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今夜、キミは歌姫になる  作者: 臆病丸(ごん丸)
18/25

仲良し三人組

 あれから星野は家に泊っていく事になった。

 星野と母さんは本当に親子のように仲良しで一緒の部屋で寝ることにした。

 きっと夜遅くまで色々と話をしたことだろう。


 そして、次の日。

 朝早くに星野は俺と母さんに頭を下げて自宅に帰っていった。

 彼女の曲のイメージはある程度出来ているので、出来上がるまでそう時間はかからないと思う。


 そして今日も俺は学校があるので登校する。

 教室に入ると久しぶりに有沢雪乃が学校に来ていた。

 雪乃の周囲には既に人だかりが出来ていて、昨日の番組の感想などを本人に伝えている様子だった。

 俺は雪乃の隣の席なので集まっている女子たちに挨拶をしながら自分の席へと通してもらい鞄を置く。


「おはよう、有沢さん」


「おはようございます、小田くん」


 少し久しぶりに見た雪乃は、デビューする前のおどおどとした雰囲気は一切なくなっていた。

 それどころか、自分に自信を持っているようにも見えた。


「昨日は折角メールを送ってくれたのに返信できなくてすみませんでした」


 申し訳そうにする雪乃に笑顔で大丈夫だと答える。

 そんな中クラスメートの女子が雪乃に話しかける。


「有沢さん、本当にすごいよね。あの星野聖華よりもキラキラしてたもん」


「ありがとうございます。でも、私は自分の曲に恥じない様に全力を出しただけですよ」


 雪乃の言葉に女子達がカッコいいと騒ぎ立てる。


「おはようございます、勇気くん、有沢さん」


 どうやら雛田千鶴も登校してきたようだ。俺はそれに軽く手を上げ挨拶を返す。


「おはよう、千鶴」


「おはようございます、雛田さん。あれ? 二人とも名前で呼び合うようにしたんですか?」


 雪乃が少し驚いた様子で訪ねてくる。


「あぁ、まぁ……色々あってね」


「はい、勇気くんとは仲良くさせてもらっています」


「そうなんですか……良かったら私の事も名前で呼んでください。二人とは私も仲良くしたいので」


 俺と千鶴は雪乃の提案に二人で顔を見合わせてから笑顔で頷きあう。


「ありがとうございます、私も雪乃ちゃんともっと仲良くしたいです」


「雪乃、これからもよろしく」


「はいっ! 勇気くん、千鶴ちゃん」


 雪乃はとても嬉しそうだ。


「三人は仲良しさんで羨ましいですなぁ」


 周りにいたクラスメートの女子の一人が少しだけ茶化すように言ってくる。


「小田くんと雛田さんも昨日の有沢さんの出演してた番組観たんでしょ? 私なんか有沢さんの歌で感動しちゃって泣いちゃったよ」


「あぁ、雪乃の演奏は本当に良かったよ」


「はい、私も雪乃ちゃんの歌に感動しました」


 俺と千鶴の言葉に雪乃ははにかむ。


「えへへっ、ちょっと照れますね」


「完全に有沢さんの一人勝ちって感じだったよね。あの星野聖華でも相手にならないなんて本当にすごかったよぉ。もう、有沢さんくらい歌の上手い人なんて居ないんじゃない?」


「そんな事ないです。私も最近知ったんですけど、私の作曲を担当してくれてる人が歌い手さんに楽曲を提供したみたいなんです」


 雪乃の言葉に俺は思わず千鶴の方をチラリとみてしまう。

 千鶴の方は特に反応はせず普通にしていた。


「あぁ、知ってる! それってヒナ鶴だよね。私も歌を聴いたけど声綺麗だよね」


 クラスの女子の言葉に今度は千鶴も流石にチラッと俺を見て微笑んだ。

 ヒナ鶴は千鶴が動画投稿した時に使った名前だ。

 あの投稿した動画、少しは話題になっているのかな? 俺と千鶴はまだ動画の再生数や、聴いてくれた人達のコメントなどを見ていないのでどんな感じになっているのか分からない。


