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今夜、キミは歌姫になる  作者: 臆病丸(ごん丸)
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音無プロダクション

音無プロダクション社長 side

 

 雪乃をあのオーディション番組にだして数日がたった。私のせいであの最低な番組に彼女を出してしまった事を今でも後悔している。

 私は雪乃は何も悪くないと今でも思っている。

 アイツらが雪乃の才能に気付かなかっただけだ。そう考えると今考えても腹立たしい。

 それでも、帰り際にスポンサーをしていたレーベルから期限付きだが、曲さえあればデビューさせてもいいという約束を取り付けてきた。

 向こうは十中八九無理だと思っているのだろうが私は諦めない。

 

 雪乃は帰ってきた日はずっと私に泣きながら謝り続けていた。

 次の日からは普通に振る舞っていたが無理しているのが分かる。

 

 そしてあの番組以降、雪乃のデビュー曲の為の作曲家を探しているが一向に見つからない。

 正直に言うとあの番組に出なくてもうちの様にお金もコネもない弱小プロダクションに曲を書いてくれる作曲家などめったにいない。

 そして、あの番組で雪乃は笑いものにされ才能も否定された。アイドルとしては絶望的と言えるだろう。

 

 しかし、私はまだ諦めたくなかった。今日も曲を作ってくれる人を探して電話を掛け続ける。私にはそれしかできないから。

 

「はぁ……なかなか見つからないわ。でもまだ諦めるものですか!」

 

 そう、諦めない。私は諦めが悪いのだ。雪乃の才能を埋もれさせるわけにはいかない。

 私は次の作曲家へと電話を掛ける。

 

◇ 

 

 十件以上あった作曲家のリスト全てに電話をかけたにもかかわらず結果は全滅だった。

 

「もう、ダメなのかな……」

 

 心が折れそうになる。

 ふとそこでパソコンのメールアイコンが光ってることに気が付いた。

 

(そういえば、ネットで募集かけてたんだ……もしかしたら)

 

 そう思い、マウスに手をかけメールを開く。

 するとそこには、いくつかの添付ファイルが送られてきていた。

 

「こ、これって……!!」

 

 なんと添付ファイルには楽譜と音源ファイルが送られてきていた。

 一体どんな人がこれを……?

 作詞、作曲……No name? 名無し?

 

 それより、まずは音源ファイルを確認しなくては。

 音源ファイルはサンプルのオンヴォーカル、オフヴォーカルの二種類があった。

 

 オンヴォーカルを急いでクリックして再生する。

 

 数秒のイントロを聞いただけでわかる、こんなすごい曲聞いた事がない。

 そして数秒で歌が始まる。

 

 声に違和感がある、恐らく音声を編集してある。だが、恐らく男性。

 男性がこの曲を? いや、曲さえもらえるなら男性だろうと女性だろうと関係ない。

 

 最初はいろいろな思考が渦巻いていたが、すぐにそれすらも忘れて曲に聞き入ってしまう。

 

 今まで名曲と言われてきた曲が霞んでしまうほどの名曲、神が作った曲と言われても納得しそうだ、それほどの名曲、いや、神曲。

 そんなあり得ないことまで考えてしまうほど圧倒的に今まで聞いてきた曲とはレベルが違うのだ。

 

(これは歴史に名を残す名曲だわ……)

 

 これが本当の音楽、まるでそう言ってるかのようだった。

 それにこの曲は雪乃に合っているように思えた、何故かはわからないが自然とそう思えたのだ。

 

 曲が終わったことに気付くのに数秒かかってようやく我に返る。

 そしてもう一度最初からリピートする。そして曲が終わりリピートする、そしてまた終わり最初からリピート……それを何度か繰り返し、ようやく添付されてるファイルがこれだけではない事を思い出す。

 

 そういえばテキストファイルもあったんだった。

 

拝啓 貴社ますますご清栄のこととお喜び申し上げます――。

 

 さて、先日の音楽オーディション番組を拝見させていただき是非、有沢雪乃様に歌って頂きたいと思い――。

 

 挨拶などはいい。大切な部分だけをさっと見る。

 手紙の最後にメールアドレスが書かれていた。

 急いでメールアドレスに連絡を取らなくては、これから忙しくなる。

 

◇◇

 

有沢雪乃 side

 

 今日は学校が終わった後、社長に呼び出されました。

 なので急いで事務所へ向かいます。

 なんだか何時もの社長と違ってすごく慌てている様子でした、とにかくすぐに来てほしいと。

 

「こんばんわ、社長――」

 

「雪乃! これをすぐに聞いて!!」

 

 社長にイヤフォンを渡されて耳に付ける、流れてくるのは軽快な音楽。

 今まで聞いた事がないアップテンポな、それでいて元気が出てくる、体の中が熱くなってくるようなイントロだ。

 

 そして歌が流れる、しかし歌声は何処かおかしい。多分、機械で編集してるけど男性の声だ。

 それが最初は気になっていたがすぐに曲に引き戻される、ずっと聞いていたい曲だ。

 目を閉じて曲に集中する。

 

 曲が終わり、ふと疑問に思う。社長は何故この曲を私に聞かせたのだろう。

 確かにすごくいい曲ではあった。今まで聞いてきた曲とはレベル――いや、次元が違うとすら思わせる曲だった。

 

「あの、社長……これは?」

 

「これが貴女のデビュー曲よ」

 

 一瞬何を言われたのか分かりませんでした。

 デビュー曲? 私の……?

 

 数日前のオーディション番組で笑いもにされアイドルを諦め掛けていた時だったのです、唖然としてしまうのは仕方がない事だと思います。

 

 社長から楽譜を印刷したものを渡されそれに目を通します。

 一番に気になったのはいったい誰がこの曲を作ってくれたのか、でした。

 

 作詞:作曲:No name

 

「ノーネーム……?」

 

「えぇ、さっきまでメールで少しやり取りをしてたのだけどすごい作曲家だわ。だってこんな曲聞いたことないもの!」

 

 社長はとても興奮している様子でした。

 

「私、この曲で本当にデビュー出来るんですか?」

 

「えぇ、そうよ! 本当に凄い曲でしょう? 名無しさんとはもう少し話をする必要があるけど、もうこの曲以外には考えられないわ!」

 

「社長、私……ありがとうございます」

 

 私は感極まって社長に抱き着いて涙を流す。

 ここからが私のシンデレラストーリーの始まりだったのです。

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