査している。この調査は秘密裏に進められ、ブリジット伯爵の家族も無事に王家の保護下となった。


 アマリリスは、いまだに目を覚さないルシアンのそばに寄り添い続けている。


「ルシアン様、毒を盛った実行犯は捕まりました。いつになったら目が覚めるのですか?」


 どんなに話しかけても、返事は返ってこない。このまま目覚めなければどんどん衰弱してしまう、と医師は説明していた。ルシアンが倒れてからもう五日が経過している。


 せめて水分をとってもらいたくて、アマリリスは氷を小さく砕き少しずつルシアンの口元へ運んでいた。


「お願いです……起きてください。腹黒教育もまだ、完璧ではないですよ」


 わずかに開いた口へ小さな粒の氷を乗せると、体温ですぐに溶けて水となりルシアンの唇を濡らす。


 ルシアンへは、まだアマリリスの気持ちを伝えられていない。

 失いそうになって初めて気が付いた、ルシアンへの想いはアマリリスの胸を締めつける。


「ルシアン様。いつもみたいに私を翻弄して、ドキドキさせてください。そうじゃないと——」


 アマリリスは枕元へ手をついて、ルシアンを見下ろした。

 少し痩せてしまったルシアンだが、その美貌に陰りはない。


「私、泣いてしまいますよ」


 込み上げる想いを乗せて、アマリリスはルシアンの唇にそっと触れるだけのキスをした。


 その瞬間、ガッと後頭部を押さえつけられ、しかもアマリリスの唇をひんやりとした柔らかいものが撫でていく。驚いて口を開くと、ニュルリと口内へ侵入してきて縦横無尽に動き回った。


 冷たかったそれはやがて熱を持ち、アマリリスを翻弄する。

 息ができなくて苦しくなったアマリリスはルシアンの胸を強く叩いた。


「んんーっ!」

「ぷはっ……はあ、愛しい人のキスで目覚めるなんて最高だね」

「もう、ルシアン様! 息ができなくて死ぬかと思いました!」

「ふふ、ごめんね。リリスにキスされてると思ったら、我慢できなかった」


 アマリリスはどんどんぼやけていく視界を瞬きでやり過ごしたかったが、こらえきれず涙がポロリとこぼれ落ちる。

 ルシアンは慌てて起き上がり、アマリリスを優しく抱きしめた。


「よかった……ルシアン様、目が覚めて……よかった……!」

「リリス、泣かないで。心配かけてごめんね」

「ルシアン様……!!」


 ルシアンの胸元を濡らしながら、アマリリスはこの温もりを絶対に手離さないと決心した。




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