「はい、ヒナ鶴さんは流石と言うべき歌唱力でした。本当に流石、あの人が選んだだけの事はあると思いました……」 


「そっかぁ、でも、ヒナ鶴より私は有沢さんの方が上だと思うな」


 クラスメートの言葉に雪乃は花が咲いたような笑顔で答える。


「ありがとう、私もそう思います」


 その返答に俺は少しだけ違和感を覚えた。

 何時もの雪乃なら謙遜しながらお礼を言うと思ったのに。


 しかし、クラスの女子達はそれを冗談だと思ったらしく、にこやかに話をしていた。


 確かに、現状では本格的に歌のレッスンを受けている雪乃と、ずっと独学で頑張ってきた千鶴では少しだけ千鶴が劣るかもしれない。

 それでも、潜在的能力というか素質とか才能という面では二人はほぼ互角だと俺は思っている。


 千鶴も流石に雪乃の発言を気にしてるかと思ったが、その様子は無く穏やかな時間が過ぎて行った。



◇ ◇ ◇


 今日の学校生活だけでも雪乃を取り巻く環境はがらりと変わったと思う。

 常に彼女の周囲には人が集まり楽しそうにしている。


 あれが彼女本来の輝きなのかもしれない。

 少し遠くから楽しそうにしている雪乃を眺めている俺の傍に、千鶴がやってくる。


「雪乃ちゃん、凄い人気者になりましたね」


「あぁ、前まで孤立気味だったのに、なんだか嬉しいような寂しいような……」


「雪乃ちゃん自身が頑張ったのもありますけど、勇気くんが彼女を変えたんですよ。だから勇気くんは誇っていいと思います」


「そう、かな。それより、朝は驚いたね、ヒナ鶴の名前が出てきて」


 少し照れ臭くなり話題を変える。


「はい、動画がどうなったか気になりますね……」


 今日、学校生活を送っているだけで何度かヒナ鶴というワードを聞いた。それは、廊下で話している他のクラスの女子だったり、他の学年の先輩だったり色々だ。

 俺は千鶴に提案をする。


「一週間って言ったけど、舞を誘って今日確認してみない?」


「そうですね……思ったより反響があったみたいですし舞には私から連絡しておきます。私の家でいいですか?」


「うん、ごめんね急に」


「気にしないでください」


 俺と千鶴が話し込んでいると、雪乃もクラスメートとの話を切り上げ近くに来ていた。


「楽しそうですね、何の話ですか?」

 

 千鶴は雪乃を見て軽く微笑んだ、そして何を思ったのか俺の腕に軽く抱きついてから今日は勇気くんと放課後デートなんですと答えた。


「えぇ、そうなんですか? 二人は付き合ってたり?」


「いえ、まだお友達ですが、いずれ……」


 千鶴はそう言って意味深に微笑みながら俺を見る。千鶴って意外と小悪魔的な所があるよね。


「そうなんですね、私、お二人を応援します」


 雪乃の真っすぐな言葉と綺麗な笑顔に少しだけ胸の奥がチクリと痛んだ気がした。

 ――雪乃の事は気になるけど、それは俺が楽曲を提供したからだ。


「ありがとうございます、雪乃ちゃんにそう言ってもらえて安心しました」


「安心……ですか?」


 雪乃は不思議そうに首を傾げた。

 千鶴はそれが面白いようでくすくすと笑う。それから、爆弾を投下する。


「はい、雪乃ちゃんは勇気くんの特別なのかなと思っていたので」


「えっ?」


 雪乃が驚いた表情で俺を見る。


「ちょっと千鶴、何言ってるの?!」


 俺も驚いて声をあげる。

 千鶴はなおもクスクスと笑い冗談ですと言った後、俺の耳元でとても小さい声で「でも私、好きな人の事は良く見ているんです」と呟き俺の腕からそっと離れた。


 たぶん、その言葉は俺にしか聞こえなかっただろうが俺は固まってしまう。


「な、なんだか二人は私がいない間に、随分と仲良くなったみたいですね」


「はい、とっても仲良しです。だから後で雪乃ちゃんが欲しいって言ってもあげませんよ?」


 千鶴の言葉に雪乃は目をぱちくりとさせた。そして頬を少し膨らませる。


「私も仲間にいれてください。二人だけずるいです! それに、今日の千鶴ちゃんは少し意地悪な気がします」


 千鶴は雪乃に「ごめんなさい、私達仲良し三人組ですもんね」と謝り、雪乃は千鶴に抱き着いて二人でじゃれ合い笑っていた。

 何だろうこの微笑ましい光景は、女の子同士が仲が良いと癒される。

 二人がこれからも仲良しだと俺も嬉しい。

